「ちょ、ちょっと何なんですか?いきなり馬車に乗せて、こんな所まで連れて来て」
「姫様がお呼びなのだ。黙って大人しくしていろ。それとそこにある大きな箱には絶対に触れるな、それに手を触れたらタダでは済まさんぞ」
国内行脚の最中のお姫様の手紙を国王様に届け、ヒッキーの造った鍬(くわ)を検分した兵士は自らの出身が平民、しかも農家の出身とあってその鍬(くわ)の出来に驚きを隠せませんでした。その驚きの報告と国王様が受け取ったお姫様の手紙の内容の両方を聞かされた大臣はその兵士に命じて馬車にお姫様と姫菜の着替えや生活用品を入れた大きな箱を積み込ませた後、ヒッキーを店まで迎えに行かせてヒッキーが造った鍬(くわ)と主だった鍛冶道具までもを積み込んで旅先にいるお姫様の元へと向かわせました。その様子を目の当たりにした小町はその際に帯同した戸塚に
「ちょっと戸塚さん。お兄ちゃん何か悪い事でもしたんですか?そりゃ目つきは良くないし怠け者だけど悪い事はしてませんよ」
「落ち着いて小町ちゃん。ヒッキーの鍬が飛び抜けて出来が良かったから彼には郊外の町や村に行って鍬造りの技術指導をしてもらう事になったんだよ。これはお姫様の命令を国王陛下、お妃様、大臣が承認して実行されているものだから、とっても名誉な事なんだよ」
「お兄ちゃんの鍛冶の腕前がお城で認められたんですか?」
「そういう事。大臣の話では今日から約十日間、ヒッキーはお姫様の一行と郊外の町や村を回る事になるから」
「十日間もですか!お店どうしよう・・・」
「今はどこの鍛冶屋も鍬(くわ)以外の物を造る事が禁じられてるから大丈夫なんじゃないかな」
「そんな訳ないじゃないですか!鍬や剣だけが鍛冶屋の商品じゃありませんよ。それこそ鍋の底に開いた穴の修理、切れなくなった包丁の手入れ、曲がってしまったナイフやフォークなんかの修繕、生活用品の修理だって鍛冶屋の仕事なんです。やる事は一杯あるんですよ」
「あ!そっか・・・」
「生活道具が壊れたら生活が不便になるし下手をすればご飯だって食べられませんよ。ある意味、剣や鍬を造るよりよっぽど重要な仕事なんです」
「け、けど十日間だけだしさ」
「その間、お客さんは全部他のお店に行っちゃうんですよ。只でさえ商店街の端っこで目立たない店なのに、これ以上お客が減ったら・・・」
「けど、ヒッキーの造る剣は凄いし、この間だって凄い高値で剣を売っていたじゃない」
「あんな剣を買ってくれるお客さんなんてごく一部です。生活用品の方が使う人が圧倒的に多いんだから、その客層を逃がしちゃうと店にとっては大ダメージなんです」
「けど、とっても名誉な事だし・・・」
「名誉でお腹はふくれません。平民は名誉を守るのが仕事じゃないんですから」
「・・・ゴメン。僕の考えが足りなかったよ」
「・・・いえ、戸塚さんに言ってもしょうがない事ですもんね。私も言い過ぎました。ごめんなさい」
「僕、これからお城に行って大臣に何か補償をしてもらえないか聞いてみるよ。大臣はヒッキーの剣が凄い事を知っているし何かしら手を打ってくれると思うからさ」
「だといいんですけど・・・」
そうして戸塚は城に戻り大臣に小町の話を報告しました。すると大臣が
「なるほど、姫様の仕事を手伝えるという名誉が逆に鍛冶屋の日々の仕事を奪ってしまい店が苦境に立たされておるのだな」
「はい、このままではヒッキーのお店のお客さんが減ってしまってヒッキーの腕が宝の持ち腐れになってしまいます。なんとか手を打っていただけないでしょうか」
「本来であれば店の売上に匹敵する褒賞金などを与えるところなのだが今回の件は少々事情が違うからな。それも難しい」
「けどヒッキーは姫様の仕事の手助けをしているんですよ。その仕事に対する報酬は払われるべきではないでしょうか?」
「本来、城の仕事を請け負うのには城からの正式な依頼とそれに基づく契約をするもので、その手続きをしていない仕事については税金と同じで国への奉仕とみなされてしまうのだ」
「そんな、じゃあ今のヒッキーは戦役に出ているのと変わらないという事ですか?」
「そういう事だ。正式な依頼と契約が無いままに報奨金を出せば予算圧縮をさせられている部署や、その関係貴族から国王陛下が追及を受ける事になってしまう」
「それじゃあヒッキーは城の政治の犠牲になるしかないんですか?」
