魔法のリップクリーム   作:Z-Laugh

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第十三話

 なんとか無事に鍬千本と恋煩いの花の交換を済ましたお姫様一行は休む間もなくリーフマウンテン王国の王宮を後にしました。何しろお姫様はやっとの思いで手に入れた恋煩いの花を枯らさない内に城に帰り、大急ぎで魔法のリップクリームを作らなくてはならなかったからです。

「やれやれ、休む間もなく折り返しか・・・少しは我らにも休憩をさせてくれんものか」

「しょうがないよ、姫様の目的は花を手に入れる事じゃなくて魔法のリップクリームを作る事なんだからさ・・・けど同感だよ。暴漢と戦ったり鍬を運んだりでクタクタだもんね」

 材木座と戸塚は馬車に遅れない様に歩きながら愚痴をこぼします。周囲の護衛隊の兵士も足取りが重く行列のペースは少しずつ落ちて行きました。しかし馬車の中のお姫様と姫菜は

「ナニ?ちょっと遅くない?」

「そうだね、なんかペースが落ちてきてるみたい」

 自分の足で歩いていなせいで無責任な事を好き勝手に言ってました。しかし馬車を操縦する従者がお姫様と姫菜に事情を説明すると

「ああ、そういう事ね・・・なら、しょーがないか」

「そうだね。無理にペースアップしても隊列が維持出来ないんじゃ意味ないもんね」

「せっかく鍬千本を馬車から降ろして荷物が減ったのにペースを落とさなきゃいけないなんて上手く行かないもんだな~。こりゃ下手したら城に帰るのに三日は掛かっちゃうかも」

「そっか!鍬を積んできた四台の馬車は空っぽなんだよね」

 お姫様の言葉に姫菜は馬車を操縦する従者に馬車を止める様に言うと護衛隊の隊長に兵士達の余分な荷物を馬車に乗せて出来るだけ身軽にする様に提案しました。

「なるほど、姫菜あったまイ~し」

「馬は城下町を出たら交換させよう。そうすればそれ程ペースを落とさずに済むよ」

「わかった。じゃあ隊長、そうしてくれる。あ!それと姫菜・・・あのメモ、お母様に送らなくていいの?」

「あ~、アレね。いや、本当は送りたいんだけどさ。優美子が襲われそうになった事を伏せた状態で浮ついた手紙は書けないよ」

「やっぱ、アレお父様とお母様に言うの?」

「それどころか大臣にも言うよ」

「そうじゃなくてさ。ありのまま話したら隼人王子が悪者になっちゃうじゃんか」

「そうだね~、まんま話したら王子様とリーフマウンテン王国のゴタゴタに巻き込まれて優美子が殺されそうになったって事になっちゃうもんね」

「けど、隼人王子があーしを馬車に運んで守ってくれたんだしさ。なんとかしてよ、姫菜」

 お姫様は必死に王子様が悪者にならない様に知恵を絞る事を姫菜に・・・命令ではなく懇願しました。それもその筈です。この事が国王様とお妃様、それに大臣に悪い形で

伝わったらお姫様と王子様の関係どころか両国の関係が悪化、こうやって簡単に行き来をする事が出来なくなってしまうのです。それこそ国交断絶、戦争突入などの最悪のシナリオも考えられる状態なのです。その事はお姫様は勿論、姫菜も十分に分かっていました。

「そうだね・・・話の中心を暴漢が襲ってきた事じゃなくて、隼人王子が優美子を助けてくれたって部分にして話をいてみようか」

「うん!それイイじゃん」

「けどな~、そう簡単な事じゃないんだよ。安易に隼人王子の行動を一方的に肯定する様な事を言うと両国の軋轢の原因に成りかねないんだよね」

「なんで?隼人王子があーしを守ってくれたのは事実じゃん」

「リーフマウンテン王国の国内で隼人王子の行動を良しとする意見が多ければいいんだけど少なかったり、良いって意見と悪いって意見が半々位じゃ下手に国王様とお妃様が物を言うと隣国への内政干渉みたいになって、もめる元になっちゃうんだよ」

