Q.バカはあっち、テストはこっち。では、召喚獣はどっち? 作:黒猫ノ月
連日投稿だぜぃ!
では、投稿です。
僕らFクラスメンバーは、さっきまで清涼祭の準備をサボって野球をしていたんだけど、そこを鉄人が強襲してきた。
僕は鬼から逃げるときに、携帯でこの野球に参加してなかった伊御と榊、真宵さんにいつものプランで逃げ切るためにメールを送ったんだけど……ポイントには誰もいなかった。そのことに絶望する僕と雄二はそこで鉄人に捕まり、激しい折檻を受けることになった。鉄人め! 僕らが卒業する時は覚えてろ!
僕と雄二は、ポイントに誰も居なかったのは有志の出店の準備で忙しくて気付かなかっただけだろうと考えて、折檻を終えた僕らは教室へと帰った。そして教室のドアを開けた瞬間、僕の側頭部を襲ってきたのは美波のシャイニングウィザードだった!
「ブラァッ!?」(ドゴンッ!!
「ふんっ」
完全な不意打ちを喰らい、僕の頭の右側半分が黒板に埋まった。そんな僕の左の視界では満足そうに席(みかん箱)に戻る美波が見えた。……僕、今日何かしたっけ?
少しブルーになる僕だったけど、何よりも心にキタのは、その後それを当然の報いだという目で見て頷く伊御達だった。あの様子だと、僕らへの救援も気付いた上で無視したみたいだ。……あの伊御にさえ見捨てられたんだ、僕。……ははは。どうやら僕は知らぬ間に外道に堕ちたみたいだ。ははははは…………死のう。
「あ、ああ明久君!? 何をしているのですかぁっ!?」
「吉井君っ! 早まらないでくださいっ」
僕が埋まった頭を思い切り抜き出し、血みどろのまま窓から飛び降りようとしたところで、姫路さんと春野さんが慌てて止めに入った。止めないで! こんな僕、死んだ方が美波の為、伊御の為なんだから!
それでも死のうとする僕を、流石に焦った伊御や美波までもが止めに入ったので、一応ここで死ぬことは諦めた。後でひっそり死のうと考える僕に、真宵さんが耳元で色々教えてくれた。どうやら僕のメールや鉄人との騒ぎが原因で、美波の悩み事を聞けなかったらしい。なるほど、それは伊御や美波が怒るわけだよ。って美波、悩みがあるの?
「これから清涼祭の出し物を決める。とりあえず実行委員を適当に決めてくれ。そいつに全権を委ねるから、あとは任せた」
場が収まり、ようやっと雄二が清涼祭の進行を気怠げに始めた。雄二は自分の興味が無いものにはとことん冷めてるからね。それからも誰を実行委員にするか話し合っていたけど、自分は我関せずと寝てるし。結局、実行委員は僕と美波になった。
そんな寝ている雄二を見て、何か寂しいと言う姫路さん。僕もあまりやる気はないんだけど、そんな僕と姫路さんは清涼祭で思い出を作りたいと言ってくれた。それに少し嬉しくなって、「僕もだよ」って言おうとした時、姫路さんがタチの悪そうな咳をしだした。
試召戦争に負けてさらに設備が悪化したFクラスの環境は彼女には毒だ。一応、真宵さんが女子を優先して色々清潔になるよう補強してくれてはいるけど……正直、焼け石に水だと思う。……なんとか、しないとな。
そんなこんなで今現在。僕が板書を担当して、美波の進行の元、クラスの出し物がある程度決まったわけだけど……。
〈候補① 写真館『秘密の覗き部屋』〉
〈候補② ウェデイング喫茶『人生の墓場』〉
〈候補③ 中華喫茶『ヨーロピアン』〉
「……補習の時間を倍にした方が良さそうだな」
後から教室に入ってきた鉄人が、頭を押さえて溜息をついた。しまった! 僕らが馬鹿だと思われている!
「せ、先生! それは違うんです!」
「そうです! それは吉井が勝手に描いたんです!」
「ワタシ達が馬鹿なわけじゃないんじゃよ!」
「貴様ら! 僕を売ったな!?」
「馬鹿者! みっともない言い訳をするな!」
鉄人の一喝に背筋を伸ばすFクラスの面々。流石は腐っても教師。僕を売ろうとしたクラスメイトを叱るなんて、少し見直したよ。
「俺は馬鹿な吉井を選んだこと自体が頭の悪い行動だと言ってるんだ!」
同級生なら釘バットでシバいてるところだ。見直した僕の気持ちを利子つけて返して欲しい。
「全くお前達は……。少しは音無達を見習ったらどうだ。彼らは出店で稼いだ金を、クラスの設備向上に当てると言ってるんだぞ。お前達にもそういう気持ちは無いのか?」
「えっ!? 伊御ホントなの?」
鉄人の言葉に、Fクラスが騒ついた。というかそんなこと出来るのっ!? 知らなかった……。
「ああ。俺達は別にお金が欲しいわけじゃ無いし」
「はひぃ。皆さんで何かをするのは楽しいですから」
「ワタシは欲しいんじゃけど……。まあ、設備向上に当てれるならそれが一番じゃしねー」
「そうね」
ほえー。色々考えてるんだなぁ。というか、それなら僕も誘って欲しかった……。……うん。それなら僕もやる気だそう。僕達も頑張れば、その分姫路さんに少しでもいい環境を整えることが出来るはずだ!
