それでは本編をどうぞ!
「まだ寝みぃ……。昨日夜更かししすぎたかな」
俺は起きてから1時間経った今も眠気と格闘しつつ、玄関に向かい腰を下ろして靴を履いた。そして立ち上がりドアノブに手を掛けようとした瞬間――――
ピンポーン♪
家の前に付いてるベルを誰かが押したらしく、客人が来たことを知らせる音色が聞こえる。幸いにも自分のいる場所は客人がいる場所と扉を1枚だけ隔てているだけなので、客人を待たせることなく扉を開くことが出来た。
「はーい。どちら様……って穂乃果!?」
扉の先にいた人物は俺の予想とは全く違う人物だった。てっきり配達かと思っていたのに。
「おはよう徹君!」
「お、おはよう」
穂乃果はいつも通りの明るさで俺に挨拶をしてくれた。いやいや、なんでここにいるの?
「なんで穂乃果がここにいるんだ?」
「た、たまたま通っただけだよ!」
「ん?こっち側は学校に行くのに逆方向なんだけど?」
「あ……」
穂乃果が焦りの表情を浮かべている。目をキョロキョロさせながら周りを確認すると、突然何かが閃いたかのような表情になった。
「そこの!そこのコンビニでパンを買ってたんだよ!」
穂乃果はここからでも見える距離にあるコンビニを指でさした。
「でも袋を持ってなくないか?」
「た、食べたかったのが売り切れで買えなかったの!」
「あれ?じゃあお前の昼飯はないのか?」
「それは大丈夫!家からパンを持ってきたから!」
家からパンを持ってきたのにわざわざコンビニに行くものなのか?いや、でもあの穂乃果だし可能性は0ではないか。
って家の前で穂乃果と話してたらいつの間にかこんな時間になってしまった。そろそろ学校に行かないとまずいか。
「おい、穂乃果。そろそろ学校行くぞ?」
「しょ、しょうがないな~、穂乃果も一緒に行ってあげるよ。勘違いしないでよね、しょうがなく一緒に行くだけだから!」
なんか今日の穂乃果、やけに上から目線じゃないか?昨日の時点ではいつも通りの穂乃果だったのに、今日の穂乃果はなんだか――――真姫みたいな感じだ。
「おはようございます穂乃果、徹。今日は2人で登校ですか」
「穂乃果ちゃん、徹くん。おはよ~♪」
教室に着くと、海未とことりが先に来ていた。
「違うよ海未ちゃん!徹君とは校門の所で偶然会っただけだから!一緒に登校ってわけじゃないから!」
ん?何言ってんだコイツ?校門の所で偶然会っただと?今まで何度か2人で登校した時は正直に言ってたのに、なんで今日は嘘ついてんだ?
「いや、穂乃果?お前が俺の家に――――痛っ!」
穂乃果の嘘を訂正しようとした矢先、俺の右足に痛みが走った。やっぱり今日の穂乃果おかしいぞ!?いつも俺に暴力をふるってこないのに、今は俺の足を踏んできやがった!
