魔法のリップクリーム   作:Z-Laugh

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第六話

 ~お姫様とリーフマウンテン王国の王子様が会談をする二日前~

 

「隊長、優美子姫の調査に向かった密偵はまだ戻らないのか?」

「ははっ王子。国境まで馬を準備し、急ぎ城まで戻って来れる様に準備をしているにもかかわらず、未だ戻ってはおりません」

「そうか、これは調査に失敗をしたかもしれないな」

「その可能性は高いように思われます」

「隊長、密偵の人選はどの様にしたのだ?」

「隣国の姫君の調査という事で同じ女性の方が何かと調査がやり易いと考え警備隊所属の女騎士にその任を任せました」

「警備隊所属の女騎士というと・・・沙希か!?」

「あの者であれば女性であるというばかりではなく剣の腕前も男に引けを取りませぬ」

「確かに彼女が今回の任務には一番適していたのだろう。しかし結果が出ないのでは困るな」

「申し訳ございません。少々、この任務を軽く考えておりました」

「隊長、それはどういう事だ?」

「隣国の姫君の調査だけという暗殺や誘拐などとは違い比較的容易な任務と考え、私は調査に彼女一人だけを派遣したしました」

「もう少し慎重に考えれば私も密偵を複数放つ様に命令する事が出来たのだしな」

「いえ、私は決して王子のご命令が十分ではなかったという事ではなく、あくまで私の見込みが甘かったと申し上げておるのです」

「ふふ・・・言われなくても分かっている」

「では、いかがいたしましょうか?十分な調査は無理ですが隣国で噂話の収集程度ならば一日もあれば可能でございますが」

「そこまではしなくてもいい。これ以上の手間を掛ける事は無い。それよりも沙希は一体どうしたのだ?」

「・・・考えられるのは二通りかと」

「二通り?」

「一つ目は隣国に向かう途中か、ここに戻る途中に事故に遭った可能性。もう一つは調査の事が隣国にバレて囚われているか処刑されたかでございます」

「事故の線は考えにくいな。隣国への道はなだらかで途中危険な場所など無かった筈だ。現に同じ日にこの城を出発した隣国の大臣は無事に隣国帰り着いている。そうでなければ会談のセッティングが出来る訳が無い」

「となりますと囚われたか・・・」

「処刑されたかだろう。沙希に家族は?」

「両親に弟と妹がおります」

「そうか・・・万が一の場合には家族に見舞金を出してやれ。それと人質交換の要求があった場合には出来る限り善処をする様に。むやみに切り捨てない様にしろ」

「ご厚情、感謝いたします」

「私に出来る事はそれ位だからな」(どうやら会談はぶっつけ本番になりそうだな)

 さて、その頃リーフマウンテン王国の女騎士の沙希がお姫様の事を調べていた事と戸塚の手によって捕まり牢屋に入れられた事が大臣に知らされました。

「戸塚、それはでかした。如何なる理由があろうとも姫様を付け回すなど言語道断。それにお主の言う通り会談に向けて先方の王子様に余計な入れ知恵をされては溜まらんからな」

「大臣、それでは沙希さんへの対応は私が言った通りで宜しいでしょうか?」

「うむ、姫様の会談が済み次第、釈放するがいい」

「しかしリーフマウンテン王国も結構エグい事をしてきますね、大臣」

「姫菜、この程度の事は外交に置いて当たり前だ。それより姫様が“思い出の森”で採って来られた果実はハート型の洋梨で間違いないのだな」

「はい、材木座君が城の専門家と城下の魔法アイテムショップを回って確認出来ております」

「なかなか順調であるな。戸塚氏と姫菜殿がヒッキーなる人物と事情を話した上で知り合いになれたというのも素晴らしい実績である」

「材木座の言う通りじゃ。それにヒッキーの鍛冶の腕前が非凡である事は我が国にとっても喜ばしい報告じゃ」

「そうですよね。沙希さんと僕の剣の腕前はほとんど同じだったのに、あの剣のおかげで圧倒出来たんですから」(´▽`)

