聖櫃に抱かれた子どもたち   作:佐伯寿和2

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孤島に眠る従者 その二十

「……リーザ。」

床に()()し、痙攣(けいれん)し続ける化け物に顔を(うず)め、彼女は泣いていた。

 

黒服連中が部屋を後にすると、圧倒的な『力』で戦場を支配していたはずの狼が泥人形のように崩れ落ち、動かなくなってしまったのだ。

 

……吐血(とけつ)、痙攣、早い脈拍。

口から異臭を放っていることに気付き、中を(のぞ)いてみると、中がカラカラに乾燥(かんそう)していた。すぐに隣の部屋へと向かい、水を()んで戻ってくる。口周りの()しゃ(ぶつ)()()り、(のど)を詰まらせないように湿らせるようにユックリと水を飲ませた。

……()たして、この行為がコイツの回復にどれだけ貢献(こうけん)しているのか。

「……何を、してるの?」

『悪夢』は常に付け入る(すき)を狙っていると学んだ彼女は、俺にまで懐疑的(かいぎてき)な目を向け始めた。

それが、悔しかった。

「俺だって、やっちまうよ。何度も、何度も。」

拾ってくれた恩人を殺しかけたことがある。育ててくれた恩人に八つ当たりをしたことがある。(かくま)ってくれた恩人の大切なものを壊したことがある。

それでも皆、俺の(そば)にいてくれるんだ。俺が壊れてしまわないように護ってくれるんだ。

「俺にどうこうできるなんて思ってねえけどよ。……どうにかしなきゃじゃねえか。」

俺のすることなんて大抵、間違ってる。大抵、誰かを傷付ける。俺はまだガキなんだ。誰かを護れるほどデッカイ(うつわ)なんか持っちゃいねえ。

それでも……、黙ってられねえだろ?護られてばっかりなんて、イヤじゃねえか。

「リーザにだって、何かあるだろ?まだ、こいつにしてやれることが。」

だから俺はまだ、リーザの目を見て言うことができない。

「……謝ってる場合じゃねえんだよ。泣いてる場合じゃねえんだよ。」

 

彼女は泣き(わめ)く子どものように顔をクシャクシャに(ゆが)めたかと思えば、そのまま俺の胸に顔を埋めてきた。そのまま、何も言わずに何度も、何度も、強く顔を(こす)りつける。

「……」

俺から離れるとまた、さっきと同じように全身で狼を抱き締める。でも、それこそ、誰にも真似できないリーザにしかできないやり方だった。

 

チラリと視界の(すみ)に、俺たちを見守るオッサンの姿が映る。

……正直に言ってオッサンたちを護り通す自信なんかなかった。頼みの綱であるパンディットが早々に潰さるのを目の当たりにして、両方を見殺しにしてしまうくらいの覚悟もしてしまったくらいだ。

『彼女』ならあるいは……という考えもないことはなかった。だが俺には、どうしても『彼女』に助けを求める勇気を持つことができなかった。起こってからじゃあ言い訳にしかならないが、こんな展開になるような予感があったからだ。

つまり俺は、(はな)からオッサンたちよりもこの二人を選んでいたんだ。

「……」

だから、この場で一番の適役者だって分かってても、俺の口からオッサンに「助けてくれ」なんて言えない。

「……頼む。手を貸してくれ。」

そう、思っていたはずなのに。二人を想えば想うほど、この体はオッサンたちへの気持ちを軽んじてしまう。そんな自分が、ひどく(みにく)く思えた。

「……期待(きたい)はするんじゃないぞ。」

そんな俺でも、オッサンは二つ返事で受け入れてくれる。これが、俺が恩人にしてきたこと。恩人が俺にしてきてくれたこと。

 

自分の畑となるとオッサンは別人のように手際が良く、頼もしく映った。そこは黒服連中からの「お迎え」が来るだけあって、獣相手でもオッサンの知識が遅れをとることはなかった。

「それは?」

()()()()()()()()()()()、それでも聞かずにはいられなかったんだろう。注射器を手にしたオッサンを見ると、彼女は不安げな眼差(まなざ)しでオッサンに尋ねていた。

