聖櫃に抱かれた子どもたち   作:佐伯寿和2

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浮彫りの影 その六

凍死(とうし)した竜は(かた)まったまま、()()()()()()

「“不死(アンデッド)”、じゃあないみたいだね。」

「……」

「それで?どうだった。実際(じっさい)に戦ってみて何か分かったかい?」

ただの興味本位(きょうみほんい)なのか、それとも自分の『力』の大きさを知ろうとしているのか。彼女は(こお)った竜の状態(じょうたい)を自分の手で確認していた。

(くさ)っているのがお前の『力』でなければ、そこに何かしらのヒントがあるだろう。」

彼女の『力』もそうだが、竜の死に方そのものにも釈然(しゃくぜん)としない違和感があった。

俺を(おそ)った「死」は本当に、目の前に横たわる竜と同じものなのだろうか。

俺が感じた「眠気」は竜を「凍結(とうけつ)」させたのかもしれない。だが、何が竜を腐らせてしまったのか。俺はそれによってどんな影響(えいきょう)を受けたのか。

そこがどうしても納得(なっとく)がいかなかった。

……腐臭(ふしゅう)の中に、俺の知識(ちしき)にない(かす)かな薬品の(にお)いが()じっている。それが何か関係しているのか?

 

俺たち目掛(めが)けて飛来(ひらい)してきた時、それは間違いなく生きた竜の体をしていた。

だが、それでも、「()()()()()()()()()()()()()()()?」

――――不死(アンデッド)

俺に対して言った彼女の皮肉(ひにく)は、皮肉などではない。

そんな気がしてならない。

 

「シュウ。」

竜の周りをグルリと回り、観察していた彼女が俺を呼んだ。

「…どうした。」

「ここに、何か書いてあるよ。」

彼女の()(しめ)す竜の足首には文字らしきものが(きざ)まれている。

文字は()(いん)のようにクッキリと竜の体に書き(しる)されていた。…だが、これは共通(ロマリア)語じゃない。これは中近東(ちゅうきんとう)(あた)りで使われていた古い言葉だ。

 

(かろ)うじて読むことのできたのはこの竜を使役(しえき)していたであろう術者の名前だけ。

「…サシャールダッド・パラ・ゲニマイ。…分かるか?」

聞いたことのない名だ。指名手配中の魔導師でもない。(ねん)のために彼女にも(たず)ねてみるが、期待(きたい)はしていなかった。

「さあ、知らないね。」

「……ゲニマイ、ゲニマイ、ゲニマイ…。」

頭の中でさらに反芻(はんすう)してみるが、やはり記憶(きおく)のどこにも引っ掛からない。

「考え事なら歩きながらでもできる。先を急ぐんだろ?」

「…そうだな。」

 

腐敗(ふはい)した竜の死骸(しがい)は他の竜の呼び水になりやすいが、凍結している分、臭いは軽減(けいげん)してる。(さいわ)い気温も低く、他に竜がいたとしても半日は(かせ)げるだろう。

素早(すばや)く周囲を確認し、竜に吹き飛ばされた装備(そうび)の中からまだ使えるものの(いく)つかを回収(かいしゅう)すると、彼女に催促(さいそく)されるまま先を急いだ。

「それで何とかなるもんかい?」

回収できたものは拳銃(けんじゅう)一丁(いっちょう)と少量の弾薬、ナイフ、携帯食(けいたいしょく)、ピッキングツール……。とても竜退治(たいじ)をしようという装備じゃない。だが、

「無理でも進むしかないな。」

最悪の場合、俺やエルクはこのまま姿をくらませば()()びることはできる。

だが、バスコフとリゼッティはそうもいかない。

居場所(いばしょ)(さら)している二人はガルアーノの手下にいつ殺されてもおかしくない。

二人を見捨てないのであれば、先に進むしかない。

「食べておけ。」

彼女は(かん)パンを受け取ると物思いに(ふけ)るような笑みを浮かべ、「…(なつ)かしいね」とだけ(つぶや)いた。

 

 

