魔法のリップクリーム   作:Z-Laugh

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第五話

 最初は只の偶然だったのです。陽乃が貴族の友達と馬で遠乗りをしてその際に立ちった果樹園でハート型の洋梨を偶然見つけ興味本位で木から採ってしまっただけなのです。詳しい事を何も知らない貴族の娘が果樹園でオーナーへの断りなしに果実を採っただけだったのです。しかし、その果実が貴重な魔法薬の材料であり果実を採った人間以外ではその効果を十分に使い切れないという説明を果樹園のオーナーから受けた彼女は止む無く果樹園のオーナーの言い値で果実を買い取り屋敷まで持って帰って来てしまいました。

「どうしようなか、コレ」

 困った陽乃は屋敷の出入り商人に損覚悟でハート型の洋梨の買い取って貰う事を前提に話を聞き、使い道を詳しく教えて貰いそこで初めて“魔法のリップクリーム”の事を知りました。“魔法のリップクリーム”の話を初めて聞いた陽乃の脳裏に真っ先に思い浮かんだのは妹の雪乃の事でした。次女という比較的自由がきく立場でありながら陽乃への対抗意識で名門貴族である家の家訓を厳格に守り、その品行方正ぶりは堅苦しい程でした。もし自分が次女で雪乃が長女だったら・・・自分はもっと自由に生きられたのではないだろうか?家の将来を考えたり親の言う事などを聞くのは最小限に留め自分の生きたい様に生きられたのではないだろうか?陽乃はそんな気持ちをいつも心の中に抱えていたのです。そしてその反動は頑なな妹をからかうと言う幼稚な方法でしか発散出来ませんでした。しかし、そんな妹が一人の男に関心を持ち始めたのです。

「あら、ヒキ鍛冶屋君。相変わらずやる気のない目をしているのね。それでまともに仕事が出来るのかしら?」

「おかしな名前で呼ぶな。来世で似たような名前になっちまったらどうすんだよ。それと目は仕事と関係ないだろ。それより今度こそOK出して貰うからな」

「安心しなさい、あなたの来世はハエかミミズなのだから名前などつかないわ。それと仕事のやり直しは回数ではなく改善ぶりが重要なのよ。そんな事も分からないなんて、いよいよ劣った人間ね」

「全く、俺の顔を見る度に劣っているだ何だと貶しやがって折角の綺麗な顔が台無しだぞ」

「な!な、何を突然言い出すのかしら。確かに私は美少女で聡明であるけど」/////

「なにキョドってんだよ?それと特注の剣の出来具合を見ようって時にそんなフリフリの飾りがついたドレスを着るのはやめた方がいいぞ。飾りが剣に引っ掛かって折角のドレスが破れちまうぞ」

「そ、そんな・・・そんな事はあなたに心配されることではないわ。それに私がそんなミスをするとでも思っているのかしら」(そんな・・・せっかく頑張って選んだドレスなのに)

「わかったわかった。ほら、さっさと見てみてくれ。これでも結構忙しいんだから」

見た事が無い程に喜怒哀楽を顔に出しながらお喋りをする妹を見て陽乃は思いました。せめて妹だけは家の事情など関係なしに好きな人と結ばれて欲しい。長女である自分はきっと名門貴族という家の都合で生涯の伴侶を決められて婿を取らされ恋愛をする機会など絶対に無いと思っていたので“魔法のリップクリーム”の事を知った陽乃はその気持ちを一層強く固めたのです。

「恋煩いの花は隼人王子の返事待ちだし・・・やっぱり先に“思い出の洞窟”の泉を手に入れておくか」

 5回目の作り直しをヒッキーという鍛冶屋に命じながらも自分から彼に会いに行く雪乃を見送った陽乃は乗馬服に着替えてガラスの小瓶が入った鞄を背負い、腰に剣を差してさながら女騎士といった風情で馬に跨り“思い出の森”へと出掛けて行きました。

 

「ごめんください」

「は~い、いらっしゃいませ」

「こちらのお店には女性に扱い易い武器が揃っていると聞いて来たのですが」

「女性に扱い易い・・・ああ!戸塚さんに聞いたんですね」

「ええ、初めまして私はお城の図書室で司書を務めます姫奈と申します。城の兵士の戸塚君からここのお店には女性に扱い易い軽い武器が多く揃っているからと紹介して貰ったんです」