「……心配いらん。ただの鎮静剤(ちんせいざい)だ。」

彼女の声と目を受けてオッサンもまた、薄暗い『部屋』で起きた何かを思い出しているらしい。その顔色がわずかに(くも)った。

「だいぶ弱ってはいるが安静にさせておけば命を落とすことはないだろう。後遺症(こういしょう)もないはずだ。目が覚めてもしばらくはまともに動けんかもしれんがそれも(じき)に治る。目を覚ましたら呼んでくれ。精のつくものを用意しておく。」

「それって飯のことか?薬とかは要らねえのか?」

「要らん。その(とうげ)はすでに越えているからな。本人の回復力そのものが高いらしい。こんな場合、必要であっても薬が返って余計な邪魔をすることもある。」

最後に狼の顔色を確かめたオッサンは自信を持って言った。

「……ありがとう、ございます。」

「……まあ、半分はお前さんのお(かげ)でもあるわけだがな。」

オッサンは、伏し目がちな彼女の顔色を伺いながらそう言った。

 

 

俺たちがパンディットの介抱をし始めてしばらく、神妙(しんみょう)面持(おもも)ちの二人はやって来た。

「……博士、これはどういうことです?」

部屋に入ってきたのは俺が「一か八か」だと当てにしていた連中だった。扉の音に過敏(かびん)に反応するオッサンだが、現れた二人の姿を認めると小さく溜め息を()き、普段の表情に戻っていた。

「キサマらこそ何の用だ。何を()ぎつけてきたかは知らんが、ここにアレはないぞ。」

(けん)のある口調で追い返そうとするが、やって来た二人に応じる様子はない。むしろ、これから一悶着(ひともんちゃく)始めようという嫌な気配を背負って、やって来た。

 

「博士、ヂークベックはここにある。」

「……何?」

「無論、遺跡から掘り起こしてくれたのはそこの二人なんですがね。」

部屋に入ってきたのは鍛冶屋(かじや)のオールドマンとその相棒。そして二人が森の入り口からここまで決死の覚悟で運んできたものが(くだん)のロボット。黒服たちに「(にが)い過去」を植え付け、オッサンたちの切り札になるはずだった古代兵器。

その名を耳にしたオッサンの目がやにわに色めき立つ。

けれどもすぐに、重く暗い影がその「活力」を深く染め直してしまう。

「アンタらはあの黒服に会わなかったのか?」

気付けば俺はオッサンと同じように「歓迎」とは程遠い声色で尋ねていた。

 

俺にはまだ、この二人がハッキリとしたシロだという確信がない。黒服とグルになってオッサンを操っているんじゃないかという疑念(ぎねん)があった。何より、平然とここまで辿(たど)()いていることへの怪しさが俺の疑いに尾を引いていた。

あの目敏(めざと)い連中が、ネギを背負(しょ)って目の前にまでやって来ている二羽のカモを見逃しているはずがない。

「もちろん会ったさ。」

豹変(ひょうへん)した狼を目の前にした途端(とたん)、アッサリと引き上げていったことも気にかかる。

確かにあの瞬間は『狼』の独壇場(どくだんじょう)だったかもしれない。でも、それが長く続かないことはあの男も分かっていたはずなんだ。

「……それで?」

何か、理由があるはずだ。場合によっては――――

「……エルク、どうやら君は僕らを疑っているらしいが、それは誤解だ。僕らも奴らに見逃されたことに驚いているくらいだ。」

(なさ)け」を掛けられ、苛立(いらだ)っている。そんな顔だ。でも今、それを鵜呑みにする訳にはいかない。

「『どこで彼女が聞き耳を立てているか分からない。だから今回は見逃す。』そう言われたよ。」

奴らが警戒したのはリーザが操る『狼』にではなく、自分たちも()()まれかねない彼女の『力』そのものってことか。

俺たちとのいざこざを想定してきているくらいだから俺ははまた、シャンテのように予防線を張ってきているものだと思っていた。

それとも、それすら上回ってしまうくらい、彼女の『力』が成長してしまったってことなのか?