(あい)()わらず、俺たちはススキに身を隠しながら進んだ。

あれ以降(いこう)、空に何かが(あらわ)れる様子はない。危険は、ないはずだ。だが、

「…静かだね。」

「……」

彼女と同じことを考えていた。

虫の()や息を(ひそ)める小動物たちの気配(けはい)はある。極々(ごくごく)自然な環境音。まるで、ついさっき現れた竜が嘘であるかのような長閑(のどか)平原(へいげん)

それが逆に息を()まらせるような危機感を覚えさせた。

そうして歩くこと10数分。進行方向に待ち受ける何かに対し、第六感が本格的な警告(けいこく)(はっ)し始めた。

「何か見つけたのかい?」

「……分からない。だが、気を付けろ。」

そう言った直後、もはや五感でさえもその危険性を感じ始めていた。

その全容(ぜんよう)も。

 

「……何だい?この臭い。」

数分後、彼女は俺と同じものを感じ取り、思わず声に出していた。

それだけ、「臭い」はこの環境に馴染(なじ)まない色を主張(しゅちょう)していた。

……腐臭だ。

無論(むろん)、つい先程(さきほど)臭ったものと同じものだ。

だが、今回のそれは濃度(のうど)がまるで違う。

さっきの竜は10mも(はな)れてしまえば気にならなくなるくらいに薄い臭いだったが、これに(いた)ってはまだ「臭いの(もと)」さえ視界(しかい)に入ってない。

そこから腐敗(ふはい)した光景が(まぶた)(うら)(えが)き出せてしまうくらい、それは()い臭いを()()らしていた。

 

そこはこれまでの平坦(へいたん)な土地から一変(いっぺん)して、巨大な岩や地面の凹凸(おうとつ)が目立つような地形をしていた。四方八方(しほうはっぽう)死角(しかく)があり、長閑な空気にさらなる「狂気(きょうき)」を呼び寄せる。

「……こりゃあ、いったい何なのさ。」

もしも「(ぞう)墓場(はかば)」というものがこの世にあるのなら、それはきっとこれに()た光景なのかもしれない。

腐臭が蜷局(とぐろ)を巻き、カエルを(にら)むように俺たちを見下(みくだ)している。

そんな光景が広がっていた。

「アタシゃ、今ほど自分の目を(うたが)ったことはないよ。」

腐臭は8体にも上る巨大な竜の(むくろ)(かか)え、笑っていた。

凍死した竜から感じていた薬品の臭いは笑い声に食い()らかされ、俺たちの()()ばかりを誘惑(ゆうわく)する。

骸は、その全てが何かとてつもない火力のものに焼き切られ、五体満足のものはない。

そして、やはりどの遺体にも「ゲニマイ」の名が刻まれていた。

…ゲニマイ……誰だ。これ程の数の竜を(あやつ)る術者が無名(むめい)なはずがない。

それは8体の竜を(ほふ)った何者かも(しか)り。

俺は影も形も(さだ)まらない二つの強大な存在をシッカリと目に焼き付けた。

 

 

……覚悟(かくご)はあった。

ガルアーノという一つの国を背負(せお)う男を相手にすると決めた時から。

生活を(ささ)えるためだけに(こな)してきた今までの仕事とは次元(じげん)が違うということくらい。

アルディアのマフィア、スメリアのアンデル、軍事国家ロマリア、そしてアーク。

一度(ひとたび)彼らの前に「敵」として姿を(さら)してしまったなら、彼らは積極的に俺たちを殺しに来る。

(たと)えそれが俺たちのような小物(こもの)であろうと。

 

だが、シャンテの『力』を()()たりにした時から一抹(いちまつ)の不安を覚え始めていた。俺の覚悟がまだまだ半端(はんぱ)なのではないかと。

そして今、それは断言(だんげん)していた。

俺と「世界」との圧倒的(あっとうてき)『力』の差を……。

 

 

 

――――まさか、こんなことになっていようとはのぅ……

 

 

 

「!?」

この異常な光景を説明する何かを探す俺の背後で、彼女の空気が一変(いっぺん)するのを感じた。

「どうした。」

振り返り、目にした彼女の(けわ)しい眼差(まなざ)しが、俺の右手を素早く腰の拳銃へと走らせる。

「この先に、誰かいるよ。」

……(うなが)されるままに視線を走らせるとそこには確かに何かがあった。その声と目付きに見合った何かが。

 

