Q.バカはあっち、テストはこっち。では、召喚獣はどっち? 作:黒猫ノ月
やばい、学園祭編めっちゃ長くなる予感!
では、投稿です。
僕達は姫路さんを転校させない為、まずはFクラスのブレインたる雄二にも力を貸してもらうよう行動を開始した。まず最初に、とりあえず僕が雄二に携帯で連絡を取ってみると……。
「クソッ! 見つかっちまった! 明久、俺の鞄を持って来い。頼んだぞっ!」
と言うだけ言って電話を切られた。……雄二は今何から逃げてるんだろう?
僕が雄二とのやりとりを皆に話すと、事情を知ってる秀吉と伊御から教えてもらった。どうやら、雄二は霧島さんから逃げ回ってるらしい。なんて贅沢で失礼な奴だ! 霧島さんのような魅力的な人、男なら逆に追い回すのが普通だ!
「それなら、今は雄二君と連絡を取るのは難しいですね」
どうしましょうか? と首を可愛らしく傾げる春野さん。うん、可愛い。……でも大丈夫だよ春野さん。
「……うん。これはチャンス、かな?」
「そうだね伊御。これは利用しない手はない」
「ほえ? どういうことです?」
「それはね、姫。今の状況を利用すれば、雄二を清凉祭に引っ張り出せるってことだよ」
伊御が春野さんの疑問に答えながら、僕の方に振り向いた。
「明久。俺が追い込むから、先回りしといて」
「え? 追い込むって? 今から霧島さんのことを利用して、雄二を脅すんじゃないの?」
「「「「「脅すって……」」」」」
僕の言葉に引き気味になる皆。え? 何を驚いてるの?
「まあ、間違いではないんだけど……。俺は霧島さんの味方だから、霧島さんの為になるようにもしたいんだ。雄二は素直じゃないからね」
「ふーん。それで、どうするの?」
「うん。こうするんだよ」
僕の疑問に答えながら、伊御は携帯を開いた。
「それじゃあ、ミッションスタートだ」
■□■□■□■□■□
「し、しつこいぞ翔子!」
「……雄二、逃さない」
「クッソ、捕まってたまるか!」(ダッ!
………………
…………
……
「はぁ、はぁ、はぁっ。ここなら翔子のやつも……」
「……雄二。いるのは分かってる」
「っ!? なんでバレたっ!? ……くっ!」(ダッ!
「……逃さない」
………………
…………
……
「……よし、ようやく巻けたか」
「……逃さないって言った」
「っ!? な、なんでだっ!? なんで俺のいく先々に翔子のやつがいるんだ!?」
「……雄二、いい加減素直になって」
「素直もクソもあるか! なんでいきなりお前の両親に紹介されなきゃいけないんだよっ!? 絶対に逃げ切ってやるっ!」(ダッ!
「…………もしもし」(ぴっ
『霧島さん、お疲れ様。それじゃあとは約束通りに……』
「……分かった。……いつもありがとう」
『どういたしまして』
■□■□■□■□■□
「はぁ、はぁっ。……い、居ないか? …………ふぅぅっ」
「あ、雄二!」
「うおぉっ!? ……な、なんだ明久か。ビックリさせんじゃねぇよ!」
「いや、普通に声かけただけなんだけど……」
雄二は大きく胸をなでおろしながら、あたりを神経質に見回していた。……うん、伊御の計画通りだ。
「それで、何の用だ?」
「イヤイヤ。雄二が鞄を持ってきて欲しいって言ったんじゃないか。はい」
僕は不機嫌そうにしてる雄二に鞄を投げ渡す。
「ああそういえばそんなこと頼んだなっと。明久にしては気がきくじゃねぇか」
「せっかく人が親切にしたっていうのにひどい言いようだね?」
「実際そうだろうが」
「はぁ、全く。……それで、なんで霧島さんに追われてたの?」
僕は事情を知ってはいるけど、あえて知らないふりをして話を切り出した。
「…………翔子の家族に紹介したいそうだ」
「……まだ付き合って一月経ってないよね?」
「付き合ってねぇ! 俺は認めてないぞ!」
雄二は試召戦争で「勝った方のいうことを1つ聞く」っていう賭けに負けたじゃないか。いい加減諦めなよ。……それにしても。霧島さんはステップを何段飛ばしに進んでるんだろう? 愛が深い人なのかな?
