モンスターハンターStormydragon soaring【完結】   作:皇我リキ

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襲撃

 

 辺り一面を真っ白な煙が包み込んでいる。

 まるで霧が掛かっているような風景だが、本物の霧ではない。

 

 

 もっとも、この砂漠ではオアシスのある所でたまに発生するので異常な光景では無いらしい。

 その証拠に眼前に群れる今回のクエストの標的は、その煙の中で違和感を感じる事無く、ゆっくり歩く自分達に気が付かないご様子。

 

 

 煙玉。文字通り使用すると辺り一面に霧のような煙を広げられるアイテムだ。

 煙には匂いを吸収する作用もあって、大抵のモンスターはこの煙の中に身を潜めたハンターを見つける事が困難になる。

 

 そんな物を用意してくれたサーナリア様に感謝しつつ、自分達は各々の持ち場にゆっくりと配置した。

 

 

 自分とアカリは目標から死角になった岩場。タクヤとカナタは目標の背後に陣取る。

 

 煙玉の効果時間はそんなに長くは無い。この煙が晴れた時が、戦いの幕開けとなるだろう。

 

 

 段々と薄れていく煙の中、アカリの腕に力が入るのが分かった。

 

「……大丈夫」

 そんなアカリの肩を叩いて、そう伝える。

 

「……んぅ」

 心配そうな彼女。当たり前か、初めての狩りなのだ。

 

 

「一人やないで、ワイがおる。カナタもタクヤもおる。アカリならやれる」

「……ん!」

 そう言ってやると、アカリは力強く頷いてヘビィボウガンを構えた。

 

 

 ———煙が晴れる。

 

 

「たぁっ!!」

 先陣を切ったのはカナタだった。走って目標に向かいながら背負った得物に手を掛ける。

 

「ギャィッ!」

 群れの内の『一匹』がそれに気が付き目標とカナタの間に立ち塞がった。

 

 その一匹にカナタは迷い無くガンランスを抜刀し押し付ける。吹き飛ぶ小柄な鳥竜種。

 

 

 ゲネポス。ランポス系の亜種で緑とオレンジの縞模様に嘴から飛び出した二本の牙が特徴的な小型のモンスターだ。

 

 

「ギィルル……ギャィッ!! ギャィッ!!」

 その寸劇の後、カナタに気が付いた標的は姿勢を上げ高らかに吠える。

 

 ゲネポスは群れを作って暮らすモンスターだ。その群れには時折、強く身体も発達した個体が現れる事がある。

 普通のゲネポスより一回り大きな体躯に、大きく自らを主張する一対のトサカ。強力な麻痺毒を有する群れのボス———ドスゲネポス。

 

 

 煙が晴れたおかげで件のドスゲネポスが率いる群れの全貌が明らかになる。

 ベースキャンプの岩場付近に屯する群れのゲネポスはこの場に居るだけでも十五匹。

 カナタが一匹屠って減らしたが、元々がかなり大規模な群れだ。未だに視界にはゲネポスが満遍なく映っていた。

 

 なるほどギルドがクエストを出す理由も分かる。

 

 

「う、うぉぉ!」

 続いてタクヤが岩陰から走り、標的に向かう。

 だが、やはりその間にゲネポスが入ってタクヤをも拒んだ。命を張ってボスを守るその姿勢は賞賛に値すると思う。

 

「この!」

 目の前に立ち塞がったゲネポスの頭にタクヤは片手剣を叩き付ける———が、浅かったようでゲネポスは怯むだけに終わって姿勢を低くしタクヤを威嚇した。

 

「ギャィッ!」

「……っ」

 ゲネポスに盾を構えるタクヤ。分からないでも無いが、この数相手にそれは間違いだ。

 まぁ、ハンター初心者からすればゲネポスとてかなりの強敵だ。身構えてしまうのもやはり分からないでも無い。

 

「怯んだらダメ! タクヤ!」

 そう注意しながら飛び込んでくるゲネポスを盾でいなし、カウンター気味に砲撃を食らわせるカナタ。これで減った数は二。

 

「……っ! うぉぉ!」

 カナタの声を聞いて、タクヤはもう一度片手剣に力を入れた。勢いに任せた振り下ろしだが、ゲネポスの頭を砕くにはそれで十分。

 