おおよそ100m先。巨大な岩山の(かげ)から、黒い尻尾(しっぽ)のようなものが()びている。

だが、尻尾は微動(びどう)だにせず、それ以外のものは確認できない。

「……人か?」

「多分ね。それに、ジジイだ。それもだいぶ年のいった…。」

尻尾の(ぬし)に動きはなく、俺には彼女の言う人の気配も感じることができないでいた。

「一人か?」

「分からない。今のところジジイの声しか聞こえてこないけど、何かに話し掛けている(ふう)ではあるよ。」

魔術師であれば遠方(えんぽう)の人間と交信(こうしん)しているという可能性もある。「竜討伐(とうばつ)を完了させた」という報告(ほうこく)をしているのかもしれない。

何にしても、その老人がここにいる竜全てを相手にしたというのであれば、敵味方()わず見つかる前に対処(たいしょ)しなければならない。

先行(せんこう)する。ここで待ってろ。」

俺はシャンテを残し、黒い尻尾を目指(めざ)して可能な限り素早く、可能な限り静かに駆け寄った。

 

……そうだ。俺は表にいる人間を影に()()りこみ、殺してきた。

そういう人間だ。

それができる人間だ。

臆病風(おくびょうかぜ)()かれ、見失(みうしな)っていたものを取り戻した瞬間だった。自然と行動を起こした自分の身体に俺は『(おれ)』という存在を再認識(さいにんしき)させられた。

 

 

 

 

「気づかなんで本当にすまなかった。」

目標(もくひょう)と20mの距離まで近づくとシャンテの言う老人の声を確認することができた。さらには、老人の(そば)にいるであろう黒い竜の吐息(といき)も微かに聞き取れた。

だが、その息は今にも事切(ことき)れそうなほどに弱々しい。

そして――――、

 

さらに(しの)び寄り、(のぞ)き見た光景に俺は思わず息を飲んでしまう。

 

それはまさに絵本の挿絵(さしえ)に描かれるような光景だった。

「……安らかに眠るがいい。」

今まで見たものよりも二回り大きい黒竜が横たわっていた。絶命(ぜつめい)の息を吐く黒い鼻先に手を()える小さな小さな人影があった。

 

――――人影。

(まと)ったボロ(ぬの)から覗くのは、()(えだ)のように細く骨張(ほねば)った腕。

頭頂(とうちょう)()わえられた長髪(ちょうはつ)(かた)にまで(とど)(まゆ)(あご)から大地へと根を()ろす(ひげ)

それら全てはミルクよりも白く、羊よりも()れた毛並(けな)みをしていた。

 

それは百という(よわい)(ゆう)()えているであろう人ならざる老人。そう思わせる程に完成された姿の老夫(ろうふ)だった。

 

やがて、老夫に()でられた竜は(おだ)やかに沈黙(ちんもく)していく。

 

 

「……のぅ、お主ら。」

「?!」

老夫の白毛(しらげ)がゾロリと()れたかと思うと、こちらを見遣(みや)り、言葉を投げ掛けてきた。

彼の傍に人影はおろか、虫や獣の姿もない。その問い掛けは間違いなく俺に向けられていた。

 

俺が老夫と竜の光景に魅入(みい)って油断(ゆだん)したのか。老夫自身が超人的な感覚で俺を探し当てたのか分からない。

だが、どちらにしろこの老夫がただ者でないことだけは確かだ。

「不老や不死は人にどんな(えき)(あた)えてくれると思う?」

俺の戸惑(とまど)いなどお(かま)いなしに老夫は言葉を(つな)ぎ続けた。

 

不老不死?それがこの老夫、もしくは現状(げんじょう)の何かと関係があるのか?

今分かるのは、この老夫がこれまでの黒い竜らを(あやつ)っていた術者である可能性は低いということくらいだ。

……いや、待て。「お主ら」だと?