 ヒッキーの鍛冶屋にやって来た姫菜は店番をしていた小町と話し始めました。

「そうですか、それはそれは」(やっぱりお城の兵士とコネが出来ると違うな~♪)

「それで女性にも扱い易い武器って、どんな物があるのでしょうか?」

「そうですね~、ナイフや短剣あたりが普通ですけど人によっては軽い長剣なんかも買っていかれますよ」

「そうですか、なら・・・おススメの長剣を見せて貰ってよろしいでしょうか」

「おススメの長剣・・・ちょっと待っててくださいね」

 姫菜に一言そう断ると小町は店の奥に入って大声で叫びました。

「お兄ちゃ~ん、お客さんだよ。軽い長剣を探してるんだって」

 すると少しの間をおいて店の奥から小町に引っぱられながらヒッキーが出てきました。

「お兄ちゃん、この人、お城で働いている姫菜さんって言って戸塚さんの紹介で軽い長剣を探しに来たんだって」

「そうか、それはようこそ。それなら良い剣がありますから今、倉庫から持ってきますよ」

 そういうとヒッキーは倉庫から雪乃の特注した剣の失敗作である4本の剣を持ってきて姫菜に見せました。

「剣は実際に手に持ってみなければその真価が分かりません。どうぞ手に取ってみて下さい」

「はあ・・・」(剣なんて持った事ないよ)

 恐る恐るといった感で姫菜は4本のうちの1本の剣を手に取り鞘から抜いて見てみますが

「剣って結構重たいんですね」

「やっぱり剣を扱うのは初めてですか。女性が長剣を買う事など滅多に無いですからね」

「はぁ、恥ずかしながら長剣を手にするのは初めてなんです」

「なら・・・この剣と比べてみて下さい。こちらの剣はごく一般的な物ですから」

 姫菜はヒッキーに薦められるままに、その剣を手に握ると

「アレッ!?全然違う!」

「そうでしょ、実際に鞘から抜いて比べてみて下さい」

「・・・うわぁ!凄く重い。最初剣が凄く軽く感じますね」

「最初にここに持ってきた4本の剣は特別でしてね。あなたにこの店を紹介した戸塚もこれと同じ種類の剣を買っていったんです」

「そうだったんですか。すみません、最初に重たいなんて言っちゃって」

「気にしないで下さい。初めて剣を持ったのなら当然の感想ですよ。それでどうしますか?その剣を買っていかれますか?」

「う~ん・・・」

「待ちなさい!ヒキ鍛冶屋君」

 戸塚の口コミの効果が早く表れた事もあってヒッキーは姫菜に滅多にしない様な笑顔でセールストークをしていたのですが、その様子を店の奥から見ていた雪乃が猛然とヒッキーを止めました。

「わっ!なんだよ突然出てくるな。接客中だぞ」

「そんなの関係ないわ!あなた何をそんなにいい笑顔をして私が特注した剣を他人に売ろうとしているのかしら?」

「鍛冶屋が自分で作った剣を客に売って何が悪い」

「その剣は私が代金を払った言わば私の所有物よ。それを勝手に売るなんて信じられないわ」

「お前から貰ったのは材料費と手間賃だけだ。商品代金って言うなら完成報酬を払えよ」

「材料費と手間賃と言っても手付金と同じであって、あなたがそこまで好き勝手出来る権利は無い筈よ」

「そんなに不満なら剣5本分の材料と同じ鉄と銀を返そうか?手間賃は返せないが材料費を返せって言うなら材料現物で返してやるぞ」

「そ、それは・・・」

「鍛冶屋の仕事なめんなよ。材料費だけで剣が手に入るなんて思い上がりもいいトコだ。別に剣に限った事じゃない、商品の値段って言うのは材料費と手間賃と店の儲けで出来てるんだ。貴族だからって好き勝手言ってんじゃねえ」

