魔法のリップクリーム   作:Z-Laugh

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第十四話

「道を開けろーっ!国王陛下のおなりである」

 良く晴れた日の真っ昼間、城下町の商店街の人が一番多い時間に城の兵士が大きな声を上げながら人ごみを掻き分けます。商店街を歩いていた人達は驚きながら兵士が走って来た方を見ると先に走って行った兵士とは違う着飾った近衛兵が王家の旗を掲げながら行列を編成し歩いていました。近衛兵達は走り抜けた兵士と違い大きな声も出さず、ただ列を乱さずに歩いてくるだけなのですが道を開けた人達はその威圧感から、更に道を大きく譲ってしまいます。そしてその行列が近づいてくるとその中央に国王様が歩いているのが見えて来ました。お城のテラスから大勢の国民の前にその姿を見せるだけの国王様が平民の歩く只の城下町の商店街を馬車にも乗らず歩いているだけでも驚きなのにその前後を近衛兵が固めているので道を開けた人達は次々に地面にひれ伏し頭を垂れました。商店街の国王行列はそれこそ商店街の端から端まで続きます。商店街の入口から商店街の出口まで、そして商店街の端の店まで続きます。そして商店街の端の店のドアを近衛兵が取り囲むと国王様の一番近くにいた一段と偉そうな近衛兵がその店のドアを開けました。

「ここはヒッキーの鍛冶屋か」

「は、はい・・・いらっしゃいませ」

 近衛兵の来店に店番をしていた小町が驚きながらテンプレートな返事をします。

「娘、お前がヒッキーか?」

「い、いえ、私はヒッキーの妹の小町といいます」

「ではヒッキーはいるか?」

「はい、今、工房で仕事中です」

「国王陛下のおなりである。至急、ここまで来る様に伝えろ」

「え!国王様!?」

「左様である。国王陛下よりヒッキーへお言葉を賜られるのだ。ありがたく拝聴する様に」

「わ、わかりました」

 そうして小町は工房に行ってヒッキーを呼んでくると二人して小声で話し始めました。

「なんだよ小町、俺の事をからかってたんじゃないのか!?」ヒソヒソ

「だから違うって、なんか本当っぽいんだよ」ヒソヒソ

 その様子を見ていた近衛兵はヒッキーに向かって

「お前がヒッキーという鍛冶屋か?」

「は、はい。私がヒッキーです」

「うむ。この度、お前が郊外の町や村で鍛冶技術の指導をした事を国王陛下は高く評価されていらっしゃる。ついてはお前の鍛冶技術に国王陛下よりお墨付きを与える事となった」

「国王様が俺にお墨付きを!?」

「その通りだ。ありがたく国王陛下からのお言葉を賜る様に」

 そう言い放つと近衛兵が狭い店内の端に退きました。するとそれに合わせる様に国王様が店の中に入って来たのです。それにはヒッキーと小町も驚きを隠せず腰を抜かす様にひれ伏ししまいました。

「うむ、苦しゅうない。面を上げよヒッキー」

「は、はい。国王様」

「お前のこの度の指導は見事だった。わが娘、優美子の命令をよくぞあそこまで実行した」

「あ、ありがとうございます。アレはもう、只々必死だっただけで」

「それで良いのだ。職人という者は仕事に夢中に、必死になれるのがその最低条件であろう」

「はい・・・仰せの通りだと思います」

「この度のお前の指導はこの国の農業、工業、引いては国政に大きく貢献をした。更にお前の作った剣が優美子の命を救ったのだ。これは最高の褒賞に値する仕事である」

「え!俺の剣がお姫様の命を救った?」

「優美子が隣国に赴いた際、暴漢の襲われかかったのだがお前の剣を持った我が国の兵士が暴漢を倒したのだ。なんでもその暴漢は巨大な剣と鉈を持っていたそうだが、お前の剣はその攻撃を正面から受け止めてもビクともしなかったとの事だ。兵士達が驚いておったぞ」

