聖櫃に抱かれた子どもたち   作:佐伯寿和2

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精霊の導き その六

 初めて風の精霊と出会った国、地中海に位置するニーデルは湿気の強い印象だった。ジメジメする空気は知らず知らず不快感を誘い、不快感は苛立ちを誘う。

それが原因かどうかはわからない。ただ、この国の統治者はその鬱憤(うっぷん)を晴らす娯楽施設として首都の中央に非人道的な闘技場を造ったのだ。世界に類を見ない規模のそれは瞬く間に世界から大きな反響を呼んだ。

 強者が強者を呼び、強者たちの激しい戦闘はこの土地の空気に当てられた観衆の苛立ちを解消させた。その爽快感に中毒症状を覚える者も少なくない。

そんな粗暴極まる場所に風の精霊はいまだ留まっている。父さんからもらった首飾りはそう言っていた。

だが、果たしてそこは俺が過去に訪れた国と同じなのだろうか。闘技場のある首都ミスロ、日中は隣を歩く人の声も聞き取りにくいほどに騒がしいはずのこの町の石畳を歩けば甲冑の音がはるか先まで響き渡った。それどころか、周囲を警戒する獣たちの静かな息遣いまで聞こえてくる。まるで、夜の森を歩くように。

「これは……本物だと思うか?」

「そうじゃないとしたらとんだ天才芸術家がいたものね」

毎日が祭りであればいいと騒ぎ立てる住人たちに代わり、目が合っているにもかかわらず息を殺し、喧騒を憎む人々が町を乗っ取っていた。

 石像。もはや彼らに固有の名前はなく――ククルの言うように――、一つの芸術作品のように町と一体化していた。

それらの中に一つとして抽象的なものはなく、今にもその口から吐息が聞こえてきそうなほどに精巧無比な生々しさがそこにあった。

もしもこれがただの石像なのだとしたら、ククルの言う通りニーデルは観光産業の方向性を変えたのだろう。だが現実はそれほど平和的なものじゃない。

 女の子の腕の中で猫が死んでいた。満面の笑みを浮かべる女の子はこれから猫とどこか遊びに出かけるところだったのかもしれない。大事そうに抱える腕の中で、愛猫は餓死していた。

鍋にお玉を差す女性。火事にこそなっていないが、中身は完全に焦げ、鍋自体も(すす)だらけになってしまっている。屋根を修理しようとトンカチを振り上げる男は鳥のフンにまみれ。庭の椅子に腰かける老婆は雨の日でもないのに傘をさす老夫を見て笑っている。

彼らの時は突如、停止した。そうとしか思えない光景。

 胸に耳を当てても鼓動は聞こえてこない。温もりも感じない。もしもこれが町全体に及んでいるのだとしたら……。その規模はアリバーシャの空爆の比じゃない。

「お願いだから正気は保っていてよね」

「わかってる。俺はもう一年以上この戦場に立ってるんだ。いい加減、人の死にも慣れるさ」

「……あなた、本当に変わっちゃったのね」

彼女のため息に俺は深く同意した。

以前の俺ならこんな強がりすら出てこなかっただろう。恐怖を刺激すれば自然と怒りがこみ上げてきたけれど、今の俺は恐怖に対する耐性が強く、怒りが鈍い。勇者としてあるべき熱量が確実に目減りしている。

逆に、冷静だからこそ俺はこの状況に違和感を覚える賢明さを維持できた。

連中にとって、町一つ石化することに何かメリットがあるのか?人間の怒りや恐怖を王復活の力として聖柩に貯めたいんじゃなかったのか?それともこの状況でも恐怖は得られるのか?

