魔法のリップクリーム   作:Z-Laugh

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第九話

「まさか昨日の今日でまた、ここに来るとはね」

 リーフマウンテン王国の警備隊員・沙希は家族との束の間の再会を済ませ王宮経由で再び優美子姫の国との国境にやって来ました。前回の優美子姫の調査とは違い今回の任務は特に期限を切られておらず沙希自身が目の当たりにしたあの凄まじい切れ味の剣を手に入れるという仕事は王子様の命令以前に沙希自身が強い関心を持っていました。あの時、剣の性能の差で後れを取った事、自分があの剣を手に入れれば国に帰ってからも警備隊の中で一目置かれる人間になれる事、そんな事を考えながら王宮で剣の調査・購入費用として与えられた金貨とは別に彼女個人の財布を持って、あれと同じ剣を二本買うつもりだったのです。

「一本は王宮に献上して、もう一本は私が使えば・・・」

 馬に跨りゆっくりと歩を進めながら一人ニヤニヤとこれからの事を算段しつつ沙希は城下町へとやって来ました。宿屋に部屋を取り、馬を預けてから城下町に繰り出すと城下町の鍛冶屋をしらみつぶしに調べ始めました。しかし大きな看板を掲げて目立つ通り沿いの鍛冶屋や武器屋を回っても、あの圧倒的ともいえる性能を持つ剣には巡り会えませんでした。

