その男、八幡につき。   作:Ciels

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 昔、友達がいた。

あれは友達という定義に当てはまるのかは分からないが、とにかく友達と呼べるような事を二人でしていた事をよく覚えている。

幼稚園に入る前の事だ。そいつはどこからともなく現れて、一人公園で遊ぶ俺に声をかけてきたのだ。

 

 

「一緒に遊ぼうよ」

 

 

何の変哲もない、誘いの言葉。

当時からコミュ力の無さでボッチと化していた俺は嬉しかった。

一緒に砂場で遊び、鬼ごっこをする。

たまに他のガキと喧嘩して、一緒にたんこぶを作る。

昼間に現れては夕方に消えるそいつを、俺は兄貴と呼んでいた。

名前は知らなかった。教えてくれと頼んだら、兄貴って呼べと言われたのだ。

 

幼稚園に入って、しばらく兄貴とは会わなかった。

いつも彼と遊んでいた時間は幼稚園で費やしてしまっていたせいだ。

 

幼稚園に上がって何が辛かったかというと、友達と遊べなかった事だろう。

元々ボッチだった俺に、新しく友達を作れと言うのが酷だ。

 

入園から一年が経った頃。

 

 

兄貴が、いつの間にか入園していた。

変わらぬ不機嫌そうで不気味な笑顔で、おう久しぶり、とだけ彼は言った。

 

 

それからの幼稚園生活は一変した。

兄貴と一緒にちょっとだけ過激な遊びをしていたせいで、幼稚園一の問題児と化した。

 

落とし穴、花火で戦争ごっこ、その他色々。

今考えて見ても、あれは中々に過激だった。

でも、彼とは幼稚園以来会っていない。

 

どうしても、彼の顔や、最後の言葉が思い出せない。

 

 

 

 

 

 

 

 「兄貴、来ましたぜ」

 

 

 不意に、材木座の声が耳に響く。

俺が無表情で材木座の顔を見る。するとこいつはちょっとだけビクついた様子で言った。

 

 

「なんすか」

 

 

なんでも、とだけ言って周囲を見渡した。

ゲームセンター。放課後は学生でごった返すこの場所は、ただでさえうるさい機械音とガキ特有の甲高い笑い声が加わって頭が痛くなる。

そもそも俺はゲーセンよりも家で据え置きのゲームやってる方が性に合っている。

 

ではなぜこんなところにいるのか。

それはやはり、葉山三人衆の調査に他ならない。

 

由比ヶ浜が聞きだすことに失敗したせいで、俺まで動かなきゃならない羽目になったのだ。

 

 

「……兄貴?」

 

 

「なんだよ」

 

 

恐る恐る尋ねてくる材木座に言葉を返す。

 

 

「いやぁ、なんかボーっとしてるなって思って……どうしたんすか?」

 

 

「なんでもねぇよ馬鹿野郎。戸部は来たのかよ」

 

 

最初の調査対象は、稲毛のヤンキーと言われていた戸部。

材木座は謝りつつ肯定すると、周りにばれないように指を差す。

そっちを見てみると、いかにもヤンキーらしい格好の男が真剣にUFOキャッチャーに挑んでいた。

 

別にそれ自体は何の変哲もない光景だが、一つだけ違和感がある。

それは、戸部の周りに小学生の集団がいることだ。

 

 

「あの野郎偉そうにしときながらロリコンなのかよ畜生」

 

 

材木座が羨ましそうに呟く。

だが、俺にはどうにもあの戸部がロリコンには見えなかった。

あれはむしろ、気の良い近所の兄ちゃんだろう。

 

 

「ロリコンはお前じゃねぇかよ」

 

 

「えぇ?違いますよ、ロリも行けるってだけで」

 

 

「気持ち悪ぃなぁお前、ちょっとは隠せよ」

 

 

 


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