聖櫃に抱かれた子どもたち   作:佐伯寿和2

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ラッパ吹きの行軍 その六

――――パレンシアタワー、地下1階

 

パレンシア城地下通路からパレンシアタワーへの侵入(しんにゅう)に失敗したその(ばん)気弱(きよわ)楽士(がくし)自称(じしょう)「世界最強の”()()()()()()()”」は、トウヴィル村の人質の(とら)われている牢獄(ろうごく)から(はな)れた独房(どくぼう)収監(しゅうかん)されていた。

「…エルク、大丈夫かなぁ。」

「魔法ハ正常(セイじょウ)に発動しタんじャロ?ナラ、ククルがなんとかしトるじゃロ。」

ポコはベッドに腰掛(こしか)け、ヂークは床に寝転がり、何をするでもなくボンヤリと(かま)えていた。

(たし)かにリーフの(たま)は使ったけど…。」

楽士は指を(くわ)え、新しくできた友人の安否(あんぴ)ばかりを気に掛けていた。

「心配シ()ギは体ニ良くなイラシいぞ?」

対して本来の性能を完全に忘れてしまった家庭用ボイラーは、天井の()みを数えながら眠りに()こうとしていた。

あまりに無関心で傍若無人(ぼうじゃくぶじん)なボイラーを見て、ポコはさらに不安を(つの)らせる。

「…ヂークは、心配じゃないの?」

「心配?何の?」

「だからエルクのだよ。僕の話、聞いてるの?」

「そウか。ワシはてっキリ自分の心配をシろと(せガ)んドるノカト思っタわ。」

抑揚(よくよう)もなくそう答える(ころ)、世界最強のボイラーは500以上の染みを数えていた。

「ええ、僕?」

「ダってお前、弱イダロ?」

「…そりゃあ、アークやエルクに(くら)べたらまだまだかもしれないよ?でも、僕だってやる時はやるんだよ?」

「ソウか。だカらさッキハ大人しクアのジジイの話ヲ聞イトッタと?」

「…それは……、」

 

――――数時間前、独房の前

 

「我々を暗殺しようとする(やから)は少なくない。」

「え?」

格子(こうし)()しに、アンデルはポコに機密(きみつ)情報の一つを口にした

「我々が公表していないだけでな。つい先日も、ミルマーナ兵に()りすました民間人がヤグンの演習所に爆弾を仕掛けたらしい。当然(とうぜん)未遂(みすい)に終わったがな。」

 

ミルマーナ国を支配(しはい)するヤグン・デル・カ・トル元帥(げんすい)は国の発展(はってん)を理由に、国民の心の()(どころ)でもある大森林を見境(みさかい)なしに()(ひら)いている。

このことにより軍備(ぐんび)は強化され国の安全は保証(ほしょう)されているが、その軍備を維持(いじ)するために物価(ぶっか)高騰(こうとう)し、国民の生活を圧迫(あっぱく)していた。

ただの一杯(いっぱい)の水ですら、砂漠の遭難者(そうなんしゃ)であるかのようなありがたみを覚えなければならないほどに。

そして、その水を(せつ)に求める彼らの愛する大森林は今、着実(ちゃくじつ)に「死」へと向かっている。

(たと)(わず)かでもこれらに異議(いぎ)(とな)えようものなら、例外なく軍法によって極刑(きょっけい)(あた)えられる。

ヤグン元帥とは対極(たいきょく)の、大森林の恩恵(おんけい)尊重(そんちょう)するミルマーナ王家と(とも)に生きてきた国民にとって、この方針(ほうしん)()(がた)いものだった。

 

(おろ)かな連中だ。たとえライフルを眉間(みけん)()()んだとしても、あの男の息の根を止めることなどできんというのにな。」

「…その人たちはどうしたの?」

処分(しょぶん)した。当然(とうぜん)のことだろう?まあ、我々なりのやり方ではあるがな。」

「殺したの?」

「キサマがそれを知る必要はない。」

萌葱(もえぎ)色の男は自分が始めた話であるにも(かか)わらず、関心のない()めた表情で楽士を(にら)んだ。

それでも男はその話をし続ける。

「キサマは先程(さきほど)、私に向かって”民間人に(つみ)はない”と言ったな。」

これこそが本題の入り口だとでも言うように。

「だが、どうだ?連中とて武器さえ手にしてしまえば何者かの命を(うば)いたい衝動(しょうどう)(おさ)えられない。たまたま、その標的(ひょうてき)が我々というだけに過ぎない。」