「ハッ、そんな化け物みたいな奴を指して”人”だって言ってる時点でアンタは勘違(かんちが)いしてんだよ。」

「!?」

声の主が老夫に(こた)えた瞬間、俺は思わず自分の能力に不信感を(いだ)いてしまった。

彼女が近付いていたことに微塵(みじん)も気付くことができなかった。もはや彼女の『力』がそれ程までに強力なのだと言い訳をする他ない。

 

振り向けばそこに青髪(あおかみ)の彼女が立っており、今にも(いど)みかからんばかりの気色(けしょく)(あら)わにしていた。

「死なねえことが人間の求める幸せだってんなら戦争も病院もこの世にありゃしないんだよ。それに、知ってたかい?そんなバカなことを言う奴に限って死にたがりなんだよ。しかもヤツらはいつだって誰かを道連れにしようとしやがる。悪魔より悪魔みたいなヤツさ。」

(まく)()てるように話す彼女の口調には(あき)らかに個人へ向けての怒りが込められていた。

 

予想以上の反論(はんろん)が返ってきたことに面食(めんく)らったのか。問いを投げた老夫は固まり、会話に(わず)かな()()けた。

その(のち)、老人特有の「(とく)」を強調するような笑いでもって彼女の怒りに応えた。

「ホッホッホ。面白(おもしろ)いことを言う女子(おなご)じゃのう。久々(ひさびさ)に一本取られてしもうたわい。」

「…ジイさんはそうは思わないのかい?」

「いやいや、その答えは中々(なかなか)(まと)()ておるよ。真理(しんり)とも言っても良いかもしれん。」

息絶(いきた)えたばかりの竜を捨て置き、彼女に関心を持った老夫は近くの岩に腰を下ろし、(つえ)()に顎を置いて彼女の一言一句(いちごんいっく)に耳を(かたむ)けられる姿勢(しせい)(ととの)えた。

 

「それで?ジイさんはアタシたちの敵なのかい?」

そうだ。少なくとも今の俺たちにとって最も重要なことはその一点を置いて他にない。

引き金を引くべきなのか。そうでないのか。

だがもしも戦闘になった場合、俺は命懸(いのちが)けで彼女を逃がさなきゃならない。

「ホホ、(わし)女児(じょじ)を傷付ける趣味(しゅみ)はないよ。」

「でも、味方でもないんだろ?」

「それはお前さんたちの出方(でかた)次第(しだい)じゃな。」

他ならぬ「不死」が話題に上がったからには。

そして、()()()()()()()()()()()()()()

 

直感(ちょっかん)なんてものすら必要ない。

俺と彼女ではこの老夫に太刀打(たちう)ちできない。

黒竜を撫で殺してしまうような実力を持つ相手に、(かろ)うじて一匹を倒すことのできた俺たちに勝てる見込みなどない。

そもそも、この老夫は俺たちの戦うべき相手じゃない。

老夫もまた、そうであるはずだ。

「魔導師ゴーゲン、スメリア王暗殺の首謀者(しゅぼうしゃ)アーク・エダ・リコルヌの仲間だな?」

老夫があの青年の身内(みうち)である限り。

 

今となっては、あの青年がスメリア王暗殺の犯人であるとは思っていない。万が一そうであったとしても、それは()むなき事情(じじょう)があるのだと信じることができた。

だが、曖昧(あいまい)な理解や賛同(さんどう)は時に敵意を(まね)く。

第一、ギルドにおけるアーク一味の情報は少ない。現在の彼らがどういう構成(こうせい)、どういう思想(しそう)(もと)に行動しているのか。「部外者」である俺たちには知る(よし)もない。

老夫が一味(いちみ)から離れ、単独で動いているところ見るに、一味が一枚岩でないとも考えられる。

それに、そこはかとなくあの好青年の身内とは思えない”悪意”のようなものが、この老夫からは感じ取れた。

 

もしも、現在この老夫が青年と敵対関係にあるのなら、不用意(ふようい)に青年と接触(せっしょく)したことを話すべきではない。

老夫の目的がアンデルやガルアーノでないのなら、それを話したところで意味もない。そもそも、竜一匹に手こずるような俺たちが打倒(だとう)ガルアーノを語ったところで信じてもらえるかどうかも(あや)しい。

今はただ、何も知らないフリをしていた方が良い。

 

「……ホッホッ、さすがに()()ればこんなヨボヨボのジジイでも顔を(おぼ)えられてしまうものじゃな。」

(かわ)ききり、痛んだ髭を撫でながら老夫は満足そうに言った。

老夫は俺の()()()()()()()()()()()()

