「出ぱ――つっ!」
お姫様の馬車を先頭に鍬千本を乗せた馬車四台、合計五台の馬車をを取り囲む様に大勢の兵士が行列を作るとお姫様の馬車の近くで馬に跨っている護衛隊の隊長が行列全体に聞こえる様に出発の掛け声を掛けました。その掛け声を合図に五台の馬車を操る従者が手綱をピシッと音を立てて馬車を引く馬を歩かせ始めます。ゴトリ!馬車の車輪が回り始めると馬車の中のお姫様が姫菜に向かって
「いよいよだ!」
「うん、いよいよ・・・イケメン王子様の顔が見れるよ」
「そうじゃないでしょ。鍬千本と恋煩いの花の交換っしょ」
「それだけじゃないでしょ、優美子だって楽しみにでしょうがないクセに♪それにお妃様がハンパなく期待してたから。優美子が王子様と会ってどんな様子だったかレポートする様に頼まれちゃった」
「姫菜、あんたお母様と仲良くし過ぎ」////
「そんな事ないって。私はお城に務める一人の忠実なるしもべだよ」
「嘘ばっかし」
「それに・・・優美子の幸せを願ってる友達だよ」
「・・・それは・・・ちょっと信じるし」////
そんなやり取りがされているお姫様の馬車に近い位置を歩く兵士二人、材木座と戸塚は
「いよいよだね」
「そうであるな。思えば姫様が思い出の洞窟に出掛けた頃から随分と苦労をしたが、やっとそれが報われるな」
「そうだね。僕は今回の事でヒッキーに出会えて凄くいい剣が手に入ったから今回の苦労はそれだけで報われたって気分だけどね」
「ほむほむ!そう言えば戸塚氏、お主、腰に差している剣が以前と変わっておるが、それもあのヒッキーの造った物であるか?」
「うん。昨日手に入れたばっかりの新しい剣だよ」
「・・・何とも奇妙な剣であるな。鍔と柄が黒いではないか」
「ハハハ、僕も最初にこの剣を見た時には同じ事を思ったよ」
「しかし、あれ程の剣をこうも簡単に持ち替えるという事は、その剣は前の剣より優れておるのか?」
「その通り。これは前の剣以上に凄い剣だよ。まあ今回張り切って持ってきたけど多分、使う機会は無いだろうから帰ってきたら見せてあげるよ」
「それは楽しみであるな。あの剣を上回る剣とは一体どの様な剣なのか想像すらつかんぞ」
「まあ、僕もこの剣を見るまでは全く想像つかなかったし、それにこの剣はつまらない想像なんか軽く超える物だから考えるだけ無駄だと思うよ」
「我は想像や妄想は得意な方ではあるが、どうやら戸塚氏がいう事に嘘偽りは無さそうであるな。では帰国後の楽しみとするか」
「想像はともかく・・・妄想が得意って・・・」
そんな緊張感と和やかな空気が同居する行列がゆっくりとお隣のリーフマウンテン王国を目指します。しかし、その行列が動き出したを見るや否や馬に鞭を入れ全速力で行列と同じリーフマウンテン王国を目指す一人の男がおりました。その男は何度となく馬を乗り替えて普通なら丸一日掛かるリーフマウンテン王国までの道のりをわずか半日で駆け抜け、そのままお城のとある貴族の所に向かいました。
「報告いたします。隣国の姫君の一行が予定通り我が国に向かって移動を始めました」
「そうか、聞いての通りだ。明後日、優美子姫が王宮に到着したら打ち合わせ通りに頼むぞ」
お姫様が予定通り出発したという報告を受けた貴族は薄気味悪い笑みを浮かべて同じ部屋に控えていた黒装束の男三人に話し掛け、それを聞いた黒装束の男達は小さく頷きました。
「ああ、そうだ。ついでに王宮の警備隊長も始末しておいてくれ。どうせ隣国の姫君が王子の目の前で殺されれば辺りはパニックになり、もう一人、二人死んでも大した変わりはない」
すると黒装束の男達は再び小さく頷くと、その内の一人がお姫様の行列が動き出した事を報告した男に近づき、剣の柄を使って思いきり腹を殴り気を失わせました。
「うむ、それでいい。この事は知っている人間が少なければ少ない程いいからな」
黒装束の男達は三たび小さく頷くと気を失った男を担いで部屋を出て行きました。