「……」

「同じだ。奴らも、我々も、そしてキサマらもな。」

「…そんなこと……、」

「”罪”は、何かを()して背負(せお)うものではない。生まれながらその身に宿(やど)しているものだ。本能と同じようにな。それは血と感情を宿(やど)す者の宿命(しゅくめい)よ。」

「そんなこと、ない!」

「フン」萌葱色の男は子どもの根拠(こんきょ)のない強がりに侮蔑(ぶべつ)の目を向け、嘲笑(あざわら)う。

 

「そこでだ、キサマに一つ助言(じょげん)してやろう。」

萌葱色の男は白檀(びゃくだん)扇子(せんす)で楽士の(あご)を持ち上げると、変わらない高圧的な表情で軟弱(なんじゃく)な楽士の心に彼の形を成す漆黒(いろ)を吹きかけた。

「我々の(がわ)に付け。」

「な…!?」

あらゆる「音」を耳にしてきた楽士の知るどの低音楽器(ベース)よりも底冷(そこび)えのする(おと)が、親友と()わした楽士の『決意』を耳から(おか)そうと(しの)()る。

「なに(むず)しいことはない。今まで通りアークの(ふところ)で活動しつつ、随時(ずいじ)、私に状況(じょうきょう)報告(ほうこく)するだけでいい。」

「何を言ってるの!?そんなことする訳ないじゃないか!」

「そうすればトウヴィルの人間の命は助けてやろう。」

「え…、」

「エルクはトウヴィルに帰したのだろう?人質の処刑(しょけい)明日(みょうじつ)、日の出と共に行う。もはや間に合うまい。それとも、今、ここで私の首を取ってみるか?」

楽士は愕然(がくぜん)とした。

この程度(ていど)脅迫(きょうはく)で『使命(しめい)』を見失(みうしな)いそうになる自分に。

「言っただろう。人は”罪”を持って生まれる。それを成す形が人それぞれというだけのこと。キサマが村人を(すく)い、我々と共に生きることも。仲間が気まぐれでみせた優しさに(あらが)えず村人を見捨てることも。もしくはどちらからも逃げることも、同じキサマの”罪”の形だ。()じることも()いることもない。ごくごく自然なことだ。」

僕に、彼は裏切れない。

だけど村人を見殺しにもできない。していい理由にならない。

それなのに、今の僕には目の前の敵を倒す『力』がない。

明日(あす)の日の出、それまでジックリと考えるといい。」

楽士は自分の「弱さ」に打ちのめされた。

 

――――現在、独房の中

 

萌葱色の怨敵(おんてき)は、あろうことか彼らの武器を取り上げなかった。

「この(おり)(こわ)したいなら壊せばいい。だがそれは同時に、キサマが護るべきもの全ての死を意味しているということを忘れるな。」

大臣は楽士を見くびっていた。

彼がどうあろうと、自分の思い通りになると。

 

「マあ、あんマリ気にせンことだな。」

家庭用ボイラーは天井を見上げたまま、まるで心理カウンセラーのように落ちこむ兵隊を(なぐさ)めた。

「それヨリも、(ヒま)ならワシのたメに染ミヲ数えロ。実に有意義(ユウイぎ)ダぞ?」

…ように見えた。

「…ハア、君は(なや)みがなさそうでいいね。」

「ワシは最強ダカらナ。」

「……ハア、」

楽士は「ロボット」に答えを求めるのを(あきら)め、草臥(くたび)れたシャコー(ぼう)を抱きしめて横になった。

「…アーク、僕、どうしよう……」

 

 

――――トウヴィル村を(いただ)く山、中腹(ちゅうふく)

 

俺は標高(ひょうこう)2000m近い山を垂直(すいちょく)()()りた。

道は(おぼ)えてる。案内役(あんないやく)気遣(きづか)う必要もない。

(もら)った首飾(くびかざ)りのお(かげ)か、それともククルが余計(よけい)に回復してくれたからか。全力で走っていても少しも(つか)れない。それどころか、本当に羽が()えたかのように体が軽い。