「しかし私はそのせいで銀貨十五枚の買い物決定ですよ」( ;∀;)

「ははは、姫菜よ。それについては城から少し金を出してやろう。安心するがよい」

「本当ですか!助かります」

「大臣、僕の剣の分は・・・?」

「分かった分かった、それも出してやろう」

「助かります、さすがに剣を斬るなんて無茶をしたらからヒッキーに剣のメンテナンスも頼みたかったんです」

「むむむ、高価ではあるが相応の性能ならば我も何か購入するか」

「よかろう材木座、お主もヒッキーの鍛冶屋に行って何か武器を購入してくるがいい。ヒッキーの様子を知る上で彼を知る人間が多い方が良いだろう」

「じゃあ材木座君は姫様がリーフマウンテン王国に行っている間に僕と一緒にヒッキーの店に行ってみようよ。まだ、僕が買った剣と同じタイプの剣が残っている筈だよ」

「うむ、その剣にも興味はあるが我としては姫菜殿が買わされる予定の短剣かナイフに興味があるのだ。我の得意武器は槍であるが姫様の護衛をする時には槍を持って歩く訳にもいかぬからな」

「ふむ、材木座よ。その事であるがお前には姫様の護衛を外れて貰う事にした」

「う!やはり我の姫様の護衛はまちがっている」

「聞けばお前は姫様に顔を知られてしまったとの事。しかし姫様を守る上での事故でありお前のミスではないのだから決して左遷の様な事はするつもりは無いから安心しろ」

「あ、ありがたき幸せ・・・助かった」(´Д`)

「それで材木座には今後は姫様の護衛を務めて貰う」

「「「は?」」」

「3人とも不思議そうな顔をするな。材木座には今後姫様が城下町に出掛ける際には堂々と姫様の護衛をしてもらう」

「大臣、それはどういう事でございましょうか?」

「うむ。姫様の城下町めぐりは以前から城内で公然の秘密であったが、今回の件で姫様にとってはその事が初めて国王様とお妃様とワシにバレた事になっているのだからワシとしてはこのまま放っておく訳には行かないのだ」

「なるほど、ですから改めて姫様が知った上での護衛をつけるのですね」

「その通りじゃ。表向きは材木座のみを護衛として、その上で戸塚は従来の通り陰ながらの護衛を続けるのだ」

「うわ~、これは姫様が私に愚痴りに来るだろうな~」

「それに我もさぞ、煙たがれるであろうな」

「それもお前達の役目の内だ。辛抱せい」

「「は、はぁ・・・」」

(よかった。陰ながらの護衛役で)

