モンスターハンターStormydragon soaring【完結】 作:皇我リキ
「よっしゃ! 後二匹頑張って釣ってこのクエスト完遂するで!」
意気込み新たに決意を込めた声を上げる。
魚も倒せなかったらモンスターなんて夢のまた夢だ。
「ん!」
「よし、俺に任せろ!」
「お前はまだ一匹も釣っとらんやんけ」
「う、うるせぇ! 俺にはさっき取ってきたとっておきがあるんだよ!」
さっき取ってきた? と言うと、さっきハチミツやキノコを取ってきた時の事か?
「これだ!」
そう言いながらタクヤが出したのはアホでかいカエルだった。素手でそれを持って溢れる笑顔はまるで少年のようだ。いやこいつはまだ少年か。
「……ひっ」
勿論アカリドン引き。タクヤ……お前本当にバカなのか?
「こいつでいっちょ大物を釣ってやるぜ! 見てろよアカリ!」
ガクガク震えながら目を丸くして涙目で自分の腕にしがみつくアカリをよそに、タクヤはそう言いながら湖の方に走っていく。
お前がアカリを見ろよ。いや、その前に目的は大物じゃなくて白金魚だぞ? 白金魚そんなでかいカエル食べるんか?
「た、タクヤは別に悪気があってやってるんや無いんやで……うん、多分」
「……ん、んぅ」
えーと?
『分かってるよ! 分かってるけどカエルだもん! タクヤ君は確かに良い人だけど! なんか怖い!』
タクヤ……。
「ま、まぁ……ワイらも釣りに戻るか」
こんなクエストもたまには良いが、流石に真っ暗になる前には帰りたいからな。
「ん!」
アカリがそう元気良く返事をしたそのすぐ後だった。
「な、なんか来たぜ! やべぇ大物だ!!」
もはや目的を見間違えているタクヤの竿に何かが食い付いたようだ。あんな化け物みたいなカエルを食べる化け物、この湖に居たのか。
「って、重すぎる! み、皆手伝ってくれぇぇ!!」
「わ、分かったっす!」
どうやらかなりの大物らしく助けを呼ぶタクヤに答えてヒールが竿を持とうとした次の瞬間だった。
「おわぁぁ?!」
タクヤは竿に逆に引っ張られ、音を立てて水中に引きずり込まれてしまう。
「「タクヤ?!」」
そんなバカな。いくらタクヤでも魚に負けるなんて事があるのか?
あの化け物カエルを食べる魚だとして……その魚こそ化け物。いや化け物?!
「離れろヒール!!」
気が付いて叫んだその時には、既にとてつもない量の水飛沫が上がり、ヒールに覆い被さっていた。
その頭上三メートルには強大な翼……いやヒレを持ったモンスターが空を舞い、自分とアカリの目の前に着地する。
まず感じたのはその巨大さだった。
足だけでも自分の二倍、頭から尻尾までだと十人くらい並ぶのでは無いだろうか。ゲリョスも大きかったがこいつは倍くらいある。こりゃ確かに化け物だ。
特徴的なのは背ビレと先端がヒレになった尻尾に水掻きになっている足、ゲリョスでいう翼はヒレになっていて頭はそのまま魚を大きくしただけのような流線型。全体的にも水の抵抗を少なくするフォルムで、濃い青色の鱗に腹部は綺麗な白色をしている。
「ギェェッ」
おいおいケイスケさん、この辺りには大型モンスターは居ないんじゃ無かったか?
めちゃくちゃでかいモンスターが目の前に出てきたんですけど。
「下がっとれやアカリ……」
「ん、んぅ……」
さてどうする? 双剣のリーチじゃ脚にしか攻撃できないだろうし不利でしかない。
かといってアカリにヘビィボウガンを借りるのは……。
モンスターは待ってはくれない。
縄張りを荒らされたと思ったのか、はたまた美味しい餌が現れたと思われているのか?
どちらにせよ自分とアカリを仕留めようと、ガノトトスは体内で圧縮した水をブレスとして一直線に吐き出してくる。
「っと!」
「っぁ?!」
咄嗟にアカリを押し倒してブレスを避けた。背後にあった焼き肉セットが消し飛ぶのが見えて背筋が凍る。
ヒールとタクヤの姿が見当たらない。まさか腹の中……? いや、池に沈んでるなら早く助けないと。
「ギョェッ」
思考が追い付く間もなくガノトトスは次の攻撃のために姿勢を整えた。
もう一度ブレスだとしたら震えるアカリを抱えてまた何とか避けれるか?!
「俺を見やがれぇ!!」
身構えた次の瞬間だった。湖の方からそんな声と共にブーメランがガノトトスに飛んでいく。
ブーメランは見事にガノトトスの頭の鱗に弾かれてから、池から上がってきたタクヤの手元に返っていった。
「タクヤ!」
無事だったか良かった。
しかも、お得意のブーメランでガノトトスの気が一瞬タクヤに向く。おかげで体勢を整えられた。
「ギョェ……ッ」
「お、ぉ、お、や、やん、やんのかぁ?!」
その股間から垂れているのは湖の水だよな? 漏らしてる訳じゃ無いよな?