「やっぱり、簡単には見つからないね」

 そんな独り言を漏らしながら城下町を歩いていると沙希は見知った顔を見つけました。

「あ、あいつ・・・」

 沙希は大臣の命令で城下町をはじめとするお城の近隣にある鍛冶屋に鍬の製作を督促している戸塚を見つけました。反射的に建物の陰に隠れ、戸塚の様子を観察し後を付けると

「何だあいつ・・・鍛冶屋ばっかり回って・・・」

 沙希が尾行する中、戸塚は彼女が既に見て回った鍛冶屋を全て周り終わると城下町の商店街の外れにある小さな鍛冶屋・ヒッキーの鍛冶屋にやって来ました。

「こんな所にも鍛冶屋があったのかよ。あいつの後をつけてなかったら気が付かなかった」

 沙希は店の入口近くに近寄り店の中の様子を伺いました。すると店の中では戸塚と小町が話を始めていました。

「どう?ヒッキーは鍬の製作をちゃんとやってる?」

「はい。作りたい剣を作れずに不貞腐れながら鍬を作ってますよ」

「本当はヒッキーには鍬造りなんかより、この剣と同じ物を沢山作って欲しいんだけど、まあ姫様の命令じゃ、しょうがないよね」

「戸塚さん、本当にその剣の事を気に入ってくれたんですね」

「そりゃそうだよ。こんな剣、今まで見た事も聞いた事も、まして使った事も無いもん」

「じゃあ、もっとお城で宣伝しておいてくださいよ。まだ四本あるんですから」

「そんな事言って、人気が出てきたら僕が買ったより高い値段で売るつもりなんでしょ。小町ちゃんも案外、商売人だね」

「そりゃ、高く売れるモンなら高く売るのは商売人として当然ですよ」

「じゃあ、値段が上がる前に私が買うよ」

「あ!君は・・・」

「おひさしぶり・・・って言うのはちょっと変かな」

 戸塚と小町の話を聞いていた沙希が店の中に入り小町と戸塚、それぞれに話し掛けました。

「戸塚さん、この人は?」

「隣の国、リーフマウンテン王国の警備隊員の沙希さんだよ」

「リーフマウンテン王国の警備隊員!?なんでそんな人がここに?」

「まさか・・・」

「そんなに怖い顔をしないでくんないかな。今回は観光客としてこの国の“特産品”を買いに来ただけなんだからさ」

「君の国の警備隊っていうのはそんなに簡単に休暇を貰えるもんなの?昨日の今日だよ」

「それは、あんたの想像に任せるよ。さて、可愛い店員さん。私はこの男が使っているのと同じ剣を買いに来たんだけど在庫はあるかな?」

「戸塚さんが使っているのと同じ剣ですか・・・」

「小町ちゃん、ダメだよ。彼女にあの剣を売っちゃダメだ」

「なんだよ、この国は平民出身の一兵卒に店の商売をどうこうする権利が与えられてんのか?只の観光客の買い物を制限するなんて随分セコイ国なんだね」

「そ、そんな事は・・・」

「別に買った剣を使ってこの国で悪さをするつもりは無いし問題は無いんじゃない」

「それは・・・」

「それに何より、あの剣をあたしに向かってあれ程自慢したのはあんた自身だろ。余計な事を言い過ぎた事を後悔するんだね」

「・・・」

 戸塚のとっては最悪のタイミングで先にヒッキーの剣のありかを沙希に知られて

しまいました。その様子を見ていた小町は、

「と、戸塚さん・・・どういう事ですか?」

「小町ちゃん、あの剣、残りの四本を全部僕に売ってくれないかな」

「え、四本全部ですか?」

「ちょっと待てよ。いくらなんでもそれはやり過ぎだろ。私はちゃんと客としてここに買い物に来たんだから、あんたにそこまでされたくないんだけど」

「小町ちゃん、あれ程の武器が外国に流出するのはこの国にとって良くない事だよ。だからあの剣は彼女に売っちゃダメだ」

「そ、そんな事言われても・・・あ!お兄ちゃん」

 店の中で小町、戸塚、沙希の3人が言い争っているのを聞きつけたヒッキーが工房から店まで出てきました。

「どうした?何かあったのか。工房まで声が聞こえて来たぞ」

「うん、それがさ。この人が戸塚さんに売ったのと同じ剣を売って欲しいって言ってきたの」

「買いたいって言うなら売ってやればいいじゃないか。それがなんであんな言い争いみたいになるんだよ」

「それが、この人、リーフマウンテン王国の警備隊員さんなんだって」

「それがどうした?何か問題でもあるのか」

 小町の話を聞いても特に様子を変えないヒッキーを見て戸塚は慌てて口をはさみます。

「ちょ、ちょっとヒッキー、隣国の警備隊員にあの剣を売るなんて絶対マズいよ」

「そうは言っても鍛冶屋が自分の作った剣をわざわざ隣国から買いに来てくれたって言うなら売ってやらない訳にいかないだろ」

「けど、あの剣は凄すぎて簡単に外国に売るなんて問題があるよ」

「それは城の兵士として俺の店の商売を禁じると言ってるのか」

「そ、そんな・・・僕にはそんな権限ないよ。けどヒッキーはこの国の鍛冶屋でしょ。だったらこの国の事を優先して商売をするべきなんじゃないかな」

「そんな事言ったらうちの親父と母ちゃんは反逆罪だぞ。職人が自分の腕を高く評価されて、それを請われれば出来る限りの事をしてやりたいと思うのは当然だろ」

「そ、それは確かに・・・」

「小町、奥からあの剣四本、持って来てくれ」

「いいの?お兄ちゃん」

「ああ、構わない。早くしろよ、お客さんがお待ちだ」

 そうしてヒッキーは戸塚の目の前で沙希に戸塚と同じ剣を見せました。

「へ~、凄く軽いんだな」

「ええ、ここまでの軽量化には随分苦労しましたよ」

「それで切れ味は、どんなモンなのかな?」

「じゃあ・・・これを斬ってみて貰えますか。城からの仕事が終わったら処分するつもりだったから好きに切り刻んでいいですよ」

「なにこの鎧・・・切られたり突かれた跡があるけど?」

「その剣と同じ製法で作った短剣で試し斬りをしたんですよ」

「短剣で!?短剣でこんな風に斬れるのか?」

「お疑いなら、その剣でお試し下さい」

 ニヤリと笑いながらヒッキーは沙希に試し斬りを薦めました。その薦めに沙希はゴクリと唾を飲み込んでから腰を落として剣を構えると目にも留まらぬ速度で剣を十字に振りました。するとカカッ!っと小気味よい金属音がしてその証の様に鎧に十字の切り口が残りました。

