聖櫃に抱かれた子どもたち   作:佐伯寿和2

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方舟に乗れなかったモノたち その二

 エルクがゴメスを相手に問答を繰り広げている最中、トッシュやイーガたちはすでに神の塔へと続く山の中腹まで進んでいた。

「ったく拍子抜けもいいところじゃねえか。『神の塔』なんて御大層な看板掲げといて実際にお邪魔してみりゃブタに毛の生えたような連中ばっかりじゃねえか」

彼らは順調に歩みを進めていた。道中を野生化した怪物たちが塞いでいたが、もはや「野生」程度では彼らの歩みは止められない。

そこには明らかに敵の妨害の「意思」が欠けてた。暗にそれを(ほの)めかすと楽観的な彼を僧兵がたしなめ、呪術師が見下した。

「どこまで単細胞なの。人間が自分の持ち物に過分な名前を付けて虚勢を張るなんて今に始まったことじゃないでしょ?」

名は「冠」。その冠の輝きが強ければ強いほど人の心には無意識な「畏怖」や「恐怖」が芽生える。たとえ舞台裏がどれだけチープであろうと、それが目に見えるものに抗えない人間の本質なのだ。

「それに、本物の神がアンタみたいな野蛮人の期待に応えると思ってるの?彼らはもっと身勝手で、残酷よ。人間の考える戦争に興味もない。殺す時は殺すし、生かす時は何をしてでも生かそうとする。たとえ地雷で両手両足を失くしてもね」

「いいじゃねえか。そんな連中だからこそこっちも気兼ねなく()れるってもんだ」

「……狂ってるわ。アンタ本当にアークの仲間なの?」

くだらねえ質問してくれるんじゃねえ。そんな気怠(けだる)い表情でトッシュは答えた。

「もしもそこでテメエの期待通りの答えが返ってきた時、テメエはどうするか考えてんのか?」

サニアは黙り込んだ。たとえ彼がアークの仲間であろうとなかろうと殺せるものなら殺してしまいたい。これ以上自分の視界にあの「猿」のような凶悪な何かがのさばろうとしている姿をただ見ているだけなんて耐えられない。

けれど、彼に勝てる気がまるでしない。「猿」に挑むより遥かに絶望的な力の差を、波紋に薄っすらと血の色を滲ませる彼の愛刀が語っていた。

「くだらねえ。そんなんだからあの優男にコロッとイッちまうんだよ」

「……は?な、なによそれ!?」

「カカッ、本当にガキだなテメエは」

色とりどりの血で彩られた刀を拭い、混沌に染まった紙切れを卑しい笑みで眺めながら彼の親友は言う。

「ああいう優しさに流されるのはテメエが頭でっかちなガキだって証拠だよ。忘れるなよ。アイツだって人殺しだ。何万人がアイツを『勇者』だと持ち上げてもそこは曲げられねえ。それを惚れた()れたで(ゆが)めちまうならテメエも神様とやらもそう変わらねえよ」

新品同様の輝きを取り戻した愛刀に満足し、トッシュは紙切れを放り捨てた。

「そもそもアイツにゃもう一生頭の上がらねえ女房がいるからな」

「この、クソ野郎……」

それは自覚している。あんなに目的に忠実だった自分が彼の言葉で軟弱になっていくのが目に見てとれた。けれどそのすべてが悪いとも思っていない。

以前であればどんなことをしてでも彼を呪い殺そうとしたかもしれない。けれど今の彼女は安易な血を求めなくなった。心の中で響く彼の言葉が、丹精込めて育ててきた彼女の邪悪な部分を慰めるから。

けれども彼らはそれを知ってか知らずか、いたずらに刺激してくる。まるで彼女を試すかのように。

「これこれ、あまりバカにするものじゃないぞい。純情な乙女心っちゅうのは時に男には理解できん奇跡を呼び寄せ、人を助けるもの。むしろお前さんのような汚らわしい猿がおいそれと口を利いていいものでもないわい」

歩む足が常に少し浮いている老人は言葉で彼女を擁護(ようご)しつつ、長い白髭の下に隠れた唇は猿の比ではない(いや)らしい笑みを浮かべている。

……彼も、信用ならない。

「三千年前の亡霊が今を生きる俺らにとやかく言えると思ってんじゃねえよ」

彼女が心を開こうとしている「勇者」の周りには、彼とは似ても似つかない魑魅魍魎(ちみもうりょう)が我が物顔で自分の生き様を叫んでいる。

「猿」よりも強く、「勇者(ひかり)」に纏わりつく狡猾な(けだもの)たちは彼女の心にいくつもの影を落とした。

 