「ってこんなことしてる場合じゃねぇ。さっさとズラからぞ!」
「……うーん。それは無理じゃないかなぁ?」
「あ? なんでだよ」
よし、ここからが本題だ。
「1つ聞くけどさ。もしかして、雄二が逃げる場所逃げる場所に霧島さんが居たりする?」
「……なんで分かる?」
「さっき見掛けたんだけど、霧島さんが誰かと電話してたんだ」
「電話だと?」
「うん。で、その相手が伊御だったんだ」
「っ!! そういうことかっ!」
流石元神童。伊御ってだけで全部把握した。……果たしてそれが全部かはさておいてね。
「伊御なら俺が行く場所を読むことは容易い。さらに伊御は翔子に協力的だ。翔子が俺を捕まえるのを全力で助けても不思議じゃない! クソっ!」
雄二は携帯を取り出し、伊御に電話をしようとするけど……無駄だよ。
「チィッ! 通話中になってやがる! 現在進行形で助言の最中か! ……どうする? おそらく下駄箱は見張られてる。このままじゃ……っ!」
よしよし、かなり焦ってるな。切り出すならここだ!
「ねぇ雄二?」
「あぁっ!? なんだよ!」
「伊御が今いる場所知ってるけど、知りたい?」
「…………何が目的だ?」
今の聞いただけで、僕がタダで教えないって分かったみたいだ。話が早くて助かるよ。
「まぁまぁ、そんなに睨みつけないでよ。僕のお願いを聞いてくれらなら話すからさ」
「お願いだと? ふんっ、清凉祭の出し物のことか?」
「……なんで分かったのさ?」
「少し考えればこれぐらい分かる。……やれやれ。変に俺と交渉せずとも、お前が『大好きな姫路さんの為に頑張りたいんだ! 協力してください!』と言えば、面倒だか協力してやったというのに」
「なっ!? べ、別にそんなことはっ……!」
「あーはいはい。話は分かった。協力するからさっさと伊御の場所を教えてくれ」
さっきまで余裕なさげに右往左往してた癖に、今では愉快そうに僕を見ている。くっ! “後で”覚えてろ!
こうして交渉は成立し、僕は“計画通り”伊御の場所を雄二に教えた。
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「……なるほど、姫路の転校か。そりゃ明久が慣れないことしてでも俺を動かそうとするわけだ」
「……その言い方と視線に色々言いたいけど、今は置いとく。それで、どう思う雄二?」
ところ変わって、榊のお姉さんのみいこさんが経営する『ハチポチ』。雄二は伊御に頼んで、「今日はもう霧島さんに連絡しない」ことを約束してもらい、伊御も僕と同じように清凉祭の出し物を手伝ってもらうことを条件にそれを承諾した。
雄二は僕と同じ条件だったことに満面の笑みを浮かべて居たけど……馬鹿め、伊御の掌の上と知らずに。クックックッ。
「そうなると、喫茶店の成功だけでは不十分だな」
「やっぱりそうじゃろうねぇ」
「不十分? どうして?」
「……お前は伊御から何の話を聞いてたんだ」
雄二の言葉とともに僕を残念な目で見る仲間たち。やめて! そんな目で僕を見ないでっ! 僕は残念な子じゃないよ! 少しおっちょこちょいなだけさっ!
「はぁ。馬鹿にも分かるように話すぞ。明久、伊御は姫路の両親が考える転校させる理由をいくつあげた?」
「確か……3つだね」
「それぞれ言ってみろ」
えーっと、まずは……。
「まず1つ目が、姫路さんの学力に合わないクラスメイト、だったかな?」
「そうだ。これは喫茶店の成功とは関係のないことだから、別に対策を練らないとならない。しかも……」
「これに関してはFクラスの学力上、難しいと考えた方が良いのう」
秀吉の言葉に僕もそう思う。伊御や御庭さんなどのイレギュラーがいるけど、Aクラスレベル2人だけじゃ説得は厳しい。
「あ、それに関してはウチらで対策してるわよ?」
「え、そうなの?」
「……もしかして、召喚大会に参加するのか?」
「流石坂本、その通りよ。瑞希に『どうしても転校したくないから協力してください!』って頼まれちゃって。これに優勝すれば、Fクラスにも勉強ができる人がいるって証明できるでしょ?」
「そうだな。本当ならば姫路抜きの方がいいんだが、そうも言ってられないか。翔子はこういうのは興味ないから参加しないだろうし、2人の優勝も十分あり得るだろう」
「任せなさい! 必ず優勝するわ!」
そっか、美波達は召喚大会に参加するのか。あれは文月学園の宣伝も兼ねた催し物だ。当然かなりの観客がその大会を観るから、その場で優勝したらそりゃいい説得材料になるよね。……うん! これはイケる!
「…………あ〜、雄二」
1つ問題が解決したことに皆が安堵してる中、伊御が何とも申し訳なさそうな顔で雄二の名前を呼んだ。……どうしたんだろう? あんな顔の伊御は見たことないんだけど。
「何だ伊御」
「……出るぞ」
「……なに?」
「霧島さん、召喚大会に出るぞ」
………………。
「「「「「えーっ!?」」」」」
伊御の言葉に場が騒然とする。うそっ! 何で!?
