青髪の女に
天井には天使の輪のように
「待ち
その一番奥、屋敷の主人であるべき席にあの男は座っていた。
「まあ、座れよ。」
窓はない。出口は背後にある大扉一つ。
言われるままに扉に近い
「……人生ってのは不思議だよな。あんなヘドロみてえな薬や化け物みてえな機械に囲まれた地獄で息をしてたかと思いきや。こうやってテメエと
男の
そして、昨夜は月明かりがなく気付けなかったが、奴の全身に
その斑点を染めたであろう右手首から生えるもう一本の腕は、「返り血」以上に
「
「そう
話を長引かせてはいけない気がした。男のペースに合わせてしまえば、生きて帰れない気がした。
「んなモンねえよ。第一、テメエと気の合うヤツなんざゾンビかルンペンぐらいだろうぜ。」
「……エルクよぉ、『類は友を呼ぶ』ってえ言葉、知ってるか?」
不意に名前を呼ばれ、ドキリとさせられる。この男の口から見え隠れする「あの名前」が、俺を
ホームレスは俺の異変に気づいたらしく、
「おいおい、ヤセ
相も変わらず男の声にはビニールを
その上、男が
そのどれもが不快だった。
「……今さらなんだってんだよ。」
5年間。シュウに拾われてからの俺は必死になって『コイツら』を探し、
見知らぬ土地、見知らぬ人間をしらみつぶしに訪ねて回った。
その
けれど『炎』もまた、答えだけは俺に打ち明けることはなかった。
いつしか俺は、仕事と金だけが話し相手になっていた。
……
口では「助ける」なんて
もう……、手遅れだってことくらい。それなのに――――、
不快なノイズが俺の問い掛けにいたく反応した。口元を
「俺はただ、
……ミリル?
その名前には覚えがある。……どこかで会った気がする。
……だとすれば、それがあの子の名前なんだ。
「……だがまあ、今すぐにって訳じゃあねえ。物語ってのは流れが
ところが、さあこれからホームレスが
「いい加減にしな。こっちはクソガキどもの不幸
女の
「……
俺はてっきりホームレスの立場の方が上なんだと思っていた。
いいや、『力』関係で言えば間違いなくホームレスの方が上だ。それなのに、女はここでも自分本位な姿勢を崩そうとしない。
「ハッ、
「……俺がここで死ぬ?」
女の「断言」が
その「高み」から見下ろす女は、小汚ない男を
「なんだい、まさか勝つ気でいたのかい?ここにはアンタの味方なんか誰一人としていないんだよ?そんな中で、アンタごときの『力』で、この二人に勝てるとでも思ったのかい?」
女の言葉は少なからず俺を驚かせた。
「アタシらはもともと、そういうシナリオで動いてるのさ。」
黒服たちは始めからこの男を捨て駒にする気でいたのだ。
こっちもそれなりの
それでも、少なくとも俺は男の
それなのにこの女は、黒服たちは、俺たちの勝利を疑わない。
捨て駒にするほどの
……そうでないなら、俺たちには結末の
初めから疑ってはいた。
この
だが、女の発言で再びその存在を疑い始めると、
実際、それらが作る物の
それに、口では俺たちを
マヌケな結末を
「おいおい、そんなに必死になって何を探してるんだい?ここにオマエたちを守ってくれる
……その言葉のどこまでを信じて、どこからを疑うべきなんだろうか。
仮に、それが嘘でないとしたら、残されたシナリオは「人質」か「
生き延びるためにアレコレと疑っていると、リーザが俺の
俺たちの
「アタシの本当の仕事はね、そこの二人を『あの家』に連れていくことなんだよ。お前はその切っ掛け。ただの
女の言う「家」ってのはおそらく俺の『悪夢』の
「……そうか。どうりで……、色々と気前よくセッティングしてくれると思ったぜ。……だが、感謝はしてるぜ。何にしても俺にとってチャンスであることには変わりねえんだからな。」
ホームレスは完全に女の言葉を受け入れていた。受け入れた上でこの
それでもこの女は、死の
「だから、さっきから言ってるだろ?そんなことはどうでもいいってさ。『アンタらの顔は我慢ならない』、『早く殺し合え』ってさ。」
……コイツら、本当に仲間なのか?そう思わせるくらい、女の言葉は
「待てよ。なんでいちいちコイツをぶつけてくる必要があんだよ。そっちが教えてくれるってんなら、こんな茶番はこっちから願い下げだぜ。」
それにこの女さっきから、ホームレスの話しよりも俺に
もしもそうなんだとしたら、その話の「内容」こそが奴らの考えたクソみたいな
俺に、
「本当に、いちいちウルサイ奴だね。自分たちで始められないってんなら、アタシがリードしてやるよ。優しくな。」
女が
「感動の再会に水を差すのはお前の役目ではないはずだがね。」
講堂の
先頭に立つ男には片腕がない。加えて、この
俺のことを「兄弟」などと呼ぶ
「見ててイライラするんだよ。B級映画じゃあるまいし。クソガキどもの『お涙
相手はマフィアだ。たかが
片腕の男は求められる
「ジーンも言っているだろう。物事には流れが
