Q.バカはあっち、テストはこっち。では、召喚獣はどっち?   作:黒猫ノ月

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どうもです。

今回はあっちこっちよりです。

では、投稿です。


第20話

……トンテンカンカンッ

 

「……ふぅ、こんなもんかな!」

 

「おう! 明久サンキュー」

 

「これくらいなんてことないよ」

 

清涼祭を間近に控えた午後、僕は伊御達が出すクレープ屋『つつみん』の準備の手伝いをしている。そしてたった今、屋台の骨組みを榊と一緒に組み終えたところだ。

 

「いや、実際助かってるしな。これなら学祭定番の徹夜もしなくて良さそうだ」

 

「あはは……。僕は向こうじゃ役立たずだからね。役立たずなりに頑張らせてよ」

 

「あー……。どんまい」

 

「……ぐすっ」

 

そう。僕はFクラスの出し物を準備するにあたって、雄二から戦力外通告を言い渡されてこっちの手伝いに駆り出されていた。

 

雄二はFクラス全体の指揮とババァとの話し合い。姫路さんと美波、秀吉は衣装の採寸と接客の勉強で、ムッツリーニは衣装の作成と飲茶の料理指南とそれぞれが忙しく準備している。

 

そんな中、僕は特にやることがなかった。他の雑用をしようにも、人手は余り過ぎているため逆に邪魔だった故の戦力外通告である。……な、泣いてなんかないやいっ!

 

「おおーっ! もう出来上がってるんじゃよ!」

 

「後は看板と内装を整えるだけね」

 

「お二人とも、お疲れ様ですぅ」

 

「あ、みんなお帰り!」

 

僕が目尻に溜まりそうになる汗と格闘していると、御庭さん達が買い出しから帰って来た。

 

「真宵ー。お前の機械類、設置しといてくれ」

 

「了解じゃー! あ、明久さん。伊御さんと榊さんの清涼祭での服を持って来たから、伊御さんを呼んで来てー」

 

「うんわかった。因みにどんなの?」

 

「それは後のお楽しみじゃよ♪」

 

チッチッチと指を振る真宵さん。……なんだろう。こういう時の真宵さんはあまり信用できないからなぁ。

 

伊御は家庭科室近くで何かを縫い縫いしている。真宵さんと榊が頼んだみたいだけど……こっちも正直不安だ。あの真宵さんと榊だし。

 

そんなことを思いながら、僕は伊御を呼びに家庭科室に向かった。

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

僕が校舎に入って向かうと、家庭科室前の廊下で作業に勤しんでる伊御を見つけた。

 

「とっ、伊御!」

 

「……ん? 明久か。どうしたんだ?」

 

「真宵さんが清涼祭で着る服を持って来たから、こっちに来て欲しいって」

 

「わかった。キリのいいところまでやったら行くよ」

 

伊御は返事をした後、紺色の大きなものを手際よく縫い始めたってちょっと待って。アレって見間違いじゃなかったら……。

 

「……伊御。それってまさか、着ぐるみ?」

 

「ぽいっのかな。真宵と榊に頼まれたつみきの衣装だよ」

 

そう言ってキリがいいところまで来たのか、縫い針やまち針を抜いてそれを広げた……って。

 

「凄っ!?」

 

これ手編みで作ったの!? 伊御のスペック高過ぎじゃないっ!?

 

確かに伊御のいう通り着ぐるみっぽいのだ。ネコミミがついたフードの部分が被り物だったらまんまそれだ。ご丁寧に尻尾まで付いてるし。……でも本当に凄い。服自体はとても可愛いし、何よりこれを御庭さんが着たら可愛さ二乗だ。でも……

 

「い、伊御? すっごく可愛いんだけど……。それ、御庭さんが着てくれるかなー? と僕は思うんだ……」

 

「そうかな? 喜んでくれると思ったんだけど……」(しゅんっ

 

「あ! やっぱ僕の気のせいだネ! 本当に可愛いし、何より伊御の手編みなんだから御庭さんも喜んでくれると思うヨ!」

 

「……うん、ありがとう」(てれり

 

ダメだ! 僕には言えない! しゅんっとする伊御を見て、「御庭さんはもっと年頃の女の子が着るものが良いんじゃないかな?」なんて死んでも言えない!