「み、皆さんっ! 頑張りましょう!」
僕が1人で意気込んでると、姫路さんが立ち上がって胸の前でグーを握ってやる気を見せていた。どうしたんだろう? 姫路さんが率先して動こうとするなんて、なんからしく無い気がする。僕が不思議そうに姫路さんを見ていたら、美波が僕に理由を教えてくれた。
「瑞希ってば、お父さんを見返すために頑張りたいんだって」
「見返す?」
話を聞けば、家でお父さんに『Fクラスなんていう馬鹿なクラスはお前にふさわしくない』とかなんと言われたらしい。それに姫路さんは『皆の事を何も知らないのに、Fクラスっていうだけで馬鹿にするなんて許せません!』と怒ったらしい。……姫路さん。その気持ちはすごく嬉しいんだけど、皆をよく知ってる僕から見ても一部を除いてFクラスは馬鹿の集まりだと思う。
それからしばらくして、そこそこ揉めたけど僕達は中華喫茶をすることになった。伊御達も手伝ってくれるみたいだ。ありがたい。
というわけで、まずは厨房班とホール班に別れることになった。厨房班の班長は須川君。副班長はムッツリーニだ。そしてホール班の班長は僕。副班長は伊御になった。伊御は出店でクレープを作るみたいだから、こっちではそのルックスと口説き文句で女性客を呼んでもらおう。……御庭さんの嫉妬は頑張って受け流して?
「それじゃ、私は厨房に……」
「ダメだ姫路さん! 君はホール班じゃないと!」
僕は厨房班に入ろうとした姫路さんを呼び止める。彼女を厨房に行かせるわけにはいかない! ……死人は避けなければ。
《明久さん! グッジョブじゃあ》
《うむ! ナイスブロックじゃの》
《…………!》(コクコク
《……明久。そろそろ話した方がいいんじゃないか?》
姫路さんの料理の破壊力を知る皆からのアイコンタクトに頷く。表情や言葉には出さない。姫路さんを傷つけるわけにはいかないんだ。……だから伊御、もう少しだけ待って。中々誘う機会がないんだよ……。
「え? 吉井君、どうして私はホールじゃないとダメなんですか?」
「あ、えーっと……。ほら! 姫路さんはかわいいから、ホールでお客さんに接してもらった方が利益がぁっ!? み、美波! 僕の側頭部を掴んで壁に押し付けようとしないで!?」
これ以上頭をめり込ませると、流石に僕の頭の形が変わっちゃう!
「か、可愛いだなんて……っ。よ、吉井君がそう言ってくれるなら、ホール“でも”頑張りますねっ♫」
出来ればホールだけで頑張って欲しい。
「アキ。ウチは厨房にしようかな〜」
「うん。適任だと思う」
「…………」
「それならワシも厨房にしようかの」
「はひ。私も厨房に行きます」
「2人共! 何を馬鹿な事を言ってるのさ。そんなに可愛いのに、厨房なんて勿体な「ふんっ!(ドゴンッ!!」…………」
僕の無事だった頭の左半分が黒板に沈んだ。
「ふえぇぇっ!?」
「……ウチもホールにするわ」
「美波さん。じゃからそういうところがじゃねぇ〜」
「な、何よ! うるさいわねっ!」
「…………」(気持ちが少しわかるツン猫
そうして、僕達の設備向上が掛かった清涼祭が僕が黒板にめり込んだ状態で幕を開けた。
「……明久。女の子にアレはないよ」(引っ張る
「…………僕、ちゃんと女の子に気を使ってるよ?」(抜けない
「……はあ」(助けるのをやめる
「ごめん伊御! 助けて下さい!」(懇願
●○●○●○●○●○
清涼祭に向けての話し合いも終わった放課後。僕達はまだ準備を焦る段階でもないので家に帰ろうとした時、美波に呼び止められた。
「ねぇ皆。ちょっといい?」
「どしたの美波?」
「……もしかして、さっき言いかけてた悩みかな?」
伊御の言葉にハッとする僕。そうだ。美波は何か悩みを抱えてるみたなんだよね。……さっきは本当にごめんなさい。
「うん、それとも関係するんだけど……。やっぱり坂本をなんとか清涼祭に引っ張り出せないかな?」
「雄二を? うーん、難しいだろうなぁ」
「そうじゃねぇ。雄二さんは興味がないことには驚くほど無関心じゃし」
「多分、クラスの出し物が何かも知らないわよ」
皆がそれぞれ言葉を発する。それは一様に無理だろうというものだった。
「でも、アキが頼めばきっと動いてくれるよね?」
なんだその期待の眼差しは。美波は僕に何を見ているんだい?