「くっ・・・相変わらず屁理屈だけは達者なのね」

「とにかくお前からダメ出しされた5本の剣は俺の好きに売らせてもらうからな」

 ヒッキーが雪乃の言い分を跳ね除け雪乃がふくれ面をしているとその様子を見ていた姫菜が

「あの~、そこまで言って貰って何なんですけど、やっぱり私に剣は無理かな~と・・・」

「お客さん、え~と・・・姫菜さんでしたっけ。別に遠慮する事ないんですよ。こんな貴族のワガママ娘は放っておけばいいんです」

「誰が貴族のワガママ娘なのかしら、あなたこそいつまでも出来もしない理想を追いかけてるワガママでしょ」

「職人が一生懸命技術の研鑽をして何が悪いんだよ」

「なら私が理想の剣を求めるのも問題は無いわよね」

「う!それは」

「それに扱えもしない剣を無理に売りつけるなんて商売人にあるまじき行為だわ。ちゃんとお客様を見て相応しい武器を薦めるべきよ」

「雪ノ下様の仰る通りですよ。やっぱり私には短剣くらいが丁度いいと思います」

「雪ノ下様って、姫菜さんはこいつの事を知ってるんですか?」

「ええ、お城では結構な有名人なんですよ。それに先ほどもカフェでお会いしましたし」

「カフェで会ったって?」

「ええ、この方と、とあるとても身分の高い方が結衣さんのカフェにいらしたわ」

「じゃあ、さっき話してたカフェで面白いモノを見たってその事だったのかよ」

「また、あの人に会えるかもしれないし、あのカフェのミートパイはとても美味しかったから近い内にまた差し入れに来てあげるわ。頑張って私の注文の剣を完成させるのよ」

 雪乃はそう言って話を断ち切ると店から出て行ってしまいました。残されたヒッキーと小町は顔を見合わせてから姫菜に注目します。

「あの~、姫菜さん?」

「な、何かな小町ちゃん」

「・・・私まだ名乗ってませんでしたよね」

「・・・あ!そう!戸塚君に聞いてたんだよ。凄く可愛い看板娘がいるって」

「ひょっとして・・・カフェで雪乃さんが見たとても身分が高い人って・・・」

「あ!いけない!用事思い出しちゃった。じゃあ私はこれで」

 お姫様が一緒にいた事を感づかれたくない姫菜は大慌てで店を出ようとしますが、それを止める様にヒッキーが姫菜に言いました。

「お姫様でしょ、優美子姫。戸塚が自分の正体を見抜かれて洗いざらい話していったからあそこまで言われりゃ分かりますよ」

「・・・それも戸塚君から聞いてます・・・やっぱりバレバレですかね」

「ええ。けど、この事を周りに言いふらすつもりはありませんから安心して下さい」

「助かります。お忍びの城下町歩きは姫様の何よりの楽しみなんです。それにカフェの結衣は姫様にとって城外唯一の友達なの、どうか姫様の正体を結衣には言わないで」

「そんなに念押ししなくても大丈夫ですよ。私もお兄ちゃんも刀鍛冶と武器商人なんて仕事をしてるせいで口はかなり堅いですから」

「そうですよ。それにその事がばれて城の人達が店に来なくなる方が困りますからね」

「そうそう、ほらお兄ちゃん。さっさと工房に戻ってこれから来る兵士さん達の為に沢山剣を作って頂戴。それと雪乃さんの注文も早く完成させてよね」

「お、おい小町。そんなに押さなくても工房に戻るから・・・姫菜さん、短剣とかナイフもありますからゆっくり見て行ってください」

 そうして小町に引っ張ってこられたヒッキーは小町に押されながら店の奥に消えていきました。そして店内が小町と姫菜の2人だけになると小町が姫菜に向かって

「で、姫菜さん。今日のご用向きは何なんですか?」

「え、だからそれは女性に扱いやすい剣を買いに」

「ここまで来たら、そんな駆け引き止めましょうよ。もし姫菜さんがお姫様のお伴で結衣さんのカフェに来てたんだったら姫菜さんが城下町でお姫様と別行動とったりしませんよね」

「・・・」(この子鋭すぎ)

