魔法のリップクリーム   作:Z-Laugh

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第三話

「失礼いたします。陛下」

「おお、じい。どうしたのだ?そんなに慌てて」

「実は姫様の事で早急にご相談がございます。お妃様は?」

「まだ私室のリビングにいるはずだが」

「それは好都合!この話は私室にてお妃様と一緒に聞いていただきたい内密の話なのです」

「むむ、じいがその様な事を申すのも珍しいのう。よかろう、ついて参れ」

 そうして国王と大臣は国王陛下一家が暮らすプライベート空間の私室のリビングにやって来ました。少し驚いた表情のお妃様も私室に客人がやってくるという珍しい事態を喜び自ら紅茶を入れて大臣をもてなしました。

「いや、お妃様。この様な事をされては困ります」

「いいではありませんか。大臣は恐縮ばかりして陛下や私や優美子の招待を受けて下さらずにここには入って来て下さらないのですから」

「本来この場は王室の人間しか入れぬ場所。如何に私が大臣であってもケジメはつけなければなりませぬ」

「なら何故、この度はそのケジメとやらを無視したのだ」

「それは姫様の為でございます」

「優美子の為?どういう事だ」

「実は姫様は城外の友人の為に魔法薬を作ろうとしております」

「優美子が魔法薬ですって?何故その様な物を」

「はい、その城外の友人である結衣という娘が城下町で鍛冶屋を営む男に恋をしたのですが、その気持ちをうまく打ち明けられずに悩んでいるのを放っておけずに相談に乗っていらっしゃったのです」

「ふむ、城外の友人の為にか・・・それが何故この様な大仰な事になるのだ?」

「それは・・・」

 大臣は事の成り行きを国王様とお妃様に説明しました。すると国王様は

「むむ・・・リーフマウンテン王国の王宮管理の鉢植えか。中々やっかいな代物だな」

「全くでございます。しかし、この国の恋煩いの花が絶滅してしまった以上、他に手段はございません」

「あなた、いくら優美子が友人の為に頑張っているからと言っても、そこまでは」

「確かにお前の言う通りだ。平民の娘の為に王室外交をするなどという前例は作れんからな」

「しかしながら陛下。姫君は既に“思い出の洞窟”に向かい今頃は城の兵士の隠密の警護の元、泉を汲んでおられる頃でございます。材料の一つが手に入ったのであれば姫様のご気性からして大人しく引き下がるとは思えませぬ」

「しかし、王室外交ともなると話がまるで違ってくるのだ。それ位の事はじいも分かっておるだろう」

「陛下の仰せられる通りでございます。外交には大義名分が必要であり特に王室外交には平和的かつ友好的な大義名分が必要でございます」

「・・・その様子では何か考えがあるのですね。大臣?」

「お妃様、仰せの通りでございます。隣国のリーフマウンテン王国には姫様と同じ年の王子がおります。その姿の格好良さと頭脳の明晰ぶりの噂は私の耳にも入ってきております」

「うむ。隼人王子の事であるな。確かにリーフマウンテン王国の隼人王子と言えばこの国の王侯貴族にも知られる人物だ」

「そこで姫様と隼人王子の非公式のお見合いをセッティングしてみては如何でございましょうか」

「非公式の見合いか・・・」

「確かに優美子もそろそろ相手を決めなくてはならない年齢ですし・・・」

「あくまでより親密な国交を促す一行事として陛下よりリーフマウンテン王国の国王陛下に王室の次代を担う若者同士の会談を申し出るのです」

「なるほど、表向きはあくまで両国の一層の親密な国交を図るものとして、裏ではもし本人同士がその気になれば考えてもよい!という程度で話をしておけば良い訳だな」

「そこまでセッティングをすれば後は姫様の交渉力が試される状況でございます。隣国の貴重な鉢植えをどの様にして手に入れてくるか?これは今の姫様には良き試練にも成り得る機会だと思っております」

「優美子の王室外交の資質を見るいい機会かもしれぬな。王室外交は相手に一方的に迎合するだけでは駄目だし、かといって要求を伝えるだけでも駄目なものだ。如何にその両方のバランスを考えながらこちらの目的を果たすかが重要だ」