 

――――その頃、山麓の村モレアではゴメスが、犯罪者(アーク)たちが村での「安全」を買うために必要な手順を説明していた。

「見ての通り俺たちは信心深くてな。『神』に手を出す勇気がねえ。そうは言っても金持ちになりたい人間の欲求も捨てられねえ」

「信心深い?ブサイクな笑み浮かべて何言ってんだか。この村の教会では悪魔も紙一重で神様だとでも教えられてるのかい?」

「いやいやセニョリータ、人はパンのみにて生くるにあらず。しかして笑みを絶やす生き方を望むべからず。これは理想と現実のすり合わせの末に出た唯一無二の答えだよ」

都合が良いというか悪いというか。ゴメスたちの目的は「神の塔」に眠っているであろう財宝にあり、そこにエルクたちを向かわせようとしていた。

 彼らはその処世術でもってアークたちを村長に会わせると言うが、その前に一つテストをしたいと言い出した。

「アミーゴが本当にかの噂通りの大泥棒なのかってのを証明してほしくてね。なあに、簡単な話さ。ある男と早撃ち勝負をしてほしい。ソイツに勝てば晴れて俺らの仲間入りさ!」

彼らの言動はちょこの小汚い中年バージョンのようでエルクたちの理解を苦しめたが、こんな意味不明な遣り取りでも付き合う価値を見出せるほどに賞金稼ぎ組合(ギルド)の情報網はすさまじい。

組合の構成員、もしくは彼らに情報を売ることを生業(なりわい)にしている連中は賞金稼ぎ本人たちに勝るとも劣らない鋭い嗅覚を持ち合わせている。彼らにとって情報は商品であり、商品は必ず()()()()()()()へ流れていく。

アークたちの役割上、目立つ行動はなんだって大歓迎なのだ。

 ゴメスたちはそのための舞台へとアークたちを案内するのだが、それがどこかなのかも知らないはずのちょこが常に彼らの先頭を歩き続ける。腑に落ちないアントニオが尋ねると、少女は満面の笑みで答えた。

「ちょこ、悪い人とパティシエはどこに隠れてたってわかっちゃうんだから!」

「……どういう意味だ?」

「しょせん俺たちみたいなゴロツキの考えることはショートケーキみたいに甘いってことか?」

Qué() pedo(ペド)!俺たちはハバネロよりも刺激的な悪党だぜ!?」

ついには自分たちの本性を名乗っていることにも気づかないまま、噛み合うようで噛み合わないコント熱は目的地まで冷めることはなかった。

 

「おい、バーテン!あの野郎は今日も来てるか!」

「……はあ、お前たちか」

小さな村の割に大きい、けれどもやはり荒廃した様子を拭いきれない寂れた酒場。やって来た客に目をくれ、溜め息を吐く酒場の主人は今日も今日とて素晴らしき厄日なのだということを神に祝福せずにはいられないという口振りで彼らを迎え入れた。

「パンチョならまだだよ。でもチーズとネズミはいつだって仲良しだ。そうだろ?」

バーテンが言いながら顎でチーズたちの背後を指すと、昼日中からダラダラと飲んだくれていた男たちが途端にさなが予言者のごとき勘の鋭さを働かせ、ゾロゾロと列を成して店を後にし始めた。

瞬く間に店内はがらんどうになり、バーテンのグラスを磨く音は閑古鳥のように心地よく響いた。

「この通りだ。まったく、あの野郎が来るようになってからうちは大赤字だ」

「……それこそ何でも屋に頼めばいいじゃねえか」

「おいクソガキ、俺をバカにしてんのか?いくら毎日アルコールを扱ってるからって、そんな赤ん坊でもわかるようなことはとっくにやってる。でもな、アイツに限って言やあ、それが逆効果だったんだよ」

そいつは孤高な男だった。自分の腕がどこまで通じるのかを知りたいがために各地を流れ、ついには「荒くれ者」と呼ばれるようになっても彼は自分の気持ちに素直であり続けた。

そんな彼がようやく安住の地を見つけたのだ。ここに通えば腕自慢が自ら彼を訪ねてくる。なんて楽なことだろうか。そして時折彼を襲う異国の技は彼にとってとても刺激的なものだった。

