それでは本編をどうぞ!
軽快な着メロがスマホから流れ出した、誰かが俺に電話をしてきている。一瞬だけ切ろうかと思ったが急ぎの用事だと相手に悪いので、スマホの画面を見て発信者を確認する。画面は俺がよく知っている人の名前を無機質な文字で、こう映し出していた。
『園田海未』と。
――――『穂むらの弟子になった。』最終話:『初恋』――――
「もしもし」
『やはり出ましたか、まあ貴方ならそうすると思ったんですけどね』
「なんだよ、バレバレだって言うのか」
『ふふふ……。それは置いときまして、急で悪いのですが今から公園に来れますか?お話したい事があります』
「電話じゃダメなのか?」
『駄目です』
女の子と2人だけで話す。いつもは特に何も感じていなかったその状況だが、今日ばかりは違う。それもそのはず、俺は昨日2人きりの教室で告白を受けたのだから。だけど、流石に海未が告白はないとは思うが。
「わかったよ、今から向かう。木の下にあるベンチで話そう」
『わかりました。それでは』
『ピッ』という単調な音を最後に海未との通話が切れた。海未を待たせないように急いで支度を整えよう。そして海未の話が何なのか分からないが、しっかりと聞いて向き合おう。
~*~
「すいません。呼んだのに遅れてしまいました」
「いいんだよ別に。俺の方がこの公園に少し近いしな。それで、話ってなんだ?」
「本題に入る前に質問させてください。貴方、昨日の文化祭の後でことりに告白されたでしょう?」
「なんで海未が知っているんだ?」
俺が質問に質問で返したのも当然のこと。なぜなら、ことりが俺に告白したことを海未が知っているからだ。あの時、学校には俺とことり、そして教職員が数名程度残っているだけだと思ってたから、海未からそんな言葉が出てくるなんて予想外だった。
「ことりから聞きました。貴方が告白の返事を保留にしたことも」
「そこまで話されてるのかよ……」
そう、海未がことりから聞いた通り俺は昨日ことりから告白されたが返事に困り、後日返事をするという保留状態にしてしまったのだ。
「その様子だと、ことりから聞いたことはすべて正しいようですね」
「ああ、全部合ってるよ。否定するところなんてこれっぽちも無い」
「そうですか。では本題に入ります、ことりの告白の返事はどうするのですか?」
海未は痛いところを突いてきたな……。はっきり言って、1日経っても頭の中で結論が完全に出て来ない。結論を出そうと考えても頭の中にモヤがかかっているような感じで、まともに考えられない。こんなことは今までになかったのに……。
「わからない」
「わからない……ですか?」
「ああ、考えても考えても結論が出ない。なんでだろうな」
「そうですか、それでは不肖ながらこの私も一緒に考えましょうか?その様子だと一生かかっても答えを出せませんよ」
「……頼む。俺1人だと答えが出るのが遅くなりそうだからな」
「頼ってください、仲間なんですから」
本当にいい友人――――いや、仲間に出会えたなとつくづく思った。いや、これじゃない少し違う。『仲間たち』だな、事情を知らなかっただけでμ’sのメンバーならば、きっとこの相談に乗ってくれただろう。まだこっちに来て5か月しか経ってないというのに、こんなにいいやつらに会えたことは恵まれすぎている。
「それで?ことりの事は好きなのですか?」
「お前、オブラートに包んで質問するとかできないのかよ……」
「早く答えを出さないとことりが悲しみますからね。だから単刀直入に聞く方が効率がいいでしょう?」
「……そうだよな」
こうやって海未に相談に乗ってもらっている間にも、ことりの告白からの時間は積み重なっている。不安にさせないためにも早く結論を出さなければ……!
「……ことりの事は好きだぞ。だけどそれが友達に思う好きなのか、恋をしている人に思う好きなのか聞かれると良く分からない」
「好きなら付き合ってみたらいいじゃないですか」
「それは……そういう考えもあるんだろうけど、俺の中では曖昧な答えのままなのに、真剣に俺に答えを出してくれたことりに失礼だから俺はそのやり方は嫌いだ」
「なるほど……そう言えば徹は初恋の経験はあるのですか?」
「初恋?そもそも俺は恋に落ちた事なんてないぞ?」
これは一度、ことりに言ったことがあったな。あれ?言ったはずなのになんであいつは告白したんだ……?あ!そうだ、あの時のことりは幽霊に乗っ取られたんだった。
「恋に落ちたことがないならことりに対して恋に落ちてないという事じゃないですか」
「あ!言われてみれば……」
「そんなことにも気付かないなんて、貴方は馬鹿なのですか……?」
「よし、それじゃあことりに直接会って……」
「待ってください。もう少しお話ししたい事があります」
ことりに直接会いに行って告白の返事をしようと思って座っていたベンチから立ち上がった時だ。海未から少し待ってほしいと言われた。急ぎたい所だが、相談に乗ってくれたし聞くだけ聞こう。
「聞くよ、どうしたんだ?」
「先程、貴方はことりからの告白の返事が、考えても考えても結論が出ない。そう言いましたよね?」
「そう言いました」
「なぜ考えても考えても結論が出なかったんですか?」
「それは、ことりに対して思っている『好き』がどっちの方かわからなかったのと、結論を出そうと考えても頭の中にモヤがかかっているような感じがして、まともに考えられないからだ」