「それに運が良ければ2人が気に入り合って優美子の婚礼をまとめる事も出来るかもしれませんし」

「何卒、偶然生まれたこの機会を姫様の一層の成長の為のチャンスとしていただきたい」

「・・・よかろう!やってみようではないか。早速リーフマウンテン王国の国王向けに手紙を書くからじいは使者として、その書面を届けてきてくれ」

「かしこまりました。身命に賭けて陛下のご意思を伝えてまいります」

 そうして国王様は隣国リーフマウンテン王国の国王宛に手紙を書いて、それを大臣に手渡しました。両手で恭しくその手紙を受け取った大臣は颯爽と身を翻し護衛の兵士を連れて隣国へ旅立って行きました。

 

 一方、そんな見合い話が持ち上がっている事など想像もつかないお姫様はその頃、材木座と一緒に“思い出の洞窟”の入口まで到着していました。

「さすがに洞窟には馬では入れんな」

「それに中が真っ暗じゃん。超ヤバくない、灯りの準備してこなかったし」

「まあ、灯りはその辺の枝を集めて松明を作ればいいが、どれほどの奥行か解らぬし無防備に中に入るのは余りに危険すぎる」

「じゃあ、どうすんのさ?」

「まずは我が一人で先に泉の場所を確認がてら洞窟の中の様子を見て来よう。それで危険が無かったらお主が泉を汲みに行けばよい」

「あんた一人で大丈夫?あーしも一緒に行こうか」

「いや、お主がいたのではイザという時に危険を回避出来ないから我が一人で行って来よう」

「それって、あーしの事を足でまといだって言ってんの?」

「い、いや、その様な事は無い。しかし、こういう時は男の腕っぷしがモノをいう事が多いからな。まずは我一人で行くのが常套手段であろう」

「まあ、いいや!そこまで言うなら一人で様子を見てきてよ。あーしはここで待ってるから」

 お姫様がそう言うと材木座は付近に転がる長い小枝を集め始め、更に木に巻き付いているツルを剥ぎ取ると、それを使って小枝をまとめて二本の松明を作りました。そうして一本はお姫様に渡し、もう一本は早速その先端に火をつけて洞窟へと入って行ってしまいました。それを見送るとお姫様が手綱を握っていた馬が大きくいななきお姫様が止めるのも聞かずに近くの沢に向かって歩き出し音を立てて水を飲み始めました。そうしてお姫様が取り敢えず馬の面倒を見始めて十分ほどの時間が過ぎた時、洞窟から材木座が出てきました。

「あ!どうだった?」

「うむ。中は昔、人が入った様子が残っていて、多少のデコボコはあるものの洞窟としては歩き易く、泉もそれ程歩かずに済む一番奥に湧いておったぞ」

「ホント!なら早速行ってくるね」

「一人で本当に大丈夫か?」

「あーしとしてはアンタと2人で洞窟に入る方が身の危険を感じるんだけど」

「分かった、くれぐれも気をつけてな。松明は我が使っていた物を使い、足りなくなったら今、手に持っている松明を使うのだ」

「うん、じゃあ行ってくるね」

 そうしてお姫様は材木座から火の着いた松明を受け取ると一人で洞窟に入っていきました。洞窟の中は材木座が言っていた様に岩や石が剥き出しになっているにも拘わらず平らで歩き易く、更に長い乗馬で汗をかいたお姫様にとって有難い事に空気がひんやりとしていました。そうして五分ほど歩いたら洞窟の一番奥に辿り着き、そこには透き通った泉が湧き出していました。

「これが“思い出の洞窟”の泉」

 お姫様は声を出して確認をすると残り少なくなった松明から新しい松明に火を移し、灯りを十分に確保した上で鞄の中から持ってきたガラス瓶を取り出し泉を汲みました。汲み出されガラス瓶に収まった泉は透明に透き通っているだけではなく少し光の粒が混ざっているかの様にキラキラと輝きを放っていました。

「へ~、キラキラ光る泉なんて初めて見た。やっぱ魔法薬の材料ってちょっと変わってんな」

 そう独り言を漏らすとお姫様はガラス瓶の蓋をきつく締めて汲んだ泉がこぼれない様に鞄にしまいました。一つ目の材料を手に入れたお姫様は松明を持ち意気揚々と泉を後にして洞窟を出ました。