 

「さ、早く行こうよ伊御!」

 

「そうだな。行こうか」

 

僕は急かすように伊御を連れてみんなのところに戻った。……ごめん御庭さん。不甲斐ない僕を許しておくれ。

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

「と、いうわけで……ジャーンッ! これがお二人の衣装じゃよ!」

 

「「〜〜〜〜/////」」(ダクダクダク

 

「そこまでか!? ……まあ、かなりしっくりきてるが」

 

「ああ。思ったよりも着やすいしな」

 

「2人共、すごく似合ってるよ!」

 

僕の賞賛に榊は伊達眼鏡をくいっとさせ、伊御は袖口に両手を入れて微笑んだ。

 

2人が着ているのは、所謂書生服と言われるやつだ。明治時代とか大正時代の学生服だったと思う。オプションとして、レンズが丸い伊達眼鏡を装備してるんだけど……これが本当にハマってる。特に伊御のハマり具合がやばい。

 

「よく見つけたなこんなの」

 

「世のネット通販で買えないものはないんじゃよ」

 

人の文明の発達って偉大だよね。

 

「それじゃあ真宵、女子の衣装は俺が決めるってことでいいんだよな?」

 

「ういうい。可愛いのを期待してるんじゃよ!」

 

「あ、因みにだが。御庭の衣装は伊御のお手製だからな。しかも手縫い」

 

「!? い、伊御にょ……手縫い?」(ぴこぴこ♪

 

榊の言葉を聞いて、御庭さんが喜んでる。顔は素面でも、ネコミミは感情を隠しきれてない。ぐぅっ!? 僕の中の良心が万力で締め付けられるっ!

 

「ああ。何かは内緒だよ? 楽しみにしてて」(ぽふっ

 

「……うんっ」(てれぴこ♪

 

「よかったですね、つみきさん」

 

2人の微笑ましさの背後で薄く笑う悪童2名。くっ! これじゃあ僕も奴らの共犯だ! 僕が伊御を説得出来ないことまで予想済みだったというのか!?

 

「さて、衣装合わせも済んだし、作業に戻るか!」

 

「「「「おー!」」」」

 

「僕は……どうすればっ!?」(ボソッ

 

僕の良心の呵責をよそに、みんなは再びそれぞれの作業に戻るのだった。

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

各々が作業に戻ってしばらく。

 

「あ、あの〜……」

 

「ん? えっと……君は?」

 

僕と榊が看板を屋台の正面上に貼り付け終えて一息付いてると、見知らぬ女の子が声をかけてきた。雰囲気からして2年か3年だとは思うんだけど……。

 

「あ、あの! ……よかったら、こ、これをどうぞっ。み、皆さんで食べてくださいっ」

 

そう言って僕たちに差し出される数個のプラスチックの容器。中身は焼きそばのようだ。えっ!? もしかして差し入れ!? 僕達に!? しかも美味しそう〜!

 

「わぁ、ありがとう! みんなで食べさせてもらうよ!」

 

「は、はいっ! ……あ、あのっ。音無君は何処に……?」

 

…………あー、なるほど。そういうことか。

 

「伊御は別の用事があって今はいないんだ。でも、後で必ず渡しておくよ」

 

「え、えと……。じゃあ、よろしくお願いしますっ」

 

女の子は僕に頭を思い切り下げて、駆け足で離れていった。……はぁ。

 

「自分を意識してる女の子が現れたと早とちりした明久であった」(ナレーション風

 

「うるさいな! あんな風に声をかけられて、勘違いしない高校生男子は居ないよっ!!」

 

「ナハハッ。悪い悪い」

 

榊の言葉によりダメージを受けた僕。し、仕方ないだろ!? 比較的モテる榊じゃなくて僕に声をかけられて、さらにはモジモジとしながらも差し入れを渡されたんだ! 「僕にもやっと青春がっ!?」って思っちゃったんだよ!