 そうして翌日に大臣はお姫様の会談に随伴して再びリーフマウンテン王国へ出発しました。戸塚、材木座、姫菜の3人はヒッキーの鍛冶屋に向かいました。

「いらっしゃいませ。あ!戸塚さん、姫菜さん」

「こんにちは小町ちゃん」

「こんにちは、今日はヒッキーはいないのかな?剣のメンテナンスを頼みに来たんだけど」

「むほぉ!この様な小さな店で本当に優れた武器が手に入るのか」

「あの・・・誰ですか、この人?」

「恐がらなくてもいいよ、この人は僕の同僚の材木座君だよ。僕の剣を見てこの店に興味を持ったから連れて来たんだ」

「左様!我は城で兵士を務める材木座義輝と申す。戸塚氏が手に入れた剣を拝見したが

あの性能には驚愕した。是非、他にも良い物が無いか拝見したい」

「そうだったんですか。私はこの店の看板娘の小町と言います。よろしくお願いします、材木座さん」

 小町がカウンター越しに頭をペコリ_(._.)_と下げると、材木座は戸塚を捕まえて狭い店内の隅に連れて来てから小声で

「ど、どうすればよいのだ?お、お願いされてしまったぞ。こ、これ、コレが運命の出会いと言う奴なのか?戸塚氏」

「材木座君・・・ホントに女性に免疫ないんだね」

 その様子を見ていた小町と姫菜は

「あの2人どうしたんですか?」

「ああ、ダイジョブ放っておいていいから。で、私のヤツはどうなってる?」

「それなら!ちょっと待っててくださいね」

 小町は姫菜の質問のウインクをして応えると店の奥に行ってヒッキーを連れてきました。

「ああ、姫菜さん。この間は小町にいいアイデアをくれて、ありがとうございました。早速作ってみましたよ」

「ホントですか」

「ええ、これです。ちょっと見て貰えますか」

 そう言ってヒッキーは店のカウンターに長さ三十㎝、幅四㎝、厚さ二㎝程度でその端に丸みを帯びた銀色に輝く棒を置きました。

「これは?」

「姫菜さんのアイデアを元に作った短剣ですよ。どうぞ手に取ってみて下さい」

「これが短剣なんですか?」

 姫菜は恐る恐るヒッキーがカウンターに置いた銀の棒を手に取ります。その様子を小町と戸塚と材木座が見守ります。姫菜が銀の棒の両端を両手で持つとカチリと小さな音がして中から刃が出てきました。

「え!コレ、柄と鞘だったんですか?」

「なんと!姫菜殿、もう一度刃を鞘に戻してくれ。柄と鞘のつなぎ目が分からなかったぞ」

「ホントだ。凄い、こんな事が出来るんだ」

「小町も初めて見た時は皆さんと同じ反応でしたよ。本当に飾りや鍔(つば=剣を握る手を守る金具)が全くなくてただの棒にしか見えないですもんね」

「これはあくまで護身用に特化した短剣なんだ。だから日頃は腰に差すんじゃなくて服の中にしまって置く物だ」

「しかし、これは余りにシンプル過ぎるのでは無いのであろうか」

「これはイザと言う時、剣が服に引っ掛かって剣を取り出せなくなるのを防ぐ為のデザインなんです。余計な飾りや大袈裟な鍔は服の中から短剣を取り出す邪魔になるでしょ」

「なるほど!人に見せる事を前提にしていないのだから飾りなど必要は無いのだな」

「それに凄く軽い。とても刃が入った短剣と鞘とは思えない」

「ホント!?ちょっと僕にも持たせてよ・・・本当だ、なにコレ短剣の重さじゃないよ」

「戸塚が買ってくれた剣をベースに短剣を作ったんだ。軽くて懐にしまい易くて取り出し易いこれぞ護身用の短剣って感じだろ」

 ヒッキーが得意気な表情で短剣の自慢をすると、それに対して材木座が戸塚から短剣を奪い取る様に手にすると

「本当に軽いのだな。しかし、これで本当に短剣としての性能は発揮出来るのか」

「材木座さん、戸塚さんの剣を見たんじゃないんですか?同じ製法の短剣ですよ。同じ性能に決まってるじゃないですか」

「材木座?あなたは?」

「我は城で兵士を務める材木座義輝と申す。戸塚氏の剣を見てこの店にやって来たのだ。この短剣の性能を拝見したい」

「・・・いいでしょう。ならそこの古い甲冑にその短剣で斬り付けたり突いたりしてみて下さい」

「その甲冑にか?これは売り物ではないのか」

「ええ、売り物ですが、正確には売れ残りですよ。この先売れる見込みもありませんし・・・その剣を気に入る人が増えれば、それをどけてその短剣を陳列しようと思いまして」

 ヒッキーはニヤつきながら材木座に試し斬りをする様に進言、というより挑発をしました。それを聞いた材木座は短剣を頭上に差し上げて

「どっせーーーいっ!」

掛け声と共に短剣を古い甲冑に向かって振り下ろすと腕を振った軌跡を記録する様に甲冑に斬り目が出来ました。短剣の切れ味に材木座、戸塚、姫菜の3人ばかりか小町までもが驚きましたが材木座は戸惑いつつも続けて短剣を脇に構え体ごと甲冑に突進すると衝突音ではなく金属がこすれる様な音がして短剣がいとも簡単に甲冑を貫き材木座は突進の勢いを減速する事無く甲冑に衝突して大きな音を立てながら甲冑と一緒に転倒してしまいました。

