探せ、パーソナリティー   作:卯月極夜

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第八話 月に一度の恐怖

「あれ、万丈目じゃん」

「万丈目“さん”だ。珍しく早いな、どうかしたのか?」

「今度のテストの復習。筆記の範囲がなかなか…ね」

 

 

デュエルアカデミアでは月に一度、テストが行われていた。

筆記と実技に分けて評価されるそれは、結果如何では寮の変更もあり得る重要なイベント。

生徒はその日が近付くとどこか張り詰めた表情でカードパックを買いに行ったりデッキ調整をしたりする、らしい。

 

らしいと言うのはただ単に飛鳥にその経験がないだけである。

高等部入学の飛鳥は持ち上がりだった雪乃や友紀からその存在を聞いただけだが、彼女らの話ぶりからその大変さはなんとなく察していた。

だからこそこうして早めに教室に来て勉強をしており、そこに万丈目が通りかかったのだった。

 

 

「万丈目は勉強ちゃんとしてるの?」

「この俺を誰だと思ってるんだ、当然だろ。無様な姿など見せるものか」

「だよね。だからさ、ここ教えて」

「ふん、仕方あるまい。見せてみろ」

 

 

月に1度のテストは決して甘くない。筆記も授業で習った箇所が範囲とはいえそれを聞いただけで解けるわけではないのだ。

個々の日頃の努力が試されるそのテストに、飛鳥がここまで真摯に取り組んでるとは予想していなかった万丈目は少し認識を改める。

 

自分の成績が悪いなど考えられないと胸を張った彼は、飛鳥の肯定に気を良くしてそのまま彼女に勉強を教える。

やはりそこは優秀な万丈目で、教えることに関しても長けていた。要点をきちんと押さえておきつつも分かりやすいよう噛み砕かれた説明はすんなりと飛鳥の脳に取り込まれ、彼女の理解へと繋がる。

 

 

やがてふんふんと頷きながらノートにシャーペンを走らせた飛鳥の答えが正しいことを確認すると、万丈目は彼女の頭を軽く叩く。

 

 

「いたっ!なに、答え違った?」

「いや、正解だ。まぁこの俺様が教えているのだから当然だな」

「じゃあどうして今私は叩かれたの…」

 

 

ちなみに万丈目としては良くやったという意味を込めて頭をポンポンと撫でることで労ってやりたかった。

しかしそんなことに慣れておらず、且つ相手が飛鳥であったため直前で気恥ずかしくなり力が入ったのである。

 

その事実を知らず頭を押さえる飛鳥。

わからない問題で悩んでいた時、ちょうど万丈目がやって来たのでこれ幸いと聞いてみたところ解けたはいいがなぜか殴られた。

その表情は苦悶を浮かべていたものの、遠くにある存在を見つけてそれは一気に輝く。

 

 

「……?」

「十代、おはよう!」

 

 

自分が聞いたこともない明るい飛鳥の声が鼓膜を刺激した。

こんな声も出せるのかと思うのと同時に、呼ばれた名前に敏感に反応して万丈目は忌々しげに舌打ちをする。

 

 

「お、よぉ飛鳥!早いんだな」

「それはこっちの台詞。十代こそ遅刻しないなんて珍しいじゃん」

「もうすぐテストだから勉強しねぇと!!……って翔に叩き起こされた」

「そんなことだろうと思ったよ…」

 

 

呼ばれた本人は二人の姿を確認すると軽やかな足取りで向かってくる。

いつの間に話すようになっていたのかと思うものの、彼が気になっているのはそこではなかった。

 

 

飛鳥。

それは彼女の呼ばれない名前。

天上院明日香と比較されかねないとして自ら呼ばれることを諦めていたもの。

なのに、なぜこの男が呼んでいるのか。

 

 

「よぉ、万丈目!」

「……ちっ、今日はここで終いだ飛鳥。俺様も暇ではないからな」

「え?あぁ…ありがとう、万丈目」

 

 

それを気に入らなく感じる自分もまた気に入らない。

自分が初めに見つけたものが、他の奴に奪われている今が腹立たしかった。

それはまるで、自分の手柄が横取りされたような気分で、再び舌打ちを一つした万丈目は呼び名の訂正も忘れてその場を離れようとする。

 

 

 