「す、すごい!これだ、この切れ味だ。それに・・・鉄製の鎧を斬ったのに刀身に歪みもなければ・・・刃こぼれもない。なあ、これいくらなら売ってくれるんだ?」

「そうですね・・・四本セットで金貨三枚といった所でしょうか」

「剣四本で金貨三枚・・・普通の剣の十倍近い値段じゃんか」

「その剣は人気が出始めてますからね。そのせいで値段も高くなってきてるんですよ」

「けど、いくらなんでも剣四本に金貨三枚だなんて・・・」

「嫌なら買わなければいいだけです。無理強いは出来ませんからね。ただ、この次にこの店に来た時にはこの剣は売切れてるかもしれませんよ」

「売切れ・・・」

「特注となれば更に値段が上がります。どうされますか?」

「ん~~~、わかった買うよ。四本全部買う」

 沙希は苦渋の表情から一転、カッと目を見開いて剣四本の購入を決め財布から金貨三枚を取り出しカウンターに叩きつけました。それを見たヒッキーは

「はい、確かに。もしメンテナンスが必要になったら、いつでもお出で下さい」

「ああ、いい買い物が出来て良かったよ。あんた名前は?」

「私は鍛冶屋のヒッキーと言います。こっちが俺の妹の小町。お見知りおきを」

「ヒッキーと小町だね。覚えておくよ、ありがとう、愛してるよヒッキー♪」

 満面の笑みで沙希は剣四本を抱えて店を出て行き、その様子をヒッキー、小町、戸塚の3人が見送ると戸塚が不機嫌な表情で

「ほ、本当に売っちゃうなんて・・・ヒッキー、君は只の守銭奴なの?」

「酷い言われ様だな。まあ戸塚からすれば、そう見えるんだろうけどな」

「お兄ちゃん。今の取引は私もちょっと、イヤかなり引いたよ。剣四本で金貨三枚だなんて法外もいいとこじゃん」

「高く売れるうちに高く売るのは商売の基本だろ」

「けど戸塚さんからだって銀貨七枚しか貰ってないんだよ。今の取引じゃ剣一本が銀貨三十枚近いじゃん」

「客がそれでいいって言うんだから問題ないさ。それとあの剣はさっさと売っちまわないといけない理由があるんだ」

「え!さっさと売らないといけないってどういう事?ヒッキー」

「ここ数日、鍬ばっかり作ってただろ。そのおかげで新しい剣のアイデアが浮かんだんだ。今度の剣は戸塚が持っているヤツや今売ったヤツより凄いぞ」

「「え!?」」

 戸塚ばかりか小町も驚きの声を上げました。

「ちょっとヒッキー、僕の剣より凄い剣ってどんな剣なの?」

「それは出来てのお楽しみだ。取り敢えず城からの命令の鍬造りをしないとダメだけど、それが終わり次第、新しい剣の製造に取り掛かる予定だ」

「お兄ちゃん、本当に戸塚さんや今売った剣より凄い剣が作れるの?」

「ああ、これなら雪ノ下も満足させる事が出来る筈だ。戸塚、悪いけど新しい剣が完成したら試し斬りを頼めないか。やって貰えたら今持っている剣と新しい剣をタダで交換してやるよ」

「ホントに!やる、やるよ。絶対やる」

「なら決まりだ。これから二週間は鍬造りだがそれが終わったら、そうだな・・・その三日後にここに来てくれ。それまでに完成させておく」

「本当にどんな剣なの?ちょっと想像がつかないよ」

「俺の構想通りに出来上がれば今、戸塚が使っている剣が安く買い叩かれる様になる筈だ」

「この剣が買い叩かれる・・・お兄ちゃん、それホント?」

「まあ、完成を楽しみにしてろ」

 

 その頃、お姫様は沢山の兵士を連れて郊外の町や村の鍛冶屋を視察していました。

「優美子姫、この度はこの様な辺鄙な村にお出でいただき、この村長この上ない名誉でございます」

「村長、私はあなたの為にこの村に来たのではありません。早速ですがこの村の鍛冶屋に案内していただけますか」

「鍛冶屋でございますか・・・ああ!そう言えば国王陛下の御触れで鍬を作れとかなんとか」

「そう言えば?村長、あなたは国王陛下の命令をその程度にしか考えていないのですか」

「い、いえっ!決してその様な事はございませんっ」

「なら、この村の鍛冶屋は今、一生懸命鍬を作っている筈ですね。早速、その様子を拝見したいのですが・・・もちろん村長、あなたが案内して下さるのですよね」

「あ、いや・・・それは」

「村長、何かやましい事でもあるのですか?それならば私は国王の娘として放っておく訳には行きません。あなたには相応の覚悟をしてもらう事になります」

「相応の覚悟・・・いえ、決してやましい事などはございません」

「なら、すぐに鍛冶屋に案内しなさい」

「は、はは~~っ」

 王室の人間がやって来る事が滅多に無い郊外の町や村は多少の差はあっても、どこも似た様な対応で鍛冶屋を視察してみても鍬を製作している様子は全くありませんでした。それどころか鍛冶屋がいない村があったり、鍛冶屋の腕が悪かったりとお姫様の計画が頓挫しかねない状況である事を目の当たりにする事となっていたのです。それを知ったお姫様は町長や村長の前では王室の人間として威厳をもって彼らに至急、鍬の製作をする様に命じたのですが馬車に乗り込み町や村を離れると