「隣国から贈呈される鍬千本と我が国の花一輪の交換が行われる王宮で隣国の姫君が暴漢に殺されれば、その事は王子の外交上の失態になり、それによって王子の政治の場での発言力は低下し農業政策の予算を削減出来る。更に隣国との関係悪化に伴い軍備増強の話を進め易くなる。そうすれば懇意の武器商人、鍛冶屋に仕事を回しキックバックのマージンを受け取れる・・・これでワシの懐と城内での発言力を一層大きく出来るというモノだ」
部屋で一人きりになると、その貴族はニヤつきながら独り言を漏らしました。隼人王子が邪魔で弱みを探る為に王宮警備隊の隊長を買収し、お姫様の暗殺を企み、邪魔になるであろう王宮警備隊の隊長の殺害を示唆し、更に隣国との関係悪化を望むという悪逆非道ぶり。しかもその目的が自分個人の私利私欲の為だったのです。リーフマウンテン王国にこんな貴族がいるとは知らずにお姫様たちの一行は順調に道を進み、二日後の昼前にはリーフマウンテン王国の王宮近くまでやって来てしまいました。
「さあ、もうすぐ到着だよ。優美子」
「そんなの言われなくても分かってるし。あーしはここに来るの二回目だよ」
「そうじゃなくて愛しの王子様に会うための準備を始めないと!って言いたかったんだけど」
「は、隼人王子に会うための準備・・・別にそんなん、どーでもいいし」////
「けど今朝は随分、念入りにお風呂に入っていたよね。それに髪をセットするのにもかなり時間が掛かってたじゃん」
「そ、それは相手に失礼が無いように・・・」////
「服とアクセサリーは出発前からコーディネートしてたから時間が掛からなかったけど今朝の支度にはいつもの倍以上時間が掛かってたよね。おかげで出発が少し遅れたんだよ」
「だから、それは・・・」////
「いいじゃん。好きな人に会う為に一生懸命準備をするのは当然の事だよ」
「そ、そうなのかな」////
「私は経験が無いけど、結衣もヒッキーさんがカフェに来るようになってからは朝、支度するのに時間が掛かる様になったって言ってたよ」
「姫菜、あんたはデートとかした事ないの?」
「それを聞く?それを私に聞く?本の虫で図書室に籠りっきりの私にそれを聞く?」
「あ、いや、けど姫菜って何でも知ってるしさ。ひょっとしたらと思って」
「何でも知ってるって、知ってるのは本の知識だけだよ。女性が好きな男性に会う為に綺麗に着飾ろうとする気持ちだって、なんとなく分かるって言う程度で実感がある訳じゃないよ」
「ふ~ん、姫菜は恋に恋する乙女って事なんだ。ははっ、なんか姫菜が可愛く見えて来た」
「好き放題言ってくれるね。じゃあ恋の先輩の優美子姫、その辺の事を解り易く教えてよ」
姫菜は少し頬を膨らませ、唇を尖らせながらお姫様にそう言いました。するとお姫様は得意満面の表情で腰に手をやり胸を張って不貞腐れる姫菜に向かって滔々と話を始めました。
「しょうがないな~姫菜は。分かった分かった。他ならぬ姫菜の為だ、恋愛の何たるかを少々語ってあげようかな」
「二、三週間先輩ってだけで随分態度がデカいね」
「これは時間じゃなくて経験が有るか無いかの話だし、天と地ほどに違うって」
「ふ~ん、まあいいや。それで優美子が恋をしたって実感したのはいつだったの?」
「あれは忘れもしない初対面の時・・・」////
うっとり顔でお姫様は語り始めました。
「リーフマウンテン王国の王宮の玄関に私の事を出迎えに来てて、一目見た瞬間に雷に打たれた様な衝撃を受けたんだ♪」
「それって所謂、一目ぼれってヤツ?」
「うん。他に言い様がないよ。あの時、隼人王子があーしの気持ちが落ち着くまでの時間をくれなかったら多分、会談は失敗してたと思うし。そんくらい衝撃的だった」
「どこがそんなに良かったの?」
「全部!」
「全部って・・・もうちょっと具体的に教えてよ」
