聖櫃に抱かれた子どもたち   作:佐伯寿和2

168 / 282
巫女の砦 その三

紫髪(しはつ)修道女(シスター)(りん)()びる背中は、まるで(いの)る相手がそこにいるかのような錯覚(さっかく)をみせた。

「……」

何に祈ってるのかわからない。そもそも、祈ってるのかどうかもわからない。

俺はそっちの方面(ほうめん)には(くわ)しくないけれど、それでも彼女が『ソレ』に非常(ひじょう)労力(ろうりょく)()いていることがその後ろ姿からヒシヒシと(つた)わってきた。

祈る相手は七本の石碑(せきひ)(おく)で口も()かずひっそりと(たたず)んでいる。

利く必要がないのか。もしくは利いてはいけないのか。

風化によってか、石碑は一本折れている。その隙間からソイツのただならない気配だけが感じられる。

そして、()()た気配を押し隠すためにこの部屋を満たしている空気は間違いなく、俺たちが毎日せっせせっせと肺に出し入れしているものとは別次元(べつじげん)のものだ。

 

なんとなく思った。

彼女がこの異質な空気を神殿(しんでん)に閉じ込めることで世界は(かろ)うじて正常(せいじょう)機能(きのう)してるんじゃないか?

彼女がいなきゃ、世界はとっくに(ほろ)んでるんじゃないか?

そういうものを必然的(ひつぜんてき)に感じさせる異様な『力』が、その空間にはあった。

「目が()めたのね。」

俺たちの気配(けはい)(さっ)した彼女は、風のない下流(かりゅう)川面(かわも)のようにゆっくりと振り返った。

「ア?あ、あぁ…。」

その動きは気品に(あふ)れていて、戦闘技術の面でもかなり洗練(せんれん)されていた。髪の毛一本()うことなく、手足に一片(いっぺん)の死角もつくらない。

真似(まね)をしてみろと言われてできる動きじゃない。

プロディアスでの女神像の式典(セレモニー)(おそ)った天災(てんさい)のような『(いかずち)』ではわからなかった、「アーク一味」のレベルの高さを初めて(はだ)で感じさせられた。

 

一方で、彼女を見ていると俺は無意識にあのオッカナイ歌姫を思い浮かべていた。

…目付き、かな。(しと)やかな()()ちとは裏腹に、マフィア相手でも(ひる)まない気の強そうな目をしてやがるんだ。

「気分はどう?」

「…大丈夫だ。問題ねえよ。」

別にあの青髪が嫌いとかじゃねえ。…いや、もちろん好きでもねえけど。

だけど、俺はアイツにとって(かたき)のようなものだから…。

()てると思うと、無意識に彼女にも気後(きおく)れしてしまう自分がいる。

 

ククル・リル・ワイト。

アーク一味(いちみ)(いや)()で、女だてらに化け物を素手(すで)で打ち負かす武術(ぶじゅつ)心得(こころえ)ている。

なんでも、武術の最高峰(さいこうほう)とも言われている「ラマダ拳法(けんぽう)」の使い手も打ち負かしたことがあるらしい。いわゆる天才だ。

スメリアの修道女、”巫女(みこ)特有(とくゆう)の『(せい)なる力』は世界で五本の指に入るとも言われている。

この「神殿」という装置(そうち)も、彼女がいて初めて『力』を最大限に発揮(はっき)しているんだろう。

今、もしも、この場で()()うことになったら…、俺は勝てるのか?