「しかも、相方は優子だ」
優子って、秀吉のお姉さんっ!? 御庭さんを倒したあの人も出るの!?
「……伊御、何で翔子がこれに参加してるんだ?」(じーっ
「……色々事情があるみたいだよ」(プイッ
雄二の問い詰める視線を避けるように顔を背ける伊御。どうやらその事情を知ってるようだけど、言うつもりはないみたいだ。多分、内緒にして欲しいって頼まれたんだと思う。そうなると、伊御は絶対に話さない。例えそれが僕達の不利になることだとしても。
「…………はあぁ。となると、何か作戦を練らないとな」
「皆、ごめん」
「いいさ。何かは知らないが、お前の善意だったんだろう?」
「それに、こんなことになるとは誰も思わないわ」
「そうそう。それに、相手が例えAクラストップだろうと負けないわよっ!」
「……うん。ありがとう」
伊御は申し訳ない顔を、微笑みに変えて御庭さんの頭をポムリした。やっぱり伊御は笑ってる方がいいよ。
「さて、話を戻すぞ。じゃあ明久、2つ目は何だ?」
「2つ目は……みかん箱やゴザっていう貧相な設備だね」
「正解だ。そしてこれについてはFクラスの喫茶店や伊御達のクレープ屋での利益でどうとでもなる」
「俄然やる気が出てきたんじゃよ!」
「はひ! が、頑張りますっ」
「ん、頑張る」
「俺も、もう一回みいこさんに美味しいクレープの作り方を教えてもらおうかな」
「いいですよ。次のバイト終わりにしましょうか」
「お願いします、みいこさん」
「ってみいこさんいつの間に!?」
「あらあら、ふふっ」
僕の問いに笑って誤魔化すみいこさん。……この人は僕が知る中でもまた違った雰囲気があるよね。
「ちょっとアキ! 大事な時にデレデレしてるんじゃないわよ!」
「うえっ!? べ、別にデレデレなんかしてないよっ!?」
「ふんっ、どうだか」
またいきなり不機嫌になる美波。どうして不機嫌になったかはわからないけど、また変な誤解を生むようなことを言って! みいこさんを狙ってるなんて噂が立ったら、伊御と榊が全力で僕をみいこさんに相応しいかどうか試しにかかるかもしれないだろ! …………よし、受けて立とう!
「ああ榊か? どうやら明久がみいこさんを狙ってるようなんだが……」
『何ぃ!? すぐ向かう! 伊御は試練の準備をしていてくれ!』
「了解。さてまずはAクラス並みの学力を身につけてもらうところから……」
「ごめんなさい! 調子に乗りました! だから勘弁してください!!」
「あらあら、ふふっ」
馬鹿な僕をAクラス並みに!? 僕の頭が核爆発を起こしちゃうよっ! しかも“まず”って! それだけでも地獄の底が見えないのに、さらに僕を地獄の奥底へ叩き落とそうというの!? どれだけみいこさんの相手はハードルが高いのさ!?
「おい伊御。それは後回しにしろ。今は目の前のことだ」
「それもそうだね」
「待って伊御! 誤解を! 誤解を解かせてください!」
「片瀬」
「ういうい。……ていっ☆」(みかんの皮汁ブシャー
「目ぇぇっ!?」(ブリッジ!
目が、目がぁぁあ!!
「何でそんなものを持ってるのよ」
「こんなこともあろうかとっ♪」
「どんなことですかっ!?」
かしましい真宵さん達の横で目を押さえて蹲る僕。うぅっ、痛いよぅ。
「馬鹿が静かになったな。よし、なら3つ目だ。明久、それは何だった?」
「今はそれどころじゃないんだけどっ! ぼくの目の前が真っ暗なんだよ!」
「それはお前の将来だ」
「なにおぅ!」
「吉井、お店に迷惑が掛かるわよ」
「ぐっ!?」
御庭さんの注意に黙らざるを得なくなる僕。くっ! まだ見えないが奴の僕を嘲笑うような顔が浮かぶ。……いや、耐えるんだ僕。もうすぐ、もうすぐ奴も終わりだ!
「それで明久、どうなんだ?」
「……姫路さんの体調を崩している原因の教室のボロさだよ」
「全問正解だ。やれば出来るじゃないか」
「くうっ!」
殴りたい! 全力で肝臓を穿ちたい!
「これが一番の問題じゃのう」
「でも、これって出し物の利益でどうにかなるものなの?」
「無理だな。教室の改修となると、片瀬の補強とはわけが違う。学校側の協力と許可が不可欠だ」
「それじゃあどうするんじゃよ?」
「どうするもなにも、学園長に直訴すればいいだけだろう?」
え? それだけでいいの?
