Q.バカはあっち、テストはこっち。では、召喚獣はどっち?   作:黒猫ノ月

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どうもです。

とうとうあの子が登場です!

では、投稿です。


第23話

在庫を取りに向かった倉庫に指定された校舎で、小山さん……友香と友好を深めた。傷付いた白猫を心配したり、治療した白猫を愛でているところは微笑ましく、彼女の普段は見えない一面を垣間見た気がした。

 

あの白猫は友香が飼うことにするみたいだ。別れ際にお互いの連絡先を交換したんだけど、その後に彼女が苦笑しながら話していた。

 

「結局治るまでは世話をしなくちゃいけないわけだしね。 どうせならこの子を飼うことにするわ。これも何かの縁だと思うし。それとも、あんたは嫌?」

 

友香の顎を撫でながらの問いに鳴いて答えた白猫は、「しょうがないにゃ〜」と言ってるように見えた。彼女もそう見えたようで、「生意気」と白猫にデコピンをしてじゃれ合っていた。ふふっ、仲が良さそうでよかったよ。

 

そして友香と別れて少し経った頃。お昼が近づくにつれて、お客様の数も増えてきた。このままだと予定より早く完売になるかな。……予想以上の売り上げにびっくりだ。

 

そんなことを考えながらお客様を捌いていると、店の裏から真宵が声をかけてきた。

 

「伊御さーん! また材料がなくなってきたから取ってくるねー」

 

「ああ、頼むよ」

 

「ういうい〜!」

 

真宵は矢絣の振袖を揺らしながら元気よく駆けていった。こら、その格好で走るんじゃない。せっかくハイカラな服を着てるんだからお淑やかにしなさい。

 

俺は目の前のお客様を不快にさせないよう、ため息を飲み込んでクレープ作りに集中した。

 

それからもお客様の列が尽きることはなく、俺達は順調に売り上げを伸ばしていった。……うん。自分が作ったものがこんなにも売れてるのは素直に嬉しいな。しかも、美味しそうに食べてくれているから尚更、ね。

 

「ふぅーっ。ようやっと落ち着いたか〜」

 

「お疲れ、榊。みんなも」

 

「別にそんなに疲れてないわ」

 

「は、はひぃ。そ、そうですねっ」

 

「姫っち〜? 無理しなくていいんじゃよぉ? お客様に容姿をべた褒めされた挙句、写真を撮られまくったんじゃからね〜」(ニヨニヨ

 

「はうっ!?」

 

「にししっ。クレープを買ってくれたらってことで俺と姫はかなり一緒に撮ったよな。男どもの姫を見る目と言ったら……」(ニヨニヨ

 

「はうぅ……/////」(てれてれ

 

「まあ、その姿の姫はハイカラさんで可愛い「がぁぶっ♯!」い、痛い……」

 

つ、つみき? どうして俺の頭を……。

 

「「今のは伊御(さん)が悪い」」

 

「あ、あはは……」

 

「……解せぬ」

 

「…………ぷい」(ぷんぷん

 

俺は噛まれた頭をさすりながら、不機嫌な子猫となっているつみきの頭をもう片方の手で撫でてあげる。チラチラこっちを見てはいるから機嫌も戻ったかな?

 

「……ん?」

 

そうしていたら、ふと俺の視界に入るものがあった。

 

「う〜っ、どこにいるのかなぁ?」(キョロキョロ

 

ココア色の髪をツインテールにまとめた小さな女の子が、不安そうに辺りをキョロキョロしていた。歳は小学生の高学年くらいだと思うんだけど……誰かを探しているのかな?

 

「……ん? おい伊御、なんかあったか?」

 

「うん、あの子なんだけど……」

 

「……お? ありゃ迷子か?」

 

「多分ね」

 

「んじゃあ探してやらなくちゃな。行こうぜ!」

 

「ああ」

 

俺達はつみき達に店を任せて、ツインテールの女の子に声をかけた。

 

「ねえ君、もしかして迷子かな?」

 

「ふえっ?」

 

「よかったら、俺達が探してやるぜ」

 

「え、と……」

 

俺達の声に驚いて、少し怯える女の子。まあ、当然だよね。この学園の制服じゃなくて、しかもこの歳の子ならまず見かけない書生服なんて着てる男の人から声をかけられたんだ。とりあえずはこの子の警戒を解かなくちゃな。

 

「ごめん、驚かせちゃったかな? こんな格好してるけど、俺達はここの学生なんだ。ほら」

 