「そっか、それは超マズいし」

「なんかワンクッション置ける様な話を前ふりにして優美子が襲われそうになった事を伝えてそれで隼人王子が優美子を守ってくれたって感じに話を進めたいんだよね。良い話、悪い話、それでまた良い話って感じでさ、良い事の方が多かったんだよって感じで話を進められたらいいんだけど」

「なるほど、悪い話の印象を薄くしちゃうんだ」

「そうそう。そうする事でリーフマウンテン王国の使者があの事件の調査結果の報告と謝罪をしに来た時に国王様とお妃様が寛大というか、精神的に余裕をもって話を聞ける状態にしておきたいんだよね」

「そうすれば先にこっちからアレコレ言わずに済むし、問題が大きくなったりしないか。さっすが姫菜、よくそんな事思い付くじゃん」

「問題は何を最初の話題にするかだよ。交換式が上手く行った事を最初に話したんじゃ時系列がバラバラになっちゃって話が解りにくくなっちゃうし・・・」

「・・・あーしが襲われそうになる前の出来事で良い事・・・そうだ!ねえ姫菜、あいつの、ヒッキーの剣の話を最初に出来ないかな?」

「え!ヒッキーさんの剣の話を最初にするの?けどヒッキーさんの剣が活躍したのは暴漢が現れた時だから・・・それじゃあ意味ないよ」

「そうじゃなくて、あーしがチューニの剣を見せて貰った時の話から始めんの。だったらイイんじゃね」

「そっか、優美子がリーフマウンテン王国に向かう途中の様子の話をして、そこで我が国には凄い鍛冶屋がいて凄い短剣を見せて貰ったって我が国の鍛冶技術の優秀さを褒めるんだね」

「そう。それであーしが襲われそうになった時も我が国の剣があーしの危機を救ってくれたって持ち上げまくんの」

「いや、そこで隼人王子の活躍も混ぜ込んじゃおう。凄く危ない状況だったけど隼人王子の勇気と我が国の剣が優美子を救った的な話に持って行こう」

「それサイコ―!」

「となれば、あの時、暴漢に立ち向かった戸塚君とチューニ君に話を聞かないと」

「ソレ、あーしも聞きたい」

 そうして再び馬車を止めるとお姫様は戸塚と材木座に馬車に乗る様に命じ馬車の中で暴漢に立ち向かった時の話をする様に言いました。するとその話の中で戸塚がリーフマウンテン王国の警備隊員の沙希が使っていた剣もヒッキーの造った物である事を話すと

「え!あの人の使ってた剣もヒッキーさんが作った物なの!?」

「うん、沙希さんが使っていた剣は僕が前に使っていた剣と同じ種類の剣でヒッキーの店で沙希さんが僕の目の前で買っていった物だよ」

「なんと!隣国の王宮警備隊員までもが、あやつの剣を使っておったのか」

「ちょ、ちょっと、あのヒッキーとか言う奴ってナニモンなの。タダの鍛冶屋じゃないって感じなんだけど」

「姫様、ヒッキーは只の鍛冶屋じゃありません。我が国最高の腕前を持つ鍛冶屋です。それは彼の剣を使った事がある、それこそリーフマウンテン王国の警備隊員の沙希さんが使っていた剣と同じタイプの剣と彼の最新の剣・黒剣の両方を使った事がある僕が保証します」

