人はいつか、必ず死ぬものだ。
人には神によって定められた個人個人の寿命というものが存在する。
どんな健康な人間だろうと、寿命が短ければ早く死ぬし
身体の弱そうな人間でも寿命が長ければ長生きをする。
人はいつか死ぬのだ。
だから人間、それまでの日に精一杯生きる。
今を楽しむ、僕は良い言葉だと思う。
僕だっていつ死ぬか分からない。明日かもしれないし、もしかしたら今日かもしれない。
だがいつの日かその時が来て、今までの人生はつまらないものだったと、後悔はしたくないのだ。
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僕は赤間という。
ここ、聖キリア女学院高等学校で教師をしている。
名前からして堅苦しいイメージが湧く学校と思うかもしれないが、実際はそうでもない。特別お嬢様学校というわけでもないし、至って普通の女子校だ。
以前は別の共学の学校で教鞭を執っていたが、つい去年、こちらに赴任してきた。
子どもは何処へ行っても子どもだ。さらに女子校と言えばその名の通り女生徒しかいない。よく聞くのは人間関係の泥沼、常識のない女の集まり、そんな偏見満載な情報を耳にして恐る恐る来てみたが、この学校はそうでもないようだ。
明るく真面目で、授業もしっかり聞き、目上の人間にも敬う気持ちが見えている。
本来それが当たり前であり、学校という規則に守られた社会ではルールである。
おっと、随分と堅苦しい話になってしまった。
とにかく何が言いたいのかと言うと、人生は楽しんで生きるべきだ、と僕は思う。
ここで突然だが、僕の受け持つ二年B組の何人か生徒を紹介したいと思う。
僕は今教卓に立って現国を教えている。まずは一番近くの彼女から紹介しよう。
教卓の目の前の席に座っているのは、焔伊槻(ほむらいつき)。
少し強めの癖っ毛にポニーテールが似合う彼女は、男混さりな口調と性格な故か同性からの人気が高い。学力は中の下と言ったところか、だが彼女は運動神経が良い。
体力テストでは常に満点で、去年の体育祭では花形の四百メートルリレーでは観客を魅了させるほどの素晴らしい走りを見せた。おまけに所属しているソフトボール部ではピッチャーで四番を務める。
女の園と言われる女子校では、彼女のような生徒が同性からの目を惹く。稀に僕よりも男らしい一面だって垣間見る時だってある。
さて、今は僕の出した問題を解く時間で皆は集中しているようなので、続いて二人目を紹介しよう。
焔伊槻から三つ後ろの席に座っているのは中野瑞浪(なかのみずな)、みずな……と読む。
肩甲骨より少し伸びた髪には、少し茶色がかって見える。もちろん地毛ではない染めたようだ。
この学校では染髪は校則で禁止されているが、彼女は地毛だと今まで言い張ってきたらしい。僕が染めたという事実は彼女から聞き出したからであり、故にその事を知っているのは僕を含め親しい友人だけらしい。
今時の子では珍しくないメイクもばっちり決めている、もちろんそれも校則違反だ。
まさに【イマドキの女子高生】の彼女は、少し品性に欠ける。
なんというか、口調が雑だ。『ちょーだりぃー』とか、『ちょーウケるんですけど』とか、言葉遣いが荒いのである。おまけにピアスも開けて、授業中でも平気で化粧を直し始める、僕の一番嫌いなタイプの生徒だ。
と、体面はそうであるが、実は彼女意外と成績は優秀な方だ。定期考査では常に一桁、あんまり授業に真剣に取り組んでいる姿を見かけた事がないけど、家ではその分勉学に励んでいるのだろうか。
……言いたいことは山ほどあるが、それはまたの機会にしよう、次だ。
窓側の列、前から二列目に座っている彼女の名は、有栖川宮子(ありすがわみやこ)。
品行方正、才色兼備、大和撫子……そんな言葉が似合う彼女は、僕が言うのもなんだけど、美人である。
整った顔立ち、白く透き通った肌、腰より長く伸びた黒髪は枝毛の一つも見えない。
しかも彼女、この学院の理事長の孫であり、自宅も目を見張る程の大豪邸だという。
これは僕の勝手なイメージだが、お嬢様なんて存在は、箱入り娘……つまりは世間知らずの可愛い女の子をイメージしていた。語尾には「ですわ」なんて漫画ではありがちなお嬢様様キャラを密かに期待していたわけだが……。
「……?なんです、私の顔に何かついていますか?」
「え?あ、いや、なんにも」
「そうですか。ならあんまり見ないでください、反吐が出ます」
……この通り、口が悪い。聞き間違いじゃない、吐き捨てるように有栖川は僕に言った。必要以上に愛想を良くしろとは言わないが、せめて人並み程度には言葉を慎んでもらいたいものだ。
さて、次だ。
神野河紫苑(かのかわしおん)。小柄な身体からは想像もつかないような大食らいな彼女は、今日も今日とて僕の目を盗んで早弁をしている。
廊下側の一番後ろの席はそう言ったことには都合が良いが、彼女は隠すつもりが無いのか、教科書の壁も作らず前の席の生徒を壁にして食べているようだ。
耳が隠れる程度の髪の長さと大きな瞳、何より【頭の上に生えた猫耳のようなもの】が特徴的な彼女は、無口な上少し人見知りな所がある。
いつもクラスの誰かと一緒にいるところを見掛けるが、特別仲の良い友人がいるわけではないようだ。
小動物のように誰かの後ろをついて回り、餌(菓子類)を貰ってはその美味しそうに食べる有様が観衆の目を惹くようだ。
学院のマスコット的存在、と言ったところか。
え、あの猫耳が気になるって?
