魔法のリップクリーム   作:Z-Laugh

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第十一話

 ヒッキーの剣を四本手に入れた沙希は意気揚々とリーフマウンテン王国の王宮に戻って来ました。前回の任務と違ってわずか三日で成果を出せた事、手にいれた剣が期待通りの性能だった事は沙希を思わず笑顔にします。手に入れた剣の内の一本を腰に差し、それ以外の三本は手に抱えたまま門に向かって歩き出すと、そんな様子を見た王宮の門番、いわば沙希の同僚は彼女の珍しいまでの笑顔に見惚れてポカンとしたまま沙希が門を通り抜けるのを見ていました。そうして沙希は王宮の玄関にいる警備隊員に

「王子様はおいでですか?命令を受けた隣国の剣を手に入れて来たとお取次ぎください」

 そうして玄関の警備隊員が王宮内にいる警備隊長に取次ぎ、警備隊長が笑顔で沙希を王子様の所へと連れて行きました。

「王子、ご命令通り隣国の剣を手に入れて参りました」

「おお!沙希。今回は随分手早かったな」

「はい、自分でも驚いております」

「では早速、手に入れた剣を見せてくれるか」

「はい、こちらの三本です。どうぞご覧ください」

 そうして沙希は抱えていた剣三本を王子様の前に置くと一歩下がって頭を下げました。それに合わせる様に王子様が三本の剣の内の一本を手に取り鞘から剣を抜くと

「軽いな。これで本当に沙希が言ったような性能が発揮できるのか?」

「はい、間違いございません。剣を購入した店で試し斬りをして性能は確認済みです」

「そうか・・・警備隊長、君も一本手に取ってみろ」

「は、はい。では失礼して・・・こ、これは!何という軽さ」

 王子様と警備隊長が剣の軽さに驚いていると沙希は部屋の暖炉の横に置いてある暖炉用の薪を一本手に取りました。

「沙希、薪など持って何をする気だ?」

「はい隊長、今から残りの一本でこの薪を試し斬りしてご覧に入れます」

「なに!こんな太い薪をこんな細くて軽い剣で斬るというのか。そんな事をしたら剣が折れてしまうぞ」

「どうか黙ってご覧になってて下さい」

 そうして沙希は持っていた薪をテーブルの上に立ててから王子様の前に置いてある最後の一本の剣を手に取り鞘から抜くと腰を落として剣を構えました。その様子を見ていた王子様と警備隊長は息をのんで沙希の動きに注目しました。

「ひゅっ!」

 沙希は唇を尖らせるようにして小さく切れよく息を吐き、それを合図に音もなく足を踏み出すと、その反動をそのまま剣に乗せて鞘から一気に剣を抜くとすくい上げる様な切先はテーブルの上に立っていた薪を斜めに切断しました。切り取られた上半分の薪は宙を舞いゴトリと音を立てて床の落ちますが下半分はテーブルの上でゆらゆらと小さく動いているだけでした。

「この通りの切れ味です。それにこの剣をご覧ください。刀身の歪み、刃こぼれなどは一切ありません」

「「・・・」」

 王子様と警備隊長は唖然としましたが、少し間を置いてから王子様は沙希が差し出した薪を切断したばかりの剣をまじまじと見つめてから、それを手に取って剣の歪みや刃こぼれをチェックしました。

「はぁ・・・これ程の物とはな。これは優美子姫が自慢をする訳だ」

「隣国の工業力は軽んじる事が出来ない物の様ですな」

「警備隊長の言う通りだ。これ程の剣が作れるとなれば隣国の軍事力は相当に上がる筈だ。これを我が国の強行派の貴族が知ったら黙ってはいないぞ」

「何か手を打たれますか?王子」

「・・・いや、この事はここにいる人間だけの秘密にする。必要以上に騒ぎ立てるな。それと沙希、君は定期的に隣国の鍛冶屋に行って、これと同等の剣を手に入れてくる様にしろ」

 すると沙希は王子に対して

「定期的に?それではいったい何本手に入れればいいのですか?」

「そうだな・・・警備隊全員に行き渡る数、五十本手に入れるまで隣国と王宮を往復しろ」

「しかし、それには少々問題があります」

「問題?一体何だ」

「お金です。実はこの剣を三本購入するのに金貨二枚と銀貨十枚を払わされました」

「剣三本にそれ程の値段か・・・確かのこの性能なら値段が高くなるのは当然なのだろうが、それはいくらなんでも高すぎる」

「まとめて注文をすれば値段を下げる交渉は出来るかもしれませんが・・・」

「それは駄目だ。我が国が隣国の鍛冶屋に大量の武器を発注したと知られたら問題が国内だけで収まらず隣国をも巻き込んだ外交問題になりかねない」

「いっそ、この剣を作った鍛冶屋を我が国にスカウトしては如何でしょうか」

「なるほど、それも手だな。しかし隣国にはこれ程の剣が作れる鍛冶屋がそんなに沢山いるのか?もし、一人か二人しかいないのであれば優美子姫をはじめとする隣国の王侯貴族にもその名を知られている筈だ」