「な、なんと!何の抵抗も無しに甲冑を貫いただと・・・」

 材木座は床にへたり込む様にしながら驚愕を露わにしましたが、今度はそのまま膝立ちになり隣に転がっている甲冑に向かって腕の力だけで短剣を突き立てました。すると、やはり短剣は簡単に甲冑を貫いてしまいました。材木座はその切れ味に驚き、その余りに短剣を甲冑に差したまま手を離し自分の手で試し斬りをした甲冑の硬さを確かめ始めました。

「本当に鉄製の甲冑である・・・それがまるで紙で出来ている様に斬れたり貫けるとは」

「凄い!僕の剣も相手の剣を斬れたけど・・・短剣でもここまで出来るの!?」

「嘘でしょ・・・これって下手に使ったら自分の指を斬り落としちゃいそう」

 材木座、戸塚、姫菜の3人はヒッキーの新しい短剣の性能に三者三様に驚きました。それを見た小町は

「どうですか姫菜さん。これなら銀貨十五枚は安いですよね」

 そう言って姫菜の納得の声を引き出そうとしますが、それに割って入る様に材木座が

「これは我に売ってくれ。姫菜殿はこの剣を急ぎで必要とはしていないが我は姫様がリーフマウンテン王国から帰り次第、これが必要なのだ!」

「え、ちょっと待ってくださいよ。姫菜さん!?」

「うん、私はいいからさ材木座君を優先してあげて。私はその後でもいいからさ。と言うか、これならいくらでも待つよ」

「・・・だってさ、お兄ちゃんどうする?」

「どうするもこうするも、お客さんがそう言うんじゃそうするしかないだろ。じゃあ念の為に今、試し斬りした短剣はメンテナンスがてら破損が無いかを確認しておきますから、明日にでも取りに来てください」

「かたじけない。代金はその時に持ってくる」

「ちょっと、ヒッキー僕の剣もメンテナンスを頼むよ。見た目に破損は無いけど、この間、リーフマウンテン王国の騎士の剣を斬っちゃったからさ」

「戸塚、そんなもんを斬ったのかよ。わかった、それも一緒のメンテナンスしておくから明日取りに来てくれ」

「お兄ちゃん、忙しくなってきたね」

「ああ、このまま城で働く人達の間で3人が持つ剣が評判になれば更に客が来る様になるぞ」

 また一人、城で働く人間にヒッキーの剣の凄さが伝わりました。3人は鍛冶屋の工房なども見学させてもらい、ヒッキーの鍛冶屋としての腕前を一層深く理解し昼下がりには店を後にして結衣の店で遅い昼食を済ませ城に戻っていきました。3人が城に帰り着く頃、

「はぁ・・・遠いんだね、リーフマウンテン王国って」

「姫様、今しばらくのご辛抱を」

「それ、さっきの聞いたし」

 王家の人間専用の豪華な大きな馬車の中、お姫様は一人長椅子に寝転がりながら馬車の従者席で手綱を握る兵士の横に座る大臣と何度目かの同じ会話をしていました。リーフマウンテン王国の王子様と会談をする為にお姫様は丸半日馬車に揺られながら移動をしていました。