「……それでどうにかなるものなのか? 俺達は学校の教育方針の元、自業自得であの設備に落ちたんだ。許可してくれるか疑問なんだが」
「伊御、あそこは曲がりなりにも教育機関だぞ? いくら方針とはいえ、生徒の健康に悪影響が出てる状態を放置するのは不味いはずだ。特にあそこは試験的に運用してるからな。だから改善要求は通る確率が高い」
「なるほどね」
雄二の話に頷く僕ら。確かに言われてみればそうだ。よしっ! 何とかなりそうだぞ!
「なら、早速明日学園長に会いに行こうよ」
「そうだな。学園長室に乗り込むか。伊御はどうする?」
「うん、行くよ」
「よし。それじゃ俺たち3人で向かうか。他の奴らはそれぞれ出し物の準備を進めていてくれ」
「「「「「了解!」」」」」
これで僕達の方針が決まった。あとは明日を待つだけだ。……なら、もういいよね?
「……伊御」(ボソッ
「……うん、いい時間だ」(ボソッ
僕達は壁に立て掛けてある時計を目にして約束の時間がやってきたことを悟った。……ふ、ふふ。ははは。
「はははははっ!」
「……なに突然笑い出してんだよ? とうとう気でも狂ったか」
「ふふんっ。そう言ってられるのも今のうちだアホ雄二!」
「あん?」
「これで……」
……カランコロン
「僕“達”の勝ちだ!!」
「だからなにを言って……」
「……雄二」
「…………」
雄二の息を飲む音が聞こえ、奴の身体が少しずつ震えだす。そして、ゆっくりと、ゆっくりと振り返ると……そこには霧島さんが立っていた。
「ミッションコンプリートだねっ、伊御!」
「ああ」
僕は伊御と拳を合わせて喜びを分かち合う。ざまぁみさらせぇっ!
「い、伊御。騙したのかっ!?」
「なにがだい?」
「今日は連絡しないと約束しただろう!」
「ああ。だから雄二と約束する前に、霧島さんにここに来るように言ったんだよ」
「なんだとっ!? ……はっ! まさかっ!? お前ら、グルだったのかっ!」
僕達を射殺さんばかりに睨みつける雄二。やっと気付いたのか阿呆めがっ!
「そうだよ元神童! 全ては僕達の手の平の上だったのさ!」
雄二を協力させるだけなら、あの場で伊御が「霧島さんに場所を教えるぞ」と脅すだけで良かった。だけど伊御は霧島さんの恋を応援したいから、こんな手の込んだことをやったんだ。
雄二に悟られないように僕と伊御は無関係を装い、一度霧島さんから意識を外す。そしてみいこさんがいる『ハチポチ』へと連れ込み、雄二の逃げ場をなくした状態で霧島さんに明け渡す算段だったのだ!
「それじゃあ、みいこさん! あとはよろしくお願いします!」
「はい。任されました」
「霧島さん。家族への紹介はまだ早いと思うよ。焦らずにゆっくりやっていこう」
「……分かった。音無も吉井もいい人」
絶望した顔で絶句する雄二を放っておいて、僕と伊御はみいこさんと霧島さんにそれぞれあとを任せる。
「それじゃあ皆の衆、帰るとするかのう」
「それじゃあ雄二さん、頑張ってねぇん!」
「雄二君、また明日ですぅ」
「じゃ」
「明日、任せたわよ坂本」
他のみんなもそれぞれが雄二に言葉をかけて『ハチポチ』を出て行く。
「……雄二、今日は子供が何人欲しいか話し合う」
「あらあら。翔子ちゃん、まだ気が早いですよ?」
「ま、待て。……待ってくれえぇぇぇっ!」
……バタン、と。『ハチポチ』の扉が閉まったことで、雄二の断末魔も聞こえなくなった。ふう! いいことをした後って気持ちがいいね! ……さ、明日は学園長に直談判だ! 気合いを入れるぞ!
【おまけ】
「おっ! 伊御、明久!」
「あれ? 榊……なにそのリュックサック」
「なに言ってんだ明久。お前がみいこ姉に相応しいかどうか試すためのものに決まって「さらばだっ!」」
「ていっ」(内側から弾ける拳
「ぐあっ!?」(バタンッ
「……さて、俺の家でいいか?」
「おぅ! 明久、俺達はそうそう甘くないぜ? なにせ……」
「そうだな。なにせ……」
「「伊御(榊)よりいい男じゃないとダメだからな!」」
「「…………」」
「「俺かよ!?」」
「…………いや、僕の……話、を」(ガクッ
如何でしたか?
元神童ハメられる!
では!
感想やご意見、評価を心よりお待ちしております!
これからも応援よろしくお願いします!!