聖櫃に抱かれた子どもたち   作:佐伯寿和2

253 / 282
砂は水を飲む その一

 アルド大陸南部でアークたちが最凶の機神兵を埋葬をしている傍ら、シュウは遥か西にあるハルシオン大陸の砂の国バルバラードに先行していた。

 バルバラード、そこは土地の大半をきめ細かい砂が支配する砂の国。バルバラードの民いわく、砂は貴重な水に乾きを与えるだけでは飽きたらず、人の寿命すらも定めてしまうのだという。

吹きつける風、踏みしめる大地、ジャガイモ、ラクダ……。生活の中で彼らが接するすべてから砂は、少しずつ、少しずつ彼らを乾かし、シワの一本一本をゆっくり、ゆっくりと刻んでいく。

そんな砂と共に生きてきた彼らは当然のようにその性質を受け継ぎ、文明に発展させた。

 

――――呪術

 

始まりは罪人からくり貫いた心臓に砂をまぶす刑罰からだった。刑罰から拷問へ、拷問から自白剤へ、自白剤から占いへ。そうして彼らはついに気づいた。砂の地に生き、砂から生まれた我らならこれらの業もまた身の内に備わっているのではないかと。

彼らは自分たちが「砂の民」であることを改めて自覚した。度重なる『実験』を敢行(かんこう)し、呪術をこの世に産み落とした。そして、砂の王の庇護の下、呪棺(ピラミッド)を建造するほどに磨き上げられた。

 冒涜(ぼうとく)する侵入者に惨たらしい死を与えるという巨大な砂岩の棺は彼らの力の象徴となり、「呪術師」は王に並ぶ恐怖の対象となった。力のある術師は完全なるピラミッドのための生贄となったが、その末裔(まつえい)は今もこの国のどこかで息を(ひそ)めている。ピラミッドが真価を発揮する「その日」まで。

 そんな偉業と無縁の、力ない砂の民は彼らに干されぬよう砂嵐と水の流れに気を配り、常に隣人の顔色を(うかが)っている。

そんな息苦しい土地に、黒づくめの狼は砂嵐に紛れて現れた。

「例のキャラバンを野盗たちから護ったというのはお前か?」

 

―――砂漠の真ん中でシルバーノアに別れを告げたシュウは彼の知る商隊の通り道に沿って町を目指した。刻々と変化する砂の地形は砂の民でも完全に把握することはできない。だが狼にはそれができた。そうして彼の思惑通り、商隊を待ち伏せする野盗の姿を発見する。

狼は彼らに気取られないよう引き返し、何食わぬ顔で町を目指す商隊に接触する。道に迷った旅人を装い、道案内を願い出た。商隊は彼を怪しんだが持っている水をすべて差し出すと彼らは満足した顔で彼の申し出を受け入れた。

「どれだけ体が乾こうとも双眸(そうぼう)だけは乾かしてはならぬ。術師を寄せ付けぬ水を(たた)えよ」

欲深い術師(すな)(みず)を飲むことはできても他人に分け与えることはできない。砂の民はこの真理の下、水を差し出す者は無条件に「兄弟」として慈愛の笑みを向ける。

旅慣れた狼はそのことをよく知っていた。

 やがて野盗の潜伏ポイントにやって来ると馴染み深い戦闘が始まった。商隊も護衛を雇ってはいたが、野盗の火力がわずかに勝っていた。そこへ狼が加勢し、瞬く間にその劣勢をひっくり返し追い払うと彼らは喜んで狼を(ムハド)の中まで案内した。

そうして彼は「敵」の目に留まることなく賞金稼ぎ組合を訪ねることに成功し、そこで半年ほど前からピラミッドが謎の砂嵐に閉ざされていることを知る。悪目立ちするその砂の巨棺に半信半疑で向かおうとした矢先のことだった―――

 