「ねえ、なにか聞こえない?」

闘技場に向かう最中、不意に彼女は耳をそばだてた。倣って耳を澄ませると確かに聞こえる。断続的で、か細く、震えた声だ。

「子どもか?」

「こっちよ」

奇妙なことに、町一つを作品の倉庫に変えた犯人は石像に危害を加えた様子は一切ない。それどころか子どもを一人、石にしそこなっている。千人以上の人間が石化している中で、ただ一人。

これを怪しむなと言う方がどうかしている。

「だからって無視はできないでしょ」

……そうだな。俺はなるべく淡白に答えた。今の俺の、犯人への感情が見透かされないように。

 

「だ、誰?!」

とある民家に女の子はいた。声をかければ咄嗟に母親らしい石像の陰に隠れるだけの警戒心はあるが、それにしても無防備すぎる。

これが罠でないなら犯人たちはすでにこの町にいないと断言できるほどに。

「来ないで!助けて、おかあさん!!」

「心配しないで。お姉ちゃんたちは悪い人じゃないわ」

「……ほんと?」

「本当よ。お姉ちゃんたちは悪い人を()らしめに来たの。だから教えてくれない?お母さんたちをこんなにしたのはどんな奴なの?」

女の子は震えながら「怪物」とだけ答えた。

「その怪物はどこにいるの?」

「と、とうぎじょう……」

そもそも闘技場は連中が建てた施設だし、この町で居座るには無難すぎる場所だ。わざわざ罠をしかけなくてもまずはそこへ向かおうと思うくらい。

「教えてくれてありがとう。じゃあ、お姉ちゃんたちは悪者をやっつけに行くからアナタはここから動かないでね」

「待って」

子どもを警戒してその場を離れようとするククルを、女の子が引き止めた。服の(すそ)を掴み、「独りにしないで」といかにも子どもっぽい仕草で。

「お姉ちゃんたちが行く所にはお母さんをこんなにした怪物がいるのよ?」

「……」

「はあ、仕方ないわね。その代わり、お姉ちゃんたちの傍を離れちゃダメよ?」

「うん……」

女の子の名前はメイ。数日前、町に奇妙な風が吹き抜けたかと思えば次の瞬間には町の人たちは石化していたという。それからずっとあの家に隠れていたらしい。

「怪物の姿を見た訳じゃないのか?」

「う、うん……」

つまり、犯人が闘技場にいるのかどうか。果ては怪物の仕業かどうかもわからない訳だ。

それは小さい子らしいといえばらしい言い訳に聞こえたが。

「今のところ他に手がかりはないんだから取り敢えず行ってみてもいいんじゃない?」

「……そうだな」

彼女は目ざとく俺の表情を読み取り、サインを送るように自分の懐を指さして言った。結局、彼女に隠し事なんてできないってことだけはハッキリと理解できた。

 

「思ったよりもひどい有様だな」

町の中心を陣取る国の観光名所かつ最大規模の娯楽施設の闘技場は今や、大規模なジオラマのように剣闘士と観客の活き活きとした石像で溢れかえっていた。

リングと控室の境界となる門の両脇に控える二体の巨大な馬体の戦士の銅像は、剣闘士たちの武勇を見届ける守護者ではなく石の群衆を従える軍神のようだ。

そんな中、初めて闘技場に来たと言う女の子は石にも馬にもいちいち怯えていた。

「でも少なくとも来た甲斐はあったみたいよ?」

ククルは館内スピーカーのスイッチが入る音を指して言った。

『レディースアンドジェントルメン!本日の目玉選手が今、ようやく到着したぜ!この世紀の一戦を見逃したくないなら選手も観客もただちにテメエらの席に着席することを強くお勧めします!』

石像たちに放送に応えられる耳や口はなく、場内は静まり返っている。にもかかわらず、お祭り騒ぎのMCは自慢のマイクパフォーマンスで一人、会場の熱気を表現し続ける。

それはただの自己満足で素人同然なはずなのに、記憶の中の会場から(かす)かに歓声が聞こえてくるようで不快だった。

 名指しされるでもなくリングへと足を向けると、グイと肩を掴む彼女の手があった。

「調子に乗った男をわからせるのは私の方が上手だって知ってるでしょ?」

そう言うと、返事を聞くつもりもない彼女はいつものように髪をなびかせ、颯爽と門をくぐっていった。

「お姉ちゃん、大丈夫なの?」

「そうだな。無事で済むといいな」

――――このお調子者が。

 