「・・・多分、これ程の剣を作れるのは一人だけかと・・・隣国の城下町の鍛冶屋と武器屋をくまなく回りましたが、これ程の剣を売っているのはヒッキーの鍛冶屋だけございました」

「ヒッキー!?この剣を作った鍛冶屋はヒッキーというのか」

「はい、妹と2人で鍛冶屋を営んでおりました」

「・・・」(まさか陽乃さんが言っていた妹さんの想い人の事ではないだろうな。だとしたら迂闊に強引なスカウトや誘拐などは出来ないぞ)

「王子?」

「スカウト、誘拐などの手を使ってヒッキーとやらをここに連れて来る必要は無い。あくまで剣の購入だけで事を済ませ。沙希は焦らずに剣の価格を良く見極めてから購入をしろ」

 思わぬ形で隣国の工業力を知る事となった王子様はその場にいた警備隊長と沙希にこの事を秘密にさせました。そうして沙希は再び隣国のヒッキーの鍛冶屋に向かい警備隊長は・・・警備を他の警備隊員に任せリーフマウンテン王国のお城に向かい、城の中にいるとある貴族を尋ねました。

「失礼いたします」

「おお、王宮警備隊の隊長ではないか」

「実は至急お知らせいたしたい事がございまして参りました」

「至急?隼人王子が何か始めたのか?」

「実は先日の隣国の姫君との会談に関わる事なのでございますが」

 

 ・・・

 

「ほう、隣国で製作された剣がそれほどまでの物とはな。しかもそれを内密に収集しようとは王子も中々の悪党だな」

「いかがいたしましょう?」

「隣国との外交というは常に軍備で相手より有利な立場を維持しつつ行われなければならん。農業政策の予算などは最低限に抑え軍備を増給する事こそが国の為になるというモノだ」

「では、どの様に?」

「やはり隼人王子には政治の表舞台から消えて貰うに限るな。なまじ国民に人気があり我々の政策が進め難いのだ」

「王子を政治の表舞台から・・・」

「隊長、君は何も聞かない方がいい。何食わぬ顔で王宮の警備をしているといい」

「は、はぁ・・・」

「そう不安そうな顔をするな。王子を政治の表舞台から追い出したら君には以前からの約束通りこの先、暮らすに困らないだけの金をやるから安心しろ。警備隊長など辞めてその金で静かに暮らすがいい」

 なんと警備隊長は王子様の反対勢力のスパイだったのです。王子様の農業政策が上手く行く事で軍備の増強、更には隣国への強行・進軍などを含めた拡大政策が進められない貴族達は以前から王子様が邪魔でしょうがなかったのです。そこで彼等は王子様の弱みを握る為に側近である王宮の警備隊長を買収してスパイをさせていたのです。

「確か隣国の姫君が王子に鍬千本を持って来るのは二・三週間後だったな。その時に少し仕掛けてみるか」

「一体どうされるのですか?」

「君は黙って王宮の警備をしていればいい。知らなくていい事を知ろうとすれば君の立場が台無しになる」

「も、申し訳ございません」

 そうして十日ほどが過ぎた頃、お姫様は城に戻って最後の確認作業に立ち会っていました。ヒッキーを連れて郊外の町や村を回っての鍬造りの指導、督促はその行程の後半が正に駆け足で寝ずの行軍となりましたがヒッキーの指導とお姫様の命令・督促は町や村の鍛冶屋の技術とやる気を向上させ、どうにか目標の数を超える鍬を完成させる事が出来たのです。途中、馬車を三台増やして完成した数多くの鍬を積み込んでの移動でしたが、それを持って城に戻ると城には既に四百本以上の鍬が集まっていて結果として千二百本を超える鍬がお城に集まりました。そうして集まった鍬の中から出来のいいものを選び出し、そして最後の本数と品質の確認作業していたのです。