そう言って女の子に学生証を見せる。女の子はそこに映る写真と俺を見比べて、やっと警戒を解いてくれたみたいだ。

 

「あう、ごめんなさいです」

 

「いやいや、気にすんなちびっこ。俺達の方こそ悪かったな、いきなり声かけちまって」

 

「大丈夫ですっ。でも、葉月はちびっこじゃないですっ。葉月は葉月って言います!」

 

「ナハハッ、そうか。悪い悪い」

 

「このお兄さんがごめんね? 俺は音無 伊御。このお兄さんは戌井 榊っていうんだ。好きに呼んでいいよ」

 

「よろしくな!」

 

「はいですっ。伊御お兄さん、榊お兄さん!」

 

ツインテールの女の子……葉月ちゃんは元気一杯に笑顔を浮かべて返事をした。うん、天真爛漫って言葉がよく似合う明るい子だね。笑顔は向日葵みたいで華やかだ。

 

「それで、葉月ちゃんは迷子なのか?」

 

「葉月は迷子じゃないですっ。葉月はお兄ちゃんを探してるんですっ」

 

「お兄ちゃん? 名前はなんていうんだい?」

 

「あぅ……。わからないんです……」

 

さっきまでの笑顔を引っ込めて、また不安そうにする葉月ちゃん。ふむ、わからないってことはこの子の家族でも近所のお兄さんって訳でもないのか?

 

「なんでその名前もわかんねーお兄ちゃんに会いたいんだ?」

 

「……葉月、前にそのお兄ちゃんに助けてもらったんですっ。お兄ちゃんはとっても優しくしてくれて、おかげで葉月はお姉ちゃんの誕生日プレゼントを買うことができたんですっ」

 

「そっか。とっても優しい人なんだね」

 

「はいです! それにね、その時に葉月はお兄ちゃんと結婚の約束もしたんですっ。だから葉月、お兄ちゃんに会いたくなってここに来ました!」

 

「「…………」」

 

さっきまでの穏やかな空気が一瞬で凍った。…………結婚て。

 

(おい伊御! この子って小学5、6年生ぐらいだろ? 結婚って大丈夫なのか?)

 

(……そうだな。小学校の低学年くらいまでなら笑ってられるけど、流石にこの歳では少しまずいと思うが……)

 

(だよな?)

 

「お兄さん?」

 

「や、なんでもない! なんでもないぜ! な、伊御?」

 

「ああ」

 

「???」

 

突然変わった俺達の様子に不思議そうに首をちょこんと傾げる様子は可愛らしいんだけど、今は置いとこう。

 

(とりあえずそのお兄ちゃんってやつを一緒に探してやって、危なそうなやつだったら俺達が正義の名の下に裁きを下すか)

 

(そうだな)

 

「な、なあ葉月ちゃん。そのお兄ちゃんってのはここの生徒なのか?」

 

「はいですっ。この学校の制服を着てました!」

 

「それじゃあ、そのお兄ちゃんの特徴はあるかな?」

 

「えっと……バカなお兄ちゃんでした!」

 

「「…………」」

 

再び沈黙がこの場に降りる。なんとも反応に困る特徴だ。

 

「…………はっ!!?」(ピッシャーンッ!!

 

うぉ!? なんか榊が唐突に頭から雷が落ちたような顔をした。何か思い至ったのかな?

 

(おい伊御!! もしかしてもしかしなくてもFクラスの誰かじゃねーか!? あのクラスの奴らなら幼女に手を出そうとしてもおかしくはねーぞ!!)

 

………………どうしよう、反論できない。

 

(…………うちの学年のFクラスじゃないことを祈るばかりだよ。もう少し葉月ちゃんから話を聞こう)

 

「葉月ちゃん。バカなお兄ちゃんに俺達心当たりがあるんだけど、もう少し何かないかな?」

 

「うーんと、うーーんとぉ……」

 

葉月ちゃんが腕を組んで頭を左右に揺らしながら思い出してくれている。……頼む、身内であってくれるな!