「いくら出す?」

「あ?」

「喜べよ、オッサン。世の中まだまだ捨てたもんじゃないってことだよ」

唇を舐め、腕(まく)りをしながら得物の調子を確かめるエルクを見てバーテンダーはまた溜め息を吐いた。

「やめとけ。ちょっとばっかり腕に自信があるからってテメエみたいなガキに取れるタマじゃねえよ」

「はは、そりゃこっちのセリフだぜ」

「ああ?……おいおい、良く見てみりゃあそっちの小僧。ゴメス、お前って奴は本物の疫病神か?」

バーテンダーはエルクの背後に隠れていた青年を見つけ、グラスを拭く手すら止めてしまった。

「ガハハハッ、安心しな。話はつけてある。下手なことはしねえよ」

「そういうレベルの問題じゃないだろ……」

頭を抱え、いよいよ店を畳む覚悟を決めるバーテンの横でゴメスたちは得意げに笑っていると予言者たちの指摘通り、その男はすぐに現れた。

「よう、バーテン。今日は珍しく賑わってるじゃねえか。なんぞいい酒でも入ったかよ」

中折れのテンガロンハット、鮮やかな赤のネッカチーフにウエスタンなシャツとブーツ。今から映画の撮影でも始まるのかと思えるくらいしっかりガンマンを気取った中年だった。

「そっちの連中は例に漏れず賞金稼ぎって奴か?」

暇なんだろ?俺とひと勝負しろよ。男は問答無用にリボルバーを突きつけてきた。エルクはさらにそれを挑発するよう槍を突きつけて返す。

「付き合ってやるよ。テメエがどんだけ井戸の中の小物か俺が教えてやる」

「……お前、銃は?」

「は?」

男はまるで主導権は自分にあると言わんばかりにエルクとの勝負を拒絶した。

「俺はガンマンだ。早撃ち以外の勝負に興味なんかねえよ」

「テメエ、あんま調子に乗って――――」

 

ドンッ!

 

今までに何度も同じことをしてきたであろう男の脅しは、バーテンダーの口から「これでまた雨の日の楽しみが一つ増えた訳だ」と小言を漏らし、陰鬱な酒場の天井にまた一つ爽やかな覗き穴を開けた。

「俺のルールは絶対だ。従えねえってんなら俺はテメエらを殺してバーテンに一杯奢ってもらう。それだけだ」

「その上ツケにする気満々かよ」

バーテンダーは苦い顔で空を仰ぎ見、この生温い悪夢がいつ覚めるのかと神に問いかけた。

「おいおい、アンタが出るような幕でもないだろ」

神は建付けの悪い扉の蝶番に宿り「ギィィィ」と鳴いて答えを招き入れる。チラリと振り返り、バーテンダーより遥かに陰気な顔を見つけたエルクは思わず声を上げた。「陰気な答え」はそれにお似合いの辛気臭い声で返す。

「情報だ。加勢に来たつもりはない」

銀髪の黒づくめは彼を睨みつける井の中の蛙には目もくれず、シャンテに紙切れを渡すとそのまま立ち去ろうとした。だが――――

 

ドンッ!!

 

当然の流れと言うか。パンチョと呼ばれるガンマンは突然シュウの足下を撃ち、挑発した。

「話は聞いてたんだろ?なのに尻尾を巻いて逃げるってのか?それで懐に忍ばしてるモノが泣かねえのかよ?この腰抜けが」

シュウは背後から撃たれたことも意に介さず扉に向かう足を止めようともしない。

 

ドンッ!ドンッ!ドンッ―――ガシャッ!

 

「…ったく、テメエはシャブでもキメてんのかよ」

バーテンダーが生涯を共にしようと誓った店を穴だらけにするリボルバーを叩き落とし、床にねじ伏せて槍の刃先を首元に突きつけても男は汚い言葉で意中の獲物にラブコールを送るのを止めない。

それでも彼は気に留めることなく姿を消すのだろうと誰もが思った。

 

――――結局のところ、お前を本当に理解している人間なんていないのさ

 

足下に転がってきた銃に目が留まり、シュウは眉間にシワを寄せる。

「……」

ソレを男に投げて寄越し、一発だけ付き合ってやると言うと男は嬉々としてそれを拾い、声を張り上げて彼を歓迎した。その一部始終に今度はエルクが眉をひそめ問いかける。

「シュウ、何考えてんだよ」

「何も。ただ奴の顔が気に食わない、それだけだ」

大したことじゃない、そう言うシュウの目はいつになく冷たく、鋭い。エルクに出会う前の、エルクを知る前の獣のように。

 