「穂乃果ちゃんどうしたの?なんか今日の穂乃果ちゃん変だよ?」
「私も少し感じていました。何かあったのですか?」
ことりと海未も俺と同じく、穂乃果の異変に気付き始めていた。
「え?どうしたの海未ちゃんにことりちゃん。穂乃果はいつも通り元気だよ!」
「そ、それならいいんですが……」
「あ!もうすぐHR始まっちゃうよ!3人とも席に座ろうよ!」
「お、穂乃果が言うなんて珍しい。教えてくれてありがとな」
「べ、別に徹君のために教えてあげたわけじゃないんだから!ことりちゃんと海未ちゃんのためだから!」
……まじで穂乃果に何があったんだ?人の異変とかの類に詳しい人って……真姫と希か。あとで聞いてみよう。
うん?なんで後輩の俺が先輩であるはずの希を呼び捨てにしてるかだって?絵里の提案で、μ’sのメンバー同士では先輩禁止ってことになったんだよ。
「よっしゃ~!飯だ~!」
「ちょっと徹君!」
学院も昼休みに入り、生徒たちは食堂や中庭に行ったりして教室に残ってる人は少なくなっていた。そんな中、穂乃果が俺の席にやってきた。
「どうしたんだ穂乃果?」
「徹君が一緒に食べたいって言うなら……付き合ってあげなくもないよ」
「なんか上から目線なのが気に食わないんだけど……まあ、いいよ。一緒に食べよう」
弁当を食べているうちに饅頭が入っている容器を見つけた。これは俺が昨日作り上げた新作の饅頭で、穂乃果に毒見……もとい味見をさせようと持ってきたんだった。
「穂乃果?この饅頭食べるか?」
「余ってるなら食べてあげてもいいけど」
自分で食べるつもりはなかったため余ってることは余ってるから、穂乃果に饅頭を渡すと一口でペロリと食べてしまった。
「味の方はどうだ?試作品なんだけど」
どうせ、穂乃果の事だから『美味しいよ!』って言うだけかもしれない。それはそれで嬉しいけど、今日の穂乃果ならいつもと違う事を言うかもしれないという期待を抱いた。
「そうだねぇ~、似たようなお饅頭をお父さんが作ったことがあるんだけど、それと比べると徹君の方が美味しくないかな~」
「はぁ~、やっぱ師匠にはかなわないか~」
「……まあ、お父さんと比べたら美味しくないってだけで、お饅頭としては普通に美味しいけど……」
「ん?今なんか言ったか?」
「な、なんでもないよ!」
穂乃果が最後に何か言ったような気がするが、特に大したことじゃないだろう。それよりも似たような饅頭を師匠が作っていたとはな、これは今度作り方を聞きにいかないと……
俺が自分の世界に入りかけた時、穂乃果はある言葉を口にした。
「ねぇ、メロンパン食べる?」
な……なんだと……。普段は『穂乃果のパンは絶対にあげないもん!』って言ってパンの一切れですらくれない穂乃果が……あの穂乃果が……俺にメロンパンを食べるかどうか聞いてきただと……?
「お前、本当に穂乃果か?」
「失礼だよ!穂乃果は穂乃果だよっ!」
「でも、いつもなら絶対にパンくれないじゃん」
「……今日は、あまりお腹がすいてないの!ほら!私があげるんだから食べて!」
穂乃果はメロンパンを俺の口の中に強引に詰め込んできた。ちょっと待て!サイズが大きいメロンパンを一口で食べようとするのはさすがに無理が……
その後、相変わらず穂乃果に対する違和感は持ったまま時間が進んで、ついには部活の時間になってしまった。
ちなみに穂乃果は宿題を出してないため先生に怒られ、ことりは新衣装の試作品を作りに、海未は弓道部の方へ。つまり、2年生は俺以外遅れて部室に行くことになった。
「ちーす」
「徹君にゃ!」
「こんにちは、徹くん」
「よう、2人とも。他の皆は?」
俺が部室に入ると、凛と花陽がスクールアイドル雑誌を2人で仲良く眺めていた。
「真姫ちゃんは音楽室で作曲してるって!」
「絵里ちゃんと希ちゃんは生徒会室で少し作業してるって。徹くんは手伝わなくても大丈夫って言ってたよ」
「そうか、2人には申し訳ないな。ところでにこは?」
「ちょっと!どういうことよ!?」
「なんだ!?あ、にこか」
にこが慌てながら部室に入ってきた。少し息が切れているから多分、何かあってダッシュで部室にやってきたのだろう。
「どうかしたの、にこちゃん?」
「穂乃果が……穂乃果が変なのよ!」
「「穂乃果ちゃんが変?」」
にこもあの穂乃果に会ったのか、確かにパニックになるのもわかる。