「いや、何かしら方法を考えよう。元はと言えば姫様の城外の友人の恋路を助けるところから事は始まっておるのだ。肝心のその相手が食っていけない様では姫様の友人の恋路もままならんからな」
「そうですよね、大臣、どうかよろしくお願いします」
「わかった。では戸塚はヒッキーが店に戻るまでの間、店の護衛を務めよ。商店街の端の店を娘一人で番をしていると知られれば質の悪い連中の獲物になりかねんからな」
「かしこまりました」
その頃、ヒッキーの店には結衣がやって来ていました。兵士数人が馬車と共に城下町に現れその行先がヒッキーの鍛冶屋である事を知った結衣は何があったかを確認するために店にやって来たのです。
「え~~~っ!じゃあヒッキーは十日間帰って来れないの?」
「そうなんですよ結衣さん。ホントに困っちゃって」
「けど、そしたらお店どうするの?」
「今、店に並んでいる品物を買う人以外は相手に出来ない状態ですよ」
「それじゃあ、お店開けたって意味ないじゃん。今の状態は鍛冶屋じゃなくて品揃えの悪い武器屋だもんね」
「そうなんです~、ホントどうしよう。下手したらお店潰れちゃうかもしれません」
「え!?つぶれる・・・」
小町の言葉に結衣は考え込み始めました。確かに兄弟で切り盛りしているお店が潰れそうなのは気の毒だと思う。しかし結衣の頭の中には以前からちょっとずつ考えていた事が頭に浮かんだのです。
「もし、そうなったら・・・うちのお店で働けばいいんじゃないかな~」////
「は?」
「いや、だって、ヒッキーって器用でしょ。多分すぐ料理も上手くなると思うんだよね。それになんたって鍛冶屋さんなんだからうちの店の包丁や鍋なんかの修理も出来るしさ。これって案外、転職のいいチャンスなんじゃないかな」
「結衣さん・・・そんな事を企んでいたんですか?」
「いや、企むとかじゃなくてさ。合理的に今の状況に対応しようって話だよ」
「物は言いようですね・・・けど、それもアリなのかな~。お兄ちゃんが結衣さんのお店で働いて、私はリーフマウンテン王国のお父さんのお店に行くっていう選択肢は確かにありますよね」
「いや、小町ちゃんも一緒にうちの店で働けばいいじゃん」
「結衣さんのお店、そんなに忙しいんですか?いっぺんに2人も従業員を増やせるほど儲かってるんですか?」
「あ、いや、それは・・・」
「お兄ちゃんが転職するなら小町は自分の身の振り方を考えないとですね」
2人してしょんぼりと黙り込んでしまい重苦しい静寂が店に訪れました。しかし次の瞬間、店のドアが勢い良く開いて、そこには雪乃が立っていました。
「話は聞かせて貰ったわ、小町さん」
「雪乃さん」
「そういう事ならば、私がお金を出すから雪ノ下家お抱えの鍛冶屋にならない?工房も住む家も用意させて貰うわよ」
「雪ノ下家のお抱え?」
「ええ彼の鍛冶の腕前ならば、それも可能だし只の従業員扱いが嫌だというのなら工房の共同経営者として迎える事も考えないでもないわ」
「共同経営者って・・・お兄ちゃんと私ですか?」
「そ、それは違うわ。ヒキ鍛冶屋君の共同経営者は・・・スポンサーである私よ」////
「え、雪乃さんがお兄ちゃんと一緒に工房を経営って、それって・・・」
「ちょ――っと待った――――――っ!」
頬を赤らめて小町に工房の共同経営を持ちかける雪乃、それを聞いて唖然としつつ雪乃の本気度合いを確信した小町。しかしその両者の会話に割って入る様に結衣が声を上げました。
「ちょっと小町ちゃん。私だってヒッキーとカフェの共同経営者になるつもりあるから!」
「由比ヶ浜さん、便乗はやめて貰えないかしら」
「便乗なんかじゃないよ。前から、ずっと前から考えてたんだもん。わ、私・・・ヒッキーとだったら」////
「そんなのは私だって同じよ。彼とだったらどんな逆境だって乗り越えられるわ」////
「私に逆境なんてないもん!同じ平民として暮らして、平民として生きて来たんだから私はヒッキーと一緒に穏やかに生きていける」
「あのヒキ鍛冶屋君が平穏無事な人生を望んでいるなんてとても思えないわ。彼は口では働きたくないとか引き籠りたいとか言っているけど本心は未知の世界に憧れを抱いているわ。彼は自分の力をを試さずにはいられない人間よ」
「そ、そんな。そんな訳ないじゃん」