『皆様お待ちかね、本日メインディッシュの登場だ!』

彼女が舞台に現れるとMCはいっそうふざけ出し、声なき観衆たちと肩を組むかのようにヒートアップしていった。

『さあ、お前たち、この薄幸の美少女が血に染まる姿を想像してくれ!それだけで(そそ)られるじゃねえか!』

「やってみなさいよ。逆に血祭りに上げてあげるわ」

ポツリと返す彼女の言葉は不思議と爆音のパフォーマーの声よりもハッキリと聞き取れた。

『さてはて、その美少女を調理するのはまさにベストチョイスと言わざるを得ない名コックの面々、スケルトンの皆々様だ!』

合図と共に四方の門が開き、隊列もなにもなくガシャガシャと各々の調子で入場してくるのは様々な色にペイントされた白骨兵たち。

『その柔肌を剥ぎ取り新たな人生を謳歌できるのはどのコックか、テメエらも予想してくれ!』

どうやらその不必要な色分けは個人的余興を盛り上げるために施したゼッケンのようだった。

「これって全部独り言なのよね?空しくないのかしら」

「空しい?いいや、最高の気分だよ!」

MCをしていた怪物が場内に現れ、彼女の感想に対しワインボトルを煽りながら上機嫌に返した。

ザンバラな青髪は脂でギラギラと光り、筋骨隆々な体は毒草をすり潰して塗りたくったかのような緑色をしている。そして、額から生える二本の角はコイツの傍若無人さを表すように太く湾曲していた。

怪物は自分の方が優位だと知らしめるようにズシリズシリと大股でククルへ歩み寄る。

「言っただろ?メインディッシュだって。俺はアンタらがここに戻ってくるのを首を長ーくして待ってたんだよ!」

「寄らないで、酒臭い!」

「ハッ、そりゃあ褒め言葉か?!俺様のカッコ良さに酔っちまうってか!?ギャハハハッ!」

「気持ち悪いわね!酒臭い上に顔もブサイクなんだから大口開けて笑わないでよね!」

目は細く極端な三白眼。大きく太い鼻はいびつに曲がり、唇はナメクジのように太く湿っている。きっとその言葉を幾度となく浴びてきたのだろう。怪物はそれを笑ってはね飛ばした。

「ギャハハハッ!悪いがこれは抑えられねえよ!なんたってようやく念願のお宝が手に入るんだからよ!」

「宝?なんのこと?」

(とぼ)けるなよ。アンタら前にここの大会で優勝したんだろ?なあ、アーク一味のククルさんよお」

「もしかして風のオーブのこと?」

「それ以外に何があるってんだ。あれに富豪どもがいくらの値段を付けてるか、アンタ知ってるか?アンタらの懸賞金なんざ犬のフンみたいに見えてくるぜ?」

「自分の不潔さを棚に上げて大便呼ばわりしないでくれる?それと残念だけど風のオーブはもうどこにもないわよ。私たちが壊しちゃったから」

「ギハハハハッ!!」

開始のゴングは鳴っていない。なのに白骨兵たちは待ちきれないとばかりに動き出した。

それぞれの手には剣に槍、フレイルや弓矢が握られている。どれも使い古されていてボロボロだが対する少女は素手。負ける要素がどこにある?怪物の笑いはそう言っていた。

「下手なウソは寿命を縮めるだけだぜ?大人しく渡せば指輪の一つでもくれてやろうと思ってたんだけどなぁ」

「アンタみたいなブ男から貰って喜ぶ女がどこにいるって言うのよ!」

「ハッ、だったらテメエの次はテメエらの王子様に聞いてみるしかねえよなあ!王冠でも贈ってやればゲロしてくれるかなあ?」

槍のひと突きを体をひねって躱すと背後から剣が振り下ろされた。それもひねって躱す。フレイルが横殴りに飛んでくるのを屈んで、飛んでくる矢をワンステップで避けた。一連の動きは軽やかで、踊っているかのように淀みない。怪物も感心して手を叩く。