「俺の剣を使った兵士って・・・戸塚と材木座・・・」

「それだけではない。暴漢は全部で三人、それを取り押さえた我が国の兵士二人、そして隣国の王宮警備隊の隊員もお前の作った剣を使っていたそうだ」

「ああ、沙希の事ですね」

「それ程の剣を気軽に他国の人間に売るのは少々問題がある。しかしそれではお前の店の商売が立ち行かぬであろう。それ故ヒッキー、お前の技術にワシの名で認定を与えよう。その事でお前の技術は国中に知られる事となり店の商売も上手く行く様になる」

「な、なるほど」

「しかし、この認定はお前の仕事を制限する事にもなる」

「え?国中から客が来る様になるのに制限ですか?」

「国中から来る客はいいのだ。問題は国外から来る客の事だ。お前の技術はこの国随一と言ってもいいものであろう。それ故、それが国外に流出する事はこの国にとって損失なのだ」

「じゃあ、この国の人間以外に私の造った物を売ってはいけないのですか?」

「その通りだ。もし売るのであれば事前に城に許可を取りに来なければならない」

「いちいちですか?」

「いちいちだ。国中にお前の技術が広まったらその許可が下りるが、それまでの間は国外の人間との取引は禁止だ」

「そ、そんな。私の剣を作る技術が国中の鍛冶屋に広まったら、それこそ商売にならなくなってしまいます。それでは自分で自分の首を絞めるのと同じじゃないですか」

「お前の技術が国中に広まるというのは、なにもお前が他の鍛冶屋に技術を伝授する

事ではない。お前の作った剣が国中に行き渡ったらという事だ」

「なるほど、俺が作った剣がこの国でありふれたモノになったら外国の人間に売ってもいいという事ですね」

「そういう事だ。お前の剣が国中に広まるにはかなりの時間が掛かるであろう。それまでの間お前は他の鍛冶屋より有利に商売が出来る。仮に他の鍛冶屋がお前の技術に追い付いたのであれば、その期間は短くはなるが外国の人間との取引が早く再開出来る様になる。どちらに転んでもお前にそれ程の損は生じない筈だ」

「そこまで考えていただいたのですか。ありがとうございます」

「まあ、これから我が国の鍛冶技術の向上に貢献して貰うのだから、これ位は当然だ」

「鍛冶技術の向上に貢献?ひょっとしてまた郊外に技術指導に行くんですか?」

「その可能性もあるだろう。それについては優美子に任せてあるので、その指示に従う様に。しかし私が言っているのは郊外に出掛けて行っての技術指導ではない。郊外の鍛冶屋をお前の店で一定期間働かせるのだ」

「それって・・・俺が弟子を取るって事ですか?」

「その通りだ。なにも剣を作る技術を伝授する必要は無い。鍛冶技術の基本を叩き込むだけでいい。郊外の鍛冶屋は剣より農耕具を作る仕事の方が多いからな」

「かしこまりました。国王様の仰せの通りに」

「うむ、これからも励む様に」

 国王様は近衛兵に持たせていた賞状を受け取るとそれをヒッキーに差し出しました。ヒッキーはそれに応える様に立ち上がると頭を下げながら両手でそれを受け取り、一段と深く頭を下げました。そうして国王様はヒッキーの店を出て行くと、それに近衛兵が続き国王様の行列は城へと帰って行きました。

「お、お兄ちゃん。なんか凄い事になったね」

「ああ、まさかこんな事になるなんて夢にも思わなかったぜ」

「これから忙しくなるね。仕事も増えるし、お兄ちゃんが弟子を取るんでしょ。だったらそのお弟子さんの為の部屋も用意しないと駄目だし」

「そうだな・・・じゃあ俺が親父と母ちゃんお部屋に引っ越すか。それで俺の部屋に弟子を住まわそう。あと小町の部屋には内側から鍵を掛けられる様にしておかないとな」

「うわ、そこまでしなくてもいいんじゃない」

「バカを言うな。弟子とは言え赤の他人を住ませるんだぞ。万が一の事を考えればお前に剣術を習いに行かせたいくらいだ」

「・・・わかったよ、部屋の鍵までで勘弁して」

 