「由比ヶ浜さん、あなたはどうやら彼の事を見誤っている様ね。彼は困難であればある程、面倒であればある程、生きがいを感じる人間よ。それは私の注文を受けた事、あなたの料理を食べた事から考えても彼は自分を普通の怠け者ではないわ」
「そんなこと分かってるよ、ヒッキーは凄く変り者だよ。あれだけ働いているのに自分が一生懸命働いている自覚が無いんだもん」
「本当に変よね。あれだけの仕事をしていながら口から出てくるのは仕事したくないって言葉ばかりですもの」
「アレって小町ちゃんに構って欲しくて言ってるのかもよ。アレってやっぱり変だよね」
「それはあるわ!困ったものね。自分を見て貰う前にまず妹から目を逸らさせないといけないなんて、なんて変な男」
「ホントに変だよね。こんな美人が言い寄ってんのに妹の方がいいなんて」
「あの~・・・そろそろ勘弁してあげてくれませんか」
「「う!」」
「まあ、大まかな部分はお二人の言う通りだと思いますが、そこまで悪しざまに言わなくてもいいじゃないですか。それにうちの店が潰れると決まった訳じゃないんですから、潰れる事を前提に話を進めるのはやめて下さい」
「ご、ゴメン」
「し、しかし・・・先の事を考えるのは人生において大事な事よ」
「そんな事はお二人に言われなくても分かってます。あれでお兄ちゃんは仕事の先行きに関しては結構考えてますから。それにお兄ちゃんがいない間の事については戸塚さんがお城の偉い人に掛け合ってくれてるみたいですし今はアレコレ検討するには材料が足りな過ぎです。お二人ともちょっと落ち着いて下さい」
「ヒッキーが仕事の先行きについて考えてるってホント?小町ちゃん」
「当然、鍛冶屋を続けるのよね?それなら私と工房を共同経営するのでも問題は無い筈よ」
「お兄ちゃんはこの店を大きくする事を考えているんです。転職したり他の鍛冶屋や工房に務めるつもりなんてありませんよ。大体、お兄ちゃんが他の職場に通勤なんて面倒な事を出来る訳ないじゃないですか。今だって自宅兼職場だから働けているんですよ」
「自宅兼職場・・・」
「それって、只の引き籠り・・・」
「それは考え方次第ですね。それにお兄ちゃんがお父さんとお母さんについてリーフマウンテン王国に行かなかったのは、ここに愛着があるからですよ」
「そういう事なら考えを改める必要がありそうね」
「うちのカフェで働いてもらうのは無理か~」
「お二人の心遣いには感謝ですけど、もうちょっとお兄ちゃんの希望を取り入れる形にしてあげて下さい。じゃないと只の引き籠りになっちゃいますから」
「「はぁ・・・」」
雪乃と結衣は小町の言葉に溜息をついてから、がっかりした表情で顔を見合わせました。そんな会話がお城やお店でされている事を全く知らずにヒッキーはお姫様の一行と、とある村の近くで合流しました。馬車から引きづり出され、力づくでお姫様と姫菜が乗る馬車の前に連れて行かれ頭を下げさせられるヒッキー。それを見ていた材木座はヒッキーを引っ張って来た兵士に向かって
「コラコラ、その様な乱暴な真似はするな。この男には郊外の町や村の鍛冶屋の技術指導をして貰うのだぞ。怪我でもしたらどうするのだ」
「は、はい。申し訳ございません」
「ヒッキー、久しぶりである」
「あ!材木座。これってどういう事なんだ?いきなりこんな所に連れて来て・・・っていうかここはどこなんだ?」
「ここは姫様が訪問する予定の村のすぐ近くである。お主には今言った様にこれから回る町や村の鍛冶屋へ鍬(くわ)造りの指導をして貰いたいのだ」
「鍬(くわ)造り?鍛冶屋が鍬(くわ)を作れない訳ないだろ。ナニおかしな事を言ってるんだ?」
「いや、それがそうでもないのだ。馬の蹄鉄や包丁しか造った事が無いという鍛冶屋が多くて我らも驚いているのだ」
「馬の蹄鉄と包丁・・・随分、レベル低いな」
「別に全ての鍛冶仕事を教えてやれと言っているのではないのだ。鍬(くわ)造りだけでいい。何とかして貰えぬか」
「それってリーフマウンテン王国に寄贈する鍬(くわ)造り関係の話だよな。確かに城下町の鍛冶屋だけじゃ千本も鍬(くわ)作れないからな」
「そうなのである。姫様がこの様な郊外の村を訪問しているのは、その為であるのだからな」
「一体何の為に鍬(くわ)千本も隣国に送るかね~、偉い連中の考える事は分からん」
「む・・・」(こやつ、事の起こりが自身にある事が解っておらぬな。リア充爆発しろ!)