「そうそう、次のテストは頑張ってくれよ。ドロップアウトボーイ。俺と再戦する前に学園からいなくなられちゃ困るからな」

 

 

とはいえ十代のことだ。

持ち前の明るさと能天気さでその辺りのことは乗り越えたのだろう。

飛鳥にしてもあれくらい予想の斜め上をいく人間は初めてだっただろうし、そこに絆されたに違いない。

 

彼女もまた、どこか単純な人間なのだから。

 

 

そう自分で結論付けた。

 

 

「…どうしたんだろ、万丈目」

「何か変だったか?あいつ」

「いや…訂正しないなんて珍しいなって」

 

 

少し離れた自分の席に戻った万丈目を目で追っていた飛鳥に十代は声をかける。

自分はそれほど万丈目と親しいとは言えない。むしろ嫌われている部類の十代には彼の違いなど分からなかった。

飛鳥と万丈目が仲が良いとは知らなかったが、彼女がそう言うならきっとそうなのだろう。

 

やがて考え続けることをやめたらしい彼女は十代に向き直って今日もドローパンを買いに行こうと誘ってくる。

その誘いに了承の意を示すと、ちょうど入ってきた教師の声に従って十代は着席した。

 

 

 

***

 

 

 

 

放課後、何となくやることのない飛鳥は森をぶらついていた。

勉強しろよというところなのだが、どうも気分が乗らない。

気分転換も兼ねた散歩だったのだが、正直こんな展開になることは予想していなかった。

 

 

「さあ、答えてもらうよ早乙女さん!」

「君はいつの間に万丈目さんと仲よさげに話すようになっていたんだ?!」

「………えっと」

 

 

万丈目のそばにいつも控える、取巻と慕谷。

かつて飛鳥が“名前どおりの生き方”と評した二人の生徒に、絡まれることになるとは。

 

何となく歩いていて突然名前を呼ばれたと思ったら囲まれたのだ。

自分でも事態を飲み込めていなかったものの、彼らの言葉から何となく状況を察する。

 

 

「今まで全く話していなかった君に、万丈目さんのような方が突然勉強を教えるわけがない!」

「その通り。君が彼に何かしたんじゃないのかい?」

 

 

そして彼ら自身がきちんと説明をしてくれたため、徐々に飛鳥は冷静さを取り戻し始めていた。

要は急に万丈目に近い立ち位置に立った飛鳥に疑問を感じているのだろう。

 

そしてその態度も気に入らなかったから、ここで釘を刺しておこうという魂胆らしい。

 

 

「特に何もしてないけど。万丈目が私のカードを拾ってくれただけだよ」

「それだけであの方が親身になるものか。ここまで聞いても白状しないのなら…デュエルで決めさせてもらうよ!」

「はぁ…」

 

 

二人はかなり熱くなっていた。

止めるすべを持たない飛鳥は問答無用でデュエルディスクを構えさせられる。

更にデュエルは3人で同時に行うらしく、飛鳥に不利な戦況になるのは目に見えていた。

 

もはや止めても無駄か、と飛鳥は悟る。

別に万丈目との間に起きた出来事で隠すことなど自分の名前の件以外にない。

そんなもの伏せて説明することなど容易いだろうが、そこは飛鳥のデュエリストとしての本能が勝った。

 

デュエルを申し込まれたら、受けないという選択肢はないのだ。

 

 

「じゃあ行こうか。行くぞ______」

「待ちなさい!!」

「デュエ……誰だ?!」

 

 

しかしそこに鋭い制止の声が飛ぶ。

慕谷の問いに答えるかのように茂みから姿を現した女子生徒。

 

それは、天上院明日香だった。

 

 

「て、天上院さん…?!」

 

 

彼ら同様飛鳥も驚いたように目を見開く。

無意識に足を下げた彼女を庇うように立った明日香は、声と同じ鋭い視線で取巻と慕谷を睨んだ。

 

 

「どうしてここに…」

「あなた達の声が聞こえたから、何かと思ってきてみたのよ。…でもどうやら来て正解だったみたいね。女子相手に二人がかりで戦おうとするなんて!」

 

 

明日香に対して怯んだのを、彼女は自分が来たことによる安心感と勘違いしたらしい。

飛鳥に対して薄く微笑むと、取巻らに向き直る。

 