「おお!無事であったか。して首尾の方は?」

「うん、バッチリ!これで残る材料はあと2つだし」

「それは何よりだ。では戻るとしようか」

「・・・それはいいけど、あんたさっきから何食べてんの?」

「これは、すぐそこに洋梨の木があってな。実がたわわに成っていたのでいくつかもいできたのだ。お主も食うか?」

「そういえばチューニは果物を採りに来たんだもんね。その洋梨の木ってどこにあるの?」

「うむ、すぐそこだ。案内しよう」

 そうして材木座は洋梨をかじりながらお姫様を洋梨の木の場所まで案内しました。するとその案内された洋梨の木に一つだけ変わった形と色の実がなっていました。

「ねえ、あの実はなんなの?」

「洋梨の木に成るのだから洋梨なのであろうが・・・何とも変わった色と形であるな」

「ホント。なんかうっすらとピンク色だし形も洋梨っていうより・・・」

「ハートだな!」

「ひょっとして・・・ねえちょっと、四つん這いになって台になってくんない」

「なに!ひょっとしてあの木の実を採ろうというのか?なら我が代わりに採ってやろう」

「ダメダメ!アンタは手を出さないで!」

「なんだ、高い所に成っている木の実を自分で採りたがるとは小さな子供の様であるな」

「これだけは自分で採んなきゃダメなの。いいからさっさと四つん這いになって」

「やれやれ・・・」(そう言えば魔法薬の材料は自分の手で収穫しなければならなかったな)

 そうしてお姫様は材木座の協力で不思議な形をした洋梨を手に入れました。

「早く城に戻って姫菜に鑑定して貰わなくっちゃ」

「城に戻る?」(姫様、こんな所でボロを出されては困ります!)

「あ、いや、私の家は城が良く見える牧場だからさ。城を目印にして帰ると早く帰れんの」

「左様であったか。ではさっさと森を出て城に向かおうではないか」

「そうだね、チューニも果物をいっぱい食べられたみたいだし、さっさと森を出よ」

 そうしてお姫様は鞄に“思い出の洞窟”の泉と不思議な形の洋梨を入れて馬に跨り材木座に手綱を預けて森を出て行きました。一方、ヒッキーの鍛冶屋にやって来た戸塚はまだ店を出ておらずヒッキーと小町の2人と話し込んでいました。

「それにしても本当に凄い剣だね。5本とも切れ味も軽さも扱い易さも僕が今まで使ってきた剣とは別次元だよ」

「城の兵士にそこまで言って貰うと逆に信じられなくなってくるな」

「お兄ちゃん、折角戸塚さんがお兄ちゃんの自信を取り戻すのに付き合ってくれたんだからちゃんとお礼を言わないとダメだよ」

「それでヒッキー、この剣なんだけど本当に売ってくれるの?」

「ああ、折角打った剣を倉庫にしまったままなんて勿体ないだろ」

「それはそうだけど、雪ノ下家の次女との契約はいいの?」

「それも問題ない。その剣をぜひ譲って欲しいと言われたから止む無く売った事にすれば文句は言われるだろうけど罰せられたりはしない筈だ」

「そういうもんなの・・・普通、貴族は平民に自分の事を軽んじられると怒り出すよ」

「まあ、普通はそうだろうな」

「だったらなんで?」

「あの雪ノ下家の雪乃っていう次女はちょっと変わってるからな。文句も言うし因縁もつけてくるが言っている事は実に合理的で理論的なんだ。あれなら鍛冶屋が自分の作った剣を売った事を責めたりしないだろ」