この(いきお)いでいけば十分と掛からずに山を()りれる。

列車(れっしゃ)仮眠(かみん)をとって、コルボ市から寝ずに走れば今日中にはパレンシア市に戻れる。身分証明書がないから結局(けっきょく)は不法侵入しなきゃならないけれど、(さわ)がしいガラクタがいないってだけで随分(ずいぶん)と動きやすい。

 

 

――――パレンシア市内、PM11時

 

深夜だからか。市内は思ったよりも手薄(てうす)だった。それとなくパレンシアタワーの情報を集めていても、憲兵(けんぺい)が俺の潜入(せんにゅう)に気付くことはないだろう。

俺は注意しながらも少し大胆(だいたん)に動いた。

 

パレンシアタワーは四方(しほう)を海に(かこ)まれた孤島(ことう)の上に()てられていた。

いくら夜中とはいえ、船で行けば丸見えだ。泳いで(わた)るにしても、この(さむ)時期(じき)におおよそ1㎞を遠泳(えんえい)すれば確実(かくじつ)に体力を持っていかれる。(わな)だってあるかもしれない。

もしも途中(とちゅう)で戦闘にでもなれば海中はかなりのハンデになる。

ポコがパレンシア城の地下通路から(もぐ)ろうとしていた理由がよく分かった。

だけど、もうあの通路は使えない。

あのやり手っぽい大臣がそのままにするはずがない。(ふさ)いであるか、さらに分かりにくい罠に(つく)()えてるか。何にしても、もはや俺一人で対処(たいしょ)できないレベルになっているはずだ。

今のところ、ククルの言っていた「運び屋」を(たよ)るしか方法はないように思えた。

 

「テメエ、エルクだな?」

「…誰だ、テメエ。」

とある酒場を後にしようとすると、酒臭さを隠そうともしない、(した)しみのある(がら)の悪い()()ちの男が話しかけてきた。

「さあ、誰だろうな。」

男は俺を挑発(ちょうはつ)するような(つら)で答えた。…いや、苛立(いらだ)ってるのは男の方のようにも見える。

「ナメてんのか?悪いけど今はチンピラの相手をしてられるほど(ひま)じゃねえんだよ。ブチ殺されたくなかったら今すぐ()せな。」

ククルの言っていた「運び屋」なのかもしれない。でも俺にはソイツの前情報が一つもない。

だから()()()()()()でしかソイツを見分けられない。

 

「暇じゃねえのは俺も一緒(いっしょ)だよ。ここ最近(さいきん)、ジジイの後始末(あとしまつ)忙殺(ぼうさつ)されるムカつく毎日さ。見込(みこ)んだ男はヘマして俺の立場を悪くするしよ。マジでムカついてんだわ。」

男はヤサグレた風貌(ふうぼう)ではあるけれど、「戦闘」には()れていないように見える。

それに「後始末」なんて言葉、「運び屋」の口からは中々(なかなか)聞かない。…もしかして、本当にただのチンピラなのか?

「……」

いいや、()()()()()()()じゃあねえ。

酒臭さの中に、ほんの(わず)かだけど上等(じょうとう)香水(こうすい)の臭いが()じってる。過去にこの臭いをさせてた奴は皆、女と革張(かわば)りの椅子(いす)に腰を下ろすことだけが自慢(じまん)で、(だん)じてこんな小汚(こきたな)野郎(やろう)が付けられるようなもんじゃねえし、こんな小汚い野郎を(そば)に置くような人種が付けるようなもんでもない。

 

俺の表情の変化に気付いたのか。男は失笑(しっしょう)しながら続けた。

「見た目よりも(かん)は良さそうじゃねえか。だけどあんまり俺のことを(さぐ)らない方が身のためだぜ?もしも、残りの人生を日陰(ひかげ)()らしにしたくなかったらの話だけどな。」

