モンスターハンターStormydragon soaring【完結】   作:皇我リキ

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過度な疲労に強走薬

 

「お、来たかぁシンカイ!」

「お前に一つ頼みたい事がある」

 甲板でヒールに言われて親父の部屋の扉を開くと、親父とケイスケが同時にそう口を開いた。

 

 

「ヒールに言われたんやけど? なんかのクエスト?」

 普段クエストのメンバーに選ばれた時は、直接ケイスケが呼びに来てその場でメンバーを集め内容を聞くのだが、今回は違うらしい。

 と、なると重要なクエストなのか……? 今は足が思うように動かないから辛いぞ。

 

 

「クエストといえばクエストなんだがな」

 親父は大きな手で髪の無い頭を抑えながら控え目にそう言う。巨体で威厳もあるからそんな姿も様になるとかズルい。

 

「ダイダロスに着く前にも話したが、そろそろアカリやタクヤも狩りに参加させようと思ってな」

「あいつらまだ十四歳やで……?」

 一方親父と違って茶髪がフサフサのケイスケのその言葉に自分はこう返した。十四じゃまだねぇ?

 

「サナは十三歳だけどな」

 親父が横からそう口を挟む。いや、あれは……うん。

 

「勿論、無茶なクエストをやらせる訳が無いさ。だが、少しずつでも慣れさせて置きたいからな」

「まぁ……言い分は分かった。しかし、どーもそれとワイが呼び出された理由が頭の中でくっつかん。なんでワイ、呼び出されとるん?」

 

「お前にはアカリにヘビィボウガンを教えてやって欲しい」

 なんでやねん。

 

「待て待て……。ワイ、双剣使い。ここまでオーケー?」

 ねーちゃんにヘビィボウガンをうんと教え込まれたのは確かだ。だけど彼女が死んでからはほとんど触ってない。

 それこそ、一番初めにアカリを助けた時がねーちゃんが死んでから初めてで―――あれからまだ一度だって触っちゃ居ない。

 

 

 別にねーちゃんをまだ恨んでいるとか、そういう事じゃ無いんだけどな。

 帰って来なかった事は許せないけど、きっとそれなりの事情があったんだろう。

 サナとの一件で、大切な何かを守る事の大変さは身を持って思い知ったからな。

 

 だから、前ほどヘビィボウガンに対して思う事がある訳では無いのだが。

 たまに人の武器を借りたりするものの、この双剣だって随分と長く使ってるからな。愛着が沸くのだ。

 

 

 自分は双剣使いだと誇りたくなる程には。

 

 

「だが他にヘビィボウガンを使える奴は居ないんだ」

 と、ケイスケは困ったような表情でそう答えた。自分が二つ返事で「分かった」と答えてくれる予定だったのだろうか?

 ケイスケには珍しく計算違いが事が起こったらしい。してやったり。

 

「ヒールは? 一応ライトボウガンやってボウガンやで」

「頼んだんだがな。勝手が違うらしい」

 あ、なるほどだからヒールが呼びに来たのか。

 

「そーいや気になったんやけどな。この猟団って同じ武器使っとる奴がおらへんけど理由とかあるんか?」

「がっはっは! 良いところに気が付いたな」

 良いところなのか。

 

「まぁ初めは偶然だったんだけどな。長年やってる内にそれももう必然みたいになって来た。マックスみたいに居なくなっちまう奴も居れば、事情で猟団を抜ける奴も居た。でもなぁ、どれだけ経っても同じ武器使う奴が被って猟団に居る事は無かったぜ」

 つまり偶然って事ですね?