「あ~~~~~~~~~~~~~~~っ!何なのっ!!あいつらやる気無さ過ぎ。見せしめに二・三人処刑してやろっかな」

「優美子、さすがにそれはマズいって」

「けどさ~姫菜。これじゃあ間に合わないよ~」

「まあ、こうやってお姫様が郊外の町や村を視察して回ったおかげで国王陛下の御触れを真剣に捉えたと思うよ」

「そうだと良いんだけど・・・」

「それに鍛冶屋が鍬を作れないって言うのもチョットびっくりだよね」

「馬の蹄鉄の修理しかした事がない、包丁しか造った事がないとかマジに鍛冶屋かつーの」

「あの様子じゃ出来上がってもロクな鍬じゃないだろうね」

「どうしよう・・・あれじゃ鍬千本なんて無理だし」

「ふぅ・・・技術顧問でもつけようか・・・」

「技術顧問?」

「城下町の腕のいい鍛冶職人に技術指導させて、せめて鍬だけでも造れる様になって貰うの」

「なるほどね!それいいアイデアだし。けど姫菜、それってひょっとして・・・」

「うん。あのヒッキーに技術顧問をしてもらえばいいんじゃないかな。私には鍛冶屋の良し悪しは分からないけど、あのヒッキーという人の腕はハンパじゃないって事は分かるよ」

「ホントにそんなに凄いの?ちょっと信じられないんだけど」

「そっか、優美子はヒッキーさんの作った剣を見た事ないんだよね。それじゃあ信じられないのも無理はないか」

 姫菜は馬車を操る従者に声を掛け馬車を止める様に言いました。そして馬車の窓から顔を出すと、その横を馬で並走する材木座に声を掛けました。

「ざい・・・チューニ君。ちょっと頼まれて欲しいんだけど」

「何だというのだ?いきなり馬車を止めたりして」

「うん、優美子にさ。あの短剣の切れ味を見せてあげて欲しいんだよ」

「あの短剣か・・・それは今回の任務に関係する事なのであるか?」

「うん、凄く関係ある!」

「分かった。では姫菜の言う通りにしてみよう」

そうしてお姫様の一行は次の村へ向かうのを一時中断して、お姫様と材木座を取り囲む様に輪を作りました。

「ねえ、チューニ。言われた通り太い木の枝を拾ってきたけど、これをどうするっつーの?」

「おお、これは良い木の枝を拾ってこられましたな。これなら十分です」

「アンタがあーしに杖に使えるくらい太い木の枝を拾ってこいって言ったんしょ」

「姫様にこの様なお手間を掛けさせて誠に申し訳ございません。それはこの剣の切れ味をご覧いれる為でございます」

「なにそれ?全っ然、飾りとかついてないじゃん。て、ゆーかそもそもそれって剣なの?」

「はい。これをご覧下さい」

 材木座は姫菜より優先してヒッキーから売って貰った短剣を手に持ち、お姫様に見せていました。初めて見るお姫様にとっては銀色の金属棒にしか見えなかったのですが材木座が鞘から短剣を抜くと

「え!中に剣が入ってたの。全然つなぎ目見えなかったし」

「驚かれるのはまだお早いですぞ。では姫様、その拾ってきた木の枝を私に向かって投げつけてみて下さい」

「え、コレ?いいの、当たったら相当痛いよ」

「構いません。どうぞ思いきり投げつけてみて下さい」

「うん、わかった。じゃあ思い切り行くから」

お姫様は手に持っていた太い木の枝を振りかぶってから材木座に向かって思いきり投げつけました。太い木の枝はクルクルと回転しながら材木座の顔面に向かって飛んでいきますが材木座は慌てる様子なく短剣で回転する木の枝を一瞬で二つに切断して、木の枝が自分にぶつからない様にして見せました。それを見たお姫様は勿論、周囲を取り囲んでいた護衛の兵士達も驚きの声を上げました。材木座は切断した木の枝を二つとも拾って短剣と一緒にお姫様に差し出しました。

