「ホレ、リーザ。起きなさい。」
「ん…、おじいちゃん、私、もう…。」
「コレコレ、
「ん…?えっ!?」
お
だけど、祖父ちゃんと違う臭いに気付いて…。
「ご、ごめんなさい!私…、あっ!パンディットは?!
目が覚めたと思いきや、私はおじいさんそっちのけで好き勝手に
だって、
それに、
もう、訳が分からなくなって…。
「落ち着きなさい。」
おじいさんは飼い犬をあやすように私の頭を
その手つきも、お
同じリズムでやってくるゴツゴツした
「…え?」
ほんの少し、
弟は私の体を
多分、おじいさんが来るよりもずっと前からそうしてたんだと思う。
「パン、ディッ、ト…?」
私は、そこにいるはずのないものを見ている気がした。
だって、あの時確かに、大きなドラゴンがこの子を
私はまた、誰かに
でも――――、
「……パンディットっ!」
この温かさを、私は知ってる。
『魔女』になる
この匂いも。この『声』も。私、全部知ってる。
…今までずっと、私の
ずっと、私を
「パンディット…。」
もう、
私の一番近くにいるこの子は、私の『
それを知っているのに、私は護れなかった自分が受け入れられなくて…。
その度に狂ってしまう。
この子を引きずり回しても何も感じなくなってしまう。
…わかってる。
私が生きてる限り、この子は望んで私の『
どんなに私がこの子を「
私の『
だから、どんなに謝ったって――――
それでも私はこの子に傍にいたい。
傍に、いて欲しい。
リリー……
「……」
この子は私の命を護る『奴隷』だから。
私のことを
私の
「そ
「……」
何も言えない。
おじいさんが味方になって強気になっていた
やっぱり私なんかが「戦場」に立とうなんて間違ってたんだわ。
…帰りたい。
…帰りたい。
細く骨ばった手が
「あれをご
「…あれ、私がやったんですか?」
苦労を
その背後には、頭を
「そうじゃ。
「私…、それでも皆を、この子たちを苦しめてしまいました。」
私に
それでもヘモジーたちは私を
そんなことしてもまた、あの『声』が私から酸素を
いっそのこと、「
……あれ?
「『声』が、しない?」
私が
「やはりアレが悪さをしとったか。じゃが、もう心配はいらん。今は
おじいさんの言う通り、耳を
…おじいさんは何だって見抜いている。なんだって
まるでおじいさんがこの「世界」の全てを動かしてるみたい。あの
「動けるかの?」
「……」
そしてこれから、私たちの手であの子たちを殺しにいくんだ。みんな、みんな……。
「リーザ…、」
「…はい。」
「やめるか?」
……私は「化け物」だもの。どうしたって
だけど、このままじゃ「化け物」としてしか生きられない。
誰も護れないまま、
それでいいの?。
…私は、「化け物」でいい。……醜くてもいい。
だけど、せめて私が想う大切な人だけでも護りたい。『悪夢』から
この子にも、エルクにも…。
「……大丈夫です、行けます。」
初めて見る、
だけど、おじいちゃんたちほど私の手に温もりはない。
そんな感じがする……。
「そうか…。」
おじいさんだって私が
どうしてだか、おじいさんは私の答えに不満を感じているように『聞こえた』。
「足を出しなさい。それでは歩けんだろう?」
パンディットに
「
私が
「すぐに良くなる。だから少しだけ
緑色のそれは
…薬の知識もあるんだ。
傷口が見えなくなるまで塗ると、おじいさんはゴツゴツした手の平をソッと私の足首に
「……よし、こんなもんじゃろ。」
あの『蒼い光』が、ほんの少しおじいさんの手に
そうして
それだけで、ほとんど痛みを感じなくなっていた。
「本当に、ゴーゲンさんは何でもできるんですね。」
だけど、おじいさんは私が思っている以上に真剣に受け止めてしまっていた。
「あ、いや、何でもないんです。気にしないでください。
それでもおじいさんは私の顔をジッと
「リーザ、儂はな、」
その
「…はい。」
何を言い出すんだろう。
気のせいか。なんだか、怒っているような気がする。
すると――――、
「
「…え?」
けれど、いつの間にかおじいさんの表情は