 

 そうして城に戻った国王様は大臣に命じてヒッキーの技術を国王様が認定した事を国中に知らせる様に命じました。

「かしこましました、国王陛下」

「ありがとう、お父様」

「うむ、これでヒッキーの鍛冶技術を保護出来るであろう」

「しかし、あなた。何も自ら商店街を歩かなくても宜しかったのではないのですか?」

「お妃様の仰る通りでございます。近衛兵から聞きましたが商店街が大騒ぎになったそうではありませぬか」

「それも必要であっての事だ。ああすれば商店街の端にある店の宣伝になる。今頃はヒッキーの店に客が殺到しているのではないか」

「それは、その通りでございますが」

「それに・・・少々、優美子の真似をしてみたかったのだ。ワシも若い頃には城を抜け出してみたいとよく考えたモノだ」

「全く、親子揃って・・・」

「ねえ、お父様、お母様。今度みんなで結衣のカフェに食事に行ってみない」

「は?姫様、何を仰っているのですか。その様な事」

「いいじゃん、三人そろって平民の服を着て結衣のカフェの名物のミートパイを食べてカフェオレを飲むの。あれ最高なんだよ」

「優美子、あなた何を言い出すの。王室の人間がその様な事を出来る訳が無・・・」

「うむ、面白そうじゃな」

「あなた!?」

「陛下!?」

「今すぐじゃなくてもいいし。考えておいてよ」

 そう言うとお姫様は謁見の間を出て行ってしまいました。それを見たお妃様は

「あなた、いくらなんでもそんな事」

「陛下、お妃様の仰る通りでございます。王室の人間が揃って城下の飲食店で食事など言語道断です」

「もちろんワシもそう思っておるが・・・ここ数日の優美子の様子が変だったのでな。何か気分転換が必要かと思ったのだ」

「た、確かに。ここ数日の姫様は執務である鍛冶技術の向上を熱心に執り行っておりましたが時折、ぼんやりとされているご様子でしたな」

「・・・」

 国王様の前で不自然なくらい明るくふるまうお姫様を見て国王様と大臣がお姫様の事を心配します。しかしその傍らでお妃様だけが落ち込んだような悲しそうな表情をしました。それはお姫様が何故、そんな態度を取っているか知っていたからです。お妃様は姫菜を通じてお姫様の様子を国王様や大臣より詳しく知っていたのです。一見お姫様のする事は国王様から言われた仕事もお姫様の個人的な行動も全て順風満帆で問題が無い様ではあったのですが、それ故にお姫様にはある問題が生じてしまったのです。

 

 

 城外の友人の恋を応援する為に自分の唯一のチャンスである魔法のリップクリーム作りが上手く行った反面、自分自身がリーフマウンテン王国の王子様に恋をしてしまったからです。もし、この魔法のリップクリームを自分の為に、自分で王子様に向かって使えばお姫様は王子様に愛され幸せになる事が出来ます。しかしお姫様は当初の目的である城外の友人・結衣の為という思いがどうしても捨てきれなかったのです。友情と愛情の板挟みになってしまったお姫様は出来上がった魔法のリップクリームを部屋の化粧台にしまい込んで、それから逃れる様に国王様の命令である国内の鍛冶技術の向上の仕事に精を出しました。周囲の人間の大半は真面目に執務を行うお姫様を誉めそやし、この国の未来は安泰であると安心しきっていてお姫様の悩みに気付く人間は城の中にはごく僅か、いえただ一人しかいなかったのです。お姫様がしてきた事を間近で見て来た司書の姫菜だけはお姫様の苦悩に気付いていたのです。

 

 