「お前のその実力を見込んで一つ頼みたいことがある」

組合の出口で一人の男がシュウに直接依頼を持ち掛けてきた。けれどもシュウは男の予想だにしない反応を示した。

「……俺を試すつもりか?」

「なんだって?」

男は年若い。しかし相応の苦労を重ねているのだろう乾いた顔が狼の勘ぐりにさらに多くのシワを走らせた。

 一般的な砂の民の服飾をまとってはいるが、狼は彼の言動の端々から「よそ者臭さ」を感じ取っていた。

男の依頼は、ここ最近商隊の道の一つで巨鳥が隊を襲撃するという事件が多発しているため巨鳥を狩ってほしいという内容だった。

ごくごくありふれた内容だがシュウはそれが「前座」だと見抜き、一蹴する。

「お前のそれは、今が巨鳥(ハゲワシ)の産卵期だと知らないよそ者にしか通じないと言っている。……もう一度だけ聞く。用件はなんだ」

男は驚き、シワの多い顔で改めてシュウを品定めすると「なるほど使えそうだ」と頷き、ついて来るように促した。

 それこそ男の罠のように思えなくもない。だが狼には確信があった。この男からはある種の馴染み深い臭いがする。ここにガルアーノが居たならだらしなくよだれを垂らしてしまうような。

「ラタお兄ちゃん、遊んでよ!」

「悪いな、今ちょうどお客さんを案内してるんだ。また今度な」

町を歩けば子どもたちが男に懐いてきた。それもまた半分はその臭いを成就させんがために撒いた布石のようなものだろう。

しかし、決してそれだけのために利用しているのではないと男は語った。

 男は子どもたちが聞いたことのないような物語を話し、子どもたちがヘトヘトになるまで駆け回り、子どもたちが自然と笑える陽気な歌を教えた。

「小さい頃、兄は俺の我がままをよく聞いてくれたんだ」

しつこくついて来る子どもたちをどうにか追い払うとラタは物語の続きでも話すように言った。それは確かに彼の過去であるはずなのに、語り終えるなり瞼をきつく結び、何度も何度も首を振った。まるで降り積もった砂を振り払うかのように。

 それが演技でない保証はない。シュウは警戒を怠らなかったが、ラタの周りに組織めいた動きはなく、本人からも悪意は感じなかった。むしろ彼の努力と苦労が垣間見え、ぼんやりと話の背景が見えてきたように思えた。

 

 シュウは相槌を打たず、会話はすぐに途絶えた。それでもラタは彼の力を必要とし、道すがら何度も振り返っては彼の姿を確認して安堵していた。そうして町を出ると、示し合わせたかのように狼の待ち人たちがそこにいた。

「首尾は?」

「見ての通りだ」

待ち人の一人と狼が端的な遣り取りを交わす光景にラタはわずかに身構えた。罠を疑い、腰に手を伸ばした。しかし……

「彼らは?アンタの仲間か?………いや待て、そっちの赤いバンダナの男……まさか……」

ラタは何かに気づき、驚きを隠せずに後退る。「本物、なのか?」かすれた声はまるで蜃気楼に(もてあそ)ばれる遭難者のよう。

そういう反応には慣れていたが、それでもいい気分はしないバンダナはため息交じりに答える。

「アーク・エダ・リコルヌ、スメリア王暗殺の犯人だ。こう言えば満足か?」

その名を聞き届けたラタは突然、足の折れた椅子のように騒々しくひれ伏した。その姿にバンダナはもう一つため息を吐く。

「こんなことを言っても信じられないかもしれないが、俺たちは濡れ衣を着せられたんだ。それに、アンタを罠に()めようだなんて考えてもいない。ただ、少し協力してほしいだけだ」

すると今度はバネ仕掛けのオモチャのように勢いよく顔を上げ、やはり騒々しく弁明し始めた。

「い、いや、それは違う!違うんだ!俺はただ、君たちに感謝しているだけなんだ!」

「……感謝?」

いまだかつて、生まれ故郷のトウヴィルもしくは彼らを支持するレジスタンスでしかそんな言葉を聞いたことがないアークは思わず顔をしかめ疑ったが、彼の口から「サリュ族」という言葉が出るやすべてに納得がいき、憂鬱な気分にさせられた。

 

 ラタはバルバラードの人間ではなかった。海を(へだ)てた向こう、アデネシア大陸アリバーシャ国のサリュ族という水の精霊を守護せし部族の生き残りだった。しかし一年前、彼の部族はアリバーシャ軍の爆撃によって壊滅。