「いや、別に僕が頼んだところでアイツの返事は変わらないと思うけど」
「うぅん、そんなことない。きっとアキの頼みなら引き受けてくれるわ! だって……」
「そりゃあよくツルんではいるけど、だからと言って別に「だってアンタ達、愛し合ってるんでしょう?」僕もうお婿に行けないっ!」
どこをどう見たらそんなことになるんだ! 奴と愛し合ってるだと!? 想像しただけで吐き気……グップ。
「……明久」
「い、伊御。僕、これからどんな顔して歩けば……」
「今から霧島さんに謝りに行こうな」
「信じて伊御! 僕はまだ清いままだよ! 誰がゴミを巡る愛憎劇に参加するもんか!」
僕の良心が真顔で迫ってきた。……側から見たら僕と雄二はそう見えるのだろうか。甚だ遺憾である!
「それならまだ秀吉や伊御の方が断然いいよ!」
「あ、明久!?」
「……ふむ」
……あれ? なんか雰囲気がおかしいことになってない? あれっ!?
「そ、その。お主の気持ちは嬉しいが、そんなことを言われても、儂らには色々と障害があると思うのじゃ。えと……ほら、歳の差とか……の?」
秀吉! 顔を赤らめてモジモジしないで! 秀吉ならいいかなって思っちゃうから! それと僕達の間にある障害は決して歳の差ではないと思う!
「明久。気持ちはありがたいけど、俺は君のことを大切な友人として思ってるから……。ごめんね?」
伊御! かつてないほど優しい笑みを浮かべてマジに返してこないで! ……あれ!? 僕、知らない間に告白したことになってるの!? そしてフラれたのっ!?
「……フーッ!」(臨戦態勢
……落ち着くんだ御庭さん。僕は決して君の想い人を獲ろうとか、そんなことを考えてるわけじゃないから。その牙と爪をしまうんだ。
「それじゃ、坂本は動いてくれないってこと?」
「え!? ……あ、うん。そういうことになるかなっ」
僕は美波の声に慌てて答える。そうだ、今は美波の悩み事を……って伊御! 口元隠して笑ってるってことは、僕を弄ったな!
「なんとかできないの? このままじゃ喫茶店が失敗しちゃいそうで……」
美波が目を伏せて、顔をうつむかせている。その様子に僕も伊御も、そして皆も真剣な顔になる。
「美波。別に雄二がいなくても、伊御達がいるからなんとかなると思うよ?」
「でも音無達は出店もあるでしょう? やっぱり坂本に参加して欲しいのよ」
「……ふむ、島田さん。とりあえず君が悩んでることを話してくれないかな? そこを聞かないと、今はどうしようもないから」
「……うん。でも、絶対に内緒にしてね? 誰にも言わないでって言われたことだし、事情が事情だから……」
「ああ」
伊御の返事のあとに皆が頷く。それを確認した美波はゆっくりと息を吐いたあと、僕達に悩み事を話してくれた。
「実は瑞希のことなんだけどね? あの子……このままだと転校するかもしれないの」
「てっ……」
「「「「「転校っ!?」」」」」
姫路さんが転校? そんな馬鹿な。せっかく同じクラスになって、これから楽しい思い出をいっぱい作っていこうとしてたところなのに。まだ好きだって告白やキス、そのあとだって……。彼女が居なくなったら僕はどうなるんだ? 僕の心の清涼剤が1人消え、春野さんは美波に持っていかれる。僕の心を癒すものはなくなり、心がすり減って勉強が手につかなくなって退学。生きる気力もなくなり、僕が衰弱死しようとしたその時に、颯爽と現れた伊御。伊御は僕を叱責し、励ましてくれた。そのおかげで僕は生きる道を見つけることができた。そして僕は心の癒しはまだ無くなってないなかったことに気付いて、甲斐甲斐しく世話をしてくれた伊御が僕にとって何よりも特別な存在になって、そして……
「ありゃ? もしかして明久さん、処理落ち仕掛けてるん?」
「む、本当じゃ! おい明久! しっかりせい!」
「明久は不測の事態に弱いのか強いのかわからないね。……明久、しっかりしろ。明久」
僕を呼ぶのは誰だろう。……ああ、伊御か。
「伊御……。こんな僕でも、きっと幸せにするから。だから結婚してください」
「……明久〜。そのくだりはさっき終わったぞ〜」
「……どういう処理をしたら、瑞希の転校からこういう反応が得られるのかしら」
「ある意味、稀有な才能かもしれんのう」
「ほ〜らつみきさん。どうどう」
「つ、つみきさんっ。落ち着いてください!」
「………♯」(シャーっ!