「そういえば戸塚君、黒い剣を使ってたよね。あれがヒッキーさんの最新作なの」

「ちょっと見せてみ」

 お姫様にそう言われ戸塚はお姫様の前で黒剣を抜いて見せました。

「うわ!真っ黒」

「むむむ・・・なるほど、戸塚氏に斬られた暴漢が最後に魔剣と言っただけの事はある。見るからに危険な香りがする剣であるな」

「暴漢がそんな事言ってたの。チューニ君」

「その通りである。最後の一言だけに物凄く印象的な一言であったし、周囲の警備隊員や護衛の兵士達もこの剣と、その使い手の戸塚氏に恐怖しておったぞ」

「僕ってどれだけ危ない兵士なの?」

「その話もいただき。我が国最新の黒剣で斬られた暴漢が魔剣と言い残して死んだなんて、ちょっとしたドラマだよ。これは話し甲斐がある話になるよ」

「ホントちょっとつーか、かなりおっかない感じの剣だし。そうだ姫菜、この剣をお父様とお母様に見せたらどうかな」

「いいねえ~、それ採用!」

「姫菜さん、ちゃんと返してよ。まだ国内に一本しかない貴重な剣なんだからさ」

 そうして丸二日を掛けてお城に戻ったお姫様と姫菜は国王様とお妃様と大臣に馬車の中で打ち合わせた通りのリーフマウンテン王国での出来事を話して、最後にヒッキーの黒剣を見せました。

「ほぉ・・・これは異形な。これを我が国の鍛冶屋造ったというのか」

「見ているだけでも身が竦みますな、陛下、お妃様」

「しかし、この剣こそが優美子を守ってくれたのですよね。ならば魔剣どころか福剣と言うべきでしょう」

「ハハハ、お母様それナイス!」

「では姫様、今の話の通りであるなら近日中にリーフマウンテン王国より使者が来て調査結果の報告と謝罪をされるという事ですな」

「うん、じい。その通りだし」

「ならば、その使いを待とうではないか。姫菜、優美子の伴、ご苦労であった」

「ありがとうございます国王陛下。それとお妃様、ご依頼のありました件はまた後日、話をさせていただきますので、今はご容赦下さい」

「わかりました姫菜。ただし優美子の何を言われても真実を報告するのですよ」

「はい、それは勿論です。期待して下さい、イイ話をいっぱい仕入れちゃいましたから♪」

「お母様、姫菜」/////

「それと優美子、お前にはこちらからも話があるのだ。良い話だぞ」

「え、お父様。良い話って一体なに?」

「大臣、聞かせてやれ」

「ははっ。姫様、出発前に話をさせていただきましたヒッキーへの褒賞の件でございます」

「ヒッキーへの褒賞の件って何かあったの?ひょっとして褒賞ナシとか!?」

「いえ、その逆でございます。実はヒッキーに対する褒賞は十日分の店の売上に相当する金ではなく、国王陛下からのお墨付きを与える事となりました」

「ええっ!お父様がお墨付きって、要するに勲章を与えるって事!?」

「平民に勲章を与えても意味がございませんので国王陛下自らヒッキーの店に赴き、優れた技術を持つ鍛冶屋としてのお墨付きを与えるのです」

「それって凄いじゃん。平民の店にお父様がお墨付きを与えるなんて破格の褒賞だし。けどなんでそんな事になったの?」

「実は姫様が郊外の町や村で鍬造りの技術指導をしたおかげで鍬造りが活発になり、郊外での農地の開墾が従来よりも捗る様になったのです」

「え、マジ!?」

「はい、郊外の町や村では鍬をはじめとする農耕具が常に不足しており、それを修理出来る人間もいなかった為に農地の開墾が遅れる一方だったのです」

「じゃあ、あーしが町や村を回ったのが良かったって事?」

「その通りでございます。今までであれば不足する農耕具を城下まで買いに来ないといけませんでしたが自分の町や村で作ったり直せたり出来る様になったのですから大変な作業の効率化です」

「へぇ~、そんな事になるなんて全然考えてなかったし」

「この郊外の開墾の動きには地元の貴族達だけでなく城内、城近隣の貴族達からも注目が集まっており、これにより隣国からの食糧や農作物の輸入を減らす事が出来、引いては国費の支出を抑える効果が出るのではないかと期待が広がっております」

「じゃあ、あーしがした国内行脚について文句を言う奴って・・・」

「おりません!それどころか更なる鍛冶技術の指導による一層の技術向上が期待されており現に郊外の貴族、町や村の長より次の技術指導はいつ来てくれるのかと問い合わせが殺到している程でございます」