生憎(あいにく)、そんなんで手を(ゆる)められるほどお行儀(ぎょうぎ)良く育てられてねえんだよ。それに、そん時はテメエも()()えにしてやるから安心しろよ。」

男の足元に(つば)()き、相手を()()ろすゴロツキ特有の笑みを浮かべてみせた。

「あぁ、あぁ、近頃(ちかごろ)のガキは目上を(うやま)う心の美しさってものを忘れちまったらしい。」

「そうみたいだな。だけど、人の殺し方ならウンザリするほど知ってるぜ?」

俺は、男が反応できない速さで得物(えもの)先端(せんたん)を突き付けた。

 

反応こそできなかったものの、男は少しも(どう)じずに俺を(にら)(かえ)す。

「…どうした?オラ、()れよ。」

「……」

「出来ねえことを吐く奴ほどダサいものはねえよなぁ?」

店内の常連客(じょうれんきゃく)連中は、こんな(さわ)ぎに()れてるのか。自分たちに(がい)(およ)ばないと分かると、(わずら)わしい日常から解放してくれる愛すべき赤ブドウと(たわむ)れる時間に戻っていった。

「そりゃ全部、テメエ次第(しだい)だぜ。」

「なんだそりゃあ?バカか?今朝のテメエのオ○ニーの回数でも当てれば許してもらえんのかよ?」

「このアル中がっ。テメエの脳みそはどこまでおめでたいんだ。」

落ち着けよ、俺。テメエもよく知ってんだろ?こういう手合いの奴は何かにつけて俺が「いきり立ってるだけのガキ」だって弱者の立場を自覚(じかく)させたがるんだって。

そうして頭に血が上ったイノシシを罠に掛けようとするんだってよ。

…だけど、もしも本当にコイツが「運び屋」じゃなかったらマジの()りを一発くれてやる。絶対にだ。

「そのハイハイしかできねえような脳みそでよく考えて答えろよ。()()()()()()()()()()。」

すると、男は俺の思う以上に真面目(まじめ)な顔つきで考え込んだ。

だからこそ次に出てくる言葉がまた、クソ()まらねえ冗談(じょうだん)の続きなんだって予想できた。

「4…、いや7回くらいか?それで(おさ)まらねえからってこんな火遊びをされたんじゃあ、テメエの女はさぞ苦労してるだろうな。まったく、ご愁傷様(ごしゅうしょうさま)って言葉しか出てこねえぜ。」

「…!」

…クソ!ダメだ。ムカつく。今すぐそのビビガみてえな顔を(つぶ)してやりたい。

でも、ダメだ。落ち着け。いつもならこれくらい聞き流せてるだろ?ギルドの連中にはもっとヒデェこと言われてきたじゃねえかよ。

コイツが「運び屋」だろうとなかろうと、今、ここで下手(へた)(さわ)ぎを起こしちまったら間違いなく憲兵(けんぺい)を呼び寄せちまうんだぜ?

何も作戦が決まってない状態でそれをやっちまったら、それこそ何もかも台無(だいな)しにしちまうんだぜ?

ポコも人質も()っちまう。ククルとの約束も守れねえ!

それでもいいのかよ?なんとか(こら)えてみせろよ!

「まあ、ひとまず落ち着けよ。ククッ、一人じゃ満足できねえってんなら俺がイイ女紹介(しょうかい)してやるよ。だからまずテメエの趣味(しゅみ)を教えろよ。気の強い年上?金髪の幼女――、ウグッ!」

 

……おいおい、俺の声、聞こえてねえのかよ?

 

腕が勝手(かって)に、クソ野郎の首を鷲掴(わしづか)みにしていた。眉間(みけん)が、頭痛がする程に深い(しわ)()()んでいた。

「あんまり調子(ちょうし)に乗るなよ。()やすぜ?」

こうなっちまったら俺はもう(あらが)えない。せめてこのクソ野郎が死なない程度(ていど)に付き合ってやることしか。

そうして掴む手に『炎』を、燃えない程度に呼び寄せた。

「アッッチィッ!」

常連客はクソ野郎の()()げられてる姿を見て笑ってる…、そう思った。

「おい、そこの悪ガキ。それぐらいで乗せられてんなよ。ソイツの思う(つぼ)じゃねえか。」

「…あ?」

まるでそれが合図(あいず)だったかのように、打ち合わせのないクソ野郎の作戦は動き出した。

 