「なにコレ・・・」

「良くご覧ください。木の枝は決して折れたのではなく、この短剣で切断されたのです」

「ホントだ・・・綺麗に斬れてる。なんか包丁で野菜を切ったみたいだし」

「それにこれ程の太い木の枝を斬っても、この短剣は刃こぼれも刀身の歪みもございません」

「え、嘘!こんな太い木の枝を斬ったら普通剣がダメになって修理が必要なんじゃないの」

「それ程までに、この剣は優れたものなのです」

「姫菜、ひょっとしてこれがあのヒッキーって奴が作ったモンなの?」

「うん、ビックリしたでしょ」

お姫様は姫菜に尋ね、姫菜はお姫様に小声で耳打ちをする様に答え、材木座は短剣を良く見せろと他の警護の兵士達に取り囲まれてました。

「ちょっとチューニ!」

「は、はい!姫様。何か御用で?」

「至急、警護の兵士一名を城に帰らせてヒッキーが造った鍬を調査してくる様に言って頂戴」

「あやつの造った鍬をでございますか?」

「その出来が優れていたら問答無用でこの一行に同行させなさい。これから回る町や村の鍛冶屋に鍬造りの指導をして貰います」

「!・・・かしこまりました。至急、平民出身で農家出身の兵士を城に向かわせます」

「うん、そうして」

 お姫様の命令に材木座は驚きはしたものの、すぐさまニヤリと笑顔を浮かべてお姫様の命令を実行しようとしました。しかし、それを横で聞いていた姫菜が

「少しお待ちください、姫様」

「なに姫菜?」

「技術指導をしながらの国内行脚は当初の予定より時間が掛かるものと思われます。更に二度三度の命令実施の督促を行わなければなりません」

「じゃあ、もう一周くらい国を回らないといけないのかな?さすがにそんなに長く城を出たままって言うのはマズいんだけど」

「そこで国内行脚の予定が伸びる旨の手紙を国王陛下宛にお書きいただき城に向かう兵士にそれを持たせて下さい」

「予定が伸びるって・・・どん位?」

「左様ですね・・・少なくとも国を二周は回らないといけないでしょうし、ただ視察をするだけじゃなく技術指導もしなくてはなりませんから、十日は掛かるものかと」

「十日!?」

「姫様の本気度を郊外の町や村の人達に伝えるにはそれ位する必要があると思います。期限まで約二週間、早くお城に帰ったところで姫様が鍬造りに関して実行出来る事が無い以上国内行脚に集中された方が宜しいかと」

「二週間無駄にする位なら十日間の町や村を回った方がいっか・・・分かった今からお父様に手紙を書きますのでチューニ、それを持たせて兵士一名を城に帰らせなさい」

「かしこまりました」

 そうしてお姫様は馬車の中で手紙を書き始め、材木座は城に帰る兵士の人選を始めました。お姫様と一緒に馬車の中に戻った姫菜は手紙を書くお姫様に

「まあ予定が倍以上になるんだから国王陛下とお妃様と大臣には連絡しておかないとね」

「・・・こんなに長く城に帰らないなんて初めてだよ」

「だろうね。ああ、そうだ!あと出来れば優美子と私の分の着替えを持ってくる様に書いておいてくれるかな」

「そっか、四日分しか着替え持って来てないし」

「優美子のお伴って役割のおかげで快適な旅だよ、随分楽もさせて貰ってる」

「快適?楽?馬車での移動か町長や村長や地方の貴族に会ってばっかりで超疲れるんだけど」

「普通、国を回ろうとしたら馬車なんてそうそう使えないんだよ。行程の大半が歩きで野宿だって珍しくないんだから」

「・・・けど・・・」

「毎日お風呂に入れない、食事が美味しくない、座りっぱなしで疲れた・・・愚痴を言っても国が狭くなる訳じゃないんだからさ。ここは辛抱しどころでしょ、頑張ってよ優美子」

「はぁ、花一輪の為にここまでしなきゃいけなくなるとはな~」

「なら、止める?」

「またそれを言う。止めないって分かってっしょ」

「ここまで話が大きくなったんだから、もう結衣の為だけじゃないでしょ。みんな・・・国王陛下もお妃様も大臣も、もちろん私も凄く優美子に期待してるんだからね」

「ふぅ、そんな風に期待されてもな~」

「そ・れ・に♪」

「それに?」

「ちょっと小耳にはさんだんだけど・・・リーフマウンテン王国の王子様ってかなりイケメンなんだってね」

「え、そ、そうかな・・・そんな事ないんじゃない」

「優美子はそんなイケメン王子様と腹を割って話をしてきたんだってね~」

「え!それどこで聞いた?」////

「もちろん、お妃様から♪」( ´艸`)

「!」/////////

「あ~あ、結衣も優美子も好きな人が出来ちゃって、なんか私だけ置いてきぼりにされた気分だな~。結衣の相手のヒッキーさんには会えたけど、さすがに隣国の王子様には会えないしな~。あ~あ、つまんないの~」