 しかし、自分が知らない元橘狩猟団の人間も多いのかもなぁ。考えてみると当たり前なのだが少し寂しい気もする。

 

「チャージアックスと操虫棍使いは今おらへんのやな」

「そうだなぁ。チャージアックス使いはタクヤと入れ替わりくらいで結婚して出て行っちまった。操虫棍使いは大分前にシーラって奴が居てだな———」

「親父、長話もなんだぞ?」

 親父の言葉をそういって遮るケイスケ。自分は気にしないのだがケイスケ達は忙しそうだ。

 

「それもそうか。もう着いちまうしな」

 え、どこに。

 

 

「話を戻すがお前しか居ないんだ、シンカイ。頼まれてくれないか?」

 リーダー様にそこまで言われれば断る訳にもいかないか。

 

「…………まぁ、教えるだけなら」

 それに、他でも無い相手はアカリだしな。自分に出来る事があるならしてあげよう。

 

「よし、期待してるぞシンカイ」

「がっはっは! ありがとうよ!」

 二人は安心したような表情でそう言う。血の繋がった大切な家族を任せるというのに何も心配してなさそうだ。

 いや、多分血が繋がってるとか繋がってないとか関係無いんだろうな———ここの皆は。

 

 

 それは自分も同じ訳で。

 

 

「ま、ワイに任せとき! なんなら今からでも構わへんで!」

 張り切ってそう言ってしまったのだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「まさか本当に今すぐ出発になるとは……」

 先ほど親父の部屋から出て十数分。防具を身に付けたパーティと共に自分は船の倉庫でそんな風にボヤいていた。

 ちなみに相も変わらず自分は装備なし。俗に言う全裸。服は着てるけど。

 

 

「だから急いどったんかケイスケ……」

 いや、しかし、気が早すぎる。もう少し落ち着いても良いと思う。

 

「ふぁ~……なんか疲れた表情してるけど大丈夫? シンカイ」

 そう言って心配してくれるのは赤髪でスタイル抜群のカナタ。今回のパーティの一人。そう言うカナタも美少女が人前であくびなんて疲れてそうな表情だがどうしたのだろうか?

 そんなカナタは初めにクエストに行った時と同じように、火竜リオレイアの装備を頭部以外身に纏い、武器もリオレイアの素材を利用したガンランス『オルトリンデ』だ。

 

 

「……大丈夫。多分」

「多分って……」

 今回のクエストの目標は鳥竜種ゲネポスの親玉、ドスゲネポスだ。確かに人間と比べると大きな生き物だが良く砂漠にいるアプケロスという草食獣の方が大きいくらいの中型モンスター。

 カナタと自分だけでも普通に勝ててしまうだろうし、クエストに問題は無いハズ。

 

「おいおい、そんなんで大丈夫かよ」

 そう言うのはパーティのもう一人。今回の目標であるゲネポスの装備を見に纏い、鉄の鉱石で出来た片手剣を背負った、黒髪でまだ幼さの残る顔立ちの少年———タクヤ。

 

 自分のルームメイトにして、男子では最年少。オセロのとても弱い、アカリに恋心を抱く、特技はブーメランの、色々と残念な少年だ。

 

 

「お前の頭よりは大丈夫や」

「どういう事?!」

 

『心配だよ?』

 そんな文字が書かれたスケッチブックを掲げるのはフルフル装備で、リオレイア亜種の素材を使ったヘビィボウガンを一生懸命背負おうとしているアカリだった。

 

「自分よりタクヤの頭を心配してやってくれ、アカリ」

「……?」

 首を傾げながらも、黒髪ショートでメガネの少女は数秒間だけ考えた後、首を縦に振る。

 そして、そのままのスケッチブックをタクヤに向けた。

 

「なんで俺がアカリに心配されてるの?!」

『シンカイ君がタクヤ君の頭が大変って言ってるから』

「シンカぁぁあああイ!!」

 不憫なりタクヤ。

 

 

 

「あ、まだ居たまだ居た。良かったぁ」

 タクヤで遊んでいると、唐突に上から降りてきて焦った様子でそう口を開くのはクーデリアさんだった。

 妹のサナより長くてサラサラな髪を後ろでひとつに纏めた彼女は、親父を除けば最年長の大人の魅力を持つ美女である。

 

 曰く、歳下には興味が無いらしいが。

 

 

「クーデリアさん?」

 して、結構な焦り具合が表情から受け取れるので、そう言ってから彼女の息が整うまで待つ事にする。

 どうしたのだろうか? まだ愛の告白には自分と彼女はそこまでの経験を積んでいないハズだ。

 うん、冗談は心の中でもよそう。バレたらサナに殺される。

 

 

「シンカイ君に渡す物があってね」

 あれ?! まさか妄想が現実に?! ラブレターとか貰っちゃうかな?!