「全員、動くな!」

完全武装(ぶそう)のスメリア兵が10人(あま)り、店の中に雪崩(なだ)()んできた。

尾行(びこう)された覚えはない。そんな失態(ヘマ)なんかしない。つまり……、

「ペール・ペールマン!キサマが先のロマリア軍艦(ぐんかん)密航(みっこう)の手引きをした運び屋だな!」

(じゅう)(かま)えるスメリア兵、俺の時とは打って変わって騒然(そうぜん)とする客ども。

「…テメエ、さっそく失態(ヘマ)かましやがって。」

「ヘマ?そう思うか?」

酒臭い男は、どう見ても戦闘員の素質(そしつ)はない。そのくせ、この危機的状況の中でもニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべてやがる。

「…(はか)りやがったな。」

(くわ)えて、スメリア国への謀反(むほん)(たくら)んでいるとの通報(つうほう)があった!よって、この場にいる者全てを容疑者(ようぎしゃ)とみなす!大人しく連行されるなら良し!(さか)らえばこの場で銃殺(じゅうさつ)する!」

予想外のトバッチリに、常連客はスメリア兵らに名指しされた男に呪いの言葉を吐きかける。

「ペペ、テメエ、やりやがったな!?」「俺たちは関係ねえ!」「開放しろ!」

スメリア兵は威嚇(いかく)射撃(しゃげき)粗野(そや)な常連客を手早く(だま)らせたけれど、その様子にはどこか(あせ)りがあるように見えた。

「黙れっ!キサマらの主張(しゅちょう)など聞いてない!」

警戒(けいかい)態勢(たいせい)(たも)ちつつ、数人が俺たちに近付いてくる。

「おい、この後はどうするつもりなんだよ。」

「は?何言ってんだ。さっきテメエが自分で言ってたろ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この程度の窮地(きゅうち)も切り抜けられねえようじゃあ、アルディコ連邦(れんぽう)の『炎』の名が泣くぜ?」

「…後で(おぼ)えてろよ。」

 

俺は、(あらた)めて敵の装備(そうび)陣形(じんけい)を確認すると、間髪(かんぱつ)()れず行動に(うつ)った。

「…何だ!?」

どうやら敵は俺が何者かまでは知らないらしく、『炎』に対して何の対策(たいさく)もしていなかった。

目眩(めくら)まし、銃口(じゅうこう)の変形。そこまで完了してしまえば、混乱した兵隊なんて町のチンピラと大して変わらない。

俺は相手が冷静(れいせい)さを取り戻すよりも早く全員ねじ()せた。

「ヒュー、さすがにプロの戦闘ってのは迫力(はくりょく)が違うね――、っとぉ!」

勿論(もちろん)手加減(てかげん)はした。だけど半分本気で、クソ野郎の顔面目掛けて(やり)を投げつけた。

「そうカッカすんなよ。俺だって命張ってこの仕事してんだ。多少(たしょう)のお茶目(ちゃめ)にくらい目を(つむ)れよ。」

「多少?俺たち部外者様の被害(ひがい)はどう落とし前つけてくれるんだ!?」

近寄る俺を無視して、物陰(ものかげ)から叫ぶ「被害者の会」にペールマンは札束(さつたば)を投げて寄越(よこ)した。

(おご)りだよ。()(なお)すも良し。女と寝るも良し。人生で最高の夜を()ごしてくれよ。」

「最高だぜぺぺ!」「次期(じき)スメリア王はテメエだよ!」「ペペ王、万歳(ばんざい)!」

「……」

(おだ)てられてイイ気になってるペールマンの喉元(のどもと)に、俺は短剣を突き付けた。

「これ以上の茶番はナシだ。テメエの仕事をするか、俺の手でコイツらと一緒にここで一晩(ひとばん)過ごすか(えら)べ。」

俺は足元に転がるスメリア兵を指して言った。

「短気だな。」

「暇じゃねえって言ってんだろ。」

「…天下のアークがこんなガキに頼らなきゃいけねえくらい切羽(せっぱ)()まってんのか?だとするといよいよアイツらの終わりも近いな――ッ!?」

ペールマンの喉元から、赤い(へび)刃先(はさき)を静かに(すべ)っていく。

「選べ。」

 