「ギェェエエッ」
ブーメランに苛立ったのか? 狙いをタクヤに変えて姿勢を低くするガノトトス。
そのまま片脚を軸にしてタクヤ向けてタックルを決める。
しかし身体が大き過ぎて、しかもタクヤとの距離も結構あったからかそのタックルはただ空気を揺らすだけに終わった。———かのように思えた。
「へへん! 眼が悪いのかこの魚。そんな所からの攻撃全く意味———うぇぇえええ?! またかよぉぉ!!」
「タクヤぁ?!」
タックルの動作のほんの少し後。タクヤの身体は空に浮き、また池に水飛沫を上げて沈んでいく。
「こ、これが俗に言う亜空間タックルか……」
風圧だけで人が飛んでくとは。いや感心している場合じゃない。
この化け物は本格的に化け物染みてて、はっきし言って自分達には手に余る。
最悪アカリだけでもここから逃げ出させなければ。そういえばヒールはどうなった?
そんな事を考えていた時だった。
「そいつを俺に貸せ」
聞き覚えのある声が背後から聞こえると共に、手に持っていた自分の双剣が奪い取られる。
こんな時になんだと振り向けば、そこには知らない金髪のイケメンの男が立っていたのだ。
「……誰?」
どことなく誰かに似ている気がするが誰だろう? てかいつ現れた。
その正体不明の男は肩からライトボウガンを下ろすと剣を構えこう叫んだ。
「テメェ良くも俺のモヒカンを濡らしてこんな風にしてくれたなぁ!! ぶっ殺してやる!!」
「ヒールぅぅううう?!!」
こいつヒールかよ! そのライトボウガンと言いザザミ防具と言いヒールみたいな人だとは思ったけどヒールだったのかよ!
濡れて崩れたモヒカンはまるで髪の毛が普通に生えて来ているかのように見えて、本当にただの金髪の人になっていた。
モヒカンだった時は分からなかったがヒールさん凄く格好良い顔してたんだな。てか輪郭変わってね?
「ギョェッ」
「なーにがきょえぇだふざけてんのか、あぁ?! 謝罪の言葉はねーのかこの魚面!!」
誰だこいつ。
「無いならぶっ殺してやる! 今日の晩餐はテメェの刺身だぜヒャーッハー!」
ヒャッハー?! 本当にヒールなのこの人?!
「ギョェェェッ」
なりふり構わず突進し、ガノトトスの脚を斬りまくるヒール(?)。その勢いに怖じ気づいたのか、ガノトトスは足踏みをしてなんとかヒールを引き離そうとしていた。ぶっちゃけ押してる。
「グヘハハハハ! 雑魚め! 刺身にしてやるぜぇ!!」
あの優しかったヒールさんは何処へ。
「ヒールはモヒカンを誰かに崩されると、あーやって怒り狂うんだよ」
いつの間にか隣に来ていた水浸しのタクヤがそう説明してくれる。
あいつのモヒカンにはもうこの生涯で触れる事もよした方が良さそうだ。
「あの状態になったヒールは止められないからなぁ……」
「いやでも任せるわけにもあかんやろ……」
「ヒャッハー!」
任せても良い気がしてきた。
「……っ」
しかし、振り向いて見るとアカリはまだガノトトスが怖いのか怯えた表情で地面に転がっている。
確か初めてあった時もそうだったな。こうやってランポス相手でも怯えて縮こまっていた。
「構えろアカリ」
自分は……ライトボウガンならええか。ちょいとヒールさんに借りるとしよう。
それを構えてささっと中に入っていた貫通弾をガノトトスに三発当ててからアカリにそう言う。
「ま、待てよシンカイ! アカリは狩りなんてまだ!」
「甘やかしても成長はしない。そしていつ何処で仲間がモンスターに襲われるか、その時に動けるのが自分だけだったらどうするんや」
「……ぅ」
アカリの手は空気を強く握っていた。もうひと踏ん張りだな。
「わいは誰も失いたくない。だからトリガーを握れ、アカリ」
「……ん!」
強い眼差しで、立ち上がってヘビィボウガンを構えるアカリ。わお、全然様になってない。
何も知らないのか。こりゃ教えたらなかんな。
「フハハハハ! 刺身だぜぇ!!」
幸いヒールさんはガノトトスを一人で翻弄してるし。
「ええか? ボウガンはこうやって構えてやな」
アカリにくっついて直接身体で、まずは構え方を教える。
「おま、ずるい!」
なんでやねん。
「……ぅぇ」
「違う違う、こっちを持って」
なんか……懐かしい感じがする。なんでだろう。こんな事昔あったな———
『こうやって、狙いを定めて』
———あぁ……そうか。今は逆なのか。
「こうやって、狙いを定めて。 射ってみ」
そう言うと、アカリはゆっくりとトリガーを引いた。反動の少ない通常弾でも仰け反る身体を支えてやる。
弾は一直線にガノトトスの腹部に直撃し、それを見たアカリの表情は一気に険しいものから楽しそうな物に変わったのだ。
———まるで自分を見ているみたいだった。
「……たった! ぁ……った!」
声の事も忘れて、嬉しそうに笑顔になるアカリ。いや、まだ初心者の息も超えてないんだけどな。
まぁ、今はこれで良いか。
「ギョェッ!」
第三者の加入も察知したのか。ガノトトスは不利を察して湖の中に走って逃げていく。なんか面白い走り方するな、あのモンスター。
「待ちやがれ刺身野郎がぁ!!」
帰って来てくださいヒールさん。
「いや……酷い目にあった色んな意味で。さーて、どうするかなぁ……まだ白金魚は二匹も釣らなかんのに湖にはガノトトスでもう日も沈んでまう」
「その事なら心配ないぜ」
さっきまで体操座りで拗ねていたタクヤが立ち上がりそう言う。心配しかないぜ、の間違いでわ?
