モンスターハンターStormydragon soaring【完結】 作:皇我リキ
「ギィェェァァァ!!」
自分とシーラを見付け、咆哮を上げるティガレックス。まるでそれが合図のように戦いは再開した。
「はぁぁっ!」
自分とシーラは左右二手に分かれてティガレックスを囲む。始まる前にコソッと作戦開示をしておいた。
ティガレックスの主な攻撃はその強靭な前脚を生かした物が多い。だからティガレックスの前方は常に危険が伴うのだ。
そこで自分達二人は常にティガレックスの左右に分かれるようにして、攻撃を集中させないように位置取りをする。
もし自分の方をティガレックスが向くようならそこは回避に専念する事と決め、戦闘を開始した。
「せぇぇい! やぁ!」
薙刀を軽快に振り回すシーラ。アレ……太刀の動きじゃ無いな。
なんだろう。あの振り回し方をする武器使いは猟団には居ない。……まさか操虫棍か?!
「おらっ!」
そんな疑問を頭の片隅にティガレックスの足を双剣で斬り付ける。
二本で突いて切り上げ切り下げ回転切り。
操虫棍は猟虫という大きな虫と棍を同時に操る武器のハズだ。
その最大の特徴は二つで棍を使った、自分が先日練習していたような棒高跳びでの空中からの攻撃。
そしてもう一つは猟虫による打撃とその虫がモンスターから取ってくる何らかの力により自分の力を高める、この二つ。
しかし彼女はその片方———猟虫を連れていなかった。
「ギャィアアアア!!」
左右からの攻撃に初めこそ戸惑っていたものも、ティガレックスは一人に狙いを定める事に決めたらしい。
その狙いはシーラで、彼女に振り向き前脚に力を溜める。
「突進が来る!」
背後からそう注意しながらティガレックスの後ろ脚に攻撃をし続ける。
その場で組んだパーティだから自分はシーラの実力というのを分かっていない。だから、正直不安だった。
だって自分の落とし穴にハマる奴だぞ?
「おぉ、来るか!」
そう意気込むとシーラは薙刀の刃では無い方を地面に叩き付け、それを軸に空へ高く飛んだ。昨日は自分もそんな行動を繰り返していたから、その動きがかなり綺麗な物だと分かる。
次の瞬間空に交わしたシーラの真下をティガレックスが通り抜ける。そんな交わし方があるのかと感心した。
「Uターン来る!」
着地した彼女はそう叫ぶ。
自分は彼女の様に飛ぶ事も、横に飛ぶ事すらままならない。
今のティガレックスの突進は避けられる程度だが———奴が怒り状態になったらどうする?
いや、戦いながら考えろ。今はカナタの状況的にも考えている時間は無いんだ。
シーラは飛んで、自分は横に精一杯走って突進を交わす態勢を作る。
しかし、ふとシーラを見てみるとジャンプのタイミングが速すぎてティガレックスの突進に向かうような形になってしまっていた。
「シーラ!!」
マズイ。そう思って叫んだ瞬間彼女は思いも寄らぬ行動に出る。
「っしょっと!」
空にいるシーラをティガレックスが轢く寸前でシーラは空中で態勢を整えて、なんとティガレックスのその背に乗り移ったのだ。
「ギィェェァァァ?!」
捉えたハズの相手に背を捉えられ、一旦突進を辞めてから暴れまわるティガレックス。
しかしシーラはしっかりと甲殻を掴んで突進よりも大きく動くティガレックスの背から落ちる事は無かった。
「ギィェェァァァ……ッ!」
「ほーらドゥドゥ、落ち着きましたねぇっと!」
流石にスタミナも切れたのか、暴れまわるのを辞めてからその場で動かなくなるティガレックス。
その背に乗ったシーラはハンター御用達の剝ぎ取りナイフを取り出して、ティガレックスの背中に突き立てる。
「ギィェェ?!」
「ほらほら振り落とさないと!」
何度も何度も剝ぎ取りナイフでティガレックスを攻撃するシーラ。
流石にティガレックスも黙って攻撃を喰らう訳も無くまた暴れまわるが、シーラはしっかりと甲殻を掴んでどれだけ暴れられても離れなかった。
「こいつでどうだ!!」
そして何度目かの攻防。鱗を割って甲殻を剥がしたその先にある物にシーラはこれまで一番の力で剝ぎ取りナイフを突き刺した。
「ギャィアアアアエエエ?!」
自身の肉にまで達した攻撃は流石のモンスターも痛みを我慢出来なかったのだろう。
ティガレックスは身を翻して激痛に身体を怯ませる。バランスを崩したその身体は勢いよく横転し絶好の攻撃のチャンスへと化した。
「やるやんかシーラ!」
「まーね、伊達にハンターやってませんよっと!」
その攻撃のチャンスに二人でそう掛け合いながらティガレックスに自らの得物を叩き付ける。
こんなに強い操虫棍(虫いないけど)使いなら是非我が狩猟団に入って欲しい所だ。そのポストも空いているハズだし!
