新年早々、長めの一話になっていますがどうかご容赦くださいm(__)m
――――世界が崩壊した
大地の
山の頂きから真っ赤な胃液が噴き出し、海の柔肌を焼く。その報復に海は牙を剥き、空を覆い、逃げ惑う人と獣を丸呑みにした。
命尽きる彼らを哀れに思った太陽は火の涙を注ぎ、恵みの森を焼いた。大樹が、最後の最後まで世界への慈しみを忘れなかったミルマーナの女神が泣き崩れ、燃えていく。響き渡る阿鼻叫喚に耳を塞ぎ、人に裏切られ、泣き崩れ、燃えていく。
精霊の循環によって支えられていた世界が、終わる。
――――そして、王による王のための世界創造が始まる
その目覚めを厳しく
「そんな、まさか……」
祈祷し、
すべてが徒労だと。
次の瞬間、復権を抑えてきた七本の石柱に痛々しいひびが走り、そこから漏れ出る妖しい光の霧が彼女を包み込む。彼女を無理やり世界から引き剥がし、寝所へと引きずり込んだ。彼女を
そこで彼女が目にしたのは、
「これが……」
王。一切の光を拒絶する異次元。盲目の世界。そこに、王冠のごとき金色の繭に包まれた目玉が一つ浮かんでいる。金色のほの暗い輝きは闇黒世界に投射され、王にだけ許された
しかしその先に玉座はない。いや、王のおわす場所こそが支配者の腰置き。世界のすべてが王に踏みつけにされるべき玉座。そう語り聞かせるかのように目玉は悠々と宙をたゆたい、失笑は止まない。
金色の
瞳はじっとりと巫女を見下ろしている。念願叶い、興奮で浮き立つ血管が繭から瞳を押し出さんばかりにドクリ、ドクリと脈打つ。
巫女は闇黒の大地に足を下ろし、目玉を睨み返した。
「まさか、もう自由になった気でいるんじゃないでしょうね?勇者ワイトの名は伊達じゃないのよ?首も座ってない赤ん坊に躾の一つや二つくらい叩き込めないとでも思ってるの?!」
勝利を見据える威勢とは裏腹に、彼女の両足は震えていた。目の当たりにした世界の終わり。王の力。なにより、この場には彼女独りきり。
それでもやり遂げなければならない。奮闘した仲間のためにも、彼のためにも……
小娘一人。この小さな虫を踏み潰すだけでこの
聖柩に蓄えられた人の心。この晴れやかな日のために腹を痛めるほどにこれを食した王は、気の抜けた祝宴に思わずおくびを漏らしてしまった。
「くっ……」
その臭気は勇者を蝕み、
それを、たった一人で?どうして私ばかりがこんな重責を?私はただ、人並の人生を送りたかっただけなのに……
「アーク……」
戦わずして敗北を宣言する。その瀬戸際、知らず知らず少女は彼の名前を唱えていた。
「……彼は今も闘ってる。世界のために……」
――――私のために――――
ククルという少女にとって神の御業にも勝る魔法の呪文を。
「女だからって、女だからって、甘くみないでよね!」
儀礼のためのゆったりとした装束を引きちぎり、猛獣もねじ伏せる剣闘士のごとく、荒々しい拳を王に突き付けた!
「私は、アンタなんかに負けないっ!!」
失笑する。頂点に君臨する者に挑む小さな命を王は見下した。
しかし、王は未知の衝撃を受けることになる。小さな人間が放つ、冠をも穿つ神の御業を。心を穢してなお立ち上がる人の信念を。
「まだ、まだまだ……」
王の怪しい光が耳を削ぎ、胸を切り裂いた。凛とした巫女の肌は真紅に染まり、赤い泥人形のようにみすぼらしくなっていく。それでも彼女は立ち向かう。膝をついてなお顔を上げる。まだ……まだまだ……。少女は不屈の眼差しで挑み、血まみれの拳を掲げる!
これが人間だと?ザルバドもガルアーノも成す術なくひれ伏したのだぞ!?
次第に冠にひびが走り、内から漏れ出る恐怖と憤りが雫となって瞳を撫でた。
バカな。またしても……またしても私は敗れるのか?たかが人間ごときに?たかが人間ごときに?!
――――不浄なるものへの天の裁きを!!
天だと?なにをバカなことを!この冠の上に何が存在する?いいや、何もありはしない!私しかいない!これは私だけの玉座だ!!