 しかし姫菜も悩んでいました。自分の上司であり友達のお姫様が目の前で悩んでいるのに何一つアドバイスをしてあげる事が出来なかったからです。姫菜自身の恋愛経験の乏しさもその理由の一つでしたがお姫様と結衣、姫菜にとっては二人とも大事な友人であり二人とも幸せになって欲しいと願う人間なのです。しかも姫菜はその二人の想い人である男性、すなわちヒッキーと王子様の二人が素晴らしい男性である事を知っていて、友人二人があの人達と結ばれればいいと思っていたのですから、どちらかを優先する様な事をお姫様に面と向かって言う事が出来ませんでした。そうして姫菜は苦し紛れにこの事をお妃様に報告ではなく、相談したのです。

「そうだったのですか・・・様子が変だとは思っていましたが」

「私では姫様に何もアドバイスをしてあげる事は出来ません。しかし今のまま放っておく事が姫様の為になるとも思えないんです」

「それは姫菜の言う通りでしょう。人として生きて行く為には何度となく人間関係に悩む機会が訪れるモノです。これは優美子自身が決断をしなければならない問題です」

「やっぱり、それしかないんでしょうか」

「私や国王陛下からすれば隣国の王子との縁談を優先してほしい所です。しかし私達からあの子にそれを言ってしまうと、それはあの子にとって只の命令となってしまいます。それでは優美子の心を無視する事となりあの子に後悔の念を抱かせたまま生きる事を強要してしまう事になります」

「かといって私から最初の目的を果たすべきだと言えば姫様の性格からしてやけっぱちな考えで自分の気持ちを犠牲にする様な事をしてしまうでしょうから、やはり何も言えません」

「可哀そうですが、こればかりはあの子が決めなくてはいけない事なのです。姫菜、どうかこれからも優美子のそばにいてあげて下さいね」

「はい心得ております。ただ・・・本当にそばにいるだけですけど」

「今はそれでいいのです。私共々、あの子を見守りましょう」

 そんな姫菜とお妃様の気づかいはお姫様にとっては更に負担になってしまいました。あれ程、足しげく通っていた図書室への足は遠のき、お妃様の前では今まで以上に不自然なふるまいをしてしまいます。苦し紛れに気分転換になればと思い平民の服に着替え城外に出てみても思い浮かぶのは結衣の事でちっとも気分転換が出来ません。モヤモヤと考えて込みながらぼんやり歩いていると足は自然と良く知る道を歩き、いつの間にか結衣のカフェに辿り着いてしまいます。この様子には表立って護衛する材木座と陰ながら護衛する戸塚も不思議に思い、材木座がお姫様に話し掛けました。

「ひ・・・いや優美子殿。如何なされました?」

「何でもないし!放っておいてくれる」

「そうは申されましても、何やら夢遊病者の様に歩かれているので少々心配で」

「・・・そんな風に見える」

「は、はあ・・・失礼ならが」

「ねえ、チューニ。あんた友達と恋人だったらどっち選ぶ?」

「は?友達と恋人でございますか。我は友達が少ないですし、恋人がおった事もありませぬ故、お答え致しかねます」

「ふぅ~~、全くうちの城には恋愛経験豊富な奴っていないのかしら。静先生も、姫菜も、チューニも・・・」

「何かございましたか?恋愛経験などと・・・ひょっとして隣国の」

「だ・ま・れ!それ以上言ったら首跳ねるからね」

「は、はい!失礼いたしました」

「もういいから、いつもどおり少し離れて見張ってて。あーしは大丈夫だから」

「いや、見張るだなんて。我はあくまで護衛であって決してひめ・・・優美子殿の行動を制限している訳ではございません」

「そんなん・・・わかってるし」(見張られてないとどっか遠くに逃げ出しちゃいそうだよ)

 そうして材木座がお姫様と距離を取るとお姫様は結衣のカフェの前に立ちますがどうしてもドアをくぐる勇気が出てきません。ドアをくぐって結衣と話をしたら自分は何をどう言ってしまうのだろう?やけくそになって魔法のリップクリームを結衣に叩きつけるのだろうか?結衣に適当な別な手助けをして自分で自分を誤魔化すか?それとも正直に全部話すか?色々な考えが頭を巡ります。どれほど、そうやってカフェの前で考え事をしていたのでしょうか。不意にお姫様は肩を叩かれます。我に返って振り返ると、そこには結衣が立ってました。お姫様は慌てふためきながら