「頭の中にモヤがかかっている……。それは、ことりの告白の返事を考えることを無意識にやめていることなのでは?」
俺が無意識にやめていた?そんなわけないって思うが無意識のうちに本当にそう思っていたら?だったら、そもそも何故無意識のうちにやめた?謎が深まっていく……。
「あくまで私の憶測ですが、辻褄の合う答えが1つだけあります。聞きますか?」
「聞かせてくれ」
「まず、貴方は初恋はないと言っていますがそれは噓です。自分に嘘をついています」
「じゃあ、俺が恋をしたことがあるって言うのか?」
「ええ、しかもその初恋の相手は……
10年前の高坂穂乃果」
10年前の穂乃果……?確かに10年前の穂乃果とは会っているからあり得ることだけど……。
「そして、貴方は成長するにつれて段々と初恋の事を忘れていった。そして高校2年生の春、初恋の相手である高坂穂乃果と偶然にも再会した。恐らくそこから、気付かない内に恋に落ちたのでしょう」
それが俺の2回目の恋ってわけか、年齢が違うだけで完全に同一人物だけどさ。
「そして、ことりに告白された貴方は返事を考えた。そこで、貴方は恐れてしまった。もし、ことりと付き合ったとしても自分は穂乃果の事を考えてしまい、2人の仲が険悪になってしまうかもしれない。逆にことりと付き合わなかったときに、ことりが、自分が振られた原因である穂乃果のことを嫌いになってしまうかもしれない。
南ことりと高坂穂乃果、μ’sのメンバーであるこの2人の仲が悪くなってしまうのは非常にまずい。そう思った貴方は考えるのをやめてしまった」
……その通りだ。海未の憶測を聞いている内に、俺も思い出した。元気な性格と太陽みたいに輝いている笑顔をしていた小さい頃の穂乃果に10年前の小さい俺は恋をしていたんだ。だけど、そんな子供の頃の恋だなんて小さいものに過ぎない。海未の言う通り、忘れてしまったんだろう。
「どうでしょう?合ってますか?」
「言われてみれば、俺も思い出した所がいくつかあったよ。お前、推理力凄いな」
「ありがとうございます」
「まさか、俺が穂乃果の事が好きだったのを俺自身が分かっていなかったとはな。今までの行動を思い出すと恥ずかしくなってくるよ」
「そんな貴方に朗報です。ことりの告白は噓です」
「へぇ~そうなんだ。って、はぁ!?」
え?どういうこと?ことりの告白は噓だったということは、俺の事が好きだってのも嘘ってことだよね!?俺の心の苦労は一体……。
「ことりからもメッセージを預かっています」
『あはは……ことりで~す。噓ついちゃってごめんなさ~い、実は海未ちゃんと手を組んで、徹くんがこっそり持っている穂乃果ちゃんへの恋心を徹くん自身に気付かせようとしたの。というわけで、ことりの事は気にせずに早く穂乃果ちゃんに告白してくださいね~?』
「らしいですよ。私もことりと同じ気持ちです。穂乃果を、私達の大切な幼馴染をよろしくお願いします」
海未は、ぺこりと頭を下げて俺に穂乃果を任せてくれた。ことりも同じ気持ちだそうだ。この2人はまるで穂乃果の保護者みたいだな。まあ、家族同然の関係だしあながち間違いではないかもな。
「ありがとな海未。ことりにもお礼伝えといてくれ。俺は穂むらに用事が出来たから行ってくるよ」
「そうですか、では私とことりの為に『貴方と穂乃果が作った』穂むらまんじゅうをお願いします」
~*~
走る。走る。走る。向かう場所は老舗の和菓子屋『穂むら』、目的は10年前の初恋と今の恋に終止符を打つためだ。
店が見えてきた。周りとは違う、昔ながらの感じの家、正面に掛けてある暖簾。そこには、この店の名前が書いてある。『和菓子屋 穂むら』と。
走り抜けてしまわないように自分の足にブレーキを掛けてスピードを下げる。止まったのは店の目の前だった、扉を開ける。
「いらっしゃいませ~!」
店番をしているこの家の長女はそう言った。
「徹君?どうしたの?」
息を整える。全力疾走したのに意外とすぐに息が整った。伝えよう、10年前と今の思いを。足が震えてきた。疲れたのと緊張が混ざっているのだろうか、いやこれは完全に緊張だ。でも大丈夫、きっと出来る。ファイトだ!
「穂乃果!俺、お前のことがずっと――――」
『穂むらの弟子になった。』~END~
いやぁ~終わりましたね~。『穂むらの弟子になった。』最終回!いかがだったでしょうか~。
こういうエンディングにしたのは、このお話自体を主人公が自分の恋心に気付き、告白するという、片思い~告白までを書くというのを当初から考えていたのでこうしました。まあ、穂乃果ちゃんの答えは確定ですしね。徹君が羨ましい。
それと、気が向いたら外伝的なのも執筆しようと思うので投稿されたときはよろしくお願いします。
この小説で、1つの物語を完結させるという大変さを実感する良い経験になりました。それに前回の投稿後、評価の部分に色が付いたりと読者様にモチベーションを上げてもらう機会も多く、読んでくれる人がいる事のありがたさを深く実感しました。
いつか、新作も投稿しようと思います!
23話分読んでくれた人も、それ以外の人も、この作品に目を向けて、読んでくださり本当にありがとうございました。
twitter始めました!執筆状況などつぶやきます。
https://twitter.com/toranakaku
それではまた!