玉座から立ち上がる王を憐み、空を見上げ、ククルは指さした。
「ほら、見上げてごらんなさい。あれがお前を裁く”天”よ」
一つ二つ三つ……。瞬く間に空は満天を極め、暗闇は無数の星々で掻き消されてていく。
闇がこの世を支配することなどありはしない。この世に「光」が存在する限り。永遠に叶わない。永遠に――――
や、やめろ……やめろぉぉぉおお!!
飛来する星々は王の冠を打ち砕き、恐怖と憤り、そして王の網膜を焼き尽くした。
星々は巫女の足下に落ち、波紋を立てた。波紋は希望の光となり、穢れた暗闇を拭っていく。ククルを光溢れる世界へと連れ戻した。それでもまだ、彼女の闘いは終わっていない。
「まだ、まだよククル。まだ倒れちゃダメ……」
私が、この闘いを終わらせなきゃ……
「穢れた魂よ、欲深き王よ、常夜の闇に眠りなさい!」
巫女の力強い言葉に応じ、鏡に込められた精霊たちの力が目を覚ました。火と風が闇を燃やし、水と土が清めた。光が、石柱の隙間から闇黒を伝って巫女へ執拗に伸びる、漆黒の腕たちを追い払った!
「……」
訪れる静寂。世界の崩壊は止まり、王の気配は完全に消え去った。
「やった……やったわ……」
石柱に背を預け、天を仰ぎながら少女は崩れ落ちた。
「……早く、迎えに来てよ……」
抑えていた恐怖が押し寄せ、涙が溢れてきた。たった一人で、打ち勝ったのだ!世界を混沌に陥れる王を相手に!
それは堪らなく誇らしく、抑えられない喜びの瞬間でもあった。けれどもそれ以上に彼に会いたい気持ちが胸に溢れ返っていた。たった一人の彼に。
――――ならばその願い、私が叶えてやろう
「……え?」
氷のように冷たい視線が舐めるように背筋を撫でた。それは終わりでもあり、始まりでもある。世界はすでに彼のもの。すべては御方の意のまま。
「うそ。だって、確かに―――」
突如、嘲笑うかのように鏡が割れ、破片が少女の目を刺した!
「ああぁぁああっ!!」
理解できない出来事に理解できない痛みが重なり、少女は神殿を悲鳴で満たす。焼け石の上のミミズのようにもんどりうつ。取り戻した光はたやすく奪われ、少女は再び闇黒へと引きずり込まれた。誰もいない、孤独の世界へ。
高貴な笑いが、悲鳴と合唱し、神殿は混沌を極める。
戯れだ。何もかも。永きに渡って私を檻に閉じ込めたキサマらへの、ささやかな
再び石柱の隙間から漆黒の腕が伸び、イソギンチャクのように少女を絡め取る。少しずつ、少しずつ少女の体を引きちぎり、咀嚼する。
そこにもはや勇気などない。純粋で完全な恐怖が少女の脳を埋め尽くした。悲鳴などでは言い表せない。痛みなどでは物足りない。それは「闇」だ。これこそが本物の「死」なのだ。
鳴り響く鼓動がつんざく悲鳴を追い越し、ついには鼓膜を破って「彼女」をバラバラに破壊した。
「ア、アーク……」
手を伸ばしてもそこに彼はいない。伸ばす腕も、もうそこにはない。呪文はただ、王の顔を綻ばせるだけ。
まだだ、こんなもので私は満たされない。すべてだ。すべてが私のものになるその瞬間まで、私はキサマらの恐怖を楽しもう――――
同刻、王の目はロマリア空中城の大鏡へと戻り、世界の崩壊に喜怒哀楽の表情を浮かべる憐れなガイデル、憐れな勇者たちを見てほくそ笑んだ。
空中城の力によって精霊たちは狂い、その余波でアークとエルクは深い悲しみと怒りにとり憑かれた。
「バカな真似しやがって……っ」
その様を見ていまだ「王」の名にすがる憐れな男は勝利を確信して高笑いを決めた。
「バカな真似だと?これを見ろ!世界はワシに服従した。ついにワシはやり遂げたのだ!キサマらが陰で小馬鹿にし、見下してきたこのワシが、世界を手に入れたのだ!」
「よくも……」
「どうした、王の御前だぞ。跪け!ワシにその卑しい頭を垂れてみせろ!……は?」
「―――!?アーク、危ない!」
己の過ちを勝ち誇る男にアークはかつてない殺意を覚えた。気づいた時には足は地面を蹴り、手にはこれまで無数の化け物を斬り殺してきた剣が握られていた。
そこへ割り込む「第三者の視線」を感じ、アクラはすぐさま翼を広げ、アークへと真っ直ぐに飛んだが――――
「の、のわああぁぁ!!」