「髪型、顔、スタイル、声、立ち振る舞い、心遣い、全部つったら全部。それに頭だって良いし真面目で王子としての役割を十二分に果たしているのも凄いと思った」
「はぁ~、正に“理想の王子様”だね」
「ぶっちゃけ、あーしは王族の娘として恋愛をする機会なんて絶対に無いと思ってたから城下町を歩いてても男をそういう目で見た事が無かったんだよね。けど、それが王族の息子、同じ立場の人間の中にあんな人がいるなんて、これってもう運命ジャネ!?」
「運命の出会い、そこまで言う!?」
「向こうもそう思ったんじゃないかな。だって初対面の王族同士、普通“腹を割って話せる”なんて言わないっしょ」
「そういうモンなのかな・・・」
「絶対そうだって!王族同士や貴族の連中との話なんて腹の探り合いばっかなんだから。いや~、まいったな~、あーし惚れられちゃってる!?」/////
「そ、それは私には解らないけど・・・」
「あ、そっか。姫菜には解らないよね。この気持ち、この状況。ごめんごめんチョッチのろけ過ぎたわ」
「それは良いんだけど。じゃあ優美子としては隼人王子と結婚をしたいとか考えているの?」
「結婚か・・・まあ考えないではないけど・・・」
「なに?それだけ好きなら問題ないじゃん」
「出来れば、その・・・」////
「?」
「ちゃんと好きだって言って欲しいし、あーしが隼人王子を好きなのとおんなじ位あーしの事を好きになって貰ってから結婚したい」////////
「けど、さっき惚れられちゃってるって言ってたじゃん」
「そんなのあーしの想像で本当はどうだか分かんないし」////
「なるほど、乙女の恋心というのは複雑なんだね」
「こればっかりは経験してみないと解んない・・・って姫菜、あんた何してんの?」
夢中で自分語りをしていたお姫様はふと、いえ、やっと姫菜の態度が変わっていた事に気付きました。最初は悔しそうに、そしてお姫様を恋愛の先輩とおだて上げ、下手に出て話を聞いていた姫菜はいつの間にかお姫様のいう事を一生懸命メモしていました。
「ん~、お妃様に報告する為のメモを取ってんだよ」
「え!お母様に報告!?メモ!?」
「言ったでしょ。私はお妃様から優美子の様子をレポートする様に言われてるって」
「ちょ、ちょっと姫菜。あんたまさかそれをお母様に言うつもりなの」
「当然でしょ。私がお妃様の命令に逆らえるはずないじゃん」
「姫菜、あんた友達を売るの?」
「その言い方は無いんじゃない。これでも私は優美子の応援をしているつもりなんだよ。私は優美子の部下やお伴って事じゃなく友達として幸せになって欲しいの。その為には生まれたチャンスは逃がしてほしくないし反対や心配をする人を最小限にしてあげたいの」
「け、けど、やっぱ恥ずかしいし」////
「話が結婚まで行ったら国王様とお妃様だけじゃなくて国民全員に知られちゃうんだよ。今からそんな調子でどうすんのさ」
「そん時はそん時だし。とにかく今はあんまし騒がないでよ、姫菜」
「だからこれが最小限なんだって。これ以上、内密に隣国の王子様とは会えないでしょ」
「・・・」////
「それにもうすぐ王宮に到着するんだから、そんなにジタバタ暴れないで。折角セットした髪が乱れちゃうよ」
「う~~~~」////
「ほら、気持ちを切り替えて。まずは姫君としての役目を果たしてよね」
「・・・わかった。まあ、そのメモは会談が終わった後、王宮を出たら護衛の兵士に取り上げさせるから」
「ああ、それ無駄。護衛隊の隊長はお妃様からこの事を言い含められてるし私は会談終了後にこのメモを護衛の兵士に渡して私達より先に馬に乗って帰って貰う予定だから」
「そこまで計画済みなの」
「うん、今回の件はお妃様がノリノリだからね。私としても知恵を絞れるだけ絞ったよ」
「あんたもう、司書辞めて政治家になった方がいいんジャネ」
「そんな顔しないの。ほら王宮が見えて来た」