気にするな、あれはアクセサリーだ。【たまにぴょこぴょこ動く】が。
決して本当に彼女から猫耳が生えていて、彼女が獣人の類なんてことは無い。……この際絶対とは言わないが。
それ以外にも髪が銀髪だというのもこの際無視してくれ、また近いうちにワケを話そう。
と、まあこんな感じに僕のクラスには少なからず個性的な生徒がいる。
だからどうした、と思われるかもしれないが、彼女たちを紹介をしておいて損することはない。
こんな彼女たちであるが、実はある共通点があったりする。それをこれから話すことにするが、一先ずその話は授業が終わってからにしよう。
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「では、天文部の活動を始めます」
「まだバリバリ明るいけど、先生」
「どうせ今日もダラダラと過ごして終わるのでしょう?本当、なんて無意味な部活なのかしら」
「先生、あたしソフト部の練習行っていいかな?」
「せんせ……、お腹、空いた」
「……」
北校舎二階、少し奥ばった所に、【天文部】の部室が存在する。その部屋は木目調の壁やフローリング、埃の立っていない所を見ると清潔感はある。
大きさは教室とさほど変わらず、真ん中に長テーブルが一つとパイプ椅子が部員分、つまり五席。
部室の周りは壁を這うように本棚が並んでおり、その中には天体関係の書物がズラリと。
しかし悲しいかな、その書物を読んだ者は現存する天文部員誰一人としていない。
顧問である僕は、いつも通りの光景に思わず溜息を洩らした。
「お前ら……ほんと、やる気ないよなぁ」
「いやぁだって、まだ夕方じゃん?星見えないなら活動出来ないっしょ」
テーブルに足を上げて踏ん反り返っているのは、天文部部員にして僕のクラスの生徒、中野瑞浪。
これから部活動を始めるというのに、その手には携帯が握られている。カチカチと文字を打つ音がやけに耳に入る。
「星が見えなくたって活動は出来るだろう」
「へー、例えば?」
「例えば……うーん、星座の歴史について勉強する、とか」
「その前に先生、星座言える?例えばほら、今は夏だし夏の大三角形」
「え」
無愛想な表情を浮かべた瑞浪は、ほらほらと挑発的に僕を煽る。
くっ、子どもに負けてたまるか。僕だって天文部の顧問として勉強してるんだ。
「オリオン座の」
「こと座のベガ、
わし座のアルタイル、
はくちょう座のデネブ。
ちなみにベガとアルタイルは織姫と彦星ね。今の時期だと九時ごろがよく見えるのかな
あとオリオン座のベテルギウスは【冬の大三角】だから
こんなちょー簡単なのも分かんないとかヤバイよ?」
「……」
「せんせ、カッコワルイ」
扉から一番近い位置に座っていた神野河紫苑が、訝しげに僕を見た。
いつも思うが、何故お前は椅子に座らずそんな隅っこに地べたで座ってるんだ。
「そ、そうそう。ベガにアルタイルにデネブな。知ってたよ、今のはお前を試したんだ」
「全く、男のくせに往生際が悪いわね」
間髪入れず刺々しい言葉を放つのは、窓際で佇んでいた有栖川宮子。さっきも言った通り、彼女は美人だ。しかし言う事が言う事なので、どうも好きになれない。もちろん生徒としての意味だ。
「なんだよ有栖川、お前は分かってたのか?」
「当然でしょう?というか、大三角は世間の一般常識ではないのかしら。
貴方は幼少期に何を学んできたの?まさか正しい歩き方と字の書き方だけを学んで今日まで生きてきたわけじゃないですよね?」
「……」
ぐうの音も出ない……わけではないが、彼女が口を開いたら勝てる気がしないのは前から分かっていたことだ。
無意味な戦はしない、僕は大人だからな、潔く負けを認めてやろうじゃな