「こんなの、いちいち回りくどいだけじゃないか。『力』が欲しけりゃ…、アンタらならもっとスマートなやり方なんていくらでもあるだろ?」
「……『そうして、美しい歌姫は最愛の家族を失うのでした。』」
そのたった一言が、俺やホームレスの『力』を前にしても
「止め……てよ。こんなの
女は知っていた。この男が冗談のように人を殺す人間だということを。
片腕の男は
「私は、シナリオも大事だが、ラストシーンこそが物語を
そして、それが男にとってお決まりの
「シャンテ、お前には誰も真似のできないヒロインを演じさせてやろう。」
……まるで同じ光景だ。血と汗で
「見ず知らずの少年たちの思い出を護るか。愛する家族の命を護るか。好きな方を選べ。」
「さあ、お前は今、この世で最も美しい
「私のために、
女は
俺にはその理由が俺には分からなかった。
今、この女にとって
……何かがこの女を
しかし当然ながら、この女が自分の本当の目的を見失うことはなかった。
「悪かったよ。……アタシもなんでそんなにムキになってたのか。好きにしなよ。」
手を上げ、ゴトリと自分の銃を手放すと――――、
「シャンテさん、危ないっ!!」
バンッッ
彼女の警告も
音もなく崩れ落ちる青髪の歌姫。
打ち抜いた鉛玉が講堂の空気を
その空気を
「不合格だよ。歌姫。」
男は、横たわる歌姫に
誰よりも生き残ることを信じて疑わなかった女が今、たった一人の悪ふざけに
虫けらのように。
「……お前ら、いったい何がしたいんだよ。」
ソイツは、俺にとってもいけ好かない女だった。だが、目の前で頭を打ち抜かれ、それで気分が晴れるなんてことにはならなかった。それどころか……。
「話の腰を折ってすまないね。どうやらシャンテは君たちの歪んでいく友情を見ていられなかったらしい。」
「……友情?」
どうやら今度は俺たちが「
館の主人であるホームレスが黒服の寸劇に水を差した。
「いい加減にしろよ。それは俺の役目なんじゃねえのかよ?どいつもこいつも、人が気持ちよく話してる横から茶々ばかり入れやがって。」
「……これは失礼。」
すると、黒服たちはホームレスの言われるまま、横たわるシャンテを
「……とは言ってみたものの、なんだかだいぶシラケちまったな。」
ホームレスは
「
いつの間にか、俺はホームレスの目に恐怖を感じなくなっていた。代わりに込み上げてくるものが俺の目を埋め尽くしていくのが分かった。
「クハハハッ、なに
男のノイズが、俺の胸をさらに
「……ただただムナクソ悪ぃんだよ。テメエらと同じ空気を吸ってると思うとな。」
バキンッ
突然、卓上の燭台が数本、真っ二つに
ホームレスの『右腕』は一瞬たりとも動いていない。
つまり、俺の『炎』と同じくコイツの『真っ二つ』は能力者本人に直接働きかけるような『力』じゃねえってことだ。
それでも正体はまだハッキリとしちゃいない。その威力も。
もしかすると、そう見せかけているだけのハッタリで、俺の警戒心を
不思議と、負ける気がしなかった。ここでこの男を殺してしまっても、
彼女に袖を引かれればこの気持ちは
そう思えた。
俺の安い
「……エルク、知ってたか?なにも、記憶を
殺気を帯びたままの『物語』は不気味に俺の心に
思い出せない。でも、知っている。
「……笑える話だよな。テメエは俺たちのことを何とも思っちゃいねえってのによ。」
思い出せない。でも、知っている。
俺も、ジーンも、『物語』を
……そういう『運命』なんだ。
※長テーブル
名称が合ってるかどうか疑問ですが、昔の西洋貴族の屋敷や王室などで見かける長方形の長ーい食卓のことです。
※葬送(そうそう)
ご遺体をお墓まで運ぶ儀式のこと。関係者が付き従い、行列になることを葬列と言います。
※御託(ごたく)
手前勝手なことを、もったいつけて言うこと。偉そうに語ること。また、その言葉。
※ルンペン
浮浪者、乞食、失業者。つまり、ホームレスのこと。
「布切れ」や「ボロ服」を意味する『Lumpen』というドイツ語が由来。
※遮二無二(しゃにむに)
他のことを考えず、一心にすること。無闇やたらに。がむしゃらに。デタラメに。
※揚々(ようよう)
得意げで威勢のよい様子。Sネ夫の自慢話にジャイAンの暴力を足した感じ。
※プリマ
バレエにおいてはプリマ・バレリーナ(prima ballerina)というバレエ団におけるダンサーの最高位。
オペラにおいてはプリマ・ドンナ(prima donna)という主役の女性歌手を意味します。
※ジーンの右腕
ゲームでは登場の際に、必要に応じて刃物が生えるというような演出していましたが(X○ンのウ○ヴァリンみたいな)、本作では出し入れはできないことにしようと思います。
でも、強化骨格(やっぱチタン?)くらいはあることにしないと刃物振り回した時に骨がイッちゃうかも。
さらに、彼の体格に対し刃物が大きすぎたため、体勢がどうしても刃物の方に持っていかれ、常に先端を引き摺る形になってしまいます。そのため、刃の先端は削れてしまっています。