 

疑いの眼差しを向けてくる俺に用なんかなく、オールドマンはもう一人の悩める男との対話を再開した。

「さあ博士、約束です。ヂークを直してください。」

「……そんなものは知らん。」

「それはどういう意味ですか。博士。」

「ワシは、ワシらは、たまたまこの島に流れ着いただけの人間だ。組織だ何だのとは一切関係ない。」

オッサンはスッカリ連中に飲まれていた。けれどもオールドマンたちもその返答は予想していたらしい。(まゆ)をピクリとも動かさず、下拵(したごしら)えの済ませた言葉でオッサンを詰問(きつもん)しにかかる。

「博士、何度も言うようですが、アナタに選ぶ権利なんかありません。アナタが今していることは慈善活動やボランティアなんかじゃないんだ。……(つぐな)いだ。僕らへの……、死んでいった者への……、アナタが手を掛けた者たち全てへの。」

「……ワシには関――――。」

「アナタはッ!!……アナタには我々への、それこそ返すことができない大きな貸しがあるはずだ。」

どうやらオッサンたちのこの島への移住を手助けをしたのはこの二人らしい。もっと言えば、この二人が所属している対黒服の組織が、黒服たちの中で苦悶(くもん)するオッサンを見つけ出したんだ。

「頼む。リアを、これ以上巻き込まんでくれ。」

「なんて勝手な言い草だ」、事情を知らない第三者の俺でも思わず口に出してしまいそうになる。だが、オールドマンの口からそんな言葉は出てこない。もっと、効果的な言葉を知っている。

「博士、()()()はいつだってアナタを()()にすることができるんです。お望みとあれば、今この瞬間からでも。」

その口調には、猟奇的(りょうきてき)な色が見え隠れしている。それはオールドマン生来(せいらい)本性(ほんしょう)じゃない。オールドマンを取り巻く世界が彼に植え付けた悪夢の種。水をやり続けてきた黒い花なんだ。

「……それがアナタに植え付けられた我々の苦しみだ。」

それは、オッサンへの責め苦を(たの)しんでいたあの黒服の色に似ているように思えてならない。

 

「それってのは、そのロボットさえ直りゃあそれで解決なのか?」

思わず口を(はさ)んでしまっていた。あの場でできなかったことをここで帳消しになんてできないってことは分かってる。それでも俺は()()()まれていくオッサンを、これ以上見ていられなかったんだ。

「君には関係ない……とまでは言えない。だけど、ここから先は君の領分じゃないんだ。わきまえてくれないか?」

どんどん、どんどん、オールドマンの目つきが重く怪しくなっていく。これまで溜め込んできた鬱憤(うっぷん)()(ぐち)を探すように。

立場が変われば、オッサンも同じような目をしていたのかもしれない。だからこそ余計に俺はオッサンとオールドマンの会話を邪魔したくなってしまう。

「それに、言ってみれば被害者は僕らなんだ。僕らだけじゃない。君も、隣の()も。……君にならこの言葉の意味が分かるだろう?」

「最後の譲歩(じょうほ)」といった言い方だ。どっちに()くかでオールドマンは俺たちの立ち位置を見極めるつもりでいる。「被害者」なのか。「加害者」なのか。

「そりゃあ、こんだけ情報(ざいりょう)(そろ)ってりゃ薄々は勘付いてたさ。ただ俺も、オッサンはともかく、なるべくならリアは巻き込みたくねえんだよ――――」

 

バンッ!!

 

オールドマンは力任せに壁を殴り、歯を食い縛っていた。どうやら俺は間違えてしまったらしい。オールドマンの目が途端に、鬼のようにギラつき始めた。

「言っておくが僕は、それが一番、許せない。」

なおも顔を紅潮(こうちょう)させるオールドマンの背後では終始口を(つぐ)むスキンヘッドが、まるでロボットか何かのように冷ややかに事の()()きを見守っている。この状況でこの態度を(つらぬ)けるこの男も、違った意味の怪しさを(はら)んでいる。

「そもそもは僕が悪いんだ。……つい、気紛(きまぐ)れでその子も一緒に連れてきてしまった。けれど、今となってみればどうしてそんなことをしてしまったのか()やまない日はない。」

それこそが、答えなのだとオールドマンは気付いていない。認めない。

 

ドンッ!!