「姫菜、何か企んでない?」

「そんな事ないよ、優美子に内緒で何か企むだなんてとんでもない。二週間後にリーフマウンテン王国へ鍬千本を届けるのに私もついて行こうなんて全く考えてないから♪」

「ちょ、ちょっと姫菜・・・」(゚д゚)

「もう大臣からも許可を貰っちゃったなんて事は全っ然ないから♪」

「う、嘘でしょ・・・」

「さあ優美子、頑張って国中を回って国中の鍛冶屋さんに鍬を作って貰おう。一日も早く千本揃うといいね」

「ちょっと姫菜、アンタあーしの知らない所で色々やり過ぎ~~っ」/////

「これ位しないと優美子のお伴は出来ないからね」

 馬車の中からお姫様の悲鳴に近い声が聞こえてきて更にドタバタと取っ組み合いをする様な音がしてくると、その傍ら材木座は

「よく飽きもせずにコレだけ騒げるものだ。まあ、これなら体調の心配はいらんであろうな」

 呆れながらも人選を済ませ、お姫様の書いた手紙を持たせて兵士一名をお城に向かわせました。一方、鍬千本の完成を待っている隼人王子がいるリーフマウンテン王国の王宮に一台の馬車が到着しました。馬車の手綱を握る従者が王宮の門番に馬車の主の名前と王子様への面会を申し入れました。予定にない面会の申し出でありながら一応、形式として門番は王宮の中の警備隊長にその事を報告すると警備隊長は少々の驚きと共にその事を王子様に伝えました。

「なに?それは本当か?」

「はい、既に王宮の門までお出でとの事です」

「ふぅ・・・知らん顔も出来んか。已むを得ん、面会しよう」

 突然の来訪でありながら王子様は馬車の主との面会を了承しました。そうして王宮の前の門の扉が開かれ馬車は王宮の中に入って行き、そして王宮の玄関に馬車が横付けされると、その中からは正装した美しい女性が降りて来ました。警備隊員に付き添われて隼人王子のいる応接に案内されると出迎えた隼人王子は

「お久しぶりです、陽乃さん」

 王子様が出迎えたのは雪ノ下陽乃でした。如才無いよそ行きの笑顔で彼女を出迎えた隼人王子でしたが内心は彼女の要件が解っていたので逃げ出したい気分でした。しかし王子様に出迎えられた陽乃は内心も外面も不満で一杯でした。

「隼人、なんで私がここに来たのかは分かってるよね」

「・・・ええ、恋煩いの花の事ですね」

「そうそう。隼人、アンタなんで私の申し出を断ったの?」

「それは恋煩いの花の数が少ないからですよ」

「花一輪に金貨五百枚だよ。いくら貴重な植物でもこれでダメってどういう事」

「実は・・・あの花は陽乃さんの国の優美子姫にお譲りする事になったので申し訳ありませんが来年まで待ってもらえませんか」

「え!優美子姫があの花を」

「ええ、先日私とここで会談をした記念にあの花が欲しいと仰られたので鍬千本と交換する事にしたんです」

「鍬千本。そんなの精々金貨二・三十枚じゃない。それが何で金貨五百枚より優先するの?」

「優美子姫が私の考えに賛同してくれたからですよ」

「隼人の考え?それって・・・この国の農業政策の事?」

「ええ、この国の農業発展の為の温室にある植物と、この国の農業政策に賛同してくれた優美子姫が寄贈してくれる鍬千本はどちらも私の農業政策を具現化したものです。ですから陽乃さんの申し出以上の価値があると判断したんですよ」

「そういう事か~。ねえ、何とかもう一鉢譲って貰えないかな。どうしても必要なんだよね」

「一体どうしたんですか?陽乃さんが色々な物に興味を持つのは今に始まった事じゃありませんが、今回は何か特に必死な感じがしますけど」

「ちょっとね・・・魔法薬を作りたくってさ」

「魔法薬?確かに恋煩いの花は魔法薬として貴重な植物ですが、一体どんな魔法薬を作るつもりなんですか?」

「・・・魔法のリップクリーム」

「魔法のリップクリーム?それは一体どんな効果がある魔法薬なんですか?」

「それは・・・内緒」

「そんなプライベートの用事の為に王室管理の鉢植えを譲る訳にはいきませんよ」

「私にとっては国家機密より大事な秘密の仕事なんだけどね」

 

― 続く ―

 

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