『聖なる力』がどんなもんかも分からないし、この『神殿(そうち)』が侵入者(おれ)に対してどう働くのかも分からない。

けれど、もしもここで『炎』を完全に(ふう)じられたなら、それこそ素手でライオンに(いど)みかかるようなものだ。

 

「記憶はどう?気絶(きぜつ)する前のことはどれくらい(おぼ)えているのかしら?」

「その前に一つ聞いときたいんだけどよ、」

…多分、ビビっちまったんだと思う。彼女の質問に素直(すなお)に答えることが()()()()()()

答えを考えるよりも先に、少しでも俺が優位(ゆうい)に立てる情報を引き出すために、頭にあった疑問(ぎもん)が口を()いて出てた。

「どうしてシュウたち…、俺の仲間はここにいないんだ?」

おおよその予想はついてるし、コイツらが(うわさ)通りの悪党(あくとう)じゃないってんなら(はず)れてもないと思う。

そして、その通りの答えが彼女の口から返ってきた。

「じゃあ、別の質問だ。」

気付けば、俺はまるで尋問(じんもん)をしているような言葉(づか)いになっていた。

引っ込みがつかなくなっていたんだ。今は、(いきお)いに()(まか)せていたかったんだ。

(たい)して彼女は、終始(しゅうし)「修道女」(ぜん)とした(つつし)(ぶか)姿勢(しせい)で俺の言葉に耳を(かたむ)けてる。

…今は。

「アンタらはどうして俺を(なお)してくれたんだ?」

 

人を見る目に絶対の自信がある(わけ)じゃないけれど、俺にはククルが世界を転覆(てんぷく)させようって大悪党の仲間には見えなかった。

俺の目には、ちょっとばかし『力』に(めぐ)まれた「修道女」にしか(うつ)らなかったんだ。

何か、理由があるんだ。「アークの仲間」になり、甘んじて「悪人」のレッテルを受け入れる理由が。

「アナタは私たちをどう思ってるか知らないけれど、私たちはただ、精霊の(みちび)きに(したが)ってるだけよ。」

…ウソだ。

コイツらの動きから感じた俺の勝手な印象(いんしょう)だけど、コイツらが誰かの命令で動いてるようには思えない。

あくまでコイツらのリーダーは「アーク」ただ一人だ。

精霊でもなければ、神でも魔王でもない。

「質問が増えたぜ。なんでウソを吐くんだ?」

「…どうして(うそ)だと思うの?」

「別に、なんとなくだよ。」

本当に、これといった根拠(こんきょ)は思い浮かばない。

()()がりで頭が働かなかったから。彼女の目力に当てられたってのもある。

それを別にしても、どうしてだか彼女をそれ以上(いじょう)()()める言葉が思いつかなかった。

「だけどウソ、なんだろ?」

単純(たんじゅん)に、そう言えば(こた)えてくれる気がした。

 

ククルは()(いき)を一つ()くと、声色をそのままに、あからさまに不機嫌(ふきげん)な顔付きになった。

「完全に“嘘”ということはないわ。私たちの始まりは確かに精霊の導きからだった。」

…だった?

そう口にするククルの目にはまるで嫌な過去を…、俺で言えば、あの森を(ひと)りで走る『悪夢(ゆめ)』を思い返すかのような嫌悪感(けんおかん)(あらわ)れていた。

「でも今は皆、それぞれの意志を持って行動してる。皆が、自分の意思でアークに付いていってる。」

精霊は、コイツらの味方だった。だけど、今は違う。

アークが精霊の怒りを買ったのか。それとも、(たん)に精霊がアークたちを裏切ったのか。

どちらにしろ、今はガルアーノ達と精霊、もしくは他にも敵対してる勢力(せいりょく)があったりすんのか?

だとしたら、どんだけ()の悪い(たたか)いをしてやがるんだ。

「そのアークが言ったのよ。アナタを治してくれって。理由は聞いてないわ。アナタに特別なものを感じたのかもしれないし、ただただアナタの()()不憫(ふびん)に思ったのかもしれない。」

「……」

「だけど、これだけはハッキリと言えるわ。あの人は護れる人を見捨(みす)てて前に進めるほど(かしこ)くない。」

「……」

それは俺に「正義」を主張(しゅちょう)してるつもりなのか?

俺に、犯罪者(アーク)共感(きょうかん)しろって?馬鹿(ばか)げてるぜ。

 

「さあ、私は答えたわ。今度は私の番。記憶はどう?なにか思い出せずに引っ掛かってることはない?」

そう感じてしまったからなのかもしれない。

ククルの言い方はどこか、俺から何か情報を引き出そうとしているように聞こえた。

「記憶」?体調を気遣(きづか)う相手にそんな聞き方をするか?

