その男、八幡につき。   作:Ciels

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 タイトルは適当なうえに使いまわします。
誤字報告ありがとうございます。

息抜きで書いているので、一時的にこっちを優先します。
Falloutはチョットマッテ


全員、奉仕部

 

 

 

 由比ヶ浜 結衣という少女は、空気を読むのがうまい。

その場に溶け込み、無難な事を言い、争う事もなくやり過ごす。

例えば強気な友達とも、弱気な友達とも、うまい具合に付き合いを保てるのだ。

しかしそれは長所とも短所ともとれる部分であり、諸刃の剣でもあることに、彼女は薄々気が付いていた。

 

目の前にいる一見すると根暗ともチンピラともとれる男と、それとは正反対な完璧少女の言葉は、彼女の心に何かときめくものを感じさせた。

少女の言葉には刺があるが、すべてが正論で反論の余地を残さない。

一方で男の言葉は荒々しくてやや知性に欠けるように聞こえるが、どれもしっくりと来るもので説得力があった。

 

空気を読む彼女としては、つるむには完璧な少女の方が好都合だろう。

でも、本心としてはその不機嫌そうな男の方に惹かれる何かがあった。

 

 

 

 由比ヶ浜は何回もクッキーを作った。

どれもおおよそ完成とは言い難いもので、雪ノ下はとうとう疲れを露わにする。

俺は最後に出来上がったクッキーを手に取って、その形をまじまじと見る。

相変わらずウンコみたいだが、最初のものよりはマシにはなっていた。

 

 

「どうして失敗するのかしら……」

 

 

雪ノ下が呟く。

このままじゃ良いものが出来るころには日が暮れてしまう。

そうなると帰るのが遅くなるわけだから、なんとか避けたい。

記憶の四人には、お節介焼きはいない。本来の比企谷 八幡も、そんな性格ではなかった。

それでも今は、頑張ったアホな少女の為に一肌脱いでやろうと思ってしまったのだ。

 

 

「おいお前ら、ちょっと外してくれ」

 

 

立ち上がりながらそう言うと、彼女たちは首をかしげた。

 

 

「なぜかしら比企谷君?」

 

 

柄にもなく予備のエプロンを制服の上から着る。

 

 

「俺がうまいもん作ってやっからよ、へへ。期待しとけよ」

 

 

「え、ヒッキーキモイ!」

 

 

「うるせぇなぁ、いいから早く出てけ!ほら!出てけっつーんだよ!」

 

 

半ば無理矢理彼女達を家庭科室から追い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分して、クッキーが出来た事を外に居た彼女たちに伝える。

怪訝な顔をしている雪ノ下が何かぶつくさ言っていたが、どうでも良かったので無視した。

 

家庭科室に入り、トレーの上に乗っているクッキーを見せる。

そこに乗っているクッキーは、あまりきれいな形とは言えない。

所々に焼いたのちに包丁で無理矢理形を整えたような跡があるし、焼きすぎにも見える。

 

 

「ほら、食ってみろ」

 

 

そう促すと、二人の少女は恐る恐るそのクッキーを口に含む。

続けざまに、顔があからさまな難色を示した。

 

 

「なんか、あんまり美味しくないね」

 

 

「……これがあなたの言う美味いものなのかしら?」

 

 

そう言われ、俺もあからさまにしょげたような顔をして見せる。

そしてクッキーが乗ったトレーを手にすると、その場から立ち去ろうとした。

 

 

「そっか、悪かったな。捨ててくるわ」

 

 

「え、ちょっとヒッキー!?……えっと、食べられないこともないよ?」

 

 

精いっぱい由比ヶ浜がフォローに入る。

雪ノ下も慰めの言葉の一つぐらいあってもいいが、彼女と俺の関係を考えると言えないのだろう。

 

俺はすかさず立ち止まり、いつものニヤケ面で言って見せた。

 

 

「お前のクッキーだからまずいのは当たり前だろうが、へへ」

 

 

「はぁ!?なにそれ!?」

 

 

「へっへへへっへ、びっくりしたろ」

 

 

「どういうことかしら、比企谷君?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大友の記憶の中に、おかしなものがある。

それは、大友の右腕で武闘派のヤクザでもある水野についての記憶だ。

ある日、大友組の面子が事務所の近くのクラブへ行ったときの事。

珍しく水野が気にかけていた女がいた。

 

一緒にいる時は大友について離れない水野だが、この時ばかりは大友の許しを得て女と酒を楽しんでいた。

 

 

「あいつが親分から離れて女と飲むなんて珍しいですね」

 

 

水野の兄弟である安倍が、冷やかすように言う。

 

 

「たまにはいいんじゃねぇのか?へへへ、あいつ遊んでばっかだしよ」

 

 

久しぶりに面白いものを見た大友も、同じように楽しむ。

石原だけは何か別の事を考えていたような気もしたが。

 

 

数日して、水野が嬉しそうに何かを事務所に持ち帰って来た。

どうやら女から手作りのチョコを貰ったらしい。

その時だけはやたら気前のよかった水野はそのチョコを、舎弟の組員にも食わせたのだが……そこで問題が起きた。

 

 

「どうだ美味いだろう、あ?へっへへへへへ」

 

 

ソファーに深く腰かけ、チョコを頬張る武闘派ヤクザ。

そんなあり得ない光景に内心笑いつつも、大友もチョコを一口食べる。

が、それが異様にまずかった。

苦いとか、そういうのではない。作り方を間違えているレベルでまずいのだ。

 

あんまり何か文句を言うと、水野が不機嫌になるから大友は黙っていた。

他の組員も顔をしかめて何も言わなかったのだが……彼の兄弟で舎弟、そして大友組の金庫番であった石原が、空気を読まずに言ってしまった。

 

 

「犬の餌みたいな味してますね」

 

 

大友は笑ってしまった。

一番言ってはいけない事を言った事に加え、それを言ったのが舎弟と来たら。

 

 

「あ?石原、まずいか?ん?」

 

 

チラッと、こちらを一瞬見たのちにそんな事を水野が言いだした。

そして、

 

 

「テメェ誰に向かって言ってんだコラァッ!!!!!!えぇ!!!???石原ぁあああああ!!!!!!」

 

 

ブチ切れて石原をボコボコにしていく。

周りの組員は水野を止めにかかったが、大友だけはただ笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……男ってのはよ、単純でさ、女の子から手作りのなんか貰うと、調子ん乗っちゃうんだよ」

 

 

水野の話をして、こう締めくくる。

すると雪ノ下と由比ヶ浜はちょっと引いた様子でこちらを見ていた。

 

 

「……比企谷君、それはあなたの体験談ではないわよね?」

 

 

「知り合いだよ、知り合い」

 

 

「ヒッキーの知り合いって……その、ヤクザなの?」

 

 

「うーん、どうかな」

 

 

適当にはぐらかす。

例として水野の話を持ってきたのはちょっとあれだったが、由比ヶ浜は納得したようだった。

……気持ちこもってても、犬の餌食う気にはならねぇなぁ。

 




会話文多めです

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