そして、この会話に一切(いっさい)動じない彼女の様子を見るに、彼女もこのことには気付いていたようだ。

 

魔導師ゴーゲン。

賞金稼ぎ組合(ギルド)においてその面相(めんそう)が公開されているにも(かか)わらず、それ以上の情報は一切開示(かいじ)されていない。出生(しゅっせい)はおろか、アークの傘下(さんか)に入るまでに残してきたであろう特筆(とくひつ)すべき経歴(けいれき)一片(いっぺん)さえも。

(くわ)えて、彼に掛けられた懸賞金(けんしょうきん)は他のアーク配下(はいか)(くら)べ、(けた)が二つも違っている。

参謀(さんぼう)」というステータスだけでは誤魔化(ごまか)し切れない、アーク一味の中でも(なぞ)(つつ)まれた老夫と賞金稼ぎたちの間でも要注意の対象と認識(にんしき)されている。

 

だからこそ、老夫がその杖を振りかざすまで俺は問い続けた。

「サシャールダッド・パラ・ゲニマイ、これもお前たちの仲間の名前だな?」

竜の足首に(きざ)まれていた、異能の『力』を持つ者の名がアーク一味にいるという情報は聞いたことがなかった。

だが、この老夫がわざわざこの場に姿を見せている以上、無関係ではないはずだ。

「ホッホッホッ。あの文字が読めるとはお前さん、中々に博識(はくしき)じゃな。」

()めているのかもしれない。だが、彼の()()げられる眉と唇はどこか人を小馬鹿(こばか)にしているように見える。

「質問に答えてもらおうか。」

「まあ、どうでも良いではないか。少なくともお前さんには(かか)わりのない人間よ。」

「関わりならある。俺たちはここに来るまでに奴の操る竜に襲われた。…もう一度同じ質問をするべきか?」

「今現在、お主らは生きておるのだろ?なら話しはここで終わり。それで良いではないか。」

言うと、老夫はわざとらしく欠伸(あくび)をしてみせ、俺の問い掛けに無関心を決め込む。

「なぜ答えない。お前たちにとって余程(よほど)マズイことということか?」

「関わらぬ方がお主らのためというだけよ。ロマリアにも、ガルアーノにもな。」

「……なぜ知っている。」

 

バスコフ、リゼッティの根回しもあって、俺たちがガルアーノと敵対していることは(おおやけ)になっていない。

だとするのなら…、

「なに。お主にこびり付いた『炎』の臭い、女神さんの首を落とした時に()いだ覚えがあるというだけよ。」

『炎』……、エルクのことか。

どういう目的だったのかは分からないが、少なくともあの式典(しきてん)にこの老夫はいた。地上、もしくはあの船の中に。

「あの(いかずち)を落としたのはお前か?」

シルバーノアの出現とともに、青白く(またた)く槍が巨大な石女の首を()()ばした。

通常の落雷でああはならない。

あれは人が真似(まね)る「雷」の領域(りょういき)、さらには「雷の力」そのものさえも超えていた。

「どうだ。キレイじゃったろ?敵とはいえ、女の晴れ舞台じゃ。少々力を入れてみたんじゃよ。」

この言葉を信じて良いのなら、この老夫がまだアーク側の人間である可能性は高い。

……どうする。アークと接触したこと、俺たちの本当の目的を伝えるべきか?

 

「ホッホッホッ、そう難しい顔をせんでもよい。さっきも言ったが、()()積極的(せっきょくてき)にお主らに手を出すことはせんよ。」

「……お前たちはいったい、何者なんだ。何を(たく)んでいる。」

10名()らずの少数精鋭(せいえい)の男たちが世界最大規模(きぼ)の軍事国家を相手に戦争を(けしか)けている。多くの戦場を見てきた者にとって、これほど理解に苦しむ図式はない。

時に思いもよらない行動を起こす過激派(かげきは)の革命軍とさえ呼べない。

それなのに、彼らの落ち着き払った犯行(はんこう)の数々は俺たちの理解の(はる)か上を歩き続けている。

 