それは本当に、一瞬の出来事だった。

アークは焼き払われた村よりも、爆撃が放つ大地を割るかのようなけたたましい閃光と、魔王の息吹のような汗の干上がる熱風に堪えがたい恐怖を覚えた。

村に下りると、そこかしこに死骸が転がっていた。彼らの大きく開いた口は更地(さらち)となった村に声なき声を(とどろ)かせる。どこまでも、どこまでも……。瞳なき頭蓋の(うろ)が照りつける太陽に手を伸ばす。どこまでも、どこまでも……

その一つ一つがあの『恐怖(しゅんかん)』そのものとなって彼を心から歓迎する。

 

……身の毛がよだつ………

 

直後、アークはそこに現れた化け物たちを惨殺した。一匹残らず。たった一人で。

「直接貴方を見た訳じゃないが、貴方がヨシュア様のご子息だということは知っているし、俺たちの代わりに悪魔たちを血祭りに上げてくれたことも知っている。部族は皆、君の勇敢さに感謝しているんだ」

そして不意に振り返り……そこに転がる死体の山がサリュ族のものか化け物ものもか区別がつかないことに気づき、愕然とする。

……俺は、何をしているんだ?

彼が「勇者」として初めて大きな壁にぶつかった瞬間。憎しみでソレらを殺す時、他では得られない快感があったのを憶えている。

……俺は何だ?人か?それとも……化け物か?

「俺は、ただ虫の居所が悪かっただけだ。感謝されるようなことはしてない」

アークは視線を逸らした。見てはならないモノがそこに()()()()()()()()()。それでもソレは無慈悲にも彼に懇願する。

「お願いだ。今度こそ俺たちを、サリュ族を救ってくれないか!?」

「勇者」という名の怪物になることを。

 

 一年前の爆撃から生き残ったサリュ族は命からがらバルバラードに逃げ延びた。しかし彼らは今、憐れにもアリバーシャ軍への報復を(くわだ)てている。

「兄はバルバラード王にそそのかされて良いように使われているんだ」

バルバラードはサリュ族の亡命を受け入れた。ラタの兄、サリュ族の族長はそこでバルバラード王と会談し、密約を交わしてしまったのだという。

――開発中の新兵器の情報が外に漏れないように手を貸してほしい。代償として、完成の(あかつき)にはアリバーシャへの復讐に手を貸そう――

しかし、そんな時が来るはずもない。なぜならアリバーシャとバルバラードの両国にはロマリアの息がかかっている。その事実をアークから聞き、ラタは茫然自失する。震える声からは本性の産声が聞こえてくるようだ。

「騙されているのはわかってた。でも兄は今、代々サリュ族が精霊様の御許(みもと)をお守りする(わざ)を使っているんだ。それを、家族を殺した連中のために使っていると?……こんな、こんな屈辱的なことがあるか?!」

その上、王は()()()()として母親の身柄を要求し、族長はそれに応じた。

「兄は『族長』であることに固執し、一族の無念を晴らすことが自分に課せられた無二の使命だと思い込んで周りが見えなくなってしまった……」

「つまり、俺たちにあなたの兄を説得してほしいと?」

今のラタにはすべてが「敵」のように思えた。優しかった兄も、亡命を受け入れるバルバラード王も、自分を生み育てた故郷も。それでも彼らだけは信じなければならない。眉間に深いシワを刻みながら、暴言の飛び出しそうな唇を噛み締め、ラタはどうにか静かに頷いた。

 

 震えるラタの背中を追いかけること数時間、サリュ族は町と砂漠の間にひっそりと身を置いていた。爆撃から生き延びた彼らの数はそれほど多くなく、体は一様にやせ細っている。身を寄せ笑ってこそいるが、その内には乾きに喘ぐ暗い感情が対流している。

「ラタ様!?お帰りになられたんですか!」

彼を見つけた部族の一人が目を丸くして駆け寄ってくる。その目は期待で溢れていた。彼が訳もなく部族を離れ、訳もなく戻ってくるはずがない。そんな一方的な期待が迫ってくる。