 

「……はぁ。遣る瀬無いよ。……しかし伊御はモテるね」

 

「まぁな。これで差し入れ6個目だし」

 

「え!? そうなの!?」

 

「ああ。まあ、別に困るもんでもないし、伊御も俺も全部貰ってる「その話、詳しく教えてくれないかしら」…………」

 

あ、獲物を殺る目をして爪を研いでる御庭さんだ。榊の冷や汗がハンパないことになってる。

 

あの様子だと、御庭さん達は知らなかったみたいだ。……女の子達も、御庭さん達が居ない時を見計らって来てたんだろう。今は屋台の中を任せていたから、姿が見えなかったみたいだ。

 

「そ、その……御庭? とりあえずその爪をしまおう。な?」

 

「教えてくれるかしら?」(キラーンッ……ザシュッ!

 

「ノオォォォォっ!?」

 

榊が顔を縦に引っ掻かれて、転がり回ってる。高校生男子を馬鹿にした罰だね!

 

それから御庭さんが榊を問い詰めることしばらく。

 

「あ、戌井君! これ、音無君に……」

 

「フーッ!!♯」

 

「キャーッ」(脱兎の如く

 

しばらく……。

 

「はいこれ。ってあれ? 音無君は何処に……」

 

「フシャーッ!!♯」

 

「うわっ。な、何よあん……ちょ、お、覚えてなさい!」(脱兎のry

 

し、しばらく…………。

 

「それじゃ、ちゃんと食べてね? 音無君によろしくー」

 

「フッカーッ!!♯」

 

「あははっ。バイバーイ!」(余裕を持って

 

御庭さんは差し入れを持ってくる人(伊御目当ての人限定)を威嚇して追い返すようになった。ほとんどは渡す前に逃げてくけど、中には威嚇されながらも差し入れを渡して去って行く図太い人もいた。……というか。

 

「伊御モテすぎだよ……」

 

同じ男であるはずなのに、明確な差をさまざまと見せつけられて泣き崩れる。……うぅっ。わかっていたけど! わかっていたけど!!

 

「ま、顔が良くて気配りも出来る。優しくて頭もいい。何より頼りになる男、それが伊御だからな。そりゃモテるだろ。……男にもモテてるし」(ボソッ

 

蹲る僕の横で半ば呆れたように話す榊。伊御に呆れたのか僕に呆れたのかわからないけど、榊の言う通りだ。伊御はパーフェクトマンだからね。僕も悔しさより虚しさで胸がいっぱいだよ。……最後に聞こえてきたものは聞かなかったことにする。

 

そんなふうに僕が打ちひしがれる中、事件は起こった。

 

「戌井君。ちょっといい?」

 

「おう! なんだ?」

 

「はい、綿菓子。甘い差し入れも欲しいでしょう?」

 

「お、くれるのか。ありがとさん! って、一個だけ?」

 

「当然よ。私は“貴方”を労いに来たんだからね?」

 

「……ん、とぉ」

 

「ふふっ。私の甘い贈り物、ちゃんと食べてね? それじゃ、頑張って」

 

笑顔を浮かべ、手を振って去っていく女子生徒。その姿を榊は右手で頭の後ろを掻きながら、困ったように眉根を寄せて苦笑した。…………ぶちっと、僕の中の何かが千切れた。

 

「……ったく。どうしろってんだよ」(てれり

 

「僻み妬み嫉みを宿した我が悲拳の極致を魂に刻めぇぇーーっ!!」

 

「ブラァァァァァっ!!?」

 

榊は身体の中心点を穿った僕の拳により、風車のように飛んでいき瓦礫に突っ込んだ。見たか! これが生涯モテなかった男の真の力だ!

 

……因みに、榊を飛ばした衝撃で舞い上がった綿菓子は無事にぼくの手の中だ。彼女の思いに罪はないっ!