……だが、この老夫と話している内に、この異常な部隊の説明をする()()()()()が俺の頭の中に浮かび上がった。

「アークからは何も聞いておらんのか?…まあ、無闇(むやみ)他人(ひと)に話すことでもないがの。」

老夫は俺たちが青年と接触したことも知っている。どうやら彼が今もまだ青年の身内であることは間違いないようだ。

 

「まあ、一言で(かた)づけるのなら”ボランティア”じゃな。」

「何?」

「世界を(また)にかけ害虫(がいちゅう)駆除(くじょ)無償(むしょう)奉仕(ほうし)する頭の狂った者たちの集まりということじゃよ。」

「…白化(しらば)くれるのは止めにしたらどうだ。」

「……」

顎髭(あごひげ)()いていた老夫の手が止まり、岩戸(いわと)のように重い(まぶた)()っすらと持ち上げられた。

「……”アーク一味”という少数精鋭の部隊はカモフラージュだ。お前たちの本当の名前は”レジスタンス”。お前たちの目的は世界征服(せいふく)でもロマリア政府の転覆(てんぷく)でもない。……”救済(きゅうさい)”だ。違うか?」

 

 

……ホッホッ……、ホッホッホッホッホッ………




※シャンテの力
前回、彼女が黒い竜(ギアではありません。次回、解説します。)を倒すために使った魔法は「ダイヤモンドダスト」……と簡単に説明できればいいのですが、原作での「黒い竜(仮)」のレベルは47。平均的プレイ進行度でのシュウたちのレベルは30~40。
いくらシャンテの魔力が強いからといってダイヤモンドダスト一発。って訳にもいかないかなと。

だから今回は複合技というかなんというか、以下の能力が同時に発生したと思ってください。

ディスペル(アンデッド系専用の一撃必殺)
ディストラクション(魔力低下効果、今回はシャンテの魔法に対する耐性を下げたと思ってください)
天の裁き(光属性の広範囲攻撃)
スリープウィンドウ(眠り効果を与える補助魔法)
ディバイド(体力を奪い、自身を回復させる補助魔法)
ダイヤモンドダスト(水属性の広範囲攻撃)

これだけ一度にぶつければなんとかなるでしょ(笑)

※サシャールダッド・パラ・ゲニマイ
今はまだ彼についての紹介は伏せておこうと思いますm(__)m

※中近東
原作で言う「アララトス」「バルバラード」「アリバーシャ」辺りを指します。
私たちの世界でいうと、イスラエル、トルコ、アラブ首長国連邦、サウジアラビア辺りのことです。

※象の墓
いつ頃取り上げられた話かは分かりませんが、野生の象の死体をほとんど見かけない人々が「象はどこか人には知られない特定の場所で死んでいる」と噂し始めたそうです。
実際は、肉食動物や微生物が短期間で分解してしまうため、滅多に見かけることがないそうです。
そもそも象は長寿(だいたい70年)らしいので、短期間で老衰による死が重なることはあまりないのかもしれません。

私は初め、「クジラの墓」というものがあると思っていました。
群れの鯨たちは同じ場所を死に場所にしている……という話を聞いたような気がしていたんです。
でも、そんなものはないみたいですね。
代わりに「打ち上げられた鯨の死骸は爆発する」だとか「ホオジロザメは水族館で飼育できない」なんて動画を見て調べものが終わってしまいました(笑)

これとは関係ありませんが、日本には捕鯨を生業(なりわい)とする人たちが供養(くよう)の意味を込めてもうけた「鯨墓」(くじらばか、げいぼ)というものがあるそうです。

※シャンテの発言
「戦争も病院もこの世にありゃしないんだよ」
「戦争」
争いの中で命を落とす可能性が大きく、「命」を大切に思うのならそもそも「命」を危険に晒さないよねってこと。
「病院」
「命」を(おびや)かす病気を取り除く場所。一見、「え?関係なくない?」って思うんですけど、「不死」を目指すなら「老衰(ろうすい)」以外の障害はとっくに解決してないとおかしくない?
っていうシャンテなりの嫌味のつもりです。
スゴク分かりづらかったと思います。でもこれ以外にハマる言葉が分からなかったので使いましたm(__)m

※老夫(ろうふ)
年老いた男。
……今まで勘違いして「老父」と書き続けていました。折を見て訂正するつもりです。すみません(~_~;)
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