「九百九十七・・・九百九十八・・・九百九十九・・・千!」

「どう、チューニ。千本揃った?」

「はい、姫様。間違いなく千本ございます」

 材木座の声にお姫様は長い息を吐いてから、その場にへたり込んでしまいました。するとそれを見ていた大臣が

「ひ、姫様。大丈夫でございますか?」

「う、うん。大丈夫。これでやっと準備が整ったね」

「では、姫様。私は今からリーフマウンテン王国へ向かい鍬千本と恋煩いの花の交換をする日程を決めて参ります」

「わかった。じゃあ、あーしはお父様とお母様に鍬千本が揃った事と大臣がリーフマウンテン王国に入った事を報告して出発の準備を整えておくから出来るだけ早い日程にして」

 そうして大臣はリーフマウンテン王国へ、お姫様は謁見の間に行って国王様とお妃様に会いに行きました。

「お父様、お母様。鍬千本揃ったよ」

「そうか!予定よりも早かったな」

「頑張りましたね、優美子」

「うん、超頑張ったから」

「しかし、まさか二週間ではなく十日ほどで鍬千本を揃える事が出来るとは思わなかったぞ。期限の三週間まで、まだ一週間以上あるではないか」

「もう死に物狂いだったし」

「聞いたところによれば行脚の後半は昼夜を問わず移動をしたそうだな」

「うん、もう目のくまを化粧で誤魔化して地方の貴族や町や村の長に会ったし」

「そこまでしたのですか。もう少しやりようはなかったの優美子?」

「そんなの無理。だってあーしが先頭に立って頑張らないとみんなが頑張れないじゃん」

「うむ。上に立つ者として、それは大切な心構えだな」

「それに、あーしはまだマシだったかもしれないし」

「おお!あの鍛冶屋の事であるな」

「うん、さすがに働かせ過ぎたってカンジ。城下に帰って来た時にはまるで死体を運んでるみたいだったから。家族が超心配してたってチューニが言ってた」

「その鍛冶屋の事であるが大臣からも聞いたが何かしらの補償か褒賞を与えるとの事だが」

「うん、無事に鍬千本揃ったんだし、かなり頑張ったのは事実だから」

「しかし大臣も言っていたが城からの正式な依頼と契約も無しに補償や褒賞を与える訳にはいかないぞ」

「え!けど、褒賞を与えるって約束しちゃったし」

「むむむ、それは困ったな。確かに鍬千本を作るにあたって、そのヒッキーとやらは随分と貢献をしてくれた様だが、そもそも鍬造り自体が国の政策に基づく事ではないからな。国から褒賞を与える訳にはいかないのだ」

「そ、それは確かに・・・」

「無論、王室から何かしらの褒賞を与える事も出来るが、やはり周囲との軋轢は避けられん」

「けど・・・」

「何かしら国政に貢献出来たという大義名分が建てられれば良いのだが」

「だったら鍬造りの指導をしたっしょ。あれで鍛冶の技術の底上げは出来たし」

「それ位しかないか・・・わかった。大臣が戻ったら技術の向上を名目にして褒賞を出す事を検討してみよう」

 そうして、その二日後には大臣がリーフマウンテン王国から戻りました。

「国王陛下、お妃様そして姫様。只今戻りました」

「で、どうだった?」

「はい、隼人王子は鍬千本の完成を大変喜んでおられ、更にこの短期間でコレだけの鍬を揃えた事に感嘆しておりました」

「そっか♪」

「で、鍬千本と恋煩いの花の交換の日程でございますが、本日より三日後にリーフマウンテン王国の王宮にて執り行う様に決定いたしました」

「じゃあ明日には出発しなくちゃだね」

「うむ、でかした大臣。では優美子よ。二度目のリーフマウンテン王国への訪問だ。今度は大臣ではなく姫菜を伴として行ってくるがいい。会談の成功を祈っておるぞ」

「優美子、今度の会談ではもう少し隼人王子との距離を縮められると良いですね」

「お、お母様」/////

「まあ、今回の訪問は我が国に恋煩いの花を持って帰るという仕事が残っているからな。そんなにゆっくりもしておれんだろう」

「うん、花が枯れる期限の三週間まであと一週間、結構ギリギリなんだよね」

「今までの行いを無駄にしない為にも頑張りなさい」

「はい、お父様」

 国王様はお姫様の行動が順調に進んでいる事を大変喜んでいました。しかし、そんな国王様に大臣が

「国王陛下。たいへんの喜びの所、申し訳ございませんが以前より話をさせていただきましたヒッキーという鍛冶屋への褒賞の事について協議を始めさせていただきたいのですが」