 

果たして、俺と榊の願いは……。

 

 

 

「えっと……すっごくバカなお兄ちゃんだったんです!」

 

 

 

「「明久だな」」

 

見事に届くことはなかった。最悪だ。まさかの身内、しかも俺の友人が光源氏計画を進めていたなんて……失望したよ、明久。

 

……いや、まだ間に合う。俺達で明久を更生させて、矯正するんだ。

 

「榊」

 

「伊御」

 

「「やるぞ」」

 

「ふえ? 伊御お兄さん、榊お兄さん?」

 

俺と榊は顔を見合わせて頷き、互いの拳を合わせる。そんな俺達をまた不思議そうに見ている葉月ちゃんに俺は微笑みかける。

 

「葉月ちゃん、そのバカなお兄ちゃんは俺の知り合いみたいだ。今からバカなお兄ちゃんがいるところに連れて行ってあげるよ」

 

「本当ですか! ありがとうございますっ!」

 

「けどな、その前にチョーーットお兄さん達はバカなお兄ちゃんとOHANASHIしたいことがあるんだ。少しだけ待っててくれるか?」

 

「むーっ……しょうがないです。少しだけだよ?」

 

「おう!」

 

俺達はつみき達に事情を説明して、店を任せて被告人がいるFクラスへと葉月ちゃんを連れて足を向けた。

 

さあ、裁きの時だ。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

「では、罪人吉井 明久。これより裁判を行う。……判決を言い渡す、有罪」

 

「いきなり有罪判決!? 罪状もわからず弁明さえ出来ない裁判なんで認められないよ!」

 

「ええい黙れ黙れ! 大人しく裁きの鉄槌を受け入れるんだ!」

 

「イタタタタッ!? 榊もその手を離し腕が二重螺旋構造のようにネジ切れるーっ!?」

 

「…………」(スタッスタッスタッ……

 

「い、伊御? なんでゆっくりこっちに歩いてくるの!? なんで無言なの!? その握りしめた拳は何っ!? ねぇ!!?」

 

「……ねぇ坂本、一体何事よこれは?」

 

「俺が知るか。大方、馬鹿がまたバカやらかしたんだろ。俺はこの状況より、明久が二重螺旋構造って言葉を知ってることの方が驚きだ」

 

「確かにのう」

 

「…………」(コクコク

 

「えっと、あの……吉井君、助けなくていいんですか?」

 

「「「あの2人を敵に回してまで助ける価値は明久にはない」」」

 

「薄情者どもっ!! あっ、伊御やめて! 拳を下ろしばるすっ!!?」(パァーンッ!!

 

伊御の内側から肉の華を咲かす拳を、未だ嘗てない出力で受けた! お腹から内臓が飛び出ちゃうぅぅっ!?

 

……どうしてこうなったんだろう。僕が何をしたっていうのさっ!!

 

………………

…………

……

 

数分前。Fクラス『中華喫茶 ヨーロピアン』にて。

 

……ガラガラガラッ

 

「いらっしゃいませ! って音無と戌井じゃな……どうしたのよ、そんな顔して」

 

「いやなに。悪の道に踏み出そうとしてるダチを連れ戻しに来たのさ」

 

「はあ?」

 

「美波、お客さんが来たの? ん? あれ、伊御と榊じゃないか。こっちを手伝いに来てくれたの?」

 

「榊、光源氏擬きを確保」

 

「はっ」

 

「え? ちょなにぃぃぃイタタタッ!?」

 

「ここじゃ営業に差し支えるから、裏へ連行」

 

「さあこっちだ! 犯罪者予備軍!」

 

「犯罪者予備軍!? 何が何だかわからないんだけど!? ちょっと2人共!?」(ズルズルズル

 

「おいおいなんの騒ぎ「雄二、少し裏を借りるよ」……はい」

 

「何!? 僕これから何されるの!?」

 

「「明久の幻想(幼女とイチャイチャ)をぶち殺す」」

 

「ダメだ! なんのことかさっぱりわからないっ!」

 

「なに、じきにわかるよ。さあ、裁きの時だ」(ニコッ

 

「お、お助けぇー!!」

 

……

…………

………………

 

で、今に至るわけで……。

 

「ぐ、ぐふっ……。ぼ、僕の臓物が華開くかと思ったよ……」

 

「裁きは下った。次は伊御裁判長より、現代ではあるまじき志向の矯正が行われる。さあ立て! 光源氏を騙る愚か者よ!」

 

「名乗った覚えはないよ!? というかもう勘弁してくださいぃ! せめてなんでこんな目にあってるのか説明してください!」

 

伊御と榊の冷徹な視線に本当に心当たりがないんです! しかしそんな僕の疑問は、雄二の最悪な憶測によって掻き消された。

 

「お前を光源氏だと言ってるんだから……ちょっと待て。明久、まさかお前……幼女に手を出したんじゃないだろうな?」

 

「…………はい?」

 

僕が? 幼女に? 手を出したって? …………バカなっ!? 雄二貴様! この機に乗じて僕をとことん貶める気だな!? だがしかし! 伊御と榊がそのような妄言を信じるはずが……っ!