さながらSF映画の宇宙戦艦のごとく、星一つを破壊せんばかりの光線が大鏡を突き破り、憐れな男たちもろとも部屋を貫いた。
「う、うそだろ……」
エルクは炎をまとい、すんでのところで直撃をまぬがれた。次に彼が目の当たりにしたのはドロリと溶けた床と壁。決戦を迎える間もなく、少年は独り取り残されてしまった。
心のどこかで「アークさえいれば」と鼓舞していた気持ちがへし折られてしまった。
そんな現実味のない恐怖がエルクに思考を一瞬、停止させた。
それは真の王の慈悲か。それとも命を投げうつ勇敢な少女への褒美か。焼野原のただ中に、まだ動く人影が二つあった。
「ごめんなさい、アーク。私、貴方を守り切れませんでした」
アークとアクラは生きていた。彼女の両翼がアークを光線から護ったのだ。
しかし、いかに魔王の娘とはいえ「無限の石」と恐れられる空中城の石材をたやすく溶かしてしまう熱線のすべてを防ぐことはできなかった。
白鳥ように清廉な翼は見る影もなく黒く焼けただれ、その下の勇者の半身も赤く焼けていた。
「俺の方こそすまない。俺が考えなしに飛び出してしまったばっかりにお前にこんなケガをさせて……」
アークは青白く光る手でアクラの小さな頭を撫でた。一人遊びで自分をごまかしていたあの頃の女の子をあやすように。
光は青年の優しさで淡く輝き、焼けただれた傷を潤す。たちまち光は彼らに「再生」をもたらした。
そうして蘇った翼を少女は改めて感謝を示し、大きく広げた。その純白の大翼は麗しい白鳥から一変して天空を治める竜のように力強い。
しかし、それすらも王は笑った。
熱線で割れた鏡の向こうから響く笑い声。不穏な闇
檻であった鏡の額はソレが近づくにつれ、まるで見えない手で押し広げられるように不自然に歪曲し、ついには耐えきれずにソレを吐き出した。
そう……ついに「その時」が来たのだ。
『勇者アーク・エダ・リコルヌ、キサマに改めて礼を言おう』
ほんのりと金色に輝くソレは、毎夜見上げればそこにあるかの天体のように妖しい。
『お前たちの行動が、あの憐れな男に正しい役目を与えた』
「なんのことだ」
空気の振動をともなわない声が脳に響く。それに応える時、表に出ていない感情も同時に引きずり出され、たった一言で王との対面を恐怖した。
『アレにとってお前たちは、お前たちにとっての私。お前たちが正義と信じて疑わない行動がアレに、今お前が感じているものを与え続けていた。さあ、お前ならどうする?』
王の言葉を理解した勇者は口を噤んだ。「違う、お前たちがガイデルを狂わせた!」そう返すこともできずに。
『初め、アレは
その遣り取りにデジャヴを覚えたエルクはアークを振り向かせ、彼の目をまっすぐに見つめた。
「耳を貸すんじゃねえ!アンタは間違ってねえ!」
「……安心しろ、エルク。俺は大丈夫だ。それよりも……」
そう、彼は気づいてしまった。彼が怒りを覚える確かな理由に。王が「ここ」にいる理由に。
「彼女は……どうした」
不快な嘲笑がそれに答えた。「その通りだ」と。
王の嘲笑は精霊たちをさらに狂わせ、互いを傷つけた。火も水も光も……今や彼らそのものが災害で、彼ら自身が世界の終焉を描いている。
精霊を使い、自身も精霊になりつつあるアークにはそれがハッキリと感じられた。体の内で暴れ回るそれらが「お前のせいだ」とでも言うように。
「……覚悟しろ。俺が、お前を二度と目覚めない悪夢に突き落としてやる」
それはもはや命を救われた精霊への恩返しなどではない。アークとして。彼女を愛した者の……復讐でしか。
だからこそ王は笑う。彼もまた、あの憐れなロマリア人たちと変わらないと。
『ならば招待しよう。お前たちが私の3000年を窒息させた愛すべき揺りかごへ』
王が言い終えると世界が魚眼レンズで歪み、鏡の額が一匹の怪物となって大口を開けた。抗う間もなく、彼らを丸呑みにした。
「なんだ、ここは……」
額の向こうは巫女を弄んだ闇とは別の闇で満たされた空間。互いの姿がハッキリと見えた。地面がないにもかかわらず彼らは間違いなく立っていた。そして……
「アーク、あれ見ろよ」
足下に開いた大きな穴。見えない壁に阻まれたその向こうには青々とした惑星がある。
「ここってもしかして……」
宇宙、なのか?