「そうだったな。やはり私としては優美子の言う我が国の鍛冶技術の向上の寄与した点を評価するのが一番ではないかと考えておるのだが」

「それは私も同感でございます。出来る事ならば他に何か評価出来る実績があるといいのですが・・・郊外の町や村での実績ゆえ城内の貴族達には不満を漏らすものも多いかと」

「それは已むを得んだろう。ただちにヒッキーの鍛冶屋の十日分の売り上げを調査し、それに見合う報奨金を用意する様に」

「ちょ、ちょっと待って。お父様、大臣」

「どうした優美子?」

「ホントにそれしかしてやれないの?」

「姫様、私も出来る事ならば姫様の仕事にここまで貢献した者にはもっと褒美を与えたいと思います。しかしながら城内の貴族達からの反発を考えればこれ位が限界かと」

「けど、あれだけ腕のいい鍛冶屋が店を潰しちゃうかもしれないんだよ」

「それは承知しております。しかしながら城内における国王陛下への反発を最小限に留めませんと、この先の姫様ご自身の行動がし辛くなりますぞ」

「あーしの?」

「はい。現在の我が国の政情は国王陛下の元、盤石でございます。故に姫様が少々の我儘を言っても、それを押し通す事が出来ます。しかしその体制が少しでも揺らぐというのであれば今までの通りとは参りません」

「じゃあ、城内の反発を最小限やゼロに出来ないとあーしが城下に行ったり城内の各部署に改善を要求する事が出来なくなっちゃうの」

「左様でございます。ですからここは何卒、我慢をいていただきたいのです」

「そういう事か」

「優美子、大臣の言う通りだ」

「お父様!」

「今回の件はお前がリーフマウンテン王国へ訪問するまでは王室だけの問題として片づける事が出来た。しかしお前が国内行脚で郊外の町や村を回った事で、この事は城全体、国全体の出来事として扱われる事となってしまったのだ」

「それは分かってるけど」

「あれ程の数の兵士を連れて国内を行脚したとなれば、相応の成果が要求される事になる。確かに鍛冶技術の向上をさせる事は出来たのであろうが、それはあれ程の兵士を連れてないと出来ない事であったのか?」

「・・・」

「技術指導をする優秀な鍛冶屋と兵士数人だけでも同じ効果が出せたのではないか?」

「それは・・・」

「この様な追及が間違いなく城内の各部署、各勢力からある筈なのだ。それを考えれば褒賞を最小限に抑える以外に対応策は無い。わかってくれ優美子」

「・・・はい」

 城内でそんな会話がされているとも知らずヒッキーはやっと日常を取り戻していました。材木座に抱えられながら店に帰って来たヒッキーは丸一日眠り続け、更に目が覚めた後も三人前ほどの食事をした後、すぐさま丸一日眠り直し三日目にして普通に動き出し鍬を作っている時に思い付いた新しい剣の製作に掛かりました。そうして新しい剣が完成したのはその二日後、すなわちお姫様がリーフマウンテン王国へ出発する前日だったのです。