「ギェァ……ッ」

 力の限り振った剣撃でゲネポスは吹き飛び、頭から地面に落ちて絶命する。タクヤの記念すべき初狩りだろう。それで三匹。

 

 

「ふぅ……」

「落ち着くの早すぎ! 後ろから来る!」

 数匹のゲネポスに囲まれながらもタクヤにそう注意するカナタ。多分カナタならそのくらいの状況大丈夫だろうが、問題はタクヤだった。

 

 一匹仕留められて気が緩んだのか、倒れたゲネポスを見ながら固まっていたタクヤの背後からゲネポスが飛びかかる。

 

 間に合わず、タクヤの頭上からゲネポスは自慢の麻痺毒を———浴びせる事は無かった。

 タクヤ目掛けて跳躍した一匹のゲネポスは威力の高い銃弾によって空中で軌道を変える。隣で撃ったアカリの通常弾が頭部に直撃したらしい。

 

 ゲネポスはその一撃が急所に当たったのかその場で即死。タクヤも無事だ。

 

 

「ナイスや、アカリ」

「……ん!」

 アカリは何というか、目が良い。いや、物理的には視力は悪い筈なんだが。

 見るべき場所を見る才能があると思う。耳が聞こえにくい分、普段そういう所でカバーしてるからか。

 

 

 

 さて、これで十五匹とボスが一匹だった群れが四匹減った訳だが、見た目ではそんなに変わらない。ボスに攻撃を与えるのは難しいだろう。

 

 ゲネポスを全滅させるのも手ではあるが、こちらの体力が持たないし長期戦になればこの場に居ない群れの仲間も呼ばれてこちらが不利になるだけだ。そもそも生態系的に宜しくない。

 

 だからここは一点突破。考えはカナタも同じはず。

 

 

「タク! 私が道を切り開くからドスゲネポスに斬り込んで!」

「お、俺?!」

「アカリに良いところ見せたいでしょ!?」

 そんな会話をしながらカナタ自信がドスゲネポスに接近する。竜撃砲のトリガーを引きながら。

 

「「「ギャィッ!」」」

 勿論そんなカナタを易々とボスに近付けさせる統率力では無いらしい。何匹ものゲネポスはボスの前に立ち塞がり、カナタを牽制する。———だが、それがカナタの狙い。

 

 

「……喰らえ!」

 刹那、彼女の眼前を爆炎が包み込んだ。ガンランスの奥義とも呼べる竜撃砲、それをボスを守る為に纏まったゲネポス達に浴びせてやる。

 

 三匹がその場で絶命。二匹が吹き飛び、文字通り開かれたドスゲネポスへの道。

 

 

「う、うぉぉっ!」

 切り開かれたその道をタクヤは全力で走った。今ならドスゲネポスに一太刀浴びせられる。

 

 カナタはその背後で振り向いて、後ろからタクヤを襲おうとするゲネポスを盾で防いだ。

 横から回り込み、ボスを守ろうとするゲネポスはアカリが放った銃弾が絶命させる。

 

 

「ギャィッ!!」

「喰らえぇぇ!!」

 二人の援護もあってついにドスゲネポスに接近。良い根性見せるじゃないか、タクヤ。

 

 そのまま走った勢いも乗せた斬撃をドスゲネポスに叩き付けるタクヤ。ここまで爆煙に紛れ込んでいた事もあってか渾身の一撃はドスゲネポスに直撃する。

 

 

「ギィ……ッ」

 流石のボスも身構えもせずにそんな物を喰らって怯んだ。その隙にタクヤは腹部に切り上げを叩き込む。

 

「一旦離れる!」

「お、おう!」

 カナタの言葉を聞いてタクヤはドスゲネポスから距離を取った。タクヤもやれてるし、それ以上にカナタのカバーが完璧だ。

 

 自分はというと何もしてない。いや、それは良いんだけど……うん。

 

 

「……ギャィッ!! ギャィッ!!」

 今の攻撃が聞いたのか、ドスゲネポスは高らかに吠え自らの怒りを露わにした。順調ではあるがここからが本番だ。気を抜けない。

 

 

「よっしゃもう一発決めてやるぜ!」

「慎重にね?」

 カナタが周りのゲネポスを引きつけ、隙が出来たところでタクヤはドスゲネポスに攻撃を仕掛けて行く。

 たまにカナタのカバーが追い付かない事もあるが、そこは上手くアカリがカバーしてやっていた。教える事無いんだけど。上手いなアカリ。

 