材木座とヒッキーの会話は当然馬車の中のお姫様と姫菜にも聞こえていました。
「なんか好き勝手言ってくれてんだけど」
「まあ理由も知らずに鍬(くわ)を造らされている人からすれば、あれが当然の発想なんだろうね」
「ホンットにもう!結衣のヤツ、面倒なのに惚れやがって~」
「そうだよね、もうちょっと優美子を見習って面倒じゃない男に惚れたらよかったのにね~」
「姫菜、それを言う・・・」////
「ほら、そろそろ馬車の戸を開けてヒッキーさんに言葉をかけてあげないと」
「ふぅ、そうだね・・・ちょっとキツ目に言ってやっかな」
そうしてお姫様は馬車と戸を開けて馬車の中からヒッキーを見下ろして、こう言いました。
「あなたが城下町で鍛冶屋を営んでいるヒッキーという男ですね」
「あ!はい」
突然、馬車の戸が開いて声を掛けられたヒッキーは反射的に身構える様にお姫様の前で跪(ひざまず)きました。しかし、その瞬間、お姫様の顔を見たヒッキーは
(あれ?こいつっていつも結衣のカフェで結衣と話してる奴に似てるな・・・というかあれが優美子姫だったのかよ!?だから戸塚がカフェに居たんだな)
「ヒッキーとやら。あなたには今、説明があった様に郊外の町や村の鍛冶屋に鍬(くわ)造りを指導して貰います」
「十日ぽっちじゃ、ロクな指導は出来ませんが」
「相手は素人ではありません。何としても普通に使える鍬(くわ)を作れる程度まで指導をしなさい」
「素人じゃないって言うのが逆に指導の邪魔になるんです。職人の仕事の手順、いえ癖っていうのは一人一人、みんな違うんです」
「・・・なるほど、剣術使いに色々な流儀があるようなものですね」
「まあ、そんなトコです。ですから十日じゃ・・・」
「それでもやりなさい。あなたの技術は城内で既に評判になりつつある程、優れたモノです。剣術も圧倒的な技術を見せつければ他の流儀の人間に有無を言わさずに言う事を聞かせる事が出来るのですから鍛冶仕事も同じように出来る筈です」
「しかし、圧倒的な技術を見せる機会が無い以上どうしようもありません。いちいち町や村の鍛冶屋の目の前で鍬(くわ)を作っていたら、それこそ時間が足りませんし、それなら私が作った方が早い位です」
ヒッキーの意見に鍛冶仕事の素人であるお姫様は言葉を失いました。確かに人に物を教えるという事は簡単な事ではないし、まして職人仕事となれば一層難しい事であるのはお姫様にも簡単に理解できました。困ったお姫様はつい横にいる姫菜に目を向けると
「それならばヒッキーさんが作った剣と鍬をこれから行く町や村の鍛冶屋に見せて差し上げればいいのではないのでしょうか。私も戸塚君もざい・・・チューニ君もそして姫様も彼の作品を見て圧倒されたのですから」
「それナイス!姫菜」
「姫様っ!」
つい素が出てしまったお姫様に姫菜が注意を促すとお姫様は姿勢を正して
「で、ではヒッキー。あなたはこれから回る町や村でチューニの協力の元、あなたの作品を見せてから指導に当たりなさい。そうすれば相手もあなたのいう事を素直に聞く事になるでしょう。もちろん私も町や村の長に後押しをしておきます」
「わかりました。そこまで言われたら断れませんね。ただ、相応の報酬は下さい。仕事も店も放ったらかしにして、ここに連れて来られたんですから」
「いいでしょう。指導が上手くいって鍬(くわ)千本が無事に完成したら相応の報酬をあなたに与えましょう」
「今言った事、忘れないで下さいね」
そうしてヒッキーはお姫様の一行に加わり訪問予定の村に向かいました。そして、そこでお姫様が村長に会ってから鍛冶屋を訪問してからヒッキーに鍬の出来をチェックさせて指導に当たらせました。もちろん最初は村の鍛冶屋がヒッキーの言う事を素直に聞きませんでしたが材木座が持っている短剣の性能と兵士が馬車に積んできたヒッキーが造った鍬(くわ)を見せると忽ち態度を改め指導に聞き入って新たな鍬(くわ)造りを始めました。そうして郊外の町や村での鍬造りが軌道に乗り始めると今までの遅れを一気に取り戻すべくお姫様の一行はペースアップし昼夜を問わずに移動をして時には深夜に村人を叩き起こしての鍬造りの指導と実践をしました。無論、この行いはお姫様をはじめとする一行にとんでもない程の負担を掛けました。お姫様は化粧で疲れた顔を誤魔化しつつ世話係のメイドのサポートで、護衛の兵士達は交代で短い睡眠を取り合いながら仕事を続けましたが替わりがいなくて、お姫様ほど大事にして貰えないヒッキーはその負担を一身に背負う羽目になりました。やる気のない目がクマを纏(まと)って一層怪しげな目つきになり指導をしている合間もブツブツと