 

「はい、これ」

 そう言ってクーデリアさんが手渡して来たのはハートのシールでフタをしてある紙———でわ無く、瓶だった。

 はは、瓶の中にラブレターなんてシャレた真似する人だなぁ。なんて思いながら瓶を受け取るも、どう考えてもその瓶に入っているのはラブレターではなく黄色い液体である。

 

「なんや……これ?」

「強走薬グレート」

 マジか。

 

 

 

 強走薬とは。

 ある種の作用で(詳しく理由は知らない)筋肉への血流を非常に良くして栄養を送り付ける事により、筋肉の疲労を即座に回復。

 さらに筋肉の疲労を抑え、人にもよるが効果が効いている間は全速力で走り続ける事も可能という、摩訶不思議———危ない薬である。

 

 

 

「サナが貴方にって。さっきまで部屋にこもって調合してたの」

 そういや、昨日寝てからサナの姿を見てないと思ったら引きこもってたのか。これを作るために。

 

「なるほど……」

 サナの事だ、きっと考えてこれを作ってくれたのだろう。

 正直言ってこんな得体の知れない危ない薬飲むのは気が引けるが、サナの考えなら間違っては無いハズだ。

 

「ありがとう、って伝えといて貰えます?」

 強走薬を受けっとって、グイッと一気に飲み干してからクーデリアさんにそう伝える。

 絶対に糞マズイと思っていたのだが、そんな事は無く。程よい酸味と甘みが口の中に広がって———ハチミツみたいなトロッとした食感。

 

 あの鬼教官様。態々味の調整までしてくれたらしい。サーナリア様かよ。

 

 

「ふふ、伝えておくわ。あ、タクヤ君にはこれ、アカリちゃんにはこれで、カナタちゃんにもはい」

 クーデリアさんは自分に微笑みかけてくれた後、三人にも同じようにアイテムを渡す。

 しかし全部強走薬グレートという訳では無く、カナタには元気ドリンコ、アカリには煙玉、タクヤにはこやし玉が用意されていた。

 

「私昨日サナと夜遅くまで話してたから……眠いの知ってて」

 そう言いながらカナタは元気ドリンコを飲み干す。そういやさっき、あくびしてたな。

 

「アカリの煙玉はヘビィボウガンの位置どりをする為のアイテムか」

『サナね、昨日の夜からずっと起きてて今日船に乗って部屋に入ってからもずっと調合の作業してくれてたんだよ!』

 アカリはそう書かれたスケッチブックを誇る様な表情で抱えていた。親友の頑張りを直ぐ隣で見ていたのだ、誇りたくもなるだろうな。

 

『でも、ずっと寝てないから心配』

 しかしアカリは優しいからそう思っているのです。サナって本当頑張り過ぎる奴だよなぁ。

 

「全くサーナリア様々って感じやな。ここまでやってもらったんや、良い結果出して戻らなかんなぁ」

 アカリを撫でながらそう言う。サーナリア様万歳。

 

「ふふふ、サナもそこまで言ってもらえれば喜ぶわねきっと。今頃は部屋で寝てるだろうけど、皆が帰ってくる頃には起きてるから、クエストの成功を伝えてあげてね」

 自分の事のようにクーデリアさんは自分達のサナへの評価を喜んでいた。

 大切な妹だしな。当たり前か。

 

 

「んじゃ、一狩り行こうか! クエストスタートや!!」

 いつものケイスケのように掛け声をあげて倉庫の壁を開き、砂の大地に足を踏み入れる。

 まぁ、相手はドスゲネポス。万に一つも無いだろう。帰ったらサナの頭を目一杯撫でてやろう。

 

 そんな事を考えながら、クエストに出発するのであった。

 

 

 

「いや、なんで俺だけ『こやし玉』なの?! うんこなの?! 三人共意味ありげなアイテム貰えてるのになんで俺だけこやし玉なの?! おいちょっと誰かツッコミ入れろよ!! ………………サナぁぁあああ!!!」

 不憫なタクヤ……。

 

 

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