「こんにちは~」

「あ、戸塚さん」

「こんにちは小町ちゃん。ヒッキーはどう?」

「はい、もうすっかり大丈夫みたいです。なんかこの二日間、工房に籠りっきりで何か作ってましたよ」

「それって、この間言ってた新しい剣かな?」

「う~ん、本人に聞いてみましょうか」

 そうして小町は店の奥に向かって大声でヒッキーを呼びました。

「お兄ちゃ――――ん。戸塚さんが来たよ―――――」

 すると店の奥から一本の剣を持ったヒッキーが現れました。

「よう、戸塚。よく来たな」

「うん。実は明日からリーフマウンテン王国に行くから剣が完成しているか、どうか分からなかったけど一度顔を出してみたんだ」

「リーフマウンテン王国に?」

「うん、今回は僕も姫様の護衛メンバーに選ばれたんだよ」

「そうか。じゃあ、この剣のデビューには丁度いいかもな」

「じゃあ完成したんだね」

「ああ、これが新しい剣だ。早速試し斬りを頼めるか」

 そうしてヒッキーは戸塚に新しい剣を放り投げました。戸塚は両手で剣を受け取ると小町と一緒にギョッとしました。

「ナニこの剣?鍔と柄が真っ黒だよ」

「お兄ちゃん、鞘が銀色で鍔と柄が真っ黒な剣なんて見た事ないよ」

「戸塚、抜いてみろよ。もっと驚くぜ」

 得意気というよりイヤミったらしい笑顔を浮かべながらヒッキーは戸塚に新しい剣を抜く事を要求しました。すると鞘の中から出て来た剣は

「え!刀身も黒いの!?」

「うそ!」

「そうだ。その剣は刀身も鍔も柄も全部が黒いんだ。まあ剣の刃の部分だけは研いであるから銀色だけどな」

「真っ黒な剣・・・これが鍬を作っている時に思い付いた剣なの?」

「ああ。鍬って言うのは刃先を作る時に焼き付けをするんだが、その時に鉄の表面が炭化、すなわち真っ黒に焦げちまうんだ」

「鉄が焦げるの?」

「ああ、そして焦げた鉄板の先端部分だけど研いで鍬にするんだ。そうすると焦げた部分は銀色の鉄が剥き出しになっている部分より錆びにくくて長持ちするんだよ」

「じゃあ、この剣の黒いのって・・・」

「剣全部を焼き付けして真っ黒に焦がしたんだ。もちろん焦がしたままでは表面がザラザラだから黒い色が落ちない程度に磨いてツヤを出したけどな」

「それで、その後に刃の部分だけを研いだんだね」

「そうして剣の大部分は黒、刃のわずかな部分だけが銀色という剣になったんだ」

「けど、なんで黒い剣なんて作ったの?」

「見た目が異様だからさ。そんな剣を目の前で抜かれたら相手はビビるだろ」

「そりゃ・・・こんな真っ黒な剣を構えられたら冷静じゃいられないよ」

「それに、それ以前に鞘が銀色なのに鍔と柄が真黒というだけで相手に普通じゃない剣だって事がアピール出来るだろ。黒という色は着いたが余分な飾りを付けなくても相手が一目置く剣にする事が出来たんだ」

「そっか、余分な飾りが無くても相手を圧倒する剣。前からヒッキーが造りたいって言ってた剣になったって事だね」

「そういう事だ。それにその黒い剣にはもう一つメリットがある」

「もう一つのメリット?」

「今、戸塚が腰に差している俺の剣は刀身にツヤを出す為に少し銀を混ぜてあるんだ。しかしその黒い剣は全部が錬鉄で出来ているから同じ長さ・太さの剣であっても更に軽くなるんだ」

「え!僕の剣より軽いの?」

「少しだけな。銀は鉄より重いからな。それに何と言っても銀は鉄より高価だから材料費が高くついたんだが、その黒い剣は材料全部が鉄だから材料費も安く抑えられる」

「じゃあ安くなって性能はほぼ同じというか、ちょっと上がったって事」

「その通りだ。試しにそこの試し斬りしまくりの鎧を斬ってみろよ」

「ああ、材木座君と沙希さんが試し斬りした鎧だね。分かった、やってみるよ」

 そうして戸塚は真っ黒な剣を構えると、斬り跡だらけの鎧に向かってそれを振り下ろしました。すると鎧に綺麗な斬れ跡がつきました。

「うわぁ・・・振ってみると少し軽くなったっていうのが良く分かるよ。それに切れ味も僕の剣と同じ位だ」

「更に言えば強度も少し上がってるんだぜ。何しろ銀が混ざってない分、頑丈になってる」

「軽くなって強度が上がって構えるだけで相手を圧倒出来て、その上値段が安くなるんて」

「だから、お兄ちゃんはこの間リーフマウンテン王国の警備隊員さんに四本まとめて剣を売っちゃったんだね」

「そういう事だ。性能がアップした安い剣があったら、ほぼ同じ性能の材料費が高くついた剣なんて売れ残っちまうだろ」

「ヒッキー・・・君は僕がこの間言ったのとは別の意味で守銭奴だね」

「褒め言葉として受け取っておくさ。じゃあ、どうする戸塚。剣を交換するか?」

「うん。ぜひ交換してよ。これは絶対他じゃあ手に入らない剣だよ。沙希さんに会ったら自慢してやろうっと」

「戸塚さん、そんな事をしたら、またあの人が剣を買いに来ちゃいますよ」

「それ言えてるな」

「ちょっと小町ちゃん、ヒッキー。さすがにこの剣は沙希さんには売らないよね」

「どうするかな・・・それは城からの報酬次第ってとこだな。鍬造りの報酬が思ったより高かったら他の国の人間には売らないが、店の売上程度なら誰彼かまわず売りまくるぞ」

「それは大丈夫だと思うけどな~。大臣も何とかしてくれるって言ってたし」

「なら報酬が出るまでは結論は保留だな。まあ、取り敢えずもう一本黒い剣を作っておくか」

「え、お兄ちゃん。誰かに売る当てでもあるの?」

「雪ノ下の次女に決まってんだろ。今度こそOK出させて完成報酬の金貨五枚をせしめてやるぜ」

「それは、どうだろうね~」

 

― 続く ―

 

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