「伊達に懸賞金はかかってねえわけだ!いい動きするじゃねえかよ。だがどの世界にも格上ってのはいるもんだぜ?」

怪物は(なた)を両手に、下品な酔っ払いとは思えない豪快かつ艶美な演武を披露し始めた。まるでグレイシーヌで言う酔拳のようだ。

 怪物の類稀な技はスケルトンたちも巻き込んだ。砕けた破片が花吹雪のように宙を舞い、それすらも得物の一部であるかのように彼女を襲う。

さしものククルも嵐のように襲いくる(つぶて)までは避けきれず、服は裂け、肌を切ったが、それでも果敢に怪物の前へと躍り出た。

怪物はそれも予想の内というように的確に得物を振り下ろす。

ところが、確実に捉えていたはずの刃先は次の瞬間には明後日の方へと流れていた。

素手で(さば)けるほど軽い得物じゃない。目で追えるような速さじゃない。その過信が完全に怪物の意表を突いた。

「ギッ――――?!」

光輝く拳がブサイクな顔のド真ん中を捉えた。頭骨が砕けて拳はめり込み、怪物は悲鳴もまともに上げられないまま壁に激突し、即死した。

「大丈夫か?」

「あんなの、なんてことないわよ」

その言葉の通りと言うべきか。演武で斬りつけられた傷口は彼女の力ですでに塞がっていて、あと数分もすれば完治するだろうという勢いだ。

彼女は紛れもない勇者の一人だ。俺に、再度男連中に警告を呼びかけなければならないと思わせるくらいに。

 

「それよりメイ、どうやらアイツが犯人じゃないみたいだけど他に心当たりはある?」

闘技場を乗っ取っていた怪物が絶命しても石像たちは沈黙を保ち続けている。名乗り出てこない真犯人の黙秘を真似するかのように。

「私、わかんない……」

「本当に?何も知らないの?」

「お、お姉ちゃん、怖いよ……」

「私が恐い?これを見ても同じことが言えるかしら?」

ククルはおもむろに懐から鏡を取り出し、女の子に突きつけた。するとそこに「女の子」とは真逆の、不潔な魔法使いの姿があった。

「……いつから気づいていた」

女の子の口から野太い声が鳴る。ボロボロと、劣化した油絵のように空間(カンバス)に描いた愛らしい女の子の姿が剥がれ落ちていく。その下から現れたのは魔法使いの装束を着込んだ(いか)めしい顔のホームレス。

 いつから?魔法使いの問いかけに二人は顔を見合わせ、思わず吹き出した。

「お前は初めて人間の世界に降り立った世間知らずな妖精さんか何かか?あんなあからさまな設定で疑わない奴がどこにいる?俺はてっきりそれも込みで誘導しているもんだと思ってたよ。それが…まさか……ククク……」

「……まあいい。私には石化の魔法がある。石になりたくなければ大人しくオーブを渡すんだ」

「まだ言ってるの?風のオーブは壊れたんだってば!」

「ふん、そうやって言い逃れできるのも今の内だ。徐々に石になっていく恐怖には誰も勝てん。最後には誰しもが命乞いをするのだ」

アークはまた笑った。今度はより()()()()()()

「その石化も実はお前の仕業じゃないんだろ?」

男は本当に何も知らない田舎者なのかもしれない。煽りやカマかけにいちいち表情豊かに反応してみせるから彼らの笑いも止まらない。

「ほら、アンタの負けよ。さっさと自分の国に帰りなさいな」

「この私を、バカにしているのか……!?」

男は逆上した。脂ぎった髪をわななかせ、黄色く汚れたすきっ歯から唾を飛ばして叫び出す。濁った瞳が忙しなく動き回り、ゼンマイのように長く丸まった爪をカチカチと鳴らしたかと思えば唐突に杖を振りかざした。

「私は風のオーブを手に入れ、富と権力を手に入れる。そうすれば勇者だろうと…フフフ……王だろうと…ククク…私の前にひれ伏すほかなくなるのだぁぁ!」

言葉とは裏腹に、自尊心を傷つけられた魔法使いは目的を忘れ、ただただ血と肉をバラ撒きたい衝動のままアークに杖を突き付けた!