そうして長い行列が王宮の門に到着するとの行列の先頭の兵士が王宮の門番の警備兵に用件を伝えると門番は王宮内に向かって手を振って合図、するとそれに応える様に王宮の中から沢山の警備兵が現れ門から玄関へと続くアプローチの道の両側に等間隔で並び、更に玄関では王子様自らがお姫様一行を出迎えました。お姫様の行列は王宮のアプローチの道幅に合わせる様に縦長に、五台の馬車の前後に護衛の兵士が分かれて縦長に隊列を変形させました。行列の左右はリーフマウンテン王国の警備隊がそして行列の前後はお姫様の護衛隊がしっかりと守りを固めつつ、ゆっくりとお姫様の馬車が王宮の玄関の前に到着すると行列は一斉に止まりました。するとお姫様の馬車の両開きの扉の片方が開くと中から姫菜が降りて来て王子様に一礼をしてから馬車の扉を両方とも目一杯に開いてその場にひざまづきました。すると馬車の奥からお姫様が現れました。
「お久しぶりです。隼人王子」///
お姫様は約二週間ぶりに王子様に会えた事を自分で予想していた以上に嬉しく感じてしまいました。お姫様はすぐ横で姫菜が頭を下げつつもニヤニヤとお姫様を観察している事に気付いてはいましたが、どうしても堪え切れず少しばかり頬を染めながら満面の笑顔で挨拶をしました。
「ようこそ、優美子姫。さあ、お手をどうぞ」
王子様が馬車を降りようとするお姫様に一言挨拶をすると手を差し伸べます。お姫様は王子様が差しのべた手に自分の手を乗せるとゆっくり馬車を降りて改めて会釈をしました。同じ時に、同じ場所に立てただけでお姫様はさっき以上に幸せな気持ちになり、それどころか、その距離をもっと縮めたい、抱きしめて貰いたいとまで考えてしまい少し頬が熱くなるのを感じました。そんな様子をすぐ横の姫菜、馬車の前後にいる戸塚と材木座、王子様のすぐ近くにいる沙希、そして隼人王子が笑顔で見ていました。皆が一様にホンワカした気持ちになった時です。
カチャリ・・・
「・・・死ねぇ―――っ!」
突然、沙希の横にいた王宮警備隊の隊員が剣を抜いてお姫様に向かって襲い掛かろうとしました。突然の事で周りにいた王宮警備隊の隊員もお姫様の護衛隊の兵士も、その大半が反応出来ませんでした。しかし、すぐ横にいた沙希は反射的にお姫様に襲い掛かろうとした警備隊員の剣を持つ手を掴み一瞬だけその動きを止める事に成功しました。しかし次の瞬間、玄関近くの二つの茂みから黒装束の男が一人ずつ飛び出してきました。その手には大鉈と大剣が握られそれを力任せにお姫様にめがけて大鉈を振り下ろし、大剣を振り回しました。
ガキン!!
2人の黒装束の男達のそれぞれ武器、すなわち大鉈は材木座の短剣が、大剣は戸塚の黒剣がそれぞれに受け止めました。余りの事にお姫様は体を硬直せ逃げる事も出来ません。しかし沙希、材木座、戸塚の三人が取り敢えず暴漢三人の動きを止めたのを見た王子様は大きく踏み出すと一気にお姫様を抱きかかえ、お姫様が乗って来た馬車の中に逃げ込み両開きの扉を一気に閉めてしまいました。
「は、隼人王子!?」
「申し訳ありません、これは私の落ち度です」
「どういう事ですか?」
「私の事を邪魔と思っている連中が優美子姫の暗殺を企てたのでしょう。だとすれば王宮の中よりも、ここの方が安全な筈です」
「隼人王子が邪魔って、どういう事ですか?」
「私の発言力と農業政策の予算を削りたいと考えている貴族は大勢いますからね。多分その内の誰かが今回の事を計画したのでしょう」
「そんな」
「とにかく今はここで身を守る事に専念しましょう」
「は、はい」
王子様の咄嗟の判断でお姫様の安全が確保出来ると暴漢三人を止めた沙希、材木座、戸塚の三人は一気に攻勢に転じました。沙希の手を振り解こうとする警備隊員がその勢いのままに斬り付けて来たので沙希はバックステップでそれをかわしつつ腰に差していたヒッキーの剣を抜き、すぐさま暴漢と化した警備隊員の剣に向かって斬り付けました。
キンッ!