……はっ!? いけない、ちょっとトんでた!
「み、美波! 姫路さんが転校ってどういうことさ!?」
僕は気を取り直して、美波に詰め寄る。……あれ? 御庭さん、なんで僕を威嚇してるの? そのくだりはさっき終わったよ?
「明久、落ち着け。……まあ、分からなくもないかな」
「伊御、どういこと?」
「明久。姫路さんの親御さんの立場になって考えるんだ」
「親御さんって……姫路さんのお父さんとお母さん?」
「そう。まずは今の勉学の環境だ。自分の娘は既に高いレベルにいるのに、周りの生徒の勉強レベルは底辺だ。そうなると、親御さんはどう思う?」
「親としてはもっと勉強を頑張って欲しいのに、これではダメだと思うわね」
御庭さんの答えに皆が頷く。
「次に今の設備だ。さっきも言ったけど、自分の娘は高いレベルの学力を持ってる。なのに設備はみかん箱に擦り切れたゴザだ。となると……」
「こんな不釣り合いな待遇、ふざけるな! ってなるわね」
美波の答えにまた皆が頷く。
「最後に、多分これが一番の問題だと思うんだけど……この劣悪な教室の環境だ。身体の弱い自分の娘を、こんな環境に1秒でも居させたいと思うかい?」
「「「「「思わない」」」」」
僕達は皆首を横に振った。
「と、いうわけだと思うんだけど……」
「さすが音無ね。全部正解よ」
伊御が話を締めると、美波がウンウンと頷いていた。……確かに改めて考えてみたらそうだ。こんな環境、普通の感性を持つ親なら絶対に大事な子供をいさせたくはない。
「なるほどにゃー。だから喫茶店を成功させて、設備を向上させたいんじゃね?」
「うん。瑞希も抵抗して、「召喚大会で優勝して両親にFクラスを見直してもらおう」って考えてるんだけど、やっぱり設備自体をどうにかしないと……」
「はうぅ。そうですよねぇ」
勉強もそうだけど、1番の問題は姫路さんの健康だ。それをなんとかしないと、姫路さんの親御さんは納得しないだろう。……やっぱり、雄二を焚きつけるしかないかなぁ。
「……ねぇ、アキ?」
「ん? 何、美波」
僕が雄二をどうにかできないかと考えてると、美波が僕を探るような目で見てきた。
「アキは、その……瑞希が転校したりとか、嫌だよね?」
美波は何を当たり前のことを聞いてるんだ!
「もちろん嫌に決まってるじゃないか! 姫路さんだけじゃない! 伊御や御庭さん、美波や秀吉。僕の大切な仲間なら誰であっても!」
家庭の事情ならともかく、こんなくだらない理由で転校なんて絶対にさせない!
「そっか。うん! アンタはそうだよね!」
美波は僕の言葉に嬉しそうに頷く。……ちなみにこれが雄二だったら、霧島さんのためにシャー無しで助けてやるかなってレベルだ。
「ふふっ。明久ならそう言うと思ったよ。……俺も、力になるよ」
「こんな別れ方、悲しいものね」
「はひ! そ、そんなことはさせません!」
「クラスメイトの転校と聞いては、儂も黙っておれん」
「なら、まずは雄二さんのケツを蹴り飛ばさなきゃじゃねっ☆」
ここにいる皆が、仲間の為にと立ち上がってくれる。僕はこの光景が無性に嬉しくなって、笑顔が溢れた。
「うん、やろう! 皆で! 姫路さんを転校させない為に!」
「「「「「おう!」」」」」
こうして、僕達の本当の清凉祭が幕を開けた。
【おまけ】
「…………」
「……伊御? どうしたの?」
「ん? いや、明久はやっぱり明久なんだなぁって思ってね」
「???」
「……ふふっ。つまりね」(ぽふっ
「うん」(ぴこぴこ
「底抜けに馬鹿で。何処までもひた向きで。そして、誰かが悲しんでいるのを見過ごせない。……小さな英雄だってことだよ」
「…………」
「……つみき?」
「…………伊御だって」
「?」
「……伊御だって、わ、私にとってのっ」
「…………」
「……私にとっての……だから……」
「? ごめんつみき、聞こえなかったんだけど……」
「……し、知らにゃいっ/////」(プイッ
如何でしたか?
明久も、伊御も……きっと君も。誰かにとっての小さな英雄なんだよ(知ったか乙
では!
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