ペールマンは()(いき)を一つ()き、物怖(ものお)じせず俺の短剣を素手(すで)退()けると気絶(きぜつ)しているスメリア兵の通信機の送信ボタンを押した。

「こちら”赤い(まち)(きじ)”、コード805882。至急(しきゅう)応援(おうえん)(もと)む。」

『こちら”白檀(びゃくだん)(とう)”、何があった。』

密告(みっこく)のあったペール・ペールマンに私兵(しへい)があることが発覚(はっかく)。かなりの手練(てだ)れで部隊の8割が重傷(じゅうしょう)()った。作戦の続行(ぞっこう)は不可能と思われる。」

『了解、応援要請(ようせい)申告(しんこく)する。確認した敵の数と特徴(とくちょう)を可能な限り報告せよ。』

ペールマンは()れた様子でデッチ上げた情報をペラペラと報告し続けた。

「…そういう訳だ。これでタワーと本土(ほんど)との行き来が()える。その中なら、どんなマヌケでも白旗(しろはた)振りながら帆船(はんせん)に乗っていったって余裕(よゆう)(わた)りきれるだろ?」

だいぶ話をすっ飛ばしたが、おそらく「木を隠すなら森の中」の状況をつくってやったから堂々(どうどう)と正面から船で侵入しろって言いたいんだと思う。

「あとはテメエの腕次第だ。じゃあな。」

ペールマンは俺に、状況に(おう)じたコードネームと識別(しきべつ)番号をメモした紙を寄越すと、眠っている兵隊を()みつけながら()っていく。

「おい、テメエは一人で軍隊(コイツら)から逃げ切れるのかよ。」

ペールマンは振り返り、

「…テメエはこれまでにもプロ相手にいちいち気遣(きづか)いをしてきた口か?」

「……」

「だとしたら、とんだ天狗(てんぐ)野郎だな。クタバレ。」

中指を立てながら去っていった。

 

 

計画通り、町中に「ペールマンと手練れの私兵」を(つか)えるための兵隊が続々(ぞくぞく)(あらわ)れた。

酒場で「私兵」にやられた兵隊はペールマンの同業者たちの手で隠蔽(いんぺい)されたらしく、しばらくは状況が混乱する。

俺は気絶させた兵隊から服を(うば)って変装(へんそう)し、「私兵と交戦(こうせん)したため物資(ぶっし)補給(ほきゅう)する」名目(めいもく)でパレンシアタワーに船を走らせた。

「…プロ、ね。」

すぐに管制塔(かんせいとう)から識別番号と帰還(きかん)理由を求められた。

けれども、ペールマンのメモ通りに返答するだけで何一つ(うたが)われることもなく切り抜けられた。

 

当然(とうぜん)のプロ意識(いしき)というか、職人(しょくにん)気質(かたぎ)というか。

釈然(しゃくぜん)とはしない。

だけど、確かな腕があってこそのプライドなんだと、俺は少しだけ反省(はんせい)した。




※本文にて不適切な表現があったこと……
ごめんなさいm(__)m
本当は作中に「伏せ字」は使いたくなかったのですが、「ハーメルン」様の利用規約に触れるかどうかわからなかったので、念のため「伏せ字」にしました。

※強む(せがむ)
自分の希望を執拗に迫ること。
本来、漢字表記には「強請む」という当て字を使うみたいですが、なんとなく「強む」にしました。
…本当になんとなくですf(^_^;)

※扱き下ろす(こきおろす)
相手の欠点をひどく非難すること。(けな)すこと。

※アル中
アルコール中毒者の略です。

※赤い街の雉
上手い説明はできないのですが、「パレンシア市管轄(かんかつ)のスメリア軍」を指す暗号?つもりです。
「赤」はスメリア国の国旗が、日本の国旗と配色が似ているから。
「雉」は国旗が似てるなら国鳥も一緒でいいんじゃない?ってことで(笑)
本当に何となくこの言葉を並べてみただけです。

※白檀の塔
「白檀」はアンデルの使ってる扇子の木材の種類。
「塔」はそのまんま「パレンシアタワー」のことです。
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