「・・・マジ!?」

「大マジ・・・でございます」

 なんとお姫様の国内行脚が思わぬ効果を出していました。お姫様にすればリーフマウンテン王国の王子様の考えに賛同し、隣国の農業技術に対する対抗意識だけで鍛冶屋の尻を叩いただけだったのに。まして事の起こりが城外の友人の恋路を応援するという極めて個人的な目的の為の行動が国中から期待を集める事になり、それがお姫様の身に降り注いだのです。

「優美子、私もこれ程の効果が出るとは思いもしなかったぞ。これならばお前のした事を責め立てる人間はいないし、それどころかワシの治世が一層盤石になったというモノだ。よくやったな優美子」

「あ、ありがとう、お父様・・・なんか信じらんないんだけど」

「取り敢えず、優美子は当面の目的であった魔法のリップクリーム作りに集中しなさい。それが済んだ後、お前には郊外の町や村の鍛冶技術の向上に関する政策の指揮を摂って貰うから、そのつもりでな」

「は、はい!わかりました、お父さ・・・国王陛下」

 その頃、ヒッキーは雪ノ下家に来ていました。鍬を作っている時に思い付いた黒い焼き付けを剣全体に施した最新の剣を見て貰う為にです。ヒッキーにとっては二本目の黒い剣の製作だったのですが一本目の黒い剣を完成させてからヒッキーは対・雪ノ下家用のさらなる工夫を加える事を思い付きました。

「ヒキ鍛冶屋君、一体何なのかしら?」

「何なのかしらって新しい剣を持ってきたんだろ。目の前にあるだろうが」

「あなたが言っているのは、この黒い炭の棒っきれの事かしら」

「炭の棒っきれって・・・よく見てみろ。これまでの最高傑作だぜ」

「ふぅ・・・仕方ないわね。これ、触っても手が黒くなったりしないでしょうね」

「ガキのいたずらじゃねえんだから。そんな訳ないだろ。それによく見てみろ。鞘と柄に模様を付けてあるのが見えないのか」

「え!模様?あなたは剣に飾りを付けるのをあれほど嫌っていたじゃない。いつから改宗したのかしら?ああ、それといつからそんな目つきになったのかしら?」

「目の事は言うな。それと飾りじゃなくて絵・模様を付けただけだ」

「あなた鍛冶屋でしょ、絵描きではない筈よ」

「いいから手に取ってよく見てみろ。パッと見は只の黒い剣だがよく見ればかなりカッコイイ剣だぞ」

「しょうがないわね・・・なにコレ・・・鞘と柄に薔薇の花の模様がついているわね」

「ああ、掻き慣れない絵を描く羽目になって苦労したんだぜ」

「擦っても消えないのね。どうやったらこんな風に鞘と柄に絵が描けるのかしら?」

「それは一度完成させた鞘と柄に油の混ざったインクで絵を描くんだ」

「インクで?それなら擦ったら消えてしまうでしょ。それにこれはインクではなく・・・なにかヤスリを掛けて模様を描き込んだ様に見えるけど」

「ヤスリを使った訳じゃない。そのツヤが消えている部分はインクを塗ってない部分なんだ」

「ならツヤが残っている部分にインクを塗って絵を描いたの?」

「そうだ。それが済んだら硫酸をかけるんだ」

「りゅ、硫酸!?そんな事をしたら」

「心配するな。ほんの一瞬の話だ。それで、その後に塗ったインクを洗い流すとインクが付いてた部分は硫酸がかかってないからツヤが残ってインクのない部分はツヤが消えるんだ」

「そんな技術があるのね。知らなかったわ」

「まあ、ありふれた金属加工だ。鏡とかお盆なんかの縁取りに使う技術だよ」

「!・・・ああ、そういえば鏡や金属製のお盆にの淵には同じ様な模様がついているわね」

「完成した剣に新たに金や銀、宝石なんかを上乗せする感じでゴテゴテとデコレーションするのが剣の装飾の主流だが、それじゃあ剣が重くなって使い難くなるだけだから俺は以前から、そう言う装飾を施すのが嫌だったんだ」