「その上、武器に興味が無い、名門貴族の娘が店の奥から出てきても驚かない・・・これってうちの店に雪乃さんがいるのを知ってて来たんですよね?」

「え、いや、それは」

「結衣さんの所に顔を出して、雪乃さんがいると知っていてうちの店に来る。狙いはお兄ちゃんの人間関係の調査ですね!」

「・・・降参です。小町ちゃん、武器屋の売り子なんかより政治家になった方がいいよ。お城の中の下手な貴族よりよっぽど頭の回転が速いもん」

「ありがとうございます。で、私は何をどこまでお教えすればいいんでしょうか?」

「うん、結衣と雪乃様がヒッキーさんと、どれ位の距離感なのかを知りたいんだよね」

「ああ、それなら見ての通りですよ。結衣さんも雪乃さんもお兄ちゃんが気になっているけどこれという行動を起こせてなくて鈍感なお兄ちゃんが2人を泣かせているという状態です」

「簡潔明瞭な説明いただきました!ホントに凄いね小町ちゃんは」

「お兄ちゃんが鈍感な分、私が敏感なんですよ」

「お兄さん、ヒッキーさんもそう鈍感そうには見えないけどね。じゃあ雪乃様の注文はどんな感じなの?すぐにでも完成しそうなの?」

「う~ん・・・それは何とも言えませんね~。とにかく寝る間を惜しんで研究をしながらの鍛冶仕事ですからね。姫菜さんに持ってもらった剣だって従来の剣に比べたら革命的に軽量化されてるんです。その上、余計な装飾を施さなくても相手を圧倒するなんて訳の分からない機能を追加しようとしてますからね」

「え~、剣に装飾をつけずに相手を圧倒?そんな事が出来るの?」

「私は無理だと思うんですけど、お兄ちゃんは絶対出来るって考えを変えてくれないし

その上、雪乃さんが実質それを応援する形になってますからね。まあ、あの2人が諦めるまでは試作が続くと思いますよ」

「うわ、それは長期戦になりそうだね」

「もう、さっさと身を固めてくれればいいのに。そうすれば私は他の仕事に挑戦したりリーフマウンテン王国にいるお父さんとお母さんの所にも遊びに行けるのに」

「え、ご両親はリーフマウンテン王国にいるの?」

「ええ、お父さんも刀鍛冶で腕を買われてお母さんを連れて長期出張中です。向こうで店を作っちゃった位だから、もうここは私とお兄ちゃんに譲るつもりなのかも」

「なるほどね。あなたのお兄ちゃんの立場が良く分かったよ。ありがとうね小町ちゃん」

「お役に立てて光栄です・・・と言いたい所ですが、このまま聞き逃げは少々虫が良すぎませんか?姫菜さん」

「え、どういう事?」

「情報は立派な商品です。商品の値段は材料費と手間賃と店の儲けで出来てるんですよ」

「・・・要するに、何か買えと!?」

「はい、お安くしときますよ」

「ここで断ったら、この先情報提供は?」

「ありません!姫菜さん単独で情報を集めて下さい」

「もう、わかったよ。じゃあ護身用の短剣かナイフを見繕ってよ」

「う~ん、この長剣じゃダメですか」

「雪乃様も言ってたじゃん。使えもしない人間に長剣を売るのは良くないって」

「まあ、そうなんですけどね~。けど、これってホントにおススメの物なんですよ。お兄ちゃんが作ったとか身内がどうとかを抜きにしても本当に凄い剣なんです」

「けど、使えない物にはお金を払えないよ。せめて同じ製法の短剣かナイフじゃないと」

「あ!そっか。それいいですね。画期的に軽い長剣を応用して画期的に軽い短剣やナイフ。それアリですよ。じゃあ姫菜さん、お兄ちゃんが同じ製法の短剣かナイフを作ったら絶対買ってくださいね。完成したら結衣さんに伝言しておきますから」

「はいはい、買わせていただきますよ。但し出来るだけ安くしてよ」

「そうですね、銀貨十五枚ってとこで納得してください。この値段には今後の情報料も

含みますのでヨロシクです」

「じゅ、じゅうご・・・兄妹そろって曲者だね」

「毎度アリ~♪」

 そうして姫菜は我が身ならぬ我が財布を犠牲にしてヒッキーの情報を手に入れました。そしてその三日後の事です。お姫様が両親である国王様とお妃様に呼ばれました。

「お父様、お母様、何か用?」

「うむ、じいから聞いたがお前は今、城外の友人の為に魔法薬を作ろうとしているらしいな」

「はい、全部で三つの材料の内二つ揃ったから」

「そうらしいな、それもじいから聞いておる。して優美子よ、最後の三つめの材料である恋煩いの花の入手の事なのだが、先日じいが私の親書をもってリーフマウンテン王国に行ってお前とリーフマウンテン王国の隼人王子との会談を決定してきたのだ」

