その後、やたらプロポーション抜群の水着装備平塚静にいらない事を言って拳を貰ったり、これまたモデル体型の三浦が小学生並の胸を持つ雪ノ下に喧嘩を吹っかけたりと色々イベントがあったが、今俺は水着を持ってきていないこともあって木の陰で休んでいる。
無邪気に遊んでいる女たちを見てすっげぇ揺れてるなぁ~とか雪ノ下を見て全然揺れてねぇなぁ~、とか考える。材木座の野郎の腹が凄いことになっているのは見ないでおこう。
水着以前に俺がああいう中に入っていくのは柄じゃないし、そもそも比企谷 八幡は友達の輪に入って遊ぶという事などほぼ経験がないからどうしていいかわからない。
他の記憶を読み解けば多少なりともフィードバックできるだろう。しかしいかんせん
簡単に言えば、頭が疲れる。とんでもなく長い映画を延々と見せられているような感覚に陥るのだ。
以前大友の記憶から水野のクッキーの下りを語ったことがあったが、あれは過去に興味本位で大友の記憶を覗いたからだ。
それに、記憶は覗けてもそいつらの感情は得られない。
得られないのにそれに影響されているというのはおかしい話かもしれないが、そういうことは脳科学の先生に聞いてほしい。
「……なんでお前まで居んだよ」
ふと、隣りで同じように涼んでいる留美に言う。
彼女はこちらを見もせずに反論した。
「こっちの台詞」
「俺はお前、水着持って来てねぇからだよ」
「パンフレットの持ち物のとこに書いてあったじゃん」
「知らねぇよんなもん、騙されて連れてこられたんだからよ」
小町の奴め、一回お兄ちゃんに対する扱いをしっかりと教えてやった方がいいのだろうか。うーん、でもそれで嫌われたくないしなぁ。
相変わらずのシスコンぶりを心の中で展開する。
「……朝ご飯食べて部屋戻ったら皆いなかった。今日自由行動だから、置いてかれちゃった」
思わず可哀想だなぁなんて思うが、俺も小学校の宿泊学習で同じ目に遭った。
しばらくそのまま何も言わず、お互い同学年が遊ぶ姿を眺める。
やることがないので煙草を吸いそうになるが、平塚がいる事を忘れていた。
出しかけていた煙草の箱をポケットに戻す。
ふと留美を見るが、相変わらずじっと同級生たちを眺めているだけだ。
と、そんな時だった。
「鶴見さんだよね?一緒に遊ぼう?」
何とは言わないがブルンブルン揺らしながら由比ヶ浜と雪ノ下がやって来たのだ。
雪ノ下は揺らすものがないとはあえて言わない。
戸部と遊ぶのに夢中になっていた材木座もやって来る。いいよお前は来なくてもう~。
だが留美は、首を横に振るだけ。
そっか、と悲しそうに頷く由比ヶ浜が見るに見かねないので、助け船を出すことにした。
「おい、お前あの質問こいつらに聞いてみろよ」
「え?」
「あれだよ、小学校の時の友達いるかってヤツ。……もう言っちゃったな」
意図せず留美の質問を代弁すると、
「いないっすよそんなもん」
「お前に聞いてねぇよ馬鹿野郎、そんなん分かってんだろ!」
「ちょっと、酷いっすよ兄貴~」
材木座がでしゃばって来たので黙らせる。
なんでこいつが来て彩加は来ねぇんだよ~。楽しそうにガキと遊んじゃってまぁ、可愛いなぁったくよぉ。
「おじさんもいないって言ってたよ」
留美が由比ヶ浜に告げる。
俺がおじさんと言われたことがちょっとツボだったのか、雪ノ下が笑いを堪えている。
この野郎、ツルペタ雪女め。
「でも、なかなかいないよ。実際さ。みんな中学に上がると離れてっちゃうし」
材木座が俺と留美をフォローする様に言う。
「そうね。私もいないもの」
「見りゃわかる事言わなくていいよ馬鹿野郎」
反撃と言わんばかりに雪ノ下の言葉に噛みつく。
ギンッと鋭い眼差しを向けてきたが、俺には効果が無いようだ……
これではマズいと思ったのか、由比ヶ浜が慌てたように、
「えっとね、この人たちがちょっとおかしいだけだよ?」
「おかしいのはお前の料理もじゃねぇか」
「ヒッキーマジうるさいし!そんなの言わなくていいよ!バカ!」
苦手な料理の事を言われて怒る由比ヶ浜。
しっかし一々動くたびに胸が連動するから息子さん黙ってないよ。
てめぇ材木座何ガン見してんだ馬鹿野郎。
俺はそんな由比ヶ浜を笑いながら、質問した。
「じゃあお前小学校の同級生で今でも会う奴いんのかよ」
「うぇ?一人か二人かな……?」
「学年何人だ、30人か?」
「うん、30人3クラスだよ」
「全然会う奴いねぇじゃねぇかよ。ほらな留美、こういう空気読める系八方美人でもそんなもんなんだよ」
なぜか八方美人と言われて喜んでいる由比ヶ浜と、それに突っ込む雪ノ下。
いいコンビだなお前ら。
「普通の奴ならもっといねぇよ。一人いりゃあいい方だから。いなくてもいいんだもん」
説得する様に説明する。
しかし、留美は納得していない様子だ。
「でも、お母さんは納得しない。いつも友達いっぱいいるかって言うし、林間学校も友達と写真撮ってきなさいって、これ渡してきたし」
留美は手にしたデジカメを強く握る。
「惨めだよね、私。でも、もうどうしようもないよ」
雪ノ下が何故と問えば、昨日俺に話してくれたことを言う。
あの、友達を見捨てたという話だった。
「仮に仲良く出来ても、またいつこうなるか分かんないもん。なら、このままで良いって」
「……」
ため息まじりに小学生たちを見る。
あまりにも惨いと思う。この歳で、こんな事を言うなんて。
自分が変わっても周りは変わらない。ただいつも通りに事が進む。
それを、彼女は知ってしまった。
だから変わっても意味がない。
意味がないのだ、それは。
どんなに昔気質のヤクザを演じていても、周りはそうとは限らない。
いかに犯罪を追及しようとも、厄介ごとを嫌う連中はいる。
人は変わらない。
そう簡単には。
彼女はまるでボッチが役割と言わんばかりの状況に置かれている。
ならばどうすればいいのか。現状を打破するには。
「……馬鹿野郎、子供はそんな事気にしなくていいんだよ」
笑って、留美の頭を撫でる。
「……おじさん?」
首を傾げる留美。
俺は、
「なら一緒に壊しちゃおっか」
悪い大人の提案を持ちかけた。
更新が進まない……