 

「ま、待つんだ天上院くん!」

「そうだ、僕たちは決してそういうつもりじゃ」

「言い訳はいらないわ。二度とそんなことしないよう私が教育し直すから」

 

 

どうやら明日香は随分と熱くなっているらしい。

彼女にとって、自分たち女子生徒が男子生徒に軽く見られるのは我慢出来ないのだろう。

同じデュエリストなのに、たかが性の違いで差別を受けることは彼女のプライドが許さないのだ。

 

とはいえ、今回に関しては完全に濡れ衣である。

結局私にはさせてくれなかったのに自分はデュエルする気満々じゃないかと不満げな飛鳥は、彼女がデュエルを始める前に止めようと足を踏み出す。

 

 

しかし、それを止める声は別で入った。

 

 

 

「落ち着くんだ、天上院くん」

 

 

 

その場にいなかったものの話題の中心にはいた人物。

 

万丈目準の声で。

 

 

 

「万丈目くん…?」

「どうやら君は勘違いをしているらしい。取巻たちは別に早乙女をいじめていたわけじゃないさ」

「そ、そうです!万丈目さん!」

 

 

訝しげに眉をひそめた明日香。

しかし、視線を向けた先で被害者と思しき飛鳥がその言葉を肯定したので一先ずデュエルディスクはしまう。

 

 

「そう、ごめんなさいね。勘違いして」

「なに、気にすることではないさ…早乙女、お前はもう行け、先生が探していたぞ」

 

 

それは万丈目の気配りだった。

飛鳥の反応から察するに、明日香と深く関わるのは今回が初めてだったのだろう。

明日香も彼女のことを知らないようだし、下手をすれば飛鳥の名を気にする可能性がある。

 

ならばさっさと飛鳥をこの場から離してしまった方がいい。

敢えて彼女を早乙女と呼び、先生が呼んでいるとまで嘘をついて万丈目は飛鳥をその場から逃がそうとした。

 

 

「…ありがとう、失礼します」

 

 

そしてそれが分からない飛鳥でもない。

明日香の関心が自分に向く前に、彼女は即座に場を離れた。

 

 

 

 

「あの子、初めて見るわ」

「そうか?まぁ高等部からの奴だからな、君が知らないのも無理はないさ」

「そう…」

「ところで天上院くん、テストの準備はどうだい?」

「日頃からきちんとやるべき事はしているもの。特にすることもないわ」

 

 

飛鳥の存在を“数多の学生の中の一人”にまで抑えた万丈目は、そのままさり気なく話題を変える。

特に怪しむことなくその話に乗った明日香だが、同時に特に興味を持つ話題でもなかったらしく、万丈目とは違う方向に歩き出した。

 

 

「まぁ、君は優秀だからね。特に不安に思うこともないか」

「あなたこそどうなの?最近やたら十代に絡んでるみたいだけど」

 

 

しかし別れ道の手前で歩みを止めた明日香は、万丈目に質問を投げかける。

 

彼にとって許せない存在、遊城十代の名と共に。

 

 

「ふっ。確かに彼奴は今まで学園を乱してきて視界の邪魔だった。だがそれも今度のテストまでのことさ」

 

 

今までの彼ならばここで露骨に不快感を出していた。

たとえ相手が明日香であろうとも、自分にとって目障りな人間の話題を持ち出されて涼しい顔ができるほど万丈目は寛容ではない。

 

しかし、今は違う。

あの男を、遊城十代を自分の手で潰せる機会が巡ってくる。

皆の前で、誰が強者かを証明する時がくる。

 

 

 

「あの男は…俺様が潰す」

 

 

 

高笑いをして去っていく万丈目。

その姿を静かに見つめていた明日香もまた、やがて呟いた。

 

 

 

「…そう簡単にいく相手じゃないわよ、十代は」

 

 

 

 

 

 

 

そして、その言葉は現実となる。

 

月一テスト、実技。

 

 

特例として行われたオシリスレッド、遊城十代とオベリスクブルー、万丈目準のデュエル。

 

 

 

そこで勝利を収めたのは。

 

 

 

 

「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ!!」

 

 

 

 

 

オシリスレッド、遊城十代。

 

 

万丈目準の前に広がっていた、輝かしい道が歪んだ瞬間だった。

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