『そんな小さな名前で片付けてくれるな。ここはすべてが追放されし別世界。希望は絶望し、可能性は死に絶え、未来は渇いていく。そして、いずれすべては混沌に還る』
時すら朽ちて消えた。ならばなぜここを「宇宙」などと現実に存在する名で呼ぶことができる?
『……「黒い穴」。そう、ここはすべてを平らげ、すべてを闇に沈める王たる私の内臓だ』
エルクは自分たちを取り囲む12の小さな空中城があることに気づいた。その向こうには幾千幾万の朽ちたそれら積み上がっている。
それらはこの空間の看守か。それとも檻の出入りを可能にする装置か。前者なら朽ちたそれらは王の退屈と怒りの代償なのかもしれない。後者なら解放への妄執が生んだ試行錯誤の痕跡かもしれない。
いずれかを経て、王は今やこの檻すらも支配している。
なんの前触れもなく、王は頭の上の林檎を射貫くような気軽さで瞳からガイデルを葬った熱線を放った。
「アーク!」
王の戯れにアークは僅かに反応が遅れ、精霊を呼び損ねた。または、王の復活によって精霊たちが混乱していたために勇者の光の壁たやすく打ち破られたのかもしれない。
王の矢は狙い違わず勇者を焼いた。だが、間一髪で水が彼を死から掬い上げた。
その加減もまた、戯れ。
「だ、大丈夫だ。……少し、油断した」
アークは下がった切っ先を持ち上げ、王を見上げる。
『もっと、もっとだ。次は何を奪えばいい。炎か?それとも魔王の娘か?お前の大切にしているものを言え。ただちに奪ってやろう。キサマに見せつけてやろう。私の苦しみの一端を』
エルクは指輪の炎を纏ってアークの前に立ち、アクラは……
「おい、チビスケ!なにやってんだ、ボサッとしてんじゃねえ!」
魔王の娘は足下に輝く青い宝石に魅了されていた。
「任せて、ください。私、これ読めます……」
エルクに怒鳴られても少女はそれから目を離さず、ろれつも回らないほどに没頭している。そこからは困惑と狂気が感じ取れた。
「何わけのわかんねえこと言ってやがる!」
「待て、エルク」
……違う。アークは彼女の目に映っているものが自分たちとは違っていることに気づいた。
彼女の目は何かを追っていた。規則正しく並ぶ何か。行と段のある何か。魔王の娘だからこそ見える何かを。
少女はブツブツと何事かを呟き始める。すると、見えない壁の上に奇妙な文字と記号、図形が次々に浮かび上がっていく。赤い筆跡はアークたちに警告色を思わせたが、書いてある内容は何一つわからない。そして、どこでだったか。その文字には見覚えがあった。
どこかの、のどかな墓地で……
その様子を、アクラ・エルヴァスのアクラ・エルヴァスたる由縁を目の当たりにした王は憎々しげに漏らした。
『腐っても魔王の娘ということか……』
王は、特別な血筋というだけでその知識を持つ少女を妬んだ。闇を支配した者でさえ永い時を費やした知識を持つ彼女を。
少女が文言を並べるに呼応して一つまた一つと彼らを囲む空中城が王のそれに似た光を帯び始める。それは王に久しい危機感を覚えさせた。
ただちに聖柩から蓄えた「人の穢れ」で嵐を生み、少女を包む。無数の手が闇より現れ、少女のあらゆる首をヒシと掴む。
「お、お父様……」
少女の言葉は埋もれ、空中城の光は沈んでいく。穢れは少女を好み、きつく、きつく締め上げるほどに少女の顔に「もう一人の少女」を彷彿とさせる憎悪が滲み出た。救いを求める声が涙で濡れた。
『それでいい。キサマは弄ばれるのが似合いだ』
「させるか!」
勇者と炎は同時に飛び出した。炎は熱線を体で受け止め、勇者に道をつくる。指輪がその熱に耐えきれずに徐々に溶けていくのも構わずに。
勇者は空を蹴って飛んだ。傲岸不遜な王の視線よりも高く、高く。切っ先を掲げ、闇を裂く白銀の剣を振り下ろした!