無事この狩りが終わったら誘ってみよう。親父やケイスケも彼女なら喜ぶんじゃ無いかな。
そんな事を考えた所でティガレックスは起き上がって一旦態勢を整えた。
そこから次の行動はバックジャンプ。また血管が充血して浮かび上がり、その怒りを露わにする。
「ギャィアアアア!!」
この時点で自分は横に走った。出来るだけ岩がある場所に位置取って突進を受けないようにする為に。
閃光玉は次使えば最後。大切に使わなければ。
単調だが強力な行動。やはりさっきとは比べ物になら無い速度の突進の矛先はシーラだった。
「シーラ!」
「当たらぬよ!」
それを飛んで交わすシーラ。ティガレックスは止まらずに前脚を軸にして方向転換し次はこっちに向かって来る。
そのままだと岩にぶつかるだけだけど……?
「シン君逃げろ!!」
「———なっ」
驚くべきなかれ、ティガレックスは小さな岩など気にもせずにその強靭な前脚で砕きながら突き進んできたのだ。
「嘘だろ?!」
化け物かこいつ。いやモンスターなんだけど!
なんとか横に転がって回避。岩でティガレックスが減速してくれたおかげで交わせたが次は無いぞどうする?!
「Uターン来る!!」
「マジかよ……っ!」
次は無い。飛べ、サナにアレだけやらされた事を無駄にするな。飛べ……っ!
そう身体では分かっているのに、身体は言う事を聞いてはくれなかった。
「……っ!」
ティガレックスに轢かれるほんの一瞬前、身体が自分の意思とは関係無く大きく横に飛んで行く。
勿論、無意識に身体が動いた訳では無かった。
瞬間、鈍い音と声にならない悲鳴が耳を貫く。
「シーラ!!」
自分を押し退け、代わりにティガレックスの猛攻を受けたのは彼女だった。なんでだ、なんで今会ったばかりの自分の為に……っ!
「……ぐぅぁ。……シン君…………後ろ!!」
地面を転がってもなお人の心配をするお人好し。上手く受け身を取ったのかそこまでダメージがあるようには見えない。
そしてティガレックスの暴走はまだ止まらないらしい。次はもうどうしようもない。
考えろ。
「……ったく」
ふと、ある物が視界に映った。
重りになる双剣を地面に捨てて、『それ』を拾いに行く。
「今日も今日とて人に助けられっぱなしだな……全く」
それは長い棒状の物。薙刀。
「ギィェェァァァッ!!」
思い出せ、昨日の特訓を。何度も失敗したが頭から落ちる事くらいなら出来た。
自分で出来なくても、昨日はこれさえあれば飛べた!!
「おぉらぁぁっ!」
「……おぉ!」
さっきシーラが助けてくれた時に落とした『操虫棍』を使い、昨日散々やった棒高跳びの要領で飛んで、ティガレックスの真上を通る。
「……ってぇ」
頭から地面に着地する。こればかりは本当に無理だが、何とか避けれた! サーナリア愛してる!!