でも、答えることにした。それが「見返り(ちりょうひ)」だって言うんなら(はら)うべきだろ。

それに、隠し事をするほどの秘密を持ってる訳でもない。

「俺たちはガルアーノの施設(しせつ)を、”白い家”を(おそ)ったんだ。そこで…、奴の(つく)った化け物と戦って、俺はデカい爆発に飲み込まれた。…目が()めたらここにいた。それくらいだ。」

俺は返事をする()わりに憶えていることを(なら)べた。

 

そして、一言、()()す。

「見たものは憶えてるし、見てないものは何にも憶えちゃいねえ。そんで、俺は憶えてねえことに興味(きょうみ)は持たねえ主義(しゅぎ)なんだよ。」

すると、ククルは(いぶか)しむ目で俺を見た。

「アナタも嘘を吐くじゃない。」

「……」

吐きたくて吐いたんじゃない。口が、勝手に動いてたんだ。

「……」

「別に、言いたくないなら言わなくてもいいわ。整理(せいり)がついてないってこともあるだろうし。」

関心(かんしん)がない、というよりも、もしかすると俺は忘れたいのかもしれない。

もしもそれが()()()()()()()

 

「ただ一つ、アナタに助言(じょげん)があるわ。」

「助言?」

そういう意味深(いみしん)な言葉に俺が警戒(けいかい)しない訳がない。それを知った上で、ククルはその言葉をチョイスしたに違いない。

俺がより深く、その言葉に注目するように。

裏側に隠したものに目がいかないように。

「パレンシア城。そこにアナタの道標(みちしるべ)になるものがあるわ。」

パレンシア城、1年前にコイツらが暗殺したスメリア王の城のことだ。

一見(いっけん)小細工(こざいく)をした(わり)には単純(たんじゅん)(わな)に見える。…それでも(ねん)のため、カマをかけてみた。

(わり)ぃけど、俺は見た目ほどバカじゃないんだぜ?そんな取って付けたような言葉で俺が指名手配犯(しめいてはいはん)転職(てんしょく)するとでも思ってんのか?」

コイツらが襲撃(しゅうげき)して以降(いこう)、城は修復(しゅうふく)される様子(ようす)もなく()()になっている。

そこに、コイツらが()(こぼ)した何かがあって、それを俺に「治療費(ちりょうひ)」と(めい)打って取ってこさせようとしているんだと思った。

あわよくば、()()きで俺を騒動(そうどう)()()むつもりなんだと。

 

けれど、それは俺の勘違(かんちが)いだった。

「そうね。できればそこに向かった私の仲間の手助けをしてくれたらとも思ってるわ。でも、」

彼女の目はシャンテのように挑発的(ちょうはつてき)だけれど、俺を(おとし)めるような気配は少しも感じられない。

「私たちのことに(かか)わらず、アナタはそこに行くべきだわ。」

「どういう意味だ?」

あくまで「修道女」然とした公平(こうへい)な目で、俺を見ていた。

「アナタは(なが)い永い『悪夢』から目覚めた。それでもまだ、”生きる”ことに迷ってる。この先、()(かま)える未来に、同じ影を見てしまうようで。だからアナタは忘れようとしてる。でも忘れられない。忘れたくない。それがアナタの嘘。」

「…それで?そんなどっかの自己啓発(じこけいはつ)本で見たようなセリフで俺の全部を見透(みす)かしたつもりかよ?」

「だったら、これからも過去を悪夢と呼び続けるつもり?」

「テメエの知ったことかよ。」

鬱陶(うっとう)しかった。

いちいち俺のことを根掘(ねほ)葉掘(はほ)り言い当ててしまうコイツらの目敏(めざと)さが。

 