「……心配をかけてすない。だがこの通り、俺は戻ってきた。皆を護る方法を見つけてきたんだ」

アークを背に、彼は大見栄を切った。

「兄は今テントにいるのか?」

「…はい、ナム様は来たるべき日に備えて占い師と策を練っておられます」

「……本当に、どうしようもない人だ……」

ラタに気づきいた同胞は笑顔を忘れ、アリのように群がる。喉の渇きを訴える彼らにありもしない水を約束して宥めるしかなかった。

「わかってる。兄は必ず俺が止めてみせる。だから皆、どうか落ち着いてくれ」

「お願いします。私たちはもう、戦争には関わりたくない。あんなのはもう……うんざりだ……」

お願いします、お願いします……

その懇願がすでに一族の破滅を呼び寄せる呪詛ようにさえ聞こえた。

 

 彼らを説得し、どうにか目的のテントまでたどり着くとラタは一度だけ大きく深呼吸した。その背中をブラキアの英雄は優しく叩いた。

「心配ない。俺たちは必ずお前の期待に応える。だからお前もぶつかることを躊躇うな」

戦場でただ一人血塗れだった大男は振り返ることができなかった。独りで闘っているのだと気づくのが恐ろしく、前だけを見て同胞を鼓舞し続けた。結果、彼は戦争に勝ち、孤独に負けて故郷を去った。

だが彼はすべてを打ち明けたエレナに愛され、再び戦場に立つ勇気を手にした。「臆するな」それが本当の家族に求められる無二の絆なのだと彼は知ったのだ。

「……」

グルガの言葉に耳を傾けながらも、アークはその意見に同意できかねた。たとえそれが勇者(じぶん)の役目だったとしても。トラウマを押し付ける彼らを受け止めることができなかった。

 

「お久しぶりです、兄さん」

天幕を潜るとそこに、円を描いて座り、眉間にシワを寄せながら地図に砂をふりかける男たちの姿があった。その最奥に座る一人がラタを見て険しい顔にさらにシワを増やす。

「お前か……」

入り口の幕を捲り、差し込む陽の光が彼らの間に漂う砂をギラリと(またた)かせた。

「外で何を騒いでいた。まさかまだここに自分の居場所があると勘違いしているんじゃないだろうな?」

「兄さん、僕はあなたに目を覚ましてほしいだけなんだ」

「生意気な。一度一族を捨てたキサマに何がわかる。目障りだ、俺の気が変わる前に失せろ」

その一言二言で今までに何度となく繰り返したであろう遣り取りが見て取れた。互いに決して譲らず、遂には兄が弟を追放したのだろう。しかし彼は戻ってきた。有無を言わせない切り札を(たずさ)えて。

「……あなたに会わせたい人がいる。……さあ、入ってくれ」

兄は視線を入り口に向け、入ってきた者をくびり殺しかねない形相で睨みつけた。まさか「彼」が現れるとはつゆとも知らず。

「な……っ、ア、アーク様?!あ……、ラ、ラ、ラタ!キサマ、アーク様に何を吹き込んだ!!」

恩人を一目見て、彼は初めて自分の中に(やま)しい気持ちがあることに気づく。戦争に染まった自分の醜さに。

「兄さん、俺はただ一族を護りたいだけだ。かつてこの人がそうしてくれたように」

しかしラタが「族長の決定」を揺らがせていると感じるや再び「我」に返った。地図に落とした砂から血の臭いが立ち昇り、鼻腔を刺す。

「キサマの行動で一族どう護れると?アーク様のように?自惚れるなよ!俺はアリバーシャを滅ぼす!そう、あの時アーク様が化け物どもを駆逐(くちく)したようにな!!」

「そのために戦えない女子どもに銃を持たせるんですか?彼らの悲鳴には目をつむるんですか!?」

「俺がいつ女子どもに戦えと命じた?この戦いは俺とバルバラード王だけで決する、そう言っただろう!」

「その考えが甘いのです!いいえ、あなただって本当は気づいているはずだ。共闘しようという相手が人質を求めるはずがない。開発しているという兵器の情報をこちらに流さないのには裏があると。違いますか!?」

「王は我々を受け入れ、我らの苦悩にも理解を示してくれた。そんなバルバラード王をよりにもよってキサマは愚弄(ぐろう)するのか?!」

ラタも次第に当初の目的を忘れ、漂う砂の「渇き」に飲まれていく。視界が、褐色に染まっていく。

 