「確かに雪乃さんなら、そうかもね・・・ただなぁ~」

「なんだよ小町、なんか問題でもあるのか?」

「問題アリというか、軽んじてるというか、鈍感というか、これはあと十本くらい剣を作る必要がありそうだね」

「それも悪くないだろ、何しろ雪ノ下家は金払いだけはいいからな」

「ヒッキー、本当にそれだけなの?」

「それだけって?」

「雪ノ下家の美人姉妹の事は僕達の様な下っ端の兵士の間でも有名だよ。何しろ雪ノ下家の当主はこの国の軍隊の最高責任者だからね」

「金持ちの家の美人だからな・・・下心を持つのが当たり前なんだろうな」

「そりゃそうだよ。折角お近づきになれたんだから、そのチャンスを生かそうとするのが普通じゃないかな」

「チャンスを生かそうとはしてるさ。この特別注文で雪ノ下家の出入りの鍛冶屋になれれば店の格が上がるからな。それに戸塚のおかげで城の兵士達にもコネが出来そうだしな」

「そうじゃなくて。雪ノ下家の次女とお付き合いをするとか結婚するとか考えてないの」

「そうそうお兄ちゃん。それが一番肝心なところだよ。雪乃さんも結衣さんもお兄ちゃんには勿体ない位イイ女なんだからね」

「小町、お前まだそんな事言ってんのか。貴族の娘が鍛冶屋とそんな事を考えている訳ないだろ。それにカフェの結衣だって引く手数多の看板娘だぞ。何より俺はお前が嫁に行くまでは結婚をする気はないからな」

「もう、またそう言って誤魔化すんだから。お兄ちゃんが結婚してもしなくても私はいずれ結婚するからさ。それを言い訳にするのはやめてよ」

「ヒッキーのご家族は?」

「両親と俺たち兄弟の四人家族だ。ただ親父は刀鍛冶の腕を買われてリーフマウンテン王国に母ちゃんと一緒に長期出張中でな。今は俺たち兄弟だけで店の切り盛りをしているんだ」

「そうだったんだ・・・」

「もう二年になるな。最初は工房で働いていたが今はあっちで店まで持たせて貰えた様だしもう戻ってこないかもしれないな」

「ホントお父さんもお母さんもかなり大雑把だよね。この店を私達に任せて勝手に他所にお店作っちゃうんだからさ」

「だから俺は小町の親代わりなんだ。こいつを放って俺が身を固めたり他所に行く訳には行かないんだ」

「私にすれば私がお兄ちゃんの監視役兼保護者だけどね」

「はははっ!仲が良いんだね。そっか家族の都合でヒッキーは身を固めないんだね」

「まあ、そんな感じだ。で、戸塚。どの剣を買っていく?」

「そうだな・・・やっぱり一番新しいヤツかな。これなら城で身に着けていても問題ないよ」

「・・・やっぱり鞘に装飾は必要なのか?」

「ヒッキーは剣や鞘に装飾をするのが嫌なの」

「嫌と言うか・・・無駄の様にしか思えないんだ。装飾を施す分、剣や鞘が重くなるだろ、そうなれば剣が扱い辛くなるだけだ」

「確かに過剰な装飾は使うのに邪魔になるけど、ある程度装飾がないと相手に軽んじられちゃうんだよね」

「貴族や兵士の見栄ってやつか、なんとか装飾を最小限、いや装飾なしでも相手に軽く見られない剣が作れないもんかな」

「そんな剣ある訳ないよ。身分が高くなればなるほど剣に装飾をつけるからね」

「俺はその考えは絶対じゃないと思うんだ。それは昨日、戸塚に奢って貰ったミートパイと同じじゃないか」

「ミートパイと剣が同じ?どういう事」

「まあミートパイに限った事じゃないんだが、本当に良く出来た料理って言うのは変に飾りなんか付けなくても美味そうに見えるだろ」

「そう言えばそうだよね。他の店で花飾りや豪華なお皿に乗せたミートパイを見た事があるけど味の方はさっぱりだったもん」

「それに焼き立ての肉なんて焼き立ての香ばしい匂いはあるものの見た目だけでも十分

美味そうに見えるだろ」

「そうだね、変に気取ってお皿に盛り付けられるより火から下ろしたばかりの時に手渡された方が美味しいもんね」

「お兄ちゃん、だからそれは無理だって言ってるでしょ」

「しかし小町、なんか方法があると思うんだ」

「無理に決まってるじゃん、料理は食べた事があるから二度目三度目には見ただけで美味しそうと思って貰えるけど剣は実際に使わないと凄いと思って貰えないんだよ」

「うわ・・・小町ちゃん辛辣だね」

「こうやって注意しないとお兄ちゃんって売れ筋の剣を作らないんですよ」

「店の売上は落としてないだろ。俺は装飾なしでも相手を圧倒出来る剣を作る。それを絶対に諦めないぞ」

「・・・」(なるほどね、こういう所に将軍の娘は惹かれたんだな)