殺気を込めて彼女を()()けてみた。

戦うつもりはない。けれど、(すき)あらば床に転がしてやるぐらいのつもりでいた。

それなのに彼女は少しも身構(みがま)えない。

見抜(みぬ)いてるんだ。俺にそんなつもりがないことくらい。

 

…表面上の、一触即発(いっしょくそくはつ)の空気が俺たちの間に(ただよ)った。

 

そこへ、ここぞとばかりに(しゃべ)産業(さんぎょう)廃棄物(はいきぶつ)土足(どそく)()()んできやがった。

「こレダカらガキのお()リハ手間(てマ)ガかかルんじャ。」

「あんだと?」

「生キルこトを迷う必要がアルノカ?”命アるモの”ノ言葉とは思エンぞ。」

この鉄クズが。機神(きしん)だか木仏(きぶつ)だか知らねえが、調子(ちょうし)に乗りやがって。

(こわ)したい衝動(しょうどう)が込み上げる。

アッという()だ。こんな奴、俺の『炎』で跡形(あとかた)もなく消し飛ばせる。

 

けれど、(れい)指輪(ゆびわ)()れれば()(くる)激情(げきじょう)はみるみる間に鎮火(ちんか)していく。

「……」

冷静(れいせい)になれよ。

そんなことをして何になる。精々(せいぜい)俺の気が()むだけだろ?

そんなことのために、リアを巻き込んぢまったヴィルマーのおっさんの決意(けつい)も、ただひたすらコイツの復活(ふっかつ)のために()えてきたオールドマンの努力も()(にじ)っちまうつもりかよ?

形こそ(ちが)うけど、アイツらの『過去』だって同じなんだ。ミリルやジーンと。

歯痒(はがゆ)いけど、このガラクタにはアイツらの期待(みらい)()まってるんだ。

 

そうして俺がどうにかこうにかポンコツへの怒りを(おさ)めていると、思わぬところから助け舟が現れた。

「ヂークベック、だったかしら?」

ククルは俺を見る時と同じ目で、口を利くゴミを見詰めた。

「アナタの言うように、心臓(いのち)は彼を”生かす”ために動いてる。心臓(いのち)は未来を(うたが)わない。彼に、生きるべき世界があると説得(せっとく)し続ける。それはとても大切なこと。唯一無二(ゆいいつむに)の友人と言ってもいいわ。だからアナタが命ある者にそういう疑問を(いだ)くのは当然(とうぜん)のことなのかもしれない。けれどね、」

ソイツが人間であるかのように(あつか)った。

心臓(いのち)は”夢を見ないの”。彼が広い世界を目にして胸に抱いた”理想の彼”を知らない。心()れた時も、傷つき(たお)れた時も、ただただ”生きろ”と(さけ)び続けるだけ。」

まるでソイツに俺を理解する頭があるかのように、告解室(こっかいしつ)にやってきた迷える教徒(きょうと)()くように、クソ真面目(まじめ)に答えていた。

「想像できる?『理想』のない世界に生き続ける、心臓(いのち)()きるまで悲鳴(ひめい)を上げ続けなきゃならない苦しみを。」

見せつける。

「同じ心臓(いのち)宿(やど)していたって、アナタの目には美しく見える世界も、彼の目には血と焼野原(やけのはら)(うつ)ることだってある。私たちは全ての世界を見ることなんてできない。ただただ”生きていること”で、誰かの世界を(おびや)かすことだってあるの。」

努力すれば、俺もソイツを理解することができるんだと。丁寧(ていねい)に。

「だから自分以外の誰かを想う人は”生きること”にさえ(なや)んでしまうの。その人が大切であるほど強く、強く思い悩んでしまうの。」

これが、「ククル」という修道女のやり方だった。

すると、まんまと術中(じゅっちゅう)()まったポンコツの声色が、表情を浮かべるかのように(しず)んだ。

 