 勝負は背中合わせの状態から審判のカウントダウンに合わせて一歩ずつ前に進む。そして審判が5を数えたと同時に振り返り、相手を撃つ。それだけ。

表に出るなりパンチョは(はた)で覗き見ていた老人を捕まえ、審判に仕立て上げると催促するように位置についた。

「たった今俺の弾を避けたってのに、コイツはどうして勝てると思ってるんだ?そう思ってるだろ?」

「……」

シュウは応えずただ睨みつけている。陽が傾き、立ちはだかる自分の『影』を。そうとは知らずパンチョは確かに感じる彼の実力に胸を高鳴らせ、右手を(うず)かせる。

「俺はずっとお前みたいな奴を待ってたんだよ」

1……

老人の震える声は二人の足を一歩、死の谷へと進ませる。

2……

「すぐにお前も俺と同じ気持ちになる」

彼は応えないのに、それでもパンチョは彼と通じ合っているとでも言うかのようにその瞬間を熱弁する。

確かに、声は届いている。しかし心に浮かび上がる感情(こたえ)はまったく別の物だ。

 

俺の気持ちは変わらない。エルクを護る。それだけだ。……それだけだ………

 

3……、4……、

笑い声が聞こえる。しかしよくよく耳を澄ますとそれは震える老人の声で、(しわが)れた声はもはやカウントもままならない。

そんな老人を笑いに来たのか、それとも二人の命の遣り取りに刺激を求めに来たのか。どこからともなく野次馬がわらわらと集まってきた。

 

――――言ってみろ、キサマの名前はなんだ?

 

カウントを聞き届けた訳じゃない。『影』が銃口を向けてきたように感じ、反射的に引き金を引いた。

 一発の銃声が木霊する中、二人はお互いを睨み、硝煙を吐く銃口を向け合っている。

「……テ、テメエ、よくも!!」

状況を理解したパンチョは怒り、自分で定めたルールを踏みにじる。

1発、2発、3発、4発、5発……、カチ、カチカチカチッ!

ついには撃鉄がキツツキのようにシリンダーを(せわ)しなく叩く音だけが鳴り響き、愛銃さえも彼を辱める。弾を込め直すことも忘れさせるほどに。

 

ドンッ!

 

「……」

醜態を晒すリボルバーをオートマチックが嘲笑い、彼を見下した。

「それがお前の名だ」

惨めに(うずくま)るパンチョに吐き捨て、彼は群衆の中へと溶けていく。群れの中に潜む「噂好き」たちさえも追うことができない。

彼は全員が一部始終を見守る中、人知れず姿を消した。

 

「ブラァヴォォーー!!」

ゴメスが叫ぶと見物人たちもそれに合わせてエルクたちに歓声を送った。まるで彼らの目には初めから影など映っていなかったかのように。

「何が起こったのか正直わからねえが、あのパンチョを黙らせただけでも称賛に値するぜ!」

どうにも居心地の悪いエルクは思わず彼に対して不平を溢した。

「ったく、やるなら最後まで責任持てよな」

「まぁいいじゃないか。もともとアイツが目立って得することなんてないんだし」

シャンテに摘ままれ、ヒラヒラと泳ぐ紙切れを受け取ると、そこにはギルド経由で掴んだアンデルたちの動向が記されていた。

彼らはバルバラードにこそ戦力を割いたが、アミーグに関しては見向きもしていない。それは仇敵の性格をよく知るアークたちの目に「絶対の自信」よりも「用済み」に映った。エルクはアークに率直な感想をぶつけた。

「なんかシラけたな。どうするよ、グルガたちと合流するか?」

「……確かに、これ以上ここですべきことはないかもしれない。だが向こうのことは向こうに任せたんだ。今さら俺たちが加勢に行くのは筋違いだよ」

もしかするとアークたちは読み間違え、「絶対の自信」が彼らを待ち受けているかもしれないという危惧がない訳でもない。それでもアークが応援を認めることはなかった。

 

 シュウはパンチョの弾をすべて()()()()()()。なぜそうまでして彼をコケにしたのか本人にもわかっていないし、その結果に満足した様子もなかった。

「いや、見事だったよ!」

偶然、村長邸宅の警備員が見物に来ていた。彼もまたその常人離れした技を目の前で見ていたはずなのに、勝負に挑んだシュウではなくアークたちを褒め讃え、「サインをくれたら村長に会わせてやるよ」と気づけばよくわからない流れに発展していた。