「戸塚、その5本の剣の内1本を選ぶなら格安にしておくぞ。元の手間賃と材料費は雪ノ下家から貰ってあるからな」

「ホント!いくら位にしてくれるの」

「そうだな・・・小町、いくら位ならいい?」

「そうだね~・・・銀貨十枚、いや大まけにまけて銀貨七枚でいいですよ」

「うわ、それでも結構高いね」

「そんな事ないですよ戸塚さん。この剣は手間賃と材料費で銀貨二十枚貰ってますからね」

「その上、雪ノ下家の次女が認めれば完成報酬として金貨五枚貰える約束になってるからな」

「剣一本で金貨五枚と銀貨二十枚!」

「ああ、だから小町の言った値段は破格の大安売りだぜ」

「・・・分かった。銀貨七枚払うよ。ただ今は持ち合わせが無いから支払いは次でいいかな」

「そうですね~、戸塚さんなら剣を持ち逃げしたりしないでしょうし」

「結衣にお姫様の事と自分の身分をばらされない為にもそんな事はしないだろうしな」

「ちょ、ちょっとヒッキー。それは絶対口外しないでよ。それがバレたと姫様に知られたらどんな罰が下るか分かったもんじゃないよ」

「それをバラして戸塚が罰せられると城の兵士とのコネがなくなるから、うちの店にとっても損害だしな」

「という事で、次回おいでの時にはお支払いの方、よろしくお願いしますね」

 そうして戸塚はヒッキーが作った剣を携え店を後にしました。さて一方、城中の司書の姫菜は混乱していました。というのも頼りにしていた大臣が突然王様の親書を携えて外国に行ってしまったと大臣直属の部下に聞かされたからです。その上、その部下からは国内の果樹園を回ってみたが三割は収穫が終わっており、残り七割の果樹園にはハート型の洋梨は成っていなかったと報告を受けたからです。

「ど、どうしよう。ハート型の洋梨が見つからないなんて、せっかく大臣が直属の部下まで使ってくれたのに。それに突然外国に行くって・・・多分リーフマウンテン王国に行ったのだろうけど、もし違う国に向かったのなら一体どうすればいいの。私じゃ兵士達に命令なんて出来ないし大臣直属の部下の人達にお願いも出来ないよ」

 

 バタン!

 