「こんな苦労させられてるんだから絶対、恋煩いの花を手に入れてやるし」

「その意気ですぞ。姫様・・・姫様!何ですか!!その行儀の悪い恰好は!?」

「だって、長旅で疲れたし」

「外国へ向かうと言えどただが一日の移動ではございませんか・・・時代の王室担う姫様がその様な事では困ります。しっかりして下さいませ」

「大丈夫、リーフマウンテン王国に着いたらちゃんとするし」

「本当に大丈夫でございますか?」

「じい。交渉前に弱気は禁物だと思わない?あーしは絶対交渉に成功するって思ってるからあんまし、あーしの気持ちに水を差さないでくれる」

「!・・・これは失礼をば。この年になって姫様に教わる事があろうとは、このじい思いもしませんでしたぞ」

「まあ大船に乗った・・・ううん、大馬車に乗ったつもりでいろし」

「ははっ!皆の者、姫様は意気軒昂にして勝利以外をお考えではない。皆も心してお伴を務めよ!!」

 大臣が大声で馬車の従者席から馬に跨り隊列を組む騎士や兵士たちを鼓舞する。するとそれに応える様に護衛の騎士と兵士達が勇ましい声を上げ自らと一行の士気を高め、更にはそれを聞いていたお姫様の覚悟と決意を一層固いものにしました。そうしてお城を出発して丸一日が経過し、お姫様の一行はリーフマウンテン王国の首都に近い町に宿を取り翌日の会談に備えました。そして翌日早朝お姫様一行は宿を出て昼前にリーフマウンテン王国の王宮前までやって来ました。

「へ~、立派な王宮だし」

「では姫様。私が王宮の兵士に姫様のご到着を知らせてまいります。ご準備を整え下さい」

「うん。わかった」

 大臣を馬車の中から見送るとお姫様は女性の従者に髪を整えさせて高いヒールの着いた靴を用意させ、更にうっすらと化粧をして貰い、最後に一緒に持ってきた荷物の中から恋煩いの花と交換する予定の大粒のルビーがついているネックレスを身に付けました。

「よっしゃ、どっからでもかかってこいっつーの!」

 王室のお姫様が隣国の王子様に会う準備!というより臨戦態勢を整えた感のお姫様は右手を握り左手の手の平に叩きつけました。すると、まるでそれを合図にした様に馬車が動き出し一分もしない内に再び止まると、馬車の扉が開いて大臣がかしこまって頭を下げ、手を差し出しながらお姫様に馬車を降りる様に無言で促します。そんな大臣の動きに合わせる様にお姫様は大臣の差し出した手に自分の手を乗せてゆっくりと馬車を降りて俯き加減で静々とお淑やかに歩を進めます。するとその先の正門前に隼人王子が立っていました。

「ようこそ、リーフマウンテン王国の王宮へ。私がこの国の王子の隼人です」

「おお!これは隼人王子様。まさか王子様自らの出迎えとは恐悦至極でございます。こちらにお出ましの方こそ我が国の姫君、優美子姫でございます。姫様、こちらがリーフマウンテン王国の王子であらせられます隼人様でございますぞ」

 大臣に声を掛けられお姫様は俯いていた頭を起こしました。

「初めまして、優美子と申し・・・ま・す・・・」(゚д゚)!

 

 お姫様はこの時、初めて恋に落ちました。

 

(ナニ!?こんなカッコイイ男、初めて見たし)

 お姫様は今までにない程、気持ちが動揺してしまい考えがまとまりませんでした。

(ヤバい、落ち着かなきゃ。落ち着けあーし・・・どうしよう。まともに顔が見れないよ)