「おいゴメス、コイツは本物なのか?おい?……アイツら……」

振り返るとそこに二人の姿はない。アークたちが「本物」だと確信して逃げたか。もしくは意気揚々とその「情報」を(さば)きに行ったか。

「どっちにしたってアイツらは十分に仕事をしたんだし、放っときなよ。あの子のいい気分転換にもなるだろうしね」

「……マジかよ」

シャンテの口から不穏なセリフを聞いてようやく、彼らは最凶のトラブルメーカーもまた姿を消していることに気づいたのだった。

 

 

――――ゴメス、神は常にお前の行いを見ておられる。お前が良い行いをすれば神は使者を遣わし、お前の望むモノを送るだろう。

だがもしもお前が悪い行いをしたなら、神は()()()()()使()()を遣わし、お前の心臓を祭壇に置くだろう。

私たちは空に抗うことはできない。空はすべてを所有しており、空は我々のすべてを操っている。

 

 祭司の言葉が真実だった試しは一度もない。俺たちがどんなに良い行いをしようと村は豊かにならないし、他人を騙して金を巻き上げても罰が下ることはなかった。

村長(ホセ)の野郎が率先してそれを証明してくれた。だから俺たちは奴こそが「村長」だと認めている。

 故郷アミーグを愛する男、ゴメスは神に敬虔(けいけん)な男だった。村長の行いこそがその代弁だと信じ、アントニオと色んなことをしてきた。その度に神に祈りを捧げ、彼はようやく真実に気づいた。

神の塔、あれこそ神がアミーグに与えたもうた「宝箱」そのものだと。しかしそれを手に入れる術が見つからず、村長ともども頭を抱えてきた。

そんな折に「世界の大悪党」が彼らの前に現れた。ゴメスとアントニオはすぐに理解した。これこそが「鍵」なのだと。

敬虔で盲目な信者は、神の導きに従い作戦を決行する。そう神に答えた矢先―――、

 

「それ、本当なの?」

 

あろうことか足下から天使が現れ、彼らに問いかけた。二人は驚きのあまりに飛びのくと、赤毛の天使は首をかしげ、ニコニコと笑って「ちょこも一緒に宝探ししたいなあ」と哀願した。

「ア、アミーガ、このことは……お嬢ちゃんがここにいることはアークは知ってるのか?」

「ううん、ちょこ内緒で来ちゃったもん」

「……」

「ねえ、ダメ?」

二人は顔を見合わせ、視線だけで言葉を交わし、渋々彼女の同行を許すことにした。

「本当?!やったの~~!!」

「ただっ!……このことは絶対に他のアミーゴたちには他言無用で頼むぜ?」

「うん、ちょこイイ子だから約束は守るの!」

バカそうだから。それが彼女の同行を許した理由だった。次に起こる奇跡を目にするまでは……

「そうと決まれば善は急げなの!早く行かないとトッシュが全部独り占めしちゃうかもなの!」

「今から?今から山を登ろうってか?それは無理だ。もう昼を過ぎてるし、あの山で夜を迎えるのはマズい―――」

天使が空に向かって「小鳥さ〜〜ん!」とマヌケ声で叫ぶとたちまち空が暗くなった。

 

クケエェェェッ!

 

空から翡翠の羽根が雪のように舞い落ちてくる。

「ま、まさか、コイツァ…ケツァルコアトルじゃねえか!!」

天使の呼びかけに応じ、彼らの前に現れたのはアミーグに古くから伝わる神の使者。幸福の象徴とも言われる翡翠色の巨鳥だった。

「ケツ割れとるやないか?失礼ね、女の子に向かって汚い言葉を使っちゃダメなのよ?女の子のお尻は禁断の果実なんだから」

その瞬間、二人には少女の言葉が何一つ理解できなかった。




※ケ・ペド!(Qué pedo!)
「ちくしょう」や「くそったれ」というスペイン語を検索していてこの言葉がヒットしました。直訳は「なんてオナラだ!」らしいです。
もっと適した言葉、もしくはこの言葉が適してないかもしれませんが、直訳がかなり気に入ったので使いました。

※チーズとネズミはいつだって仲良しだ
自作のジョークです。腐った野郎(チーズ)と臭い野郎(ドブネズミ)はいつだって仲良し。類は友を呼ぶ的な。

※ケツァルコアトル
メキシコに伝わるアステカ神話における文化、農耕の神。「羽毛ある蛇」という意味で、鳥じゃない。マヤ文明においては「ククルカン」と呼ばれている。
ただ、メキシコ周辺に棲息する緑の羽をもつ鳥をケツァルコアトルの使者として「ケツァール」と呼んでいるそうな。
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