 

今度は背後から、(ふく)()がる男の怒りを真似(まね)るように轟音(ごうおん)が部屋の中を駆け抜けた。

一瞬早く察知(さっち)することができた俺は咄嗟(とっさ)に、その「矛先(ほこさき)」に立つ男を押し倒した。

 

場は静まり返り、俺と俺に押し倒された鍛冶屋は音のした方を見遣(みや)る。そこには、黒服の置き去りにしたドーベルマンを(にぎ)()め、オールドマンとは別の意味で怒りを(あら)わにしている男がいた。

「武器なんぞ、何処(どこ)からでも手に入るだろう。技術者なんぞ、他にいくらでもおるだろう。何故(なぜ)……、ワシらなんだ。」

「どうして自分が……」それはおそらく『悪夢』を見せられた者なら誰もが口にする言葉だ。

「……博士、アナタのその『力』は何のためにあると思っているんですか?」

持って生まれたしまったものからは(のが)れようがない。どんなに拒んだって、それは俺たち自身なんだ。『力』も『悪夢』も、俺たちを選んだんじゃない。『力』も『悪夢』も、元から俺たちの中にあったものなんだ。

黒服も、オールドマンも、ただその『命の仕組み』に従っているだけなんだ。

似合わない銃を握り締め、何の『力』もない言葉を並べるオッサンと、自分の役目をしっかりと理解し、少しも()るがないオールドマンを見て、俺は痛感(つうかん)した。

「それで僕らを殺したところで、いずれは誰かがアナタを迎えにくる。アナタを放ってはおかない。()()()()()()()()()()。」

だから同じ『悪夢』が繰り返し、俺たちの前に現れるんだ。黒服。オールドマン。そんなことは関係ない。

「同じ『力』なら、悪魔を滅ぼす方に使うべきだ。奴らが再びアナタの前に現れ、奪おうとする前に。」

そして、俺たちは誰からも『悪夢』に打ち勝つ(すべ)を習うことはできない。そんな必要がないから。

それは『俺たち自身』だから。

奴らは、それが「人生」だと微笑(ほほえ)むだけなんだ。

 

「……(あきら)めろ。奴らには(かな)わん。」

「そんなことはない。そのためのヂークだ。」

「それも、無駄だ。」

オッサンは黒服に(さと)されたロボットたちの末路(まつろ)を話した。

「博士はそれを()に受けたんですか?」

「お前たちは知らんのだ。あの施設(しせつ)で動いていたロボットたちの性能を。殺戮(さつりく)()け、知能も高い。それが何百体いたと思う?」

「そっちじゃない。ヂークは一体で奴らを圧倒するんだ。それだけの技術がアレには詰まっている。」

確かに、もしもあの『閃光』が通常火器だったなら相当(そうとう)の兵力にはなるだろう。上手く利用すれば一個軍隊を易々(やすやす)壊滅(かいめつ)できるかもしれない。

「それも、誰とも知れんジジイが(まこと)しやかに吹聴(ふいちょう)していたというだけのことだろうに。それに、それを直すのは結局は現代の技術。かつての『力』がそのまま(よみがえ)るわけじゃない。」

それにそれはあくまで対人の、「一般人」が相手だった場合だ。

「もっともな話だ。僕らはその老人のことをよくは知らない。現代の技術がどこまでヂークを復元できるのか分かっていない。だけど抵抗勢力(レジスタンス)は彼の話を信じている。そして、それに適任だと判断されたのがアナタだ。博士。」

段々と……、というかそれはもはや――――

「お前はその話を自分でしていて何とも思わんのか?」

「分かりますとも。『利用されている』と言いたいのでしょう?」

そうだ。組織の全容(ぜんよう)を知る機会の少ない末端(まったん)。特に、(かたよ)った思想に執着(しゅうちゃく)する人間ってのは往々(おうおう)にしてそういう(こま)として利用されやすい。

「僕もそれを考えたことはあった。でも、レジスタンスは間違いなく奴らの被害者で組織されている。博士だったら分かるはずだ。奴らの犠牲になった者たちの復讐(ふくしゅう)は本物だと。」