「え!あ!う!ゆ、結衣」

「どうしたの優美子、店入らないの?」

「うん、ちょっと時間が無くてさ。寄ろうか寄らないか迷ってたんだよ。けどやっぱゴメン。今日は帰るし」

「ちょ、ちょっと優美子!?」

 お姫様は結衣の顔を見ていられなくてカフェの前から走り去りました。人ごみを縫う様にして商店街の端までやって来ると膝をついてゼイゼイと息を切らせながら呼吸と気持ちを整えようとしました。情けない!自分の事を、自分の気持ちを自分で責め立てます。しかしそれでは何も解決しない事はお姫様自身が痛い程分かっていました。誰か私に答えを!道を示して!切にそう願いながら呼吸だけを整え終わるとお姫様はやっと今、自分がどこにいるのかを知りました。そこは商店街の端、ヒッキーの店の近くだったのです。見れば人だかりが出来ている店があり近づいてみると店番の女の子とヒッキーが大勢のお客さんを相手にするのにてんやわんやの状態だったのです。お姫様は思います。考えてみればお姫様自身がヒッキーの店に来た事が無かったのです。結衣は当然として姫菜、父親である国王様、城の兵士は来た事があったのに肝心の自分自身が来た事が無かった事にやっと気付きました。事の起こり、いいえ今となっては諸悪の根源と言っていいヒッキーの忙しくしているのを店の外から見ていたらお腹の中にムカムカと苛立たしい気持ちが湧き上がって来ました。

「なにアイツ人の気も知らないで商売繁盛させちゃってんの」

 そんな八つ当たりの様な言葉を漏らしながら店の様子を見ていると店の中からヒッキーと小町の声が聞こえました。

「すみません。今日お受け出来る仕事は一杯になりました。申し訳ありませんが明日また、お出でいただけますか」

「今日お受けした鍋の修理や包丁研ぎの仕事は必ず明日までに終わらせますので、明日お出で下さい」

 店の中からは大勢の客が溜息を漏らし、がっかりした表情で壊れた鍋や曲がったナイフやフォークを持って店を後にしていきました。そうして小町が店のドアにクローズの札を掛けようとした時です。お姫様は小町に話し掛けました。

「ちょっといい?」

「いえ、今日の仕事の受付はもう終了したので」

「いいから、ちょっとヒッキーに話があるんだよね」

「え、ですから仕事はもう一杯で」

「仕事の話じゃないし、いいから店に入れて」

「ちょっとお客さん」

 お姫様の顔を知らない小町はお姫様の事を我儘なお客と思っていました。しかしお姫様が店に入って行くと中にいたヒッキーが声にならない驚きを露わにします。それを見た小町は

「なに?お兄ちゃんの知り合いなの?小町も知らないガールフレンドを作ったりしたら結衣さんと雪乃さんが怒るよ」

「ば、バカ!そうじゃねえよ」

「そうじゃないって、じゃあどうなの?この女の人は誰?どういう関係なの?」

 何も知らないとは言え無礼な小町の言葉にお姫様は不思議に腹が立ちませんでした。それはヒッキーが慌てふためき焦っている様子を目の当たりにしたからです。ザマアミロ!そんな気持ちになり少し溜飲が下がったところでお姫様は小町に話し掛けました。

「あーしは優美子、アンタ名前は?」

「え、私は小町です。お兄ちゃんの妹です」

「ふ~ん、チューニと姫菜から少し聞いてたけど、なるほどね。ちょっと口やかましそう」

「え、姫菜って」

「姫菜はあーしの友達なの。ついでに言うならカフェの結衣もあーしの大事な友達なの」

「姫菜さんと結衣さんのお友達だったんですか。なら、なんでうちの店に?」

「ちょっと愚痴を聞いてもらおうと思ってさ。客が引けたところだからイイっしょ」

「ちょっと待って下さい。お兄ちゃんはこれから今来た仕事にかからないといけないし一昨日から来ているお弟子さんに仕事を教えてあげないといけないから忙しいんです。とても愚痴なんて聞いている暇はありません」