「ただいま~姫菜」

「優美子!」

 思い出の洞窟から帰って来たお姫様が綺麗なドレスに相応しくない鞄をしょって姫菜のいる図書室のドアを乱暴に開けて入ってきました。

「行ってきたよ。“思い出の洞窟”ほら、ちゃんと泉も汲んできたよ」

「これが“思い出の洞窟”の泉!?凄く綺麗な水なんだね」

「うん、なんかキラキラして綺麗だよね。それで姫菜、こっちも見て欲しいんだけど」

 そう言ってお姫様は鞄から不思議な形をした洋梨を取り出しました。

「なにコレ?」

「そう言われてもあーしにも分からないよ。それを調べて欲しくて姫菜に見せたんじゃん」

「どこで手に入れたの?」

「思い出の森だよ。森の洋梨の木に成ってたのをあーしが採ってきたの」

「これ洋梨なの!?」

「うん普通、洋梨って黄色いけどこれって薄いピンク色だし形も何というかハートっぽいっしょ。だから採って来てみたんだよね」

「じゃあ、これがハート型の洋梨!?」

「あーしも確信がある訳じゃないからさ。姫菜、これがハート型の洋梨かどうかを調べてくんない」

「わかった、調べておくね。それともう一つの材料の事なんだけど」

「もう一つの材料って・・・恋煩いの花の事?」

「うん。調べてみたんだけど、この国の恋煩いの花は絶滅してしまったの」

「え~~~っ!じゃあどうすんの」

「この国にはないけどリーフマウンテン王国の王宮に何輪か鉢植えが残っているらしいの」

「うわ・・・王宮の物なの。それってヤバくない?」

「実はさ、優美子からは国王陛下とお妃様それと大臣には内緒って言われたけど隣国の王宮管理の鉢植えじゃ内緒で手に入れるなんてできないでしょ。だから・・・」

「話しちゃったんだ・・・まあ、この場合しょうがないか」

「大臣が昼過ぎに国王陛下の手紙を携えて外国に行ったわ。多分、リーフマウンテン王国に向かったんだと思う」

「じゃあ恋煩いの花の為に?」

「多分ね。私も恋煩いの花の入手方法については詳しく聞かされてないんだよね」

「ねえ、ホントに何にも聞いてないの」

「う~ん、聞いている事と言えば優美子が直にリーフマウンテン王国に行って恋煩いの花の鉢植えを譲って貰う交渉をしなくちゃいけないって事だけ」

「あーしが直にリーフマウンテン王国に!?」

「そう。そこで優美子がリーフマウンテン王国の王族相手に交渉をするの。大臣も言っていたけど相応の見返りを要求されると思うよ」

「貴重な植物の鉢植えを譲って貰うための見返りか。何をあげたらいいの?」

「そんなの私に分からないよ。こればっかりは交渉の場でどう話をまとめるかに掛かっているんじゃないかな」

「うわ、それって一発勝負じゃネ?」

「けど、これが“魔法のリップクリーム”を作る為の試練なんだろうね」

「国のはずれの森に行く方がよっぽど楽だよ」

「・・・なら止める?」

「あーしの答えが分かってて、そういう質問するのは姫菜の悪い癖だし」

「じゃあ頑張るしかないね。取り敢えず大臣が交渉の下準備をしてくれるまでの間は優美子に出来る事は無いからさ。何が恋煩いの花の鉢植えの見返りに相応しいか考えておいてよ」

「そうだね、じゃあ姫菜はその不思議な実がハート型の洋梨かどうかの確認を頼むね」

 多少のトラブルはあったものの無事に“思い出の洞窟”の泉を手に入れ、ハート型の洋梨らしき果実も手に入れたお姫様ですが、ここに来て隣国の王室との交渉をしなくてはならなくなった事を知り“魔法のリップクリーム”を完成させるにはまだまだ時間が掛かるなと覚悟を決めました。そんな覚悟を決めた頃、同じ城内で材木座と戸塚が合流をして情報交換をしていました。

「じゃあ“思い出の洞窟”の泉は手に入ったんだね」

「うむ。姫様自身の手で手に入れる事が出来たのだが、我がボディガードをする羽目になってしまって、姫様に顔を覚えられてしまったのだ」

「じゃあ、これからは姫様の隠密の警護が出来ないね」

「大臣が外国から帰ってくるまでの間は我の後任が決まらない故、戸塚氏だけで姫様の警護をする事になるな」

「まあ、それはなんとかするよ。新しい剣も手に入ったしね」

「その細身の剣か。そんなに細い剣で護衛が務まるのか?」

「まあ見た目はこんなに細身だけど凄い性能なんだよ。見せてあげようか」

 そういうと戸塚は近くにあった太い薪を一本、自分の真上に放り投げると虚空に浮かぶ薪を細身の剣で真っ二つに切り分けました。それを目の当たりにした材木座は驚きの表情で

「な、なんと!?」

「凄い切れ味でしょ。それにほら、刃こぼれも歪みもないんだよ」

「ほ、本当だ。何なのだこの剣は?どこで手に入れたのだ」

「これは僕が調査しているヒッキーが作った剣なんだ。雪ノ下将軍の次女からの特注品の失敗作なんだって」

「それで失敗作だと!では完成したらどれほどの剣になるというのだ」

「それは僕にも分らないよ。ただ、カフェの結衣さんや将軍の次女が惹かれるのが分かった様な気がするんだよね」

「むむむ、それ程の男だとは。これは一筋縄では行かんな」

「そうなんだよ。本人が自分が貴族の娘と城下町で評判の看板娘に想いを寄せられてるとは思ってないみたいだし、その上、妹の面倒を見ているから結婚自体を考えてないみたいなんだよね」

「鈍感で家族思いで刀鍛冶としての腕が良いとは・・・少々、主人公補正が入り過ぎだな。我はそんな男は認めん」

「あれは中々の難物だよ。それこそ魔法のアイテムでも使わないとその気にならないんじゃないかな」

「とにかく今後の事もあるから姫菜の所に行って情報を集めようではないか」

「大臣が帰ってくるまでの間、姫様は城外に出掛けてるのを止めたりしないだろうし、出来るだけ情報を共有しよう」

 

― 続く ―

 

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