「ホレ、この通りな。」
おじいさんはおどけた
穴だらけだし、あちこち
それはもう何十年、何百年と着続けてる
むしろ、それだけ長く着続けられてるその服は普通のお店で買えるような
だけど、そんなことは今の私たちにとってどうでもいいことだった。
「…フフ、私もそんなに得意ではないですけど、戻ったら
これが本当の「会話」なんだなって心から実感した。
ウソだっていい。ふざけてたっていい。
私の中の、少しの活力を見つけさせてくれる言葉だから。
私を
だから、気持ちに
だから、それに「
「ありがとう。」
おじいさんはまた、あの手で私の頭を撫でてくれた。
おじいさんが私の何気ない一言にさえ言葉を選んだように。
私だって、あの時もっと『声』を
…まだハッキリとは言い切れないけれど、それが、『言葉を
私は、悪い面ばかりを見せられてきた『魔女』とは別の、『
「あらかた敵は倒した。そして、この先に目的の
「…はい。」
おじいさんに
おじいさんはあたかもそこに無事な姿の皆がいる風に言うけれど、果たしてそこに私の知ってる皆がいるかどうか…。
やっぱり私には自信がない。
「お前さんがそんな弱気でどうする。ホレ、顔を上げなさい。」
「……」
「前を向きなさい。不安なのは彼らとて一緒じゃ。…大切な人を助けたいのじゃろう?」
私は黙って
「だったら、お前さんはその不安からも救わねば。そうじゃろう?」
「……」
私は撫でられるのも待てずに、ソッとおじいさんに抱きつき、おじいさんの言葉を借りて自分に言い聞かせた。
大丈夫、大丈夫、大丈夫……
「…大丈夫。儂を信じなさい。」
…おじいさんはどうして、こんなにも私の力になってくれるのかしら?
それは
――――『蒼い光』を見たからかな?
エルクを想う気持ちとは違う。どちらかと言えば、おじいちゃんを大事に想う気持ちに
たった二日間しか一緒にいなかったのに。
――――あの優しい手で撫でてくれたからかな?
その間に
――――わからない。わからないけど、それでも、
いつの間にか、この人のためになら
それは今、私がこの
だから私は、この人も助けたい。
…そう想える。
――――フォーレス支部キメラ研究所最奥部
ここに来るまでに沢山の
中身はもう、『声』の
皆、今は眠っているけれど
それを食い止めるには、息の根を止める…しかない。
そのために、私たちはここにいる。
私に、この子たちは救えない。
「よくぞここまで…。いや、あの方に
そこは他の部屋と空気が違っていた。
この部屋の水槽には、あのガスタンクに詰まっていた『子どもたち』を
『……』
黙ってたって、嫌でも感じる。
それは、おじいさんが話した「
…ううん、そっくりなんじゃない。
「気になるか?まあ、そうだろうな。」
たった一人、部屋の奥で私たちを待ち構えていた白衣の男は私の
「ここにあるサンプルは
”あの方”……。
男は
「ここにいる化け物どもは、あの方の指先一つで動く生物兵器という訳だ。」
まるで、ここにいる私たちまでもがその『
心の中にあの『
「キサマらがそんなにも戦争を好むのもまた、『あの方』の意思ゆえか?」
そんな男の口ぶりが気に入らないのか。
おじいさんは
「さあな。だが今に分かる。嫌というほどな。」
「ホッホッホ、バカなことを言う。”嫌というほど”?そんな
言いつつ、体重を
「耳を澄ましてみろ。キサマらの退場を
老夫の全身が、絶対的な力の差を
アリの耳元でゾウが足を
「…やれるものならやってみるがいい。我々とてキサマの『力』に甘んじて
言うや
放たれた
大理石は
純白に
それは、
「これが我々の研究の
男もまた、全身を
首は
戦車のように
「…ヒトツ、イイ、ワスレタコトガアル。」
「アノ方ノ細胞ハ魔女ノ血ニヨク
「……」
科学者として
そうすることでしか、彼に認めてもらうチャンスがないのだと
「コノ中ニオ前ノ大事ナ家族ガ
「…
それでも老夫は彼らを否定しなければならない。
「……」
そこに、
竜に負けるとも
「コイツラヲ
「……」
意思の
――――お姉ちゃんっ!!