「姫様?如何なされました」

「あ、いえ。失礼いたしました。本日は私共からの申し出を快くお受けいただき誠にありがとうございます」

「いえ、こちらこそこの様な機会を貴国よりご提案いただいた事に感謝をしております。さあ、中へどうぞ」

 大臣の声がきっかけになり、どうにか平静を取り戻したお姫様は決まり文句の様な挨拶をしてから王子様の案内で王宮の中に入っていきました。しかし王家の人間としてよそ行きの顔をする時、すなわちパーティーやお城の催し物などの時のお姫様は大抵、自分の前には護衛の人間が歩き、後ろには付き添いの人間がついてきて更に大勢の人に矢継ぎ早に挨拶をされ、話し掛けられる立場なのですが今は隼人王子と2人きりで王宮の廊下を歩き、気を紛らわす会話が出来る人間が近くにいません。更にカッコイイ王子様がほぼ真横を歩いて自分をエスコートしてくれているという慣れない状況だったので王宮の奥に進んでいく度に心臓の鼓動が高まっていってしまいました。

「さあ、こちらです」

 そういって隼人王子が案内してくれたのは王室の庭園が見渡せるテラスでした。王子はお姫様の為に椅子を引いてあげて戸惑うお姫様を座る様に誘導します。そしてお姫様を席に着かせると自分はお姫様の正面に座りました。すると間をおかずに王宮のメイド達が2人の間にあるテーブルにお茶の支度を整えました。隙のない王子様のエスコートとそれに連携する様なメイド達のサービスにお姫様は戸惑いっぱなしです。そんなお姫様に王子様は

「どうか、リラックスして下さい。そんなに緊張されては話をする事もままなりません」

「は、はい、ありがとうございます」(王子様・・・優しい)////

「優美子姫」

「は、はい!」

「庭をご覧下さい」

「は、庭?」

「ええ、庭です。各国から取り寄せた花や木が植わる我が国自慢の庭園です」

「は、はぁ・・・」

 お姫様は王子様の言葉の通りに庭に目を向けました。すると目に飛び込んできたのは色とりどりの花が咲き乱れる花壇と様々な形の葉をつける多くの木々が不均等に、しかしバランスよく植えてありました。

「・・・本当に綺麗な庭ですね」

「どうぞ気持ちが落ち着かれるまで庭をご覧下さい。時間はたっぷりありますから」

「・・・ありがとうございます」

 お姫様は庭を見たまま、王子様の方を向かずに王子様にお礼を言って庭を見続けました。色鮮やかな花々、風にそよぐ木々の枝、そして青々と繁る木の葉が風鳴りの音を奏でます。時折、メイドが淹れてくれた紅茶を飲みながら、どれ程の時間を無言のままに過ごしたのでしょうか。メイドが静かにお姫様のカップにお替わりの紅茶をポットから注ぐと、お姫様は王子様の方に向き直り

「お時間をいただいて申し訳ございませんでした。もう大丈夫です」

「それは良かった。私もそろそろ焦れていた所だったので助かりました」

「ふふ、ご冗談がお上手なのですね。それにしても本当に素晴らしい庭ですね」

「ええ、この庭は言わばこの国の象徴なのです」

「象徴?庭がですか」

「先程も申し上げましたが、この庭には各国から集めた花や木が植えてあります。それこそこの国の東西南北、あらゆる方面から植物を集めて中には海を越えてやって来た物まであるのです」

「なぜ、その様な事を?」

「目的は二つです。一つ目は私自身の外交実績の証として訪問したり、出迎えた国々から花や木を分けていただいたのです」

「では隼人王子はこれだけの数の国の方々とお会いになった事があるのですか?」

「ええ、小さな会議や会談を積極的にこなしていく事で周辺各国との関係を強化とまでは言わずとも良い関係に保ってきたのです。もちろん優美子姫の国から送られた花もあります」