「そう。さっき穂乃果と廊下で会った時に、なんかいつもの穂乃果とは違って感じたの。それで穂乃果の一字一句をよく聞いていると、なんかツンとした感じがあったのよ!」
「ツンとした感じ?」
にこの説明に花陽が質問する。
「冷たさを感じたって事だろ?」
「そう!それよ!」
「穂乃果ちゃんから冷たさ~?またまた、にこちゃんは嘘ついて~」
「嘘じゃないわよ!」
「ああ、にこは嘘ついてないぞ。俺も今日は穂乃果に違和感を感じているからな」
「徹君が言うのなら本当だにゃ~」
「ちょっと!にこはダメで徹は良いってどういうことよ!?」
「そのまんまの意味だにゃ~」
「り~~~~ん~~~~!!」
全くこの2人は……。先輩禁止がμ’sのルールにされてから凛はにこをからかうことが増えた。まあ、仲が良くなったと言えばそうなんだけど……
「ほら、凛。あまりにこをからかいすぎるなよ?」
「はーい。ごめんねにこちゃん!」
「ったく……しょうがないわね~」
「それで穂乃果ちゃんはどうしたの?」
「私と話した後は、自分の教室に戻って行ったわ」
「穂乃果ちゃん一体何があったんだろう?」
「わからないわ。こういうのは……真姫ちゃん!真姫ちゃんは医者の娘だから何かわかるんじゃない!?」
「それじゃあ、早速音楽室に行くにゃ~!!」
凛が真っ先に部室のドアの前に立って開けようとすると――――
「あら?凛、どこか行くの?」
「あ!真姫ちゃん丁度良いところに!」
真姫が凛より先にドアを開けていた。
「なるほど、話は大体わかったわ。つまり穂乃果の様子がおかしいんでしょ?」
「ああ、そうだ。真姫なら何かわかるんじゃないか?」
「話を聞く限り、穂乃果の性格が変わっているわね」
真姫が部室に来るなり穂乃果の事をすべて話した。
「性格っていうのはそう簡単に変わるものじゃないわ。何かしらの強い意志を持っていないと変わらないものよ」
「そう言われるとますます分からないにゃ~」
「つまり、穂乃果に何かしらの大きな出来事があって、それで強い意志が芽生えたんだと思うわ」
「それで性格が変わったんだな」
「そういうことになるわね」
穂乃果に何かしらの大きな出来事か……。性格が変わったのは今朝で昨日は普通の穂乃果だったから昨日の夜あたりに何かあったに違いない。
だけど、穂乃果に直接聞いても多分教えてくれないだろうな。
「やっほ~」
「あら?まだ全員揃ってないのね」
真姫が来た後には、絵里と希が部室にやってきた。
「あ、生徒会お疲れ。今度は俺も呼んでくれよな?」
「もちろん。もっと仕事が増えたら手伝ってもらうわ」
「ねぇ絵里、希。あんたたち、今日穂乃果に会った?」
「ええ、会ったわよ。いつもと違った感じだけど」
「希は?」
希の目は誰とも合わせようとしなくて、さっきからキョロキョロと動いている。
「あの……迷惑かけてごめん!」
「「「「「「え?」」」」」」
希が突然謝ってきて、みんなが困惑してしまった。
「一体どういう事よ?」
「その……ウチが穂乃果ちゃんを変えた原因なんよ!」
「えっと希?もっと詳しく教えてくれないかしら?」
「ウチのスピリチュアルな薬。その名も――――ツンデレ薬を昨日の夜に穂乃果ちゃんに飲ませてあげたんや」
「「「「「「……ツンデレ薬?」」」」」」
「そう。漫画とかアニメでよくあるツンデレ。あのツンデレを強制的に引き出すのがツンデレ薬や」
「それで?穂乃果はいつ効果が切れるのよ?」
「多分、もう切れてるはずや」
あ!だから今朝の穂乃果を真姫みたいだと感じたのか。真姫はツンデレだからな。
「みんな元気~?」
「ほ、穂乃果!?」
希から穂乃果がおかしい原因を聞いて少し安堵したようなしてないのもつかの間。先生からの説教が終わったのか、穂乃果が部室にやってきた。希の予想だともうすでに効果は切れてるはずだが……
「あ!徹君!今日、私学校来てた?先生に怒られるまでの記憶がなくて……」
「え?覚えてないのか、普通に学校に来てたぞ」
まさか、ツンデレ薬の副作用か?怒られるまでの記憶がないってことは……ツンデレタイムも忘れてるのか?となるともう効果は切れてる……?
「なるほど。薬の副作用で、効果が持続されている間の記憶は効果が切れると消滅するんやな。次の改善点に……」
「なんか。ものすごくやばいメモを取っている人がにこの近くにいるんですけど……」
「そんなことより、早く練習行こうよ!!穂乃果早く練習したいよ~~!」
やっぱりいつもの穂乃果が一番しっくりくるな!!そう思った7月のある日の事だった。