「俺ここで何やってんだ?」(;O;)
「ここはドコ?私はダレ?」(*_*)
「あははは、死ぬ、俺はもう死ぬ。過労死だ、行きつく先は労働地獄なんだ」(=▿=)
小声で口の端を持ち上げながら独り言を漏らしているせいで指導を受けている鍛冶屋は勿論町長や村長、挙句、お姫様までもがヒッキーの事を危ない奴だと思い始めました。しかし姫菜と材木座がお姫様に
「優美子、さすがに働かせ過ぎだよ」
「姫様、少々の休憩を与えなければ仕事が出来なくなってしまいます」
「や、やっぱ、そう思う?あーしもチョッチまずいかな~って思ってたし」
「回る予定であった町や村の内、ほぼ四分の三は周り終わっておりますし、次々と鍬(くわ)が完成していっている様ですし一日、中休みを入れてはいかがでしょうか」
「う~ん、けど完成した鍬(くわ)が不良品だったら意味ないし、少し多めに作るくらいじゃないと安心出来ないっしょ」
「確かに優美子の言う通りだけど肝心のヒッキーさんがあれじゃあ、この先ロクな指導が出来なくてちゃんとした鍬を作る可能性が下がっちゃうよ」
「左様でございます。せめて一晩だけでも休ませることが必要かと」
「う~ん、わかった。じゃあ次の町でヒッキーに宿の部屋を取ってあげて。そこで一晩だけ休ませるようにして。出来るだけ疲れが取れる事をしてあげる様に」
「はい。では宿の部屋、食事、風呂の用意をさせる様に致します」
「チューニ君、アッチの方はいいのかな?」
「あっち?あっちとはどっちだ?」
「いや・・・男の人って寝る前にアレしないと寝つきが悪いんでしょ?」////
「ひ、姫菜。お主は姫様の前で何という事を言い出すのだ!」////
「え?2人とも何言ってんの?」
「あ、いや。姫様には全くもって関係が無い事でございます」
「そうそう。優美子にはちょっと早いかな」
「なに、それって超気になるんだけど」
「いえ、この話は姫様の御耳汚しになる下世話なモノゆえ姫様がお気になさる必要は全くございません」
「お耳汚し・・・下世話・・・姫菜、アンタまさかアノ話をしてたの?」
「いや、まあ・・・だって優美子がヒッキーさんの疲れを取る為に出来るだけの事をする様に言ったからさ」
「アンタね~、そんな事まで考えなくてもいいの。ちゃんと私のお伴として擬態しろし」
「け、けどコレだけの兵士がいるんだから、ひょっとしたらヒッキーさんのタイプの男性がいるかもよ」
「ちょ、ちょっと待て姫菜。お主は何を言っておるのだ?ヒッキーの好みの男性とは?」
「そりゃ、男を癒すには男をあてがうのが一番でしょ」
「なにを気色悪い事言っておるのだ。それでは疲れが取れるどころか、あやつが精神的に壊れてしまうぞ」
「え~、けど~」
「姫菜、もういいし。これ以上言うなら姫菜にあいつの相手して貰うから」
「え!ちょっと優美子」////
「言い出しっぺは姫菜っしょ。だったら姫菜が責任もって相手してあげれば」
「け、けどヒッキーさんだよ。結衣の片思いの相手だよ。そんな事出来る訳ないじゃん」////
「大丈夫なんじゃない、あの状態ならする事したって記憶に残らないんじゃない」
「そ、そんな。優美子はあたしを何だと思ってるの?」////
「そんなに嫌なら、もうこの話は終わり。姫菜、ちゃんと時と場所をわきまえてよ」
「は、はい」
「姫菜、お主、日ごろ姫様に何を吹き込んでおるのだ?大臣が聞いたらタダでは済まんぞ」
「チューニ、今聞いた事は内緒ね。多分これからも度々、こういう話が出ると思うけど聞き流して」
「か、かしこまりました」
― 続く ―