「むウ…、リアもエルクと同ジコとヲ言っトッタ。だカらワシは同じことヲ言っテヤッたんジゃ。」

(うつむ)いて、ボディに(えが)かれた粗末(そまつ)落書(らくが)きを(せつ)なげに()でた。

「…モしカスると、ワシはアの子を傷つケテシマったノカ?」

「彼女はなんて言ってたの?」

「あノ子ハ、ワシを”強イな”ト()めたンじャ。じャカら、ワシのヨうニナルように頑張(がんば)れト(はげ)まシた。」

「そう…。」

…リアは、もうそんな気遣いができるようになっちまったんだ。

買い物一つに無邪気(むじゃき)な笑顔を浮かべていたあの子じゃなくなったんだ。

「ナア、ワシはあノ子を傷つケタノか?もし、ソウダったナらワシは今すグにデも(あやま)りニ(もど)らナきャナラんぞ?」

「……」

「そうね、その子は傷ついたかもしれないわ。でもね、謝ったところでアナタの言葉をなかったことにはできない。」

「リアは、ワシを許しテくレんとイウコとか?」

「傷つくことは、許す許さないという問題じゃないわ。」

「ナら、どウスレばいイ?どうスればワシはリアを護レるんジャ?」

少なくとも、俺はこのポンコツに良い印象は持ってない。

だからこそ、コイツが「帰る」と口走った時、俺は不謹慎(ふきんしん)にも「ラッキー」だと思ってしまった。

その「ラッキー」の意味も考えずに…。

 

「何も言わず、その子の(そば)にいてやればいいわ。(ちか)()った夫婦(ふうふ)のように、助け合い、(ささ)()えばいつかきっと傷は癒えてアナタが理想に思う”ヒトの大人”に育つでしょうね。」

見方を変えれば、ククルは俺に「助言」したようにポンコツを良いように誘導(ゆうどう)しているようにも見える。

今はまだ外堀(そとぼり)()めているだけで、これからその本心が(あき)らかに―――、

「…ワシ、帰ラン。」

「あら、どうして?」

「今のワシ、マだ”最強”じゃアナい。リアの(となり)にオるなラ”最強のワシ”じゃナキゃカッコ悪かロう?」

「アナタがそうやって”最強”になろうとしている間にもリアは化け物たちに襲われるかもしれないわよ?」

…聞いている内に、彼女はやっぱり初めの印象(いんしょう)通りの人なんじゃないかと思い直していた。

彼女の言葉はどうも”アークの一味”というよりも、”修道女”に寄っていたから。”アークの一味”なら|今頃(いまごろ)、宥《なだ》めすかして()(くる)めて。文字通(もじどお)り「(あやつ)り人形」にしていたと思う。

「…ソレは、心配じゃ。デも…、」

「でも?」

「……」

ポンコツは考え込んだ。人間のように。

「アナタの言う”最強”は何なの?化け物を倒す『力』?それともアナタの言う生きることを躊躇(ためら)わない『力』?」

「力は力じゃ。リアを傷つケるヤツはワシが許さン。デモ、今のワシはリアを傷ツケル。”最強”ジゃなイカら。ジゃから”最強のワシ”にナってリアを護ルンじゃ。」

答えてるのかどうかも(あや)しい、もどかしい返事にも、彼女は真摯(しんし)でい続けた。

後悔(こうかい)はない?」

「不安ダ。でも…、でモ…、」

「ヂークベック、その葛藤(かっとう)が”生きることに悩む姿”よ。」

「……ワシ、お前ニ(ひど)いコト言ったカもシレん。スまん。」

()びた鉄の(かたまり)が、俺に頭を下げた。

…その時、俺は初めて気が付いた。

「…謝んな。気持ち(わり)ぃ。」

その後頭部…というか、背中に、(つたな)い文字でこう(きざ)んであったことに。

 

―――ロボットの救世主(きゅうせいしゅ)様に感謝(かんしゃ)を込めて

      リリア・ヴィルト・コルトフスキー―――

 

 