「思わぬ盲点と言った感じね。これなら剣が重くならずに剣を飾る事が出来るわね」

「そういう事だ。さあ、鞘から抜いて剣も見てみてくれ」

「言われなくても見るわ・・・刀身まで黒いの!」

「ああ、真っ黒な鞘、真っ黒な柄、真っ黒な鍔そして真っ黒な刀身だ」

「それに刀身にも薔薇の絵が描いてあるわね」

「ああ、鞘とおそろいのガラだ」

「なるほど、これは気が利いているわね。それで剣自体の性能はどうなのかしら?」

「切れ味は変わらないが少し軽くなって強度も上がったぞ。前の剣も持ってきたから比べてみてくれ」

 そう言うとヒッキーは雪乃の前に戸塚が使っていた剣を出しました。

「その剣どうしたの?あなたが郊外の町や村を回っている時に小町さんから、あの剣は全部売れたって聞いたのだけれど?」

「ああ、これは最初に売ったヤツだ。城の兵士の戸塚って奴に売ったんだけど黒い剣の試し斬りを頼む時、交換条件で前の剣と交換してやるって言って手に入れたんだ」

「・・・まさか無料ではないでしょうね。私があれだけお金を払っているのに城の兵士にタダで最新の剣を渡したりしていないでしょうね」

「・・・宣伝広告費みたいなもんだ。勘弁してくれ」

「ふぅ、しょうがないわね」

 そう言って雪乃は立ち上がると黒い剣と戸塚が使っていた剣を片手で一本ずつ持って重さを比べます。今一つ違いを感じられない様子で少し頭をかしげる雪乃。そして二本の剣を右腕で一本ずつ振ってみました。すると雪乃がハッとした様な表情をしました。

「本当に黒い剣の方が軽いのね。持っただけでは分からなかったけど振ってみると、よく分かるわ」

「それは試し斬りを頼んだ戸塚も言っていたな」

「強度も上がったと言っていたわね」

「ああ、少しだけな。刀身にツヤ出しの銀を混ぜてないから、その分軽くなったし錬鉄百パーセントだから強度が上がったんだ」

「そう、試行錯誤をして刀身に銀を混ぜ始めたのに結局、元に戻ったという事なのね」

「結果的にはそういう事だ。銀を混ぜ始めたおかげで剣の軽量化を必死にやる事になったからアレはアレで無駄な苦労じゃなかったさ」

「それは良かったわね♪」///

「随分ゴキゲンだな?」

「・・・私の我慢と苦労が報われたのだから嬉しいのは当然でしょ」

「と、いう事はこれで注文の品は完成したって事でいいんだな。なら完成報酬を・・・」

「まだよ!この剣には致命的な欠陥があるわ」

「欠陥だと!?しかも致命的だと」

「ええ、致命的よ。絶望的と言ってもいいわね」

「何なんだよ、その欠陥って?」

「薔薇の絵が下手スギ」

「そ、それは・・・くそっ」

「自覚はある様ね。これなら改善の余地はありそうね。薔薇の絵もだけど全身真黒という剣はいくら何でもやり過ぎよ。元の銀色と黒のコントラストをもっと意識して剣全体をデザインしなさい。そうじゃなくては完成報酬は払えないわ」

「それを言うか・・・鞘だけを銀色にした最初の黒い剣はデザイン的にアンバランスな感じがしたから全部黒くしてみたのにな」

「それと、今回の手間賃と材料費は銀を使ってないのだから少し安くさせて貰うわよ」

「う!やっぱりそれに気付いたか・・・」

「当たり前でしょ。商品の値段は材料費と手間賃と店の儲けで出来ているって言ったのは他ならぬあなたよ、ヒキ鍛冶屋君」

「わかったよ。じゃあ店に戻って剣のデザインとか考えてみる」

「待ちなさい。折角だから庭に咲いている薔薇を見て行きなさい。少しは参考になる筈よ」

「なるほど、それは良いな。あと出来れば少し薔薇の花をくれないか」

「随分、仕事熱心ね。いいわ、今その準備もさせるから私と庭に行きましょう」///

(せっかく姉さんがいないのだから、少しゆっくりしていって貰わないと♪)