 

 そしてやっぱり、順調に進んでいる。このまま退治出来る。———そう思っていた。

 

 

 

「……ギャィッ!」

 ドスゲネポスはいきなり踵を返し、足を引きずってこの場から逃げ去ろうとしだした。追ってからまた戦っても良いがここで畳み掛けた方が楽なのは間違いが無い。

 

 タクヤも同じ考えだったのか、足を引きずって逃げるドスゲネポスに向かっていく。

 

 

 

 風向きが変わった気がした。

 いや、実際に変わった。比喩表現でも何でも無い。さっきまで感じられなかった風を今感じるようになった。

 

 問題はそこじゃ無い。

 その風に乗った匂い。血の匂い。恐怖のにおい。

 

 

 一番初めに気が付いたのはアカリだった。

 

 

「……っぁ?! し……ぃくっ!」

 肩を叩かれ、アカリが指差す方に眼をやる。太陽を遮る、黄色に青の縞模様。

 

 飛竜の祖先の特徴を受け継いだ骨格、件のマ王相手でも怯まずに自らの命の限り戦う強暴性は一月前に見た瀕死の同種からも伺える。

 比較的広い生息域と捕食の為に神出鬼没でなにより好戦的。あの空の王等に肩を並べる危険度を持つモンスター。

 

 

 絶対強者———ティガレックス。

 

 

 

 他のモンスターの乱入を考えていない訳では無かった。

 

 ただ、この大規模な群れの中に突っ込んでくる程の好戦的なモンスターがそこまでいるかと言えば答えは限りなくゼロに近い。

 そもそもこのベースキャンプ付近は普段モンスターが近付かないエリア。その乱入を予測出来る奴はそう居ないだろう。

 

 

 いや———自分だけは違ったハズだ。アカリの周りにゲネポスが来る事は無かったし、タクヤもカナタのおかげで順調だった。

 なら自分は周りの警戒をするべきだったのでは無いか? そんな後悔も一瞬、その存在は滑空するように飛んで逃げるドスゲネポスとタクヤに襲い掛かる。

 

 

「待ちやがれドスゲ———」

「タクヤ!」

 ティガレックスに気が付かず、ドスゲネポスに片手剣を振るおうとするタクヤをその場から突き飛ばすカナタ。そこまではまるで時が止まったかのように遅く見えた。

 次の瞬間、突き飛ばされて訳が分からなそうな表情のタクヤの眼前を巨体が通り過ぎる。剛腕な前脚に轢かれ、弱っていたドスゲネポスはそれだけで息を引き取っていた。

 

 

「———ぇ」

 

「くっそ……ッ!!」

 カナタはどうなった?! ティガレックスが通り過ぎた場所に残っていたのはタクヤだけ。

 ドスゲネポス諸共蹴散らされたゲネポス達はボスの生死が目で見ても分かったのか一斉にバラバラに逃げ出していく。

 

 その動きにも視線が散ってカナタの所在が掴めない。

 そして、彼女が何処に居るのか分かったのは『声』が聞こえてやっとだった。

 

 

「———っあ゛あ゛あ゛っ!!」

 悲鳴。激痛に人が本能的に発してしまう『声』。

 

 その声の主は———カナタはティガレックスの真下に居た。

 

 

 強靭な前脚に踏み付けられ、防具が軋む音がゲネポスの鳴き声に混ざって聞こえてくる。

 

 

 生きている。

 この絶望的な状況でまず頭に浮かんだのはそんな事だった。

 

 まだ生きている。ならなんとか出来る。まだ助けられる。死んで無い。

 

 

 

 考えろ。今出来る最高の選択を今直ぐに実行しろ。

 考える前に身体は動いていて。アカリを一人にしないように手を掴んで走っていた。急な事でアカリはヘビィボウガンを落としてしまう。

 

「……っぁ?!」

 そんな行動に驚くアカリだが、悪いけど何かを言ってやれる暇が無かった。

 自分達に構ってる暇も無く逃げ回っているゲネポスと反対側に走る。

 

 

 考えろ。何がある?

 回復薬———意味が無い。閃光玉———ダメだ、ティガレックスがこっちを向いて無い。

 ブーメランとかこの双剣を投げるか———ティガレックスが反応するとは限らない。切り込むとしても距離が間に合わない。

 

 

 何か……何か……何か何か———

 

 

 ブーメラン……?