「そうだったのですか・・・同じ年の王室の人間がこれ程の外交を行っていたなんて」

「優美子姫は外交の経験は?」

「弱みを見せる様で恥ずかしいのですが、パーティーや城の催し物でしか海外の方とはお会いした事がありません。ですからこの会談は私にとって外交デビューといった所です」

「そうだったのですか。なら、あれ程緊張をしていたのもうなづけます。私も初めて単独で海外の方にお会いした時は随分緊張したものです」

「けど、これ程の数の方々とお会いになったのだとすれば一体おいくつの時から外交に参加されていたのですか」

「十二です。父親である国王陛下の考えで幼い頃からそういった機会を与えられてきました」

「そんなに幼い頃から。でしたらこれ程の植物が集まるのも当然ですね」

「最初は自分の行動の証として始めた事だったのですが・・・今では全く違う目的でこの庭を管理・運営しているのです」

「それが二つ目の目的ですか?」

「はい、我が国は遠い昔に酷い飢饉に襲われた事があるのです。王室の歴史を勉強した際に知ったのですが、その時に飢え死にをした人間の数は数千とも数万とも言われており、王室、貴族をはじめとする上流階級の人間ですら飢えて死んだそうです」

「そんな歴史が」

「ええ、ですから私はこの国を強い国にするにあたって、まず国民が食べるに困らない生活が出来る様にと考えました」

「食糧問題はどの国にとっても重要な問題です。では今、この庭園を運営している理由というのは・・・」

「農業の発展の為です。色々な植物の栽培方法を研究し、花を咲かせ実を付けさせる事がこの庭の存在意義なのです」

「そうでしたか・・・そう言えば私の国も少量ではありますが、この国から食料を買い付けていますね」

「はい、農作物は貿易の商品にも成り得ますからね。それに我が国が輸出している農作物は食べ物だけではないのです」

「食べ物ではない農作物の輸出?」

「ええ、花の輸出です」

「花?花が貿易の商品になるのですか?」

「ええ、実は花の輸出をしている国というのは我が国以外には、ほとんど存在しません」

「それは・・・そんな話聞いた事ありません」

「しかし考えてみて下さい。例えばあなたの国の城の庭園や貴族の屋敷の庭に花壇を作るとします。そうしたら花壇に植える大量の花をどこで手に入れますか?」

「・・・そんな事、考えた事もありません」

「そうでしょうね。普通はこんな事は考えません。しかし私は各国の花々を集めて花壇を作る過程で立派で見栄えのする庭を作るには多くの花が必要な事に気が付いたんです」

「確かに一輪や二輪の花では見栄えがしませんよね」

「その通りです。それこそ百や千の花が必要となってきます。ですから我が国では花そのものではなく花の種を輸出しているのです」

「城の庭園に咲く沢山の花を見て、そんな事を思った事はありませんでした」

「そういった研究の積み重ねのおかげで我が国では食料が国の隅々まで行き渡り国民が働いているにも拘らず飢えて死んだという報告は受けておりません」

「働いてさえいれば食べる事に関する心配がいらない国・・・」

「はい、そしてこの事はこの国の税収を安定させる事にも繋がっています」

「国民が食べる心配のない生活が出来るから税金をキチンと納める事が出来るんですね」

「そして、税収が安定するという事は国の財政が安定するという事に繋がり、引いては国力を上げる事に繋がるのです」

「気が遠くなる様な国の礎作りですね」

「そんな事はありません。十二歳の頃から初めて今年でたった六年です。この先、何十年、何百年とこの国を繁栄させる事を考えればわずかな時間です」

 お姫様は隼人王子の考えと行動に圧倒され、先程まで感じていた気持ちの昂ぶりをすっかり忘れてしまっていました。自分と同じ年の王室の人間が国の財政を安定させる政策の一端を担っているとは夢にも思ってなかったのです。自分はと言えばやっと親や側近の目を盗んで城下町で庶民の生活ぶりを知ったばかりだというのに隼人王子は国全体を見渡して、より良い国作りを実行していたのですから、その歴然とした差にお姫様は愕然としてしまいました。しかし落ち込む程に冷静になったおかげでお姫様はここに来た本来の目的を思い出しました。

「素晴らしい実績です。宜しければもっと近くで花々や研究中の植物を拝見出来ませんか♪」

 

― 続く ―

 

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