 そんな雪乃の企みのままヒッキーは彼女と一緒に庭を見て回りましたが一方、お城では、お姫様と姫菜がいよいよ魔法のリップクリームを作ろうとしていました。

「思い出の洞窟の泉、ハート型の洋梨、恋煩いの花。全部そろったね」

「うん。じゃあ姫菜、作り方を調べてよ」

「それはもう調査済み。ちょっと手順にコツがいるから、まずは作り方を最後まで聞いて、それから実践ね」

「わ、わかった」

「用意するのは細長いガラス瓶、それを炙る為のランプそれとおろし金と布袋」

「うんうん」

「おろし金でハート型の洋梨を摩り下ろして、すり実を布袋に入れて果汁を絞り出す」

「うんうん」

「それを細長いガラス瓶に入れてランプで温めながら思い出の洞窟の泉をゆっくりと注ぎ入れる」

「うんうん」

「すると数分もしない内に元々ピンク色だった果汁と思い出の洞窟の泉が白乳色になるからそのタイミングで恋煩いの花の花びらを三枚入れるんだって」

「そのタイミング?」

「うん。この白乳色になったタイミングを逃すと液体が焦げ初めて、魔法のリップクリーム作りは失敗なんだって」

「うわ、結構微妙ジャン」

「だから最初に作り方を言っておいたの。いい、慎重かつ迅速に作業をしてね」

「え!姫菜手伝ってくれないの?」

「もう、しっかりしてよ優美子。魔法のリップクリームは材料集めから何から何まで自分でやらないとダメだって知ってるでしょ」

「あ、そっか」

「じゃあ道具集めから開始!」

「うん!」

 そうしてお姫様はお城中を駆け回り魔法のリップクリーム作りに必よな道具を集めてきて作業を開始しました。慣れないおろし金での洋梨を摩り下ろす作業で手際が悪く、少しすり実をこぼしたりもしましたが果汁を細いガラス瓶に入れ終わるとランプに火を付けてガラス瓶を炙り始めました。

「なんかガラス瓶が熱くなってきたんだけど」

「じゃあ布か何かで手を覆って」

「けど、そんなモン用意してない」

「じゃあ我慢して」

「そ、そんな事言っても・・・」

 お姫様は手に持つガラス瓶がどんどん熱くなるのを我慢していましたが、我慢の限界が近づくとお姫様はドレスの裾と持ち上げそれを破り、手を覆ってガラス瓶を持ち直しました。

「ちょっと優美子!?」

「他に方法が無いんだからしょうがないっしょ!」

 そうしてお姫様は思い出の洞窟の泉をゆっくりとガラス瓶に注ぎ込みました。ガラス瓶の熱が少し覚めるのを指先で感じているとガラス瓶の中の液体がピンク色から白乳色に変わりつつありました。それをみたお姫様と姫菜は

「姫菜!」

「うん、もうすぐだね!」

 そう言うとお姫様は恋煩いの花を手繰り寄せ、丸く綺麗な円形に並ぶ十枚ほどの花びらから三枚を抜くとガラス瓶の入口に近づけました。そしてガラス瓶の中の液体が白乳色になった瞬間、お姫様は花びら三枚をガラス瓶に入れました。するとガラス瓶の中の液体は少しだけ赤みを帯びて再び薄いピンク色になりました。色の変化を見届けたお姫様はガラス瓶を火から離してテーブルに置きました。

「あとは冷めて固まるのを待つだけだよ。お疲れ様、優美子」

「うん、超疲れた♪」

 ホッとした空気が流れ始めるとお姫様と姫菜が近くにいたメイドに後片付けを命じて魔法のリップクリームだけを持って笑顔で部屋を出て行きました・・・そのメイドが変装した雪ノ下陽乃である事に気付かずに。

 

― 続く ―

 

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