探せ、パーソナリティー   作:卯月極夜

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第九話 いざ、肝試し

万丈目準が敗北した。

それもオシリスレッドのドロップアウトボーイに。

 

その衝撃的な日から、数日がたった。

 

 

 

万丈目は普段通りに授業には出席しているものの、そこに今までの覇気はない。

そばにいた取巻や慕谷の姿もなくなり、一人で行動することが増えた彼はいつもなにかに苛立っているように見えた。

 

そんな万丈目にどう声をかければいいのか、飛鳥には分からない。

言い争いばかりしていたような気がするが、彼はこの学園で飛鳥の名を呼んでくれた初めての人。彼女にとって大きな存在である。

そんな万丈目が苦しんでいるのに、何をすればいいか分からない現状が、たまらなく悔しい。

 

結局、今はむしろそっとしておく方が良いのかもしれないと考えた彼女は、ここ数日彼と言葉を交わしてはいなかった。

 

 

 

そんなある夜、寝るつもりでベッドに潜り込んだものの、やけに目が冴えた飛鳥のPDAにメールが届く。

 

差出人は遊城十代。

その内容は、

 

 

 

「……肝試し?」

 

 

 

 

***

 

 

十代に指定されたのは現在使われていない古びた寮。

校則で立ち入りは禁止されていたと飛鳥には記憶されているのだが、こんな所で十代は肝試しをするつもりなのだろうか。

 

しかし十代にとって校則などというものはあってないようなものだ。

今回の提案もそんなものは気にしていないのだろう。

 

 

「お、飛鳥!来たな」

「呼ばれたからね。こんばんは、翔くん」

「こんばんは〜」

 

 

入口付近で飛鳥を待っていた十代らは、待ち人の姿が見えると手を振って居場所を知らせる。

そこにいたのは十代、翔、そして彼らのルームメイトである前田隼人(まえだはやと)だった。

 

隼人とは初対面の飛鳥は、彼の存在を捉えると丁寧に頭を下げる。

 

 

「お、お前らそういえば初対面か。こっちは隼人、そんで飛鳥な」

「ちょ、兄貴…!」

 

先に両方を知っている自分が紹介した方が早いと思ったのか、適当な説明をする十代を慌てて翔が止めに入る。

 

それはもちろん、彼が飛鳥の名を躊躇わずに告げたからだった。

彼女自身から聞いたわけではないが、ずっと自身の名を伏せていたことは知っていたし、その理由を翔は薄々察していた。

だからこその制止であっなが、それをいらないと否定したのは意外にも飛鳥本人。

 

「いいよ、翔くん。十代の相部屋ならいずれバレてただろうし。初めまして、早乙女飛鳥です」

「おう、俺は前田隼人なんだな〜」

 

 

万丈目に言われた言葉や十代たちとの関わりの中で、少しずつ芽生えた変化。

頑なに自分の名を告げないでいることは止めにした。

 

明日香を名前で呼んでいても、自分の名を呼んでくれる人がいると知ったから。

聞いてみなければわからないと、十代や翔が教えてくれたのだ。

 

 

そして今回も、隼人は困った様子を見せることなく飛鳥の差し出した手に応じて握手をする。

こうしてメンバーが全員知り合いになったところで、早速中に入ろうと十代が飛鳥たちを急かした。

 

 

「それにしても何で突然肝試し?」

「色々あってな。でも楽しそうだろ?」

 

 

ホラー系が苦手なわけでもない飛鳥はそれ以上追求せず、まぁいいけどねと曖昧に返す。

恐怖より興味の方が勝つ十代は意気揚々と廃寮へと足を踏み入れた。

 

 

「そういえばさっき明日香さんに会ったんだよ」

「天上院さん?…何でこんなところに」

「よく分からないけど…お兄さんがここで行方不明になったみたいで」

 

 

翔の話に目を丸くする飛鳥。そもそも明日香に兄がいたことさえ初耳なのに、その人が行方不明とは。

明日香もいろいろあるらしい、とはいえあまり関わる気はなかった飛鳥はまたも曖昧な返事をしてその話題を流した。

 

 

「おーい!何してるんだ、二人とも!おいてくぞー」

「うわぁ、待ってよアニキ!」

「今行く!」

 

 