「そんなに時間掛からないからさ。イイっしょヒッキー」

「小町、お茶を用意してくれるか」

「え!お兄ちゃん、この人の愚痴を聞いてあげるの?」

「ああ、これは聞かないとマズい話の様だしな。ほら、急いでお茶を用意してくれ」

 そうしてヒッキーは小町を店の奥に行かせてからお姫様に粗末な椅子を用意してから

「どうされたのですか?店にまでやって来るなんて」

「言ったっしょ。ちょっと愚痴を聞いて貰いに来たの」

「姫様が俺に愚痴?もっとふさわしい人間がいるんじゃないんですか?」

「そうでもないの。アンタくらいがちょーどイイって感じなんだよね」

「はあ、なら伺いますが、小町にはなんて言いましょう?あなたが姫である事を話しておいて宜しいでしょうか?」

「結衣にバレないならアンタの好きにすればいいし」

「わかりました。ではお話下さい」

 そうしてお姫様はヒッキーに向かっていた体を横に向けて顔を背けながら話し始めました。

「アンタって結衣の事どう思ってんの?」

「どうって?」

「友達と思ってんの?それともただの知り合い?じゃなければ・・・」

「ああ、そういう事ですか。それなら友達ですかね」

「恋愛対象じゃないんだ」

「結衣はこの商店街でも評判の看板娘で俺よりずっといい男から言い寄られています。それこそ貴族や城の兵士からも求婚されているくらいなんですよ。俺みたいな中途半端な男とじゃ釣り合いませんよ」

「確かに中途半端だよね、けど、お父様からお墨付きをもらって今も見てたけど商売も順調に行きそうじゃん。だったら一人前の男として結衣を嫁にするとか考えないの?」

「まだ、そこまで考えた事は無いですね。今はまだ自分の事で精一杯です」

「じゃあ相手が雪ノ下の次女だったら?」

「同じですよ。あの二人はどっちも俺には過ぎた女です」

「ちょっとは意識してるんだ」

「あそこまで露骨に感情を押し付けられれば、いくら鈍くても気付きますよ」

「それでも知らんぷりなんだ」

「ええ、知らんぷりです」

「やっぱ、中途半端だわアンタ」

「仰る通りです。正直どうすればいいのかって悩みもします。何かいい方法があって、あの二人の内どちらかに決める事が出来れば今のこの気持ちが軽くなるんじゃないかって考える事もあります」

「だろうね。けどそんな方法ある訳ないじゃん」

「ある訳ないですよね。あったらそれを商売にしますよ」

「アハハハ、それ言えてる。凄く儲かりそう」

「だから俺は問題を先送りにしているんです。いずれどちらか一人が諦めるんじゃないかって期待しているんです。自分で決めたくないから」

「それチョッチ分かるし・・・人に決めて欲しい事とか時ってあるよね」

「なんで人間って一つの事に集中して生きていけないんでしょうね」

「それは、そうするとツマンナイからじゃない」

「ツマンナイ?」

「あーしの思い付きにアンタをつき合わせて国の郊外を回った時に思ったんだけどアレって凄くキツかったじゃん。けど終わっていい結果が出たりすると凄く嬉しかったんだよね」