ところが、少女の『愛』を
天から
「リッツ?!」
リーザのいるフロアの一つ上から、
「騙されちゃダメだよ!みんな、ここにいるよ!」
「…みんな?」
「チッ、
竜が天使を
「
魔女の耳には『
天使の背後でさざめく、たくさんの
天使の声に
「おい…、本当にリーザなのか?」
「リーザだわ。皆、リーザよ!」
「まさか、そんな…。」
一人、二人、三人…、
それでも、そこに彼女を
全員が全員、彼女の「本当の名前」を知っていた。呪われた「化け物」の名ではなく。
「みんな…。」
同じ時を生き抜いてきた仲間たちの声が、黒く
そして、
「…リーザ……」
数十年、
しかし、
「…おぉ、リーザ!」
「おじいちゃんっ!」
愛する者がそこにいると知った男は、
「おぉ、おぉ……、」
「…おじいちゃん。」
少女の肩を、老夫は静かに叩く。
「あそこに帰りたいか?」
この世にたった一つ残された、「化け物」でありながら「化け物」と呼ばれない場所。
花を
当たり前のように「少女」でいられた場所。
それが、この
一人苦労をかけた小さな「
少女は、価値を見い出せなかった『自分の名』に、この世にたった一人の『リーザ・フローラ・メルノ』として生まれたことを―――産まれて初めて―――、『
「ならば行こう!愛し、愛される場所へ!
「はいっ!!」
リーザ・フローラ・メルノは魔女としてこの世に生まれ、初めて、呪われた戦場に自らの足で踏み出した。
※大理石のような純白の大岩をいくつも生成していく→原作の「シードレイク」のことです。
※禍々しいまでの怪物→原作の「カッパードラゴン」のことです。
※そこには不自然に床から伸びる鋭い鉄の棘に頭を貫かれたドラゴンの姿があった。
原作のリーザの魔法「アースクエイク」は、地面から
ですが、「私解釈」で「鉱物を操る魔法」と設定しているので、鉄も尖ります!(笑)
※あの『蒼い光』が、ほんの少しおじいさんの手に宿っただけ。そうして包帯を巻いて治療は終わった。
原作のゴーゲンに「回復魔法」はありません。
もはや私の中でゴーゲンは「魔法」と名前の付くもので使えないものはないと思ってしまっていますね(笑)
※益体(やくたい)もない
利益のない。つまらない。意味のない。役に立たない。という意味。
※ゾウの足音
その巨体から大きな足音を立てるイメージがありますが、実際はかなり静かに歩くそうです。
足の裏(主にかかと部分)に脂肪の塊があり、常に爪先立ちで歩いている感じなんだとか。
走っている時も比較的静かなんだそうです。
(重い体重で膝を痛めないようにするための構造なんだとか。…へぇ~)
※ソプラノ(少年である場合、「ボーイ・ソプラノ」ともいう)
変声期前(声変わり前)の少年は昔から、独特の声色を持った高音域を出すことと、変声期までという限られた期間に希少価値を見出されてきました。
そのため、「宗教音楽」にも多く用いられてきました。
今回の舞台「フォーレス」は私のイメージでは「欧州」、「スイス(アルプス)辺り」です。
また、フォーレス関連で主題ともいえる「魔女」を迫害するという強い宗教観念もあって、私の中では「リッツ」が「リーザ」と対をなすような感じがしていました。
なので、リッツには敢えて「ソプラノ」や「天使」といった表現を使ってみました。
※天啓(てんけい)
神様からのお告げ。導き。
ひらめき、インスピレーションの意味で使われることもありますね。
※浮き世
平安時代には「辛いことの多い世の中」という意味で「憂き世」と表記していました。
その後、仏教思想による解釈で「無常の世」(儚い世の中という意味)、「仮の世界」という意味が加わり、「浮き世」と表記されるようになりました。
江戸時代に入ると、新たに享楽的観念(何も考えず遊んで暮らそうぜ!みたいな意味)が加えられ「浮世絵」や「浮世話」などの娯楽が生まれたそうです。