「……今のワシを見ても同じことが言えるか?」

男は愛する孫を駆け引きの道具に使われることに疲弊(ひへい)し、同志ともいえる男に銃を突き付けていた。その姿には迷いがあった。「寝返るべきか」、「貫くべきか」、「リタイアするべきか」。

しかし、男の目にはどこを見渡しても「幸せ」を名乗る悪魔が手をこまねいているようにしか見えていない。

だからこそ迷っていた。手にした『銃』を向けるべきは、本当は誰なのかと。

「ええ。アナタも屈服(くっぷく)こそすれ、その根っ子では今も変わらない感情が()(たぎ)っているはずだ。」

迷いがないのは、より大きな『力』を目にしたことがないからだ。目の前でそれを振り回される恐ろしさを知らないからだ。

それがオッサンとオールドマンの、決定的な考え方の違い。

 

それでもなお銃を下ろさないオッサンにオールドマンは、自分への、いくらかの妥協(だきょう)を許すことにした。

一刻(いっこく)も早く、その「感情」が間違いでないことを証明するために。

「……分かりました。とにかく博士はヂークベックを直してください。その約束さえ果たしてもらえれば十分です。仲間には私から『博士は奴らの手にかかり、死亡した』と伝えておきます。」

キレ者だと思っていたオールドマンが素人じみたことを言い始めた。

「お前はレジスタンスの使いっぱしりだろう。誰がその言葉を信じる。」

だが、オールドマンはその言葉を待っていたかのように自信たっぷりに答える。

「どうして僕にこの任務(にんむ)がまかせれているか分かりませんか?」

 

 

 

二人はオッサンの返事を聞き届けると、「……頼みましたよ」と念を押し、帰っていった。

「まあ、オッサンの決めたことだし、意見するつもりじゃねえけどよ。アイツにそんな力はないと思うぜ?」

早速(さっそく)、運び込まれた木偶人形(でくにんぎょう)の修理に取り掛かるオッサンの健気(けなげ)な姿を見て、思わず野暮(やぼ)なことを言ってしまう。

「どうかな。今まで5年間、アレと付き合ってきたが確かに、不思議と(した)()とも思えん言動をする時があった。となると運が良ければ……、ここさえ乗り切れば案外(あんがい)となんとかなるのかもしれん。」

「マジで言ってんのか?」

「嘘でも本当でも、今のワシにはコイツを叩き起こしてやることしかできん。リアの食事を作ってやる以外にはな。」

疲れ切っているのか。多少の皮肉こそあるが、俺相手にこんなバカみたいな話題に素直に応えるオッサンが今は、ただの「気の良いジイさん」に見えた。

「俺にできることがあれば言ってくれよ」と心底言ってやりたい気分になる。

「お前も、早くあの()のところに戻ってやれ。ここじゃお前は役立たずだからな。」

「……ウルセェな。」

黒服とレジスタンス。嵐のような来客が消え、部屋の中が突然広く感じられた。

 

 

オッサンに背中を押され、俺は彼女のところに戻った。俺だってリーザの傍に居てやりたい気持ちはある。でも、今の彼女に俺は返って邪魔なんじゃないかとも思えてしまう。

掛ける言葉も分からない。

「……パンディットの様子は?」

「……」

振り返りもしない。狼の頭を(ひざ)に乗せ、(ひたい)()でながら唇を噛んでいる。

「死んでしまえばいいのに――――」

俺たちの考えることは本当によく似ていた。

ひどく、悲しい意味で。




※吹聴(ふいちょう)
言いふらすこと。広く言って回ること。

※レジスタンス
語源はフランス語の「résistance(抵抗)」。権力や侵略者に対する抵抗運動を言います。
組織や勢力のような集団を直接指す言葉ではありませんが、ゲーム内ではそのような意味で使われていたのでそのまま流用しようと思います。

※全容(ぜんよう)
全体のすがた。「全貌(ぜんぼう)」と同じ意味。この場合、組織の「企み事」や「性格」なんかも含めての意味です。
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