「ち、違いますよっ!先生はその……そう!ちょっとド忘れしちゃっただけです!……そうですよね先生?」
僕のフォロー?をしてくれる声が隣から聞こえた。
「凛子、擁護する時は人を選んだ方が良いわよ。少なくともこの男の味方になんてなるもんじゃないわ」
「ちち違いますよっ!そういうんじゃなくって、実際にそうだから言ったんです!」
先ほどはクラスが違い紹介できなかったので紹介しよう。
山神凛子。隣のC組の室長であり、我らが天文部の部長を務める真面目な女の子。
今日も今日とて小さなサイドテールをぴょこぴょこと跳ねらせて、どうしたのか顔を真っ赤にして声を荒げていた。
「先生はその……!他のお仕事が忙しくてですね、それでその!」
「いやぁ、忙しくってもさぁ、顧問なら言えて当然でしょ~。てか大三角なら尚更だよ」
「ぐぅ……」
「こらこらお前たち、寄ってたかって山神を虐めるな」
「先生のせいでしょうが」
「」
あれ、僕は何か間違えたのだろうか。
「なんでもいいけどさっ、あたしソフトの大会も近いし。いいかな先生」
手を上げて申し訳なさそうに僕の顔色を伺っているのは焔だった。
彼女も建前上【ワケあって】天文部の部員であるが、本職はソフト部だ。二年生でありながらもキャプテン的存在である彼女がいないと、どうもソフト部は気合が入らないらしい。
「ああ、気が利かんで悪いな。ただ焔、夜からの忘れるなよ」
いそいそと部室を後にするに声を掛けると、分かってるよと言わんばかりにウインクをした。
「毎週の楽しみだから忘れてないって!そんじゃみんなもお疲れー!」
「おつー」
「頑張りなさいよ」
焔がいなくなった部室に、再び沈黙が漂った。
と言っても、天文部の日常はいつもこんな感じだ。
中野は休む暇もなく携帯をいじり、
有栖川は優雅に読書を始め、
神野河は生徒の誰かに貰ったお菓子を食べだし、
山神は何を思ってか僕の方をじっと見ている。
そして僕はと言うと、まあ、ぼーっとしているだけだ。
某アニメの日常風景というわけではないが、我が天文部の実情はこんな感じだ、自由過ぎる部である。
先ほど話すと言っていた、彼女たちの共通点を話そう。
と言っても、共通しているものと言えばこの天文部だ。しかし見ても分かる通り、皆が皆、この活動にやる気なんて微塵もない。
「わ、私はやる気ありますよっ!?天体、星、大好きですから!」
「え?あ、お、おう。ありがとうな」
気付かず口に出ていたのか、山神は奮起していた。
しかし彼女には申し訳ないが、顧問である僕でさえ天文にさほど興味があるわけではない。
いやこの際はっきり言ってしまえば、【微塵も興味なんてない】。
元々専攻していたのだって美術だし、前の学校では美術部の顧問をしていたんだ。
なら何故、天文部の顧問なんて引き受けたか?
またこれも話すと長くなる、割とドラマのある経緯なのだ。まぁ実際のところ、別にそんな事は知らなくたっていい。
【天文部とは仮の姿】、そんな風に思ってくれれば差し支えはない。
元々部員の面々を見てもらえば分かる事だが、中野や有栖川はハナっから天文部の活動にやる気はない。ましてや逢沢に関してはソフト部だ、掛け持ちが禁止されているこの学院で天文部部員として数えるのも可笑しな話だ。
突然だが、今日は金曜日である。週の最後の平日で、世間では華の金曜と呼ばれる所もある。
街では明日は休みだからと羽根を伸ばす人もいるだろう。駅前では店が立ち並ぶ、きっとそういう人たちで蔓延ることだろう。
先ほど、この天文部は仮の姿だと言った。それとはあまり関係のない話かもしれないが、僕を含めた天文部部員は天文部とは別に、【学校には内密で集まる集会】がある。
それを一人の少女がこう名付けた。
【りょ→き的★ナイトクラブ】と。