「おいおい、ラタさんよ。()()()で片をつけようってんなら俺たちはこの辺でお(いとま)させてもらうぜ?あとは好きにしなよ」

「そ、それは……」

トッシュの横やりで二人はその手が腰のモノに伸びていることに気づいた。だが睨み合う二人はなかなかそこから手を引くことができないまま、硬直してしまう。そこへアークがようやく口を開いた。

「族長、俺はあなたたちの英雄でもなければ救世主でもない。だが一言だけ言わせてくれ」

ラタが連れてきた以上、その先は聞くに及ばず。むしろ、聞きたくなかった。

「バルバラード王はあなたたちの敵だ」

それでも兄ナムは砂の王への忠誠を曲げなかった。まるで、すでに連中の装置で洗脳されているかのように。

「……アーク様、申し訳ありません」

視線を逸らすナムの顔は歪んでいた。それを見やるアークの顔はひどく冷めていた。

「わかりました、それならもう俺から言えることはありません。俺たちは俺たちの闘いをするだけです。俺たちはピラミッドに攻め入る。たとえアナタが立ちはだかろうとも」

族長に勇者を止める勇気などあるはずもない。恩人の背中を黙って見送ることしか。

「……」

呪術(うらない)は再開され、砂は地図の上に降り注ぐ。その一粒一粒がバルバラード王の言う新兵器のように、アリバーシャに褐色の山を築いていく。

彼は信じている。こうすることでしか死んだ同胞に報いることはできないのだと。

 

 族長の天幕を後にすると、ラタはまるで兄を弁護するように勇者を強く(とが)めた。

「アーク様!約束が違う!兄を説得してくれると言ったじゃないですか!」

そんなことを言った覚えはない。「俺たち」の中に自分が含まれているとも言ってない。アークは必死に引き留めるラタに目もくれない。

どうやらこの期に及んで「俺たちの闘い」が結果的にサリュ族を救うのだとしても彼はそれを良しとしないらしい。それがひどく彼の癇に障った。

「ゴーゲン、サリュ族の砂嵐ってのはアンタの力でどうにかできないか?」

「無理じゃろうな。あれは精霊が自らの寝所を護らせるためにが貸し与えた特別製じゃ。たとえて言うならわしにお前さんの力を封じろと言っているようなものよ」

「そうか、そりゃ無理だな」

「アーク様!」

ラタはアークを味方に付けたことで思い描いた理想の「ハッピーエンド」があった。だからこそ現実の勇者の言動が信じられなかった。

「……ラタ、君たちの母親が今どこにいるかわかるか」

「え……?」

「なぜそこで黙る。聞いての通りさ。俺たちはどうあっても彼を説得しなきゃならなくなった。アンタの思惑通りの展開のはずだろ?」

「ア、アーク様……」

ラタはどうにか口を(つぐ)むことができた。でなければ、彼を指して言ってはならないことを口にするところだった。

 

 ムハドの南にある大洞窟テュケ。そこに母は囚われているのだとラタは賞金稼ぎ組合から入手した情報で明らかにしていた。ラタをサリュ族の野営地に残し洞窟へと向かう道中、エルクは不満げにぼやく。

「なんだってこんな回りくどいやり方するんだよ。それに、ジイさんの力で解決しねえってのもウソなんだろ?」

「エルク、それ以上は言わない方がいいわ」

「なんだよ、リーザ――――」

アークは砂が目に入らないようにと、目つきを鋭くしていた。………凶悪な怪物のように。




※敢行(かんこう)
難題にあえて挑むこと。周囲の制止も押しのけて行うこと。強い姿勢。

※湛える(たたえる)
器一杯に水を張ること。器から溢れかえること。

※ラタの依頼(ネタバレ)
原作ではラタが主人公たちにレイヴン(巨鳥のモンスター)を退治するよう依頼するけれど、それはアークたちが信頼に足る人物かを見定めるためのもので、卵を護ろうとするレイヴンと対峙するシーンでそれを打ち明ける。
ちなみにレイヴンは「カラス」の意味。なんか砂の国のイメージに合わなかったので「ハゲワシ」に変更しました。

※洞(うろ)
木や地面にできる穴。空洞のこと。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。