戸塚と戦った時の再現の様に沙希は暴漢の剣を切断し、あっという間に暴漢を捕り押さえてしまいました。一方、材木座は黒装束の男が振り下ろした大鉈を短剣で受け止めたまま相手の動きを伺っていましたが
「なんで、そんな短剣で大鉈の一撃を止められる!?」
黒装束の男が驚きの声を漏らすと、それを合図に
「どっせ----いっ!」
掛け声をあげ、体ごと黒装束の男にぶつかって行く様に大鉈を押し返すと短剣を素早く切り替えし黒装束の男の両腕を深く斬り付けました。黒装束の男は悲鳴と大鉈を地面に落とす音を発して、その場にうずくまりました。そして大剣を受け止めている戸塚は
「いくら大きな剣を持って来ても、この黒剣には敵わないよ」
「こんなに細い剣なのに・・・何故折れん?」
「それは地獄で考えるんだね」
戸塚は鍔迫り合いの状態から大きく後ろに下がり、大剣を持った黒装束の男と距離を取って黒剣を切り返します。黒装束の男も負けじと大剣を切り返そうとしますがお互いの剣の重さがそのまま切り返しの速度の差になって黒装束の男は戸塚に袈裟斬りにされてしまいました。
「く、黒い魔剣・・・」
最後の一言を言うと黒装束の男は大剣を地面に落としその場にバッタリと倒れ込みました。周囲の警備隊員や護衛の兵士達もザワザワと“魔剣”とか“恐ろしい”とか“地獄の黒剣”などの畏怖の言葉を漏らしながら戸塚を見ていました。暴漢三人の内、二人が捕り押さえられ一人が倒されると馬車の中からお姫様の肩を抱きながら王子様が出てきました。
「沙希、よくやった。それにそちらの二人も、暴漢を捕り押さえていただいて本当に助かりました。ありがとうございます」
「チューニ、それともう一人。ホント凄いじゃん」
「姫様!」
王子様に肩を抱かれたままのお姫様は暴漢を倒した二人に素で褒め言葉を発しますが姫菜がそれを慌てて止めました。
「え?あ!ああ、あの・・・え~と・・・どうです隼人王子。私の国の鍛冶屋の素晴らしさを解っていただけましたか?」
「ククッ・・・ええ、よく解りました。本当に凄いです」
二度目の王族らしからぬお姫様の口調に王子様は笑いを堪えながら返事をすると、大きく深呼吸をしてから警備隊長に命じて捕り押さえた暴漢二人を連行、戸塚に切られた男の搬送をさせると、鍬千本と恋煩いの花の交換式が始まりました。お姫様が後ろの馬車から一本の鍬を自ら持って来て両手で王子様に差し出しながら
「では、どうぞ我が国の鍬をお受け取り下さい。国を挙げて貴国の為に製造した鍬です」
「ありがたく頂戴いたします。この鍬なら我が国の農業を一層発展させる事が出来ます」
「そう言っていただけて何よりです」
すると今度は王子様が警備隊員に命じて王宮の中から一つの鉢植えを運ばせ、それを受け取るとお姫様に差し出し
「では私からは我が国の希少な花を送らせていただきます。この花が、この鉢が、この鉢に入っている我が国土の土が、貴国との友好をより深いものにしてくれると信じております」
「ええ、きっと一層の友情が、そして愛情が芽生えると私も信じております」
最後にお互いが握手をすると周囲の警備隊員と護衛の兵士、更に姫菜も一斉に拍手をして交換式の成功を讃えました。お姫様はホッと息を吐き姫菜と一緒に恋煩いの花を馬車にしまおうとしました。しかしそんなお姫様を止める様に王子様が話し掛けます。
「優美子姫、この度の不始末につきましては調査の上、後日、貴国に報告させていただき、改めて正式に謝罪をさせていただきます」
「いえ、結果として誰も怪我をしていないのですから、そこまで事を大きくしなくても」
「そうは参りません。我が国にお出でいただいた国賓が暴漢に襲われそうになるなど我が国の歴史始まって以来の失態と言って過言ではありません。必ず真相を暴き出し、その結果を報告させていただきます」
「そうまで仰るなら・・・」
「それに、これは私の政策の反対派を抑えるチャンスでもあるんです」ヒソヒソ
「まあ!」
「では、後日その様にさせていただきますので今日の所は鍬千本を頂戴いたします」
そうして王子様は王宮の警備隊員に馬車の中の鍬を運び出す事と、その数を確認する様に命じました。それに合わせる様にお姫様も護衛の兵士達にリーフマウンテン王国の警備隊の手伝いをする様に命じます。そうして大勢の隊員と兵士が入り乱れて鍬を運び始めると、その中で沙希が戸塚に近づいて
「ちょっと、ナニあんたの剣?ひょっとしてそれもあのヒッキーとか言う鍛冶屋が作ったの」
「さあ、それはどうだろうね」
「ケチケチしないで教えてよ。アンタが剣を持ち替えたって事は私の剣を切断した前の剣よりその黒剣の方が性能が良いって事でしょ!?」
「それは想像に任せるよ」
「あくまでしらを切るつもりかよ。まあいいさ、近い内にまたアンタの国に行くからその時に、まずヒッキーの鍛冶屋を調べさせてもらうから」
「・・・僕の国には優秀な鍛冶屋が多いからね。そう簡単には見つからないと思うよ」
(頼むよヒッキー、さすがにこの剣は沙希さんに売らないでよ~)
「折角アンタに負けない剣が手に入ったのに、これじゃあ元の木阿弥じゃん」
― 続く ―