「ヂークベック、アナタにも一つ助言をしてあげるわ。」

「オお、ナんだ?」

ポンコツは下げていた頭を上げると、期待(きたい)眼差(まなざ)しを彼女に向けた。

「命は育つのよ。アナタが傍に()ない今も。リアも、その(まわ)りの人たちも。傷つくばかりじゃない。彼らもまた、アナタを護るために強くなっていくのよ。」

「ワシを?」

「そうよ。嫌?」

「いイヤ、嫌ジゃナい。」

…そして、彼女の問いに、ポンコツはどことなく夢を見るような目付きで(つぶや)いた。

「…そレハ、いいな。」

 

 

「ちなみに手助けって、具体的(ぐたいてき)には何なんだよ?」

なんだか、二人の()()りを見ている内にどうでも良くなっていた。アークが世界の敵であろうとなかろうと。

「この村の住人が大臣(だいじん)(とら)えられたの。仲間が助けに向かってるけど…。もちろん仲間のことは信頼(しいらい)してるわ。でも、もしも大臣が直々(じきじき)出張(でば)ってきたらあの子一人じゃ対処(たいしょ)できなくなる。」

「アークは?アンタらの総大将は今どこで何してるんだよ。」

ククルは目を()せた。まるでアークがもう「過去の人」にでもなってしまったかのように。

「彼は、今、敵の渦中(かちゅう)にいるわ。一人で。」

「一人で?本気か?」

その「敵」ってのが誰のことを()してるのか分からねえけど、彼女が胸を痛めるほどの危険な場所にいるってのはよく伝わった。

「…なあ、アンタらはいったい何がしたいんだ?」

そうして顔を上げた彼女の(ひとみ)宿(やど)っていたのは、偽善(ぎぜん)でも私欲(しよく)でもない。

「私たちは、このくだらない戦争を終わらせたいの。」

戦争を正面から受け止める、家族を護る人間の覚悟(ひかり)だった。

 

「……アンタは何も聞かねえんだな。俺たちのこと。」

「聞いて欲しいの?」

「そういうことを言ってんじゃねえよ!」

腹立たしかった。そんなに年が(はな)れてる訳でもねえのに…。あまりに違い過ぎる人の(うつわ)が。

「……」

声を荒げる俺を、彼女は静かに見詰めた。あの瞳で。まるで俺が「仲間」であるかのように…。

 

カッコいいと思った。

俺が今まで会ってきた人間の中でも(ぐん)()いて。

…アークも、彼女と同じ目をしているんだろうか。

 

 

俺は、悩んだ。

 

どうして彼女は見ず知らずの俺に仲間の命を(あず)けようとするのか。

どうしてアークは(おん)(あだ)で返すかもしれない俺を助けたのか。

 

俺は、戦争を終わらせたいと言った彼女の言葉を信じてもいいのか?

 

 

「ワしモ、ツイてくゾ。」

「…勝手にしろ。」

耳障(みみざわ)りだったはずのラジオの音が気にならなくなっていた。

彼女との、短い会話の間に俺は何か()られたんだ。

「村を出る時は一度、私に声を掛けて。『結界(けっかい)』を(くぐ)れるようにしてあげるわ。」

それが何かはまだ分からない。

だけど、これを、()(かえ)していかなきゃいけないんだ。俺が殺した皆のためにも……。




※紫髪(しはつ)
造語です。文字通り、紫色の髪の毛という意味です。

※木仏
木彫りの仏像。
「機神」の「()」→「()」と「神」→「仏」を掛けているつもりです。

※告解室
ローマ・カトリック教会にて、信徒が神と司祭の前で告白する小部屋。懺悔する部屋のこと。

※リリア・ヴィルト・コルトフスキー
私の書くお話でのヴィルマー博士の孫娘リアのフルネーム。

※ヂークベックのサブストーリー?
原作での「ヂークベックの加入」がプレイヤーのプレイスタイルに委ねられていたからか。
(加入時期がメインストーリーの流れとして定められていません)
一部を除いてメインストーリーでの彼の発言はほとんど「ついで」みたいな感じで付け足されています。
なので、ちょいちょい彼に焦点を当てた話も書けたらなと思っています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。