 杖の先端に巻き付けた真っ赤な水晶が心臓のように脈打ち、アークの心臓を引きずり出さんと強力な引力を働かせた。その横暴さは肉食のそれで、たとえ剣闘士であっても障子に穴を開けるくらい簡単に引きずり出されていただろう。

魔法使いは闘い方を見誤った。素手であれば一般人よりも強いというレベルでしかないアークも、魔法比べともなれば肉食の頂点に届く実力者なのだということを理解していなかった。

「お前に必要なのはもっと別にあったはずだ」

そう言ってアークは向かってくる敵の首を()ね飛ばした。

 

 崩れ落ちるもう一匹の怪物を見届け、ククルは彼らから感じた違和感をアークにぶつけた。

「今の…ううん、さっきの闘技場の化け物もそうだったけど、なんだか変じゃない?」

「変?」

「二人は本当にアンデルたちと同じ魔物なの?アンデルも二人みたいに権力やお金に固執してた?それとも私の認識がズレてただけなのかな」

人間社会に溶け込む魔物は多くいる。けれども彼らが最終的に帰る場所は「彼らの社会」だ。それなのに、あの執着心はなんなんだろうか。ククルの不安はアークの胸にもよぎった。

その答えを、一部始終を見ていた老人が語り出した。

 

――――まさに、それこそが今の魔族どもに起きている変化の一つ。

 

石像を縫って吹く新緑の風が、一人の老人の姿を形作った。

翡翠を思わせる青肌のふくよかな老体。(かいこ)の糸のように肌理(きめ)細やかな髭は風になびくことなく体のラインに沿った形を保っている。

しかし、小ぶりながらも生える角と尻尾は老人の穏やかさを象徴する一方で越えてはならない一線を示し、馬体の戦士の間に立つ光景をより自然なものに仕立てた。

風の精霊。ソレは各地から戦場の血を掻き集め、この国のジメジメした空気をつくり出した張本人。この町に闘技場を建てさせた黒幕。角と尻尾に加え、足の三本指から伸びる鋭い鉤爪が他の精霊とは違う残忍さを象徴していた。

「かの人間の王が力を取り戻しつつある。その影響が魔物たちに現れているのだ」

穏やかな声色とは裏腹に、彼らに共通する漆黒の眼球と金色の瞳がジロリと睨み、その責任と原因を尋ねた。

「アンデルに聖柩を奪われてしまった」

端的な返事は逆に余計な勘繰(かんぐ)りや怒りを回避し、精霊はアークたちに鏡を出すよう促した。

「人間は愚かしい。わしの目の前で争いを娯楽にしてしまうほどにな。じゃからわしは町の人間を石に変えた」

町に現れた二匹の怪物が混乱を招き、人間同士の争いに発展しないよう。

「こやつらの目はひどく濁っておる。お前が悪に見えるほどに。マローヌがヨシュアにしたように」

それは忠告であり警告でもある。もしもの場合、彼はアンデルに代わり、人間を滅ぼしにかかるという。

 

 人を(さげす)む風の精霊は多くを語らないまま姿を隠した。それと同時に町の人々は一斉に息を吹き返した。人々に「石化」の記憶はなく、精霊の目論見(もくろみ)通り、無用の争いは避けられた。

残された怪物たちの遺体は若干の騒ぎを起こしたが、闘技場はすぐにいつもの「賑わい」を取り戻した。そして……

「誰か、メイという名前の女の子を知りませんか?!」

「故郷から追放された可哀想な子なんだ。おいアンタ、アンタは見てないか?!」

「……さあ、見てないな」

この世には知らずにいる幸せもある。そして、彼らの行動がすべて正しいとは言えない。決して。




※傘をさす老人とそれを見て微笑む老婆
ギルドの仕事で家出をしたおじいさんを探す内容のものがありました。そのおじいさんは夫を亡くしたおばあさんを元気づけるために家を空け、話し相手になっていたというお話でした。

※町の人口
参考までに。「町」は5千人以上、「市」は5万人以上という規定があるらしいです。(あくまで私たちの世界での基準ですが)

※闘技場のMC
原作でシュテンドウジ(酒吞童子→日本生まれの鬼の一種)のグラフィックが使われていたのでお酒を飲ませてみました。

※三白眼(さんぱくがん)
黒目が上にかたより、左右と下に白目が広がっている状態。人相学的に凶相と言われている。

※あとがき
最近、ストリートファイター6の動画を見ることが多く。そのせいか、ククルが豪鬼に見えてしまう瞬間がたびたびあります。
……ええ、ただの余談です(笑)
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