「リーフマウンテン王国の王子と会談!?」

「表向きは両国の次代を担う若者同士の会談という事になっておる」

「表向きって、じゃあその会談の真の狙いは恋煩いの花を入手する事なの」

「その通りだ。お前も王室の人間なら他国の王室の人間と堂々、交渉をして欲しい物を手に入れてくるのだ。これは優美子の将来の為の試練でもあるのだぞ」

「じいがそこまでしてくれたんだ・・・うん、何としても恋煩いの花を手に入れてくる」

「うむ、その意気だ。ただ王室管理の貴重な植物の鉢植えを譲って貰うのだから相応の見返りが必要となってくるぞ。何か準備はしてあるのか?」

「ここ数日、その事ばっか考えてたけどあーしは恋煩いの花の鉢植えの対価として去年の誕生日にプレゼントして貰ったネックレスをあげようと思うんだよね」

「なに!あの大きなルビーの着いたネックレスの事か?」

「うん、あれも貴重な品だし、貴重な鉢植えの見返りには丁度良いかなって」

「アレを手に入れるのにどれほど手が掛かったか分かっておるのか。あれは金貨六百枚もの大金を払って手に入れたのだぞ」

「大丈夫、お父様のお気持ちはちゃんとあーしの心に残ってから。品物がなくなっても問題ナシ!」

「ふぅ、そこまで言うのなら、それでやってみるがいい。ただ、それでも不足する可能性もあるから交渉の予算として金貨千枚を認めてやろう」

「金貨千枚!」

「無論だ。しかし予算があるからと言ってむやみに金を使ってはならぬぞ。如何に少ない犠牲で結果を出すか。これが今回の課題の出来不出来の判断材料となるだぞ優美子」

「確かに、花一輪の為に金貨を何百枚も使えないし、これって城外の友達の為で言わば

あーしのワガママなんだから出来るだけお金を使わない様にしてみる」

「その通りだ。決して無礼が無いように、そして弱みを見せず交渉をしてくるのだ」

「わかった。で、いつなの会談って?」

「五日後に城を出発してその翌日にリーフマウンテン王国の王宮で会談をしてもらう手筈になっている。道行にはじいを随伴させるから安心しなさい」

「じいが一緒に行ってくれるんだ。なら安心だし。じゃあ、あーしは会談の準備を始めっからありがとうお父様、お母様」

 そうしてお姫様は謁見の間から出て行ってしまいました。

「あなた、お見合いの意味もあるという事は言わなくて宜しかったのですか?」

「優美子の場合は一つの目標を追わせた方が良い結果を出すと思ってな。それにあの子は見合いをした事が無いから、そんな事を言ったら成功する会談も失敗してしまうだろう」

「しかし、あの喋り方と言い、立ち振る舞いと言い、やはり先方の予備知識を与えておいた方が宜しいのでは?」

「それは心配のし過ぎという物だ。あの子はあれで中々要領が良い。これまでパーティーや城の催し物などでボロを出した事が無いからな。状況に応じて態度を変える位は簡単にやってのける筈だ」

「上手く行くといいのですけど」

 そうしてお姫様は城下町の結衣の所にも顔を出しつつも大臣や姫菜といろいろ相談しながら会談の準備を進めました。そして会談まであと三日となった日の夕方の事でした。お姫様がいつも通り城下町からお城に帰って来た時、お城の近くの建物の陰からお姫様を見つめている女性がいました。青みがかった長い髪をポニーテールにして、その服装は女性でありながらパンツルックにジャケット姿、そして腰には剣を差して騎士の様な服装です。