「さっきガノトトスに飛ばされて池に沈んでる間に防具にこいつら入ってきててさ」
そう言うとタクヤはゲネポス装備から二匹の白金魚を尾を持って取り出して、自慢気に見せ付けてくる。
なんたる奇跡。
「つーことは……」
「クエストクリアだぜ!」
「ん!」
そうやって三人で喜んでいる中、池に向かって「出てこいや魚面! なめてんのぁ!」とか言ってガノトトスをビビらせているヒールを、何とか三人で落ち着かせて。自分達はギリギリ日が沈む前にクエストをクリアする事が出来たのであった。
しかし、一発目でちゃんと弾を命中させるとはな。
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「いやー大変だったっすね!」
何が大変だったってお前を沈める事だよ。まさか絞めて気絶させないと元に戻らないなんて。
「クエストご苦労だったな」
アカリの頭を撫でながらケイスケは自分等に労いの言葉を掛ける。
計算高いあのケイスケさんの事だからガノトトスも想定内だったのだろうか?
いや、何かおかしい。こいつはそう言う嘘を付く奴じゃない。
「実はな、本当のクエスト内容は白金魚三匹だったのさ」
こういう嘘は付くけど。
「は?! なんだそれ!」
「お前らへのご褒美だよ」
損したと声を上げるタクヤにケイスケは諭すようにそう言う。船の二階に上がると小さなパーティーグッズと共に、白金魚を使った料理が並べられていたのだ。サプライズ。
「めっちゃうまそー!」
これだけでタクヤ君ご機嫌よろしく。
「頑張った甲斐があったっす!」
ほぼお前の手柄だしなぁ。
「ケイスケが一人で作ったんか?」
「いやいや、皆の気持ちだ」
嫌な予感がする。
その予感は的中して、スケッチブックを掲げて『美味しいよシンカイ君も食べなきゃ!』とカンペを出してくるアカリの隣で、ヒールが泡を吹いて倒れ出す。
「……ひっ」
「ぎゃぁぁ?! カナタ触ってたのかよぉぉおお!!」
不幸だなぁ……ヒール。
いや、これが家族って奴で。幸せって奴なのだろうか。
「たまにはこんなクエストもあるが、どうだシンカイ。楽しいものだろ?」
「あぁ、せやな。『ガノトトス』なんかも釣れて楽しかったで」
そう言うと想像通り、ケイスケは唖然とした顔で固まる。
「今……なんだと?」
「ガノトトスなんかとも戦えたで。まぁヒールさんが無双してやっつけてくれたけどな」
やっぱり想定外か。そりゃあのアカリをモンスターと戦わせるなんて考えないだろう。
「あのオアシスにガノトトス……。普段は居ない所になぜだ……」
腕を抱えて何やら考え出すケイスケ。
どうやら想像以上に想定外の事らしいな。
「とにかくすまなかった。また皆を守ってくれたな、お前は」
「いや今回こそワイは何もしとらんで。ヒールさんのおかげや」
怖かったけど。
「まさかマ王か……?」
小声でケイスケが言ったそんな言葉を、自分は聴き逃さなかった。
———マ王……。
「今回の事は悪かった。また皆を頼むぞ、シンカイ」
そう言うとケイスケは三階に戻っていく、もう夜遅いしなー……ってか。
「ヒール泡吹いてるけど無視かいぃ!!」
「カナタは何も悪くない!!」
やっぱりカナタかよ!!
そんな光景が日常になりつつも。少し小さな事が頭に引っ掛かるのだった。
マ王か。マ王ディアブロス……。
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「クックククククク…………ブロォォオオオ!!」
第三章完でございます
戦闘シーンから逃げました。言い訳はあるのですがとりあえず逃げました。すみません。
真面目に戦闘シーンを掛けるのは次の次の章とかになってしまいます……あぁ、飽きられるんだろうなとか思ってる次第です。
どうしてこうなったんだろう。
ヒール君のお話でした。
おまけです。
【挿絵表示】
厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。