 

「「その通りだ」」

 

「あっれぇ?」

 

えっ!? それがこの裁きの罪状なの!? ならとんだ冤罪だ! 僕にそんな邪な性癖はないし、幼女に手を出したこともございません!

 

……だからみんな、僕を犯罪者を見る目で見ないで。あっ、距離をあからさまに取らないで。美波と姫路さんはその手に持ったバールや包丁でなにをするつもりだい!? 待って! まずは話を聞いて!!

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! 僕、心当たりがないんだ。伊御、榊。僕が幼児性愛者っていう証拠があるっていうの? というかなんでそんなことになってるの!?」

 

「あくまでシラを切るつもりか。なら伊御、被害者にご登場してもらおうか」

 

「……そうだね。正直に悔い改めて欲しかったけど、仕方ないか。秀吉、表に女の子がいると思うから連れて来てくれないか?」

 

「うむ、心得た」

 

秀吉は素直に頷いて出ていった。……大丈夫だ。本当に心当たりなんてないんだから、堂々としてるんだ吉井 明久! そして無罪だった暁には、伊御と榊に『ハチポチ』で一週間分奢ってもらうん「あっ! バカなお兄ちゃんだっ!」だっはぁっ!?

 

突如背後を襲った衝撃にむせる僕。何? え、バカなお兄ちゃんって僕のこと? なんて不名誉な!

 

「えっ! もしかして葉月!?」

 

「あ、お姉ちゃん! 遊びに来たよっ」

 

僕の背中にダイビングした女の子は、次に美波の方あと駆け出して抱きついた。ヘぇ〜、美波って妹いたんだ。男勝りな美波と違って、天真爛漫って言葉を表したような子だね。

 

姉妹の思わぬ再開に場がほんわかとする。……しかし、それは長くは続かなかった。

 

「て、ちょっと待って。…………ねぇ音無、葉月が2人の言ってた被害者ってこと?」

 

……あれ?

 

「……ああ。まさか島田さんの妹さんだとは思わなかったけど」

 

「…………」

 

……ヤバイ、美波が暗いオーラを纏い出したぞ! ってこの子がそうなの? 僕、こんな可愛い子の知り合いはいないと思うだけど……。

 

「ね、ねえ葉月? このバカに何かされた?」

 

「ふえ? ううん、何もされてないですっ。……えっと、葉月からはしちゃいましたけど」

 

ほえ? 僕に何したんだろう?

 

「……何を?」

 

 

 

「えへへ、ファーストキスですっ」

 

 

 

「確保ーっ!!!」

 

榊の一声によって秀吉とムッツリーニに取り押さえられる僕。ファーストキスっ!? 僕っていつの間に幼女に対してそんな罪を!? ……じゃなくて!

 

「離してっ! 僕はそんなことされた覚えはないよっ! 冤罪だ!!」

 

「そんな……。バカなお兄ちゃんひどいよぅ。……葉月と結婚の約束だってしたのに!」

 

結婚の約束!? ……もうダメだ。僕には今何が起こってるのか理解できない!

 

「明久、もう言い逃れはできん。大人しくリンチを受けた後にブタ箱に入れ、な?」

 

「雄二がかつてないほどにいい笑みを浮かべている!? そんなに僕の不幸が嬉しいかっ!」

 

「何を今更」

 

「このド畜生めがぁっ!!」

 

殴りたい! このキラリと歯を見せて笑うゴミを地平線の彼方へぶっ飛ばしてやりたい!!

 

「……アキ?」(バールを持って

 

「……吉井君?」(包丁を持って

 

「ひ、ヒィィィィッ!!?」

 

美波と姫路さんがゆっくりと凶器を持って近づいてくるぅ!? 待って! 話をっ! 僕の話を聞いてくださいっ!!

 

「伊御! これは何かの間違いなんだ! お願いだからみんなを止めて!!」

 

「……明久、俺はずっとお前の友達だよ」

 

「伊御ーっ!!」

 

信じてぇ! 誰か僕の無実を信じてよぉ!!

 

「瑞希」

 

「美波ちゃん」

 

「「殺るわよ」」

 

…………あ、僕の人生……終わった。

 

……………………。

 

 

 

ぎぃやあああぁぁぁーー……

 

 

 

……僕はこの日、一度死んだ。




如何でしたか?

ギャグお帰り。

では!
感想やご意見、評価など心よりお待ちしております!
これからも応援よろしくお願いします!!

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