「ふ~ん、お姫様の城下町遊びはほぼ日常って事でよさそうだね。それに随分とワガママ娘だって評判みたいだし。これなら報告内容がぶれたりせずにいい報告が出来そう」

 青い髪の女騎士は一人そうこぼすとお姫様がお城の中に入っていくのを見届けてから、その場を離れようとしました。しかし、その眼前には戸塚が立っていました。

「お嬢さん、お城に用事ですか?」

「なに言ってんの。アンタには関係ないでしょ」

「今日でもう四日ですよね。気付いてないとでも思ってたんですか?」

「あ、あんた・・・」

「姫様を付け回したりして一体何が狙いですか?」

「あんた、城の人間か?」

「質問をしているのは僕の方だよ、お嬢さん。あなたはどこの誰で姫様を付け回す目的は何なんですか?」

「聞かれて、ハイハイと答える訳が無いだろ」

「なら力づくで聞くしかないのかな。出来れば女性に手荒な真似はしたくないんだけど」

 そう言って戸塚はコートに隠していたヒッキー特性の剣を取り出しました。それを見た青い髪の女騎士も腰の剣を抜いて構えます。

「そんな細い剣であたしを倒せるなんて思わない方がいいよ」

「お喋りは君を倒した後に聞いてあげるよ」

 そして一瞬の静寂の間が空いた次の瞬間、2人は同時に踏み出してお互いの剣をぶつけ合いました。アロンジェ・ル・ブラ、クードラ、突いては引き、引いては突く、時折大きな動きで相手を惑わそうとしたりと2人の剣の腕前は互角でした。しかしそんな戦いをしている最中、青い髪の女騎士は自分の正体を知られたくないせいか、まだ相手の姿勢を十分に崩しきれてないにも関わらず大技であるフレッシュ(=飛び込み斬り・突き)を繰り出しました。しかし十分な姿勢だった戸塚はそれを同じ速度の横の動きでかわしてから姿勢の崩れた青い髪の女騎士の剣めがけて自分の剣を斜めに振り下ろしました。キンッ!ごく短い金属音と共に青い髪の女騎士の剣は真っ二つに切断されてしまいました。

「ひょっとしたらと思ってたけど、ホントに出来ちゃうなんて本当に凄い剣だな」

 相手の剣を折るのではなく切断した手ごたえを感じた戸塚が独り言を漏らすと剣を切断された青い髪の女騎士は茫然として、その場に膝をつきました。

「な、なんだよその剣?剣を斬る剣なんて聞いた事が無いよ」

「僕も初めてだよ。これまで何度か剣を折ったり曲げたりしたことはあったけど切断したのは初めてだよ」

「この国の騎士はみんなそんな剣を持っているのか?」

「お喋りはお城でしようか・・・勝敗は決したんだから下手な抵抗はしないでね」

 そうして青い髪の女騎士は戸塚に剣を突き付けられたまま城門脇の兵士の詰所に連行され洗いざらいを喋らされました。

「そうか、君はリーフマウンテン王国の警備隊所属の騎士で名前は沙希って言うんだね」

「ああ、王子様の命令でアンタの国のお姫様の調査をしてたんだよ」

「もうすぐ姫様と君の国の王子様の会談があるもんね。その下準備って事かな?」

「え!王子様とアンタの国のお姫様が会談?それは知らないよ。私はお姫様の調査を命令されただけだからさ」

「そっか、君は国からここまで移動して今日まで姫様の調査をしていたんだもんね。会談開催が決定した事なんて知る訳ないよね」

「・・・で、あんた私をどうするつもりなの?」

「まあ、姫様を付け回しただけで危害を加えた訳じゃないしね。別に首をはねたりするつもりは無いけど」

「けど、なに?」

「会談の前に余計な予備知識が君の国の王子様に知られたりしたら姫様の交渉が上手く行かなくなっちゃう可能性があるし、会談が終わるまでは牢屋にいて貰おうかな」

「・・・わかったよ。どう頑張っても逆らえる状況じゃないしね」

「大丈夫、牢屋に入っては貰うけど食事はちゃんと出すし出来るだけのもてなしはさせて貰うからさ。姫様の会談前にリーフマウンテン王国の騎士様に無礼は出来ないもんね」

「この国の騎士は随分甘いんだね。外国のスパイをそんな風に扱うなんて」

「あいにく僕は騎士じゃなくて平民出身のただの兵士だよ。だからこんなに甘いんだ」

「え!あんな凄い剣を持ってるのに平民出身のただの一兵卒!?」

「あの剣は僕が個人的に手に入れた逸品でね。そうそう簡単に手に入らないと思うよ」

「この国の鍛冶屋は凄いんだな」

 そうして沙希は腰に切断された剣を差したまま牢屋へと連行されていきました。

 

― 続く ―

 

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