 

「人間の吹っ飛び方ではなかったわね」

 

「御庭さん、なんであの娘は追い払ってくれなかったの?」

 

「……なんのことかしら」(プイッ

 

ああもあからさまに威嚇しておいて、誤魔化せると思ってる御庭さんはある意味ムッツリーニにも負けてないよ。まあ、あの娘の目当ては榊だったから、御庭さんも威嚇もしなかったんだろうけどね。

 

 

 

「皆さーん。調子はどうです……のっ!? さ、榊君っ!? 大丈夫ですのっ!?」

 

「……大丈夫。君の甘さは受け取ったよ」(ふっ

 

「なんの話ですの!?」

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

榊は桜川先生に助け出され、一命を取り留めたようだ。僕はあのまま帰ってこなくても一向に構わなかったけど。榊はあの娘に対しては今の所なんとも思ってないらしい。……けっ、モテ男の余裕か!

 

僕がふてくされながらも作業を再開し、あたりがもう薄暗くなら頃まで続けた。

 

「……うっし、今日はこんなところか」

 

「うん、そうだね。伊御を呼んで帰ろうか」

 

「明久、榊。お疲れじゃのう。もう屋台は出来上がったのか」

 

この声は秀吉だね。様子を見にきてくれたのかな?

 

「あともうちょっとってところだよ、ひでよぶへぃっ!」(鼻血ブシャー!

 

「あ、明久!? どうしたのじゃ!?」

 

どうしたのじゃ、じゃないよ秀吉! な、なんだいその……そのミニスカチャイナ服はっ!? こ、こんなの、こんなの……っ!

 

「大変眼福であります! ありがとうございます!」(ダラダラ

 

「う、うむ。そう言われて悪い気はせぬが、とりあえず鼻血を止めるのじゃ」

 

そう言って、僕の鼻を拭いてくれるチャイナな秀吉。ぼ、僕はもうこれだけで幸せです!

 

「そ、それで。秀吉は様子を見に来たの?」

 

「そうじゃな。それと、この姿で歩けば在校生たちへの宣伝になると雄二がの」

 

「なるほどね」

 

流石雄二。男というものをわかってる。こんな美少……年が歩き回っていれば、男ならどこの出し物だと気にならないはずがない!

 

そう感心していた矢先、空気が一瞬にして凍った気配を感じた。な、なんだ!? 何が起こったんだ!?

 

「……ひ〜で〜よ〜し〜?」(パキポキ

 

「あ、姉上っ!?」

 

僕等が周囲を見渡すと、秀吉の後ろに伊御を連れた木下さんが立っていた。この氷点下は木下さんが原因か!

 

「ちょ〜っと話があるから、こっちへいらっしゃい?」

 

「い! あ、姉上! 腕はそっちには曲がらなっ!」

 

秀吉は木下さんに腕を固められながら物陰へと連れていかれた。そして聞こえてくる絶叫。……裏では何が起きてるんだろう。体の震えが止まらない。

 

「秀吉はまたどうしてあんな格好でいたんだ?」

 

「僕達の様子を見にくるついでに、Fクラスの宣伝だって」

 

「……ああいう服装を嫌がらずに着るから、女の子だって勘違いされるんだよ」

 

「だな。それに似合ってるからなおタチが悪い」

 

「えっ!? あ、そうだよね! 秀吉は男だもんね!」

 

「…………明久、まさかとは思うけど」

 

「なんでもないよ! 僕は正常さ!」

 

確かに時たま秀吉が女の子だって間違えそうになるけど、まだ踏み止まってるよ! だから伊御、そんな目で僕を責めないで。榊は笑うな!

 

それからしばらくして、日が暮れる頃に秀吉の絶叫が止んだ。物陰から出てきた木下さんはとても清々しい感じで、秀吉は白目をむいて倒れていたのだった。




如何でしたか?

来週は投稿出来ないかもしれません。
皆様をお待たせすることになると思いますが、気長に待っていただけたらと思います。

では!
感想やご意見、評価を心よりお待ちしております!
これからも応援よろしくお願いします!!

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