『う……っ』
王が、悲鳴を漏らした。勇者の剣が王の体に触れた先から瞬いた。深海を切り裂く日の出のような光が、王の冠に亀裂を走らせた。そこから、一筋の赤い血が滴る。
『……キサマらは、どこまで私を煩わせれば気が済むのだ……』
なるほど確かにアーク・エダ・リコルヌは世界を救う勇者らしい。もはや精霊そのものと言っていいほどの親和性を持ちながらいまだに「人間」を保っている。類稀な力だと認めざるをえない。……だが、やはり小僧。
なぜ傷つけた者が勝利すると決めて疑わない?
「……くっ!」
冠から漏れ出る赤い穢れ。それはアークに罪を見せた。聖柩より吸い上げた数々の人の罪を。
『お前は国を護るために死した兵士から金品を剥ぎ取る子ども。お前は無抵抗の子どもをはがいじめにして乱暴を働く兵士。そして、強姦を受けたお前は男から銃を奪い撃ち殺す。お前が人間を名乗る限りお前はそれらの罪そのものであり、お前がそれを滅ぼさない限り罪は永遠に紡がれる』
一部は肥え太り、その傍らでは喉の渇きに狂い、涙を流している。俺たちはそれを知っている。知っているが……なぜだ?なぜ助け合わない?
俺は泣き叫んでいるのに、なぜ俺は笑って銃を構えられる?なぜ俺は見て見ぬふりをする?
混沌だ。すべては破滅へと続く混沌。
それなら俺は「お前たち」になにをしてやれる。俺は――――
『さあ、顔を上げろ。お前の名前はなんだ―――な、なんだと……?』
柄を握る手が熱い。炎だ。添えられた炎が俺に呼びかけている。
……そうだ。だから俺はあの時、白い家で消えかけるお前を助け出したんだ。もう一度、
――――俺たちは、お前にはならない!!
『なぜだ、なぜその矛盾を背負って私に剣を向けられる?私とお前の敵は同じはず。なぜ私に従わない。なぜお前たちを取り込むことができない!?』
勇者の剣が冠を砕き、炎が流れ出る血を燃やした。二人の人間が、支配者の穢れを乗り越えていく。
勇者は種族が滅ぶ瞬間を前に立ち尽くし、炎は自らの手でじっくりと親友たちの首を絞めた。望まない運命。混沌が呼び寄せた悲劇を、彼らも憎んでいた。しかし、彼らはそれを乗り越えた。それでも剣を握り、ここまでやって来た。
人間を護るために。
勇者と炎は少女を背に、王に拳を振りかざした。光と熱に穢れが悲鳴を上げ、王の中を駆け巡る。
『か、からだが、あつい……あつい……あつい!!』
血走る瞳に火が点いた。手当たり次第に熱線はばら撒かれ、まとわりつく虫けらを払った。だが、「その時」はすでに彼に差し迫っていた。
「……塚は高く……眠りし者を呑む……天も地もただ一つに染める……」
赤い髪を逆立てた魔王の娘が、瞳から血を流し、嗚咽を漏らしながらたどたどしく唱えている。
「其は黒い穴……其は全能を
二人の父が護ってくれた脈打つ命をヒシと握り締め、一匹の狼がくれた勇気を力に変えて最後の言葉を高らかに叫んだ。
――――闇に還れ、
※戴冠(たいかん)
王位継承者が王になるための儀式。王冠を頂くための儀式。
※毛氈(もうせん)
獣の毛を加工して作られた絨毯、敷物。
※おくび
ゲップのことです。
ちなみに、このおくびはこのボス(闇の支配者)の特殊攻撃「モラル崩壊」
※黒い穴
原作でもキャラクターの足下にエルクたちの住む惑星?が覗く演出がされていました。
飛躍した考えですが、現実の世界に影響を及ぼすことのできない場所。穴の中の世界。闇黒の支配者(ラスボスの名前)。というところから、あそこはブラックホールの中だったのではないかなと思いました。