 

 

 ——いやなんで俺だけ『こやし玉』なの?!——

 

 唐突に頭に浮かんだそんな言葉に自分は口角を上げざるおえなかった。

 サーナリア様、帰ったら結婚してくれ。

 

 

「タクヤ!! ティガレックスにこやし玉なげろ!!」

「は?! え?! うぇ?! なんで?!」

 大声でそう叫んだ自分を気にもとめずに、ティガレックスは抑え込んだカナタにその大きな顎を近付けていた。

 間に合うか?! いや間に合わせろ!!

 

「早く!!」

「お、お、おぅ!」

 尻餅を着いていたタクヤを立たせて急かせる。大丈夫だ、お前のブーメランのコントロールなら外さない。

 

 

「こ、このぉ!」

 ティガレックス一匹分の距離からこやし玉を投げるタクヤ。それがヒットした瞬間にやっと自分はタクヤの居る場所まで辿り着く。

 

 

「グェェッ?!」

 こやし玉ってのはモンスターがとても嫌がる匂いを放つ煙玉の亜種みたいなものだ。勿論人間が嗅いでも普通に臭い。

 ハンターを拘束しているモンスターは拘束しているハンターに集中している為、突然そんな匂いを受けて———

 

 

「……っぁ゛」

「ギェェッ?!」

 ———このように怯んで拘束を解く事が殆どなのだ。

 

 もうサーナリア様には足を向けて寝られないな。式場はどこしようか。カラドボルグの巨大サボテンの前が良いかな。

 

 

「タクヤ、アカリを頼む!」

 そう言ってタクヤの返事を待たずに走った。

 ティガレックスが怯んでいる少しの間にカナタとティガレックスの間に入り、カナタの様子を伺う。

 

 顔色悪いし所々出血してる……が、生きている。

 大丈夫だ。リオレイアの素材を使ったこの防具はそんじょそこらの攻撃で使用者を見放したりはしない。

 

 

「立てるか?!」

「……ぅ……ぁ」

 聞くまでも無い……か。

 

 

「ギェァァァ!!」

 せっかく獲物を仕留めようとしたのにそれを邪魔されて苛立っている。そんな表情。

 

 

 さて、ここまでやってしまったがカナタが負傷した状態で残るパーティはアカリにタクヤに自分。はっきし言って無理。

 

 そんな絶望的な状況かと思いもしたがするべき行動は直ぐ様考え付く事が出来た。

 

 

 多分、考える前に身体は動いていた。

 思考から意識を戻すと眼前には自分の手から離れた閃光玉。

 瞬間、強力な閃光が辺りを包み込んだ筈だ。自分は眼を瞑っていたので分からないが。

 

 

 閃光玉。小さな球体に閉じ込めた光蟲がその球体から脱出する際に発する光を、球体が拡散し強力な閃光を発する事が出来るアイテム。

 その光は生き物の眼を十数秒間焼く事が出来る程で、眼の前のティガレックスもしかりハンターのタクヤでさえその閃光を受けて『目が見えない状況』になる。

 

 

 タクヤは交わせなかったけどなんとかアカリは眼を閉じてくれていたらしい。

 

 後は簡単だ。ここは元々ベースキャンプエリア。ティガレックスの目が潰れている内に、細い岩場の登り場を登っていけばモンスターが入ってこれない高台のベースキャンプに辿り着く。

 

 

「アカリ、頼むで」

 ティガレックスに聴覚だけで場所を悟られないように小さくそう口にしてから、自分はカナタを背負う。

 一方のアカリは眼が見えなくなってあたふたしているタクヤの手を取って自分の思惑通りベースキャンプに向かってくれた。

 

 さて、防具が重くて硬いけどなんとか背負って———登り場へ。

 

 

 

「ギャィアアアア!!!」

 そんな所で、視力の戻ったティガレックスは自分達を見失って行き場の失くした闘争本能を高らかな咆哮に変えて上げていた。

 まともに戦って勝てる相手でも倒せる相手でも無い。ディアボロス戦で自分の未熟さは良く分かったからな。

 

 …………なんとか、なったか。

 

 




少し戦闘シーンをこってみました。久しぶりの狩り描写ですね。
とりあえず、緊張感のあるお話になりそうです……。

厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。
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