「そりゃ達成感はありましたけど、嬉しいというのとはちょっと違うような」

「アンタはそう感じたの?あーしは嬉しかった。あーしは王族として何でも用意して貰えて、どんなワガママも聞いて貰えていたから自分で苦労ってした事なかったんだよね」

「苦労を乗り越えた達成感を感じた事が無かったんですか?平民の俺には想像つかないです」

「まあ立場が違うからそれも当然だけどさ。予想出来る嬉しさって案外ツマンナイんだよ。あーしはそれをこの間の国内行脚で学んだし」

「要するに予想外の嬉しさを体験するにはキツイ思いをしなくてはいけないって事ですか」

「そんな感じ。予想がつかないから面白いんじゃん」

「まあこうして連日、王室の人間が店にやって来るのも予想がつかない愉快な事ですよね」

「ふん、愉快とか言ってるし」

「ええ愉快です。一生の思い出になる愉快な出来事ですよ」

「時間がたてば、あーしも愉快な気持ちになれるのかな」

「それは俺には分かりませんよ。ただ・・・」

「ただ・・・?」

「当たって砕けるのも方法じゃないですか」

「当たろうともしないアンタがそれを言う?」

「自分で当たらないから無責任にそう言えるんです。所詮他人事ですよ」

「じゃあ、アンタだったら自分の事と他人の事、どっちを優先すんの?」

「自分と他人。そんなの自分に決まってるじゃないですか。他人を優先して何か良い事でもあるんですか」

「まあ、普通はそうだよね」

「教会の人間なんかは誰彼かまわず他人を優先している様に見えますが、あれって自己満足をしたいだけで結局自分優先じゃないですか。人間そうそう簡単に他人の為に生きられません」

「自己満足の為に他人を優先するか・・・なるほどね」

「逆に言えば自己満足が出来ない他人優先はするべきじゃないと思います」

「何が起こるから分からないから面白い。自己満足出来ない他人優先はするべきじゃない。そっか、それが当然だし」

「下手な考え休むに似たりって言いますもんね」

「ホントそう言う感じ。あーし考え過ぎてたのかな」

「王族の人間が考え過ぎるのは王族の宿命ですか?それとも癖ですか?」

「両方!まあ敢えて言うなら癖かな。どうしようもない癖、習性と言ってもイイくらい」

「じゃあ、考え過ぎない方向で行動した方がいい結果が出そうですね」

「それ言えてるかも、郊外の町や村を回ったのは思い付きだったしね」

「俺は他人の思い付きであんなキツイ思いをしたのか」

「アンタにはこれからも郊外の町や村で技術指導して貰うから」

「無茶言わないで下さい。俺は国王様から期間限定の弟子を取る様に言われて、その指導もしなくちゃいけないんです。もう郊外に出掛ける時間なんてもう無いですよ」

「あ!そっか。参ったな、結構当てにしてたんだけど」

「剣を作るんじゃなくて農耕具を作るって言うなら従来からある技術を教えるだけだし城下の他の鍛冶屋でも教える事は出来ますよ」

「けど、お父様のお墨付きを貰ったのはアンタだけじゃん。郊外に出掛けた時、相手に与えるインパクトが違うんだよね」

「そりゃそうでしょうね。だったら期間限定の弟子を取るのを他の城下の鍛冶屋に任せて俺の手が空く様にして下さいよ」

「そっか、それで行こうか。アンタは剣作りと郊外での指導をメインにして行けばいっか」

「う~ん、けどそれはちょっと・・・」

「なに?なんか問題ある?」

「日用品の修理は鍛冶屋の大事な収入源なんですよ。剣作りだけじゃ食っていけません」

「それは心配ないと思うけど。多分、日用品の修理の仕事はいずれ来なくなると思うし」

「なんでですか?」

「その内、この店に来る注文は剣作りだけになるから。貴族や金持ち、あと剣を使う事が多い城の兵士からの注文が増えて庶民には敷居の高い店になって行くと思うし」

「なるほど、値段の高い物だけを売る様になって、それがちゃんと売れれば値段の安い仕事を沢山受ける必要は無くなりますね」

「そういう事。まあ今はその過渡期って感じ!?だからもうちょっとしたら時間を作れる様になる筈だから、いつでも郊外に出掛けられる様に準備だけはしておく様に」

「しかし、郊外に出掛けるとなると貴族や金持ちの仕事を放っておく事になりますよ」

「それで苦情が出たら、あーしの名前を出せばいいし」

「それで宜しいのですか?」

「うん、言い出しっぺはあーしだしね」

「分かりました。ではその様に」

 

― 続く ―

 

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