モンスターハンターStormydragon soaring【完結】 作:皇我リキ
意気込んだ。そこまでは良かった。
無駄にピッケルを二本持ち、岩の割れ目という割れ目を叩きまくる。
しかし出てくるのは鉄鉱石や砥石、そしてフルフルベビーばかり。
アカリは洞窟に着いて直ぐに二十個の氷結晶を集め終わったというのに、だ。
なんの違いがあるのだろうか。日頃の行いなのだろうか。
「もうマジでフルフルベビー見とう無い!!」
「ケイスケ君、そろそろ良いんじゃ無い?」
妥協しても良いのでは? ナタリアは自分を哀れんでそんな事を言ってくれた。
ちなみに洞窟に入って二時間ほど。自分以外の三人はすでに氷結晶を集め終わっている。
「そうだな、そろそろ引き上げるか。この洞窟にそもそも氷結晶があまり無いみたいだしな」
そんな慈悲の言葉。ケイスケ様一生着いて行きます。
「っしゃぁ!! そうと決まればとっとと帰ろう」
もう洞窟の外は夜で暗いハズだし。あまり遅く帰るのも色々と心配だ。
「アカリ、帰るぞ」
「……んむぅ」
フルフルベビーと戯れていたアカリは、抱っこするフルフルベビーを少し不機嫌そうな表情で岩の割れ目に返す。
本当に好きなんだな……。アレのどこが可愛いのだろうか。
「さて、とっとと帰ってアニキに着いてやろうやナタリア」
「わ、私は良い———ってシンカイ君後ろ!!」
帰りの支度をしていると、ナタリアは突然そんな事を言って怖がらせようとしてくる。
あのなぁ……流石に突然そんな事言われても、まるで怖く無い。アニキの事でからかった仕返しなのだろうが、甘々である。
「あー悪かった悪かった。でもなーナタリア、自分の気持ちに素直になるのも時に———」
「危ない!!」
そう言ってナタリアは自分の方に飛び込んで来る。
そして自分を押し倒して、硬い洞窟の底を気にせずにゴロゴロと転がった。
え?! えぇ?! た、確かに素直になれとは言ったけど!!
ま、まさかナタリアが自分を抱き締めるほど好きだったなん———いやそんな訳無いか。
地面を転がる最中に、地面とナタリアとの間から覗いた白い影。姿勢を戻そうと頭を上げた瞬間その全貌が明らかになる。
そこには巨大なフルフルベビーが居た。
「うぉぉ?! お化け?!」
「違う違うフルフルフルフル!!」
超巨大フルフルベビーだと思ったそれは飛竜の特徴よろしく、一対の翼が備わっている。
幼体と同じく大きく裂けた口だけがある頭と白くて不気味な身体が特徴的なそのモンスターこそ、今日自分を悩ませてきたフルフルベビーの成体フルフルである。
「うぉぅゎっ、キモッ」
「ヴゥゥ……フグフグフグ」
音も無く背後に立っていたフルフルは突然目の前から消えた得物を探すためなのか、辺りを探るような仕草をしている。
「い、いつのまにおったんやこいつ」
「分かんない……多分天井から降りてきたんだけど」
「成体が居たか……どおりで数が多い訳だ」
荷物をまとめていたケイスケが隣に来てそう語った。なるほど、ここは奴の縄張りって訳か。
フルフルは大きい。それはもう、本当にフルフルベビーが大きくなったらこうなるとは信じられないくらいに。
しかし、フルフル自体は戦おうとしなければそれほど脅威のあるモンスターではない。
まず、動きがそこまで早く無いからさっきみたく奇襲でも受け無い限り簡単に逃げる事が出来る。
洞窟が広い事も手伝ってこそまで緊張感がある状況では無かった。———それに。
「はぅぁぁ……」
アカリがとてつも無い笑顔でフルフルを見ていた。え、成体もイケるの。アレも可愛いの?
「あ、アカリ……? 帰るで……?」
『なんで?!』
文字が辛辣なんだけど。
『もふもふしたいよ!』
「落ち着けアカリ!! あいつモンスターやから! アイルーとかじゃ無いから! 普通に危ないから!」
『あんなに可愛いのに?』
何が何処が可愛いの?!
「あ、アカリちゃん。もう夜遅いし、ね?」
これにはナタリアも苦笑いでそうアカリを諭す。
しかし、アカリは一向に態度を変える事無くただただフルフルをアイルーを見つめる様な眼で見ていた。
「ケイスケさんケイスケさん、兄貴やろ? なんとかしてや」
「あーなるとアカリはなぁ……」
「危ないやろ。ベビーならともかく」
ベビーも辞めて欲しいけど。
「アカリ、クエストは終わりだ」
「……んむぅ」
ケイスケがそう言うと、アカリはしぶしぶと荷物を片付ける。
真面目なアカリだからクエストという言葉には弱かったようで。
「よっしゃ帰ろうか」
そう言った瞬間だった。
「ヴォォァァァアアアア!!」
人の悲鳴のような叫び声が洞窟に響く。さっきまで何も仕掛けてこなかったフルフルの咆哮。
「———うぉっうるさっ」
ディアブロスとまではいかないが並みの大型モンスターより遥かに大きな咆哮に思わず耳を塞いだ。
それは例外無く四人共で、手に持っていた荷物を全員落としてしまう。
しかも、
「ヴォゥッヴァァッ」
フルフルは鳴き終わると首を伸ばして攻撃を仕掛けて来た———かと思えば四人分の荷物を器用に全て口の中へパクリ。
「———なにぃ?!」
そこにはホットドリンクやさっき取った氷結晶、採掘のためのピッケル等しか入っていなかった。
フルフルにとって食べ物になる物は何も無かったのに、それを奴は満足気に腹の中に収める。
「食いおった……」
「しまったな……」
ケイスケと二人で悶絶。顔を見合わせてどうしようと眼で相談する横で、アカリはご飯にありつくアイルーを見るような眼でフルフルを見ていた。
「返して!」
そんな中で、必死な声を挙げる少女が一人。
ナタリアはショウグンギザミの素材で作られた弓を引いて構える。
荷物には氷結晶が入っていた。確かに、フルフルベビーと葛藤し時間を掛けて採取した氷結晶だ。ここで失うのは精神的に来るものがある。
しかし、それは防具無しでフルフルと戦って奪い返そうと思う程の物ではない。また明日にでも嫌な思いをした方が安全ではある。
でも、ナタリアにとっては違うようだ。
自分を救ってくれた大切な人が苦しんでいる。その人の為に、大嫌いなフルフルベビーに囲まれながらも氷結晶を集めたんだ。
自分では無く、人の為に集めた物だから。今それを失うのを彼女はよしとしなかったのだろう。
「ヴゥゥ……」
腹でも下したのか。フルフルはその場から動く事は無かった。
まるで自分達四人に興味がないかのように、ゆっくりと洞窟内を歩いている。
「待てナタリア。今攻撃したら戦いになる」