「まだ油断しちゃダメ! 次が来る!」
その言葉に通り過ぎたティガレックスを視線が追う。まだ走り続けるのか、最早暴走だ。
大丈夫、コツは掴んだ。
集中。
「ギィェェァァァ!!」
走って来るティガレックス。今度は初めの時のようにその動きはゆっくりに見える。
ティガレックスが自分にたどり着く前に薙刀を軸に空に身を移しす。瞬き一回分の時間で自分の下に入ったティガレックス。落下する身体。
薙刀の刃を下にして、そのまま降下。さっきシーラが与えたダメージの残るその背に薙刀を突き立てる。
「ギャィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!?」
直接肉に刃を突き立てられ、ティガレックスはこれまでで一番の悲鳴を上げながらその身を投げ出した。
自分の身体も一緒に飛ばされて地面を転がるが、上手く受け身を取って直ぐ立ち上がる。
「や、やるじゃんシン君!」
「ったり前やろ!!」
よし。
「「畳み掛ける!!」」
シーラも自分も、お互いの元々の武器をクロスするように投げて一緒に意気込みを言葉にする。
初めての狩りなのにこうも通じ合えるとわな。是非とも我等が狩猟団に入って欲しい物だ。
そして痛みにもがき苦しむティガレックスを言葉通りに畳み掛け、その場からティガレックスが動く事は無くなった。
かなり強かったな……シーラが居なかったらここに倒れているのは自分だっただろう。
「……っし、早くカナタの所に行かないと」
「素材剥ぎ取らないの?」
「んな事してる場合とちゃうからな。シーラも来てもらってええか? 人手が欲しいんや」
「んー、カナタなら大丈夫だと思うよ?」
ドユコト……?
「それにだなぁ……モンスターを狩ったら剥ぎ取るのが礼儀だよ。私達ハンターはモンスターと敵対している訳じゃ無い。この戦いはどちらも自分達が生きる為に全力で行った物。だから勝者はその誇りを手にする必要がある」
そう語るシーラのその言葉は説教というよりは先輩ハンターが志しを話すような感じだった。
君にはこうなって欲しい。そんな願いの籠った言葉。
「そ、それは……」
正直、モンスターが悪だとは思わないがそこまで感傷的に考えた事は無かった。そもそも何も考えていない。
でも、その言葉を聞いて改めて思う事が一つだけあった。
「こいつも……生きるのに必死だった…………か」
このティガレックスだけじゃ無い。初めて戦った大型モンスターのゲリョス、訓練所のドドブランゴ、マ王と戦って傷付いたディアブロス。
皆生きるのに必死で戦っていた———それはハンターである人間もモンスターも同じ。
アカリの母親、ガイルの恋人、サナの兄も……自分のねーちゃんも。生きている者は皆必死だったハズだ。
「お前も……そうなのか。……せやろな」
そう言って、全力で戦い合った好敵手に剝ぎ取りナイフを当て付ける。
「……うんうん」
まぁ……彼女の言う事が少し、分かった気がする。
「よし、それならカナタの所に戻るかな。シーラも来てくれへんか? 狩りまで手伝って貰って悪いんやけど……ちょっと人手が欲しいんや。お礼ならするで」
なんて、彼女をキングダイミョウに連れて行ってそのまま猟団に入れさせる為にそう提案する。
「ほぅほぅ、じゃぁ急いでカナタの所に行こうか」
「おぅ! ついて来てくれ!」
よし、作戦大成功! これは皆喜ぶハズだ。いつも世話になっている皆に少しは借りが返せそうである。
そんな訳で、自分は動かなくなったティガレックスを背にベースキャンプに走るのであった。
「……良い仲間が出来たね、カナタ。私は安心だよ」
同時更新でございます。こちらは少し伸びが悪いので、頑張りたい。
この章はもう一話ありますね。結構序盤から書きたかったお話なので、楽しく書けました。
こっちでも小さく宣伝しておきます。今月中旬に新しい作品書き始めますので、お暇でしたら……是非!
また来週お会い出来たら嬉しいです。