十代の声に慌てて立入禁止として封鎖していたロープを飛び越え、見るからに怪しげな洋館の扉を開く。

中は埃をかぶったり蜘蛛の巣がはっていたりするものの、内装自体は非常に豪華だった。

 

 

「俺らの寮より豪華じゃね?いっそここに引っ越すか、俺たち」

「やめてよ、アニキ〜」

 

 

十代の発言も無理はない。

いくらこの空間が古びているとはいえ、ここは「洋館」で、自分たちが普段暮らしているところは「ボロアパート」である。

暮らしから見れば断然こちらの方が良いように思えるだろうが、それはあくまで幽霊の類に恐怖を抱かない彼だからである。

 

少なからず恐怖を抱いてしまう人間には理解出来ない感性なのだった。

翔は震える声で誤魔化すように笑うものの、その顔色は優れない。

懐中電灯を大事そうに握り、次から次へと照らしていった彼だったが、やがてある一点で止まる。

 

 

「アニキ!」

「なんだ、どうした?!」

 

 

照らした先にあったのは一枚の写真だった。

オベリスクブルーの制服を身にまとった、美麗な青年。

そしてその写真の右下には、サインが記されていた。

 

 

「10JOIN…これってまさか…!」

「明日香さんのお兄さん…?!」

 

 

10JOIN、天上院と読めるその文字は。

明日香の兄、天上院吹雪が好んで使っていたサインだと彼らが知るのは、今からもっと後のことだった。

 

 

「……?」

 

 

そんな彼らの会話を聞きながら、独自に初めに入った部屋を探索していた飛鳥だが、あるものを見つけて足を止める。

 

 

「どうした?」

「十代……これってもしかして、千年アイテムかな?」

 

 

十代の声に反応して飛鳥が指し示したのは壁に掛かっていた一枚の石版。

そこには千年パズルと思しき存在の説明が彫られてあった。

 

 

「本当だ。へー、千年アイテムって七つあるのか」

 

 

千年アイテム。

闇のデュエルを行う際必要とされたアイテム。

 

今でも多くの人が探し求めていると噂のアイテムの説明が彫られたその説明を十代が何となく読んでいた、その時。

 

 

 

「きゃぁぁぁぁ!!!」

 

 

悲鳴が建物中に響き渡る。

換気の黄色い声でも、驚いた奇声でもない、恐怖が混じった叫び。

しかもその声は、彼らがよく知る生徒のものだった。

 

 

 

「明日香の声だ!!」

「行くよ!!」

「うん!!」

 

 

突然の声に驚く彼らだったが、いち早くその主を明日香だと見抜き走り出す十代。

その後に続いて飛鳥、翔、隼人も走り出す。

洋館の奥へと進んでいき、彼女の無事を確認したくて必死に声を上げて名を呼ぶ。

 

 

返ってこない明日香の返事に飛鳥の背を冷たい汗が流れた時、十代が足を止めた。

 

 

辿りついていたのは今までの洋館の部屋より一層不気味な雰囲気が漂う大広間。

自分たちの居場所とは反対側の壁に立てかけられた棺桶の中に彼女はいた。

 

 

「天上院さん!」

「待て、飛鳥」

「……十代?」

 

 

薬か何かを使われたのか眠っている明日香に思わず駆け寄ろうとした飛鳥だが、それを十代が制す。

普段の彼とは違う張り詰めた様子で、ある一点を睨んでいることに気付いた彼女はその視線の先を見た。

 

 

そこにいたのは、仮面をつけた男性。

 

 

 

 

「お前は何者だ、明日香に何をした!」

 

 

 

 

十代の声には怒りが滲んでいる。

大切な仲間に危害を加えたと思しき存在への明確な敵意だったが、対する男はそれを鼻で笑う。

そしてデュエルディスクを起動した。

 

 

 

「我が名はタイタン。闇のデュエリスト」

 

 

 

「闇の、デュエル…?!」

 

 

 

千年アイテムを持つ者が行う命のやり取り。

作り話だと思っていたその存在に、十代も飛鳥も驚きを隠せない。

 

明日香を取り戻すためにはデュエルで勝つしかないと十代はタイタンに挑むことを決める。

 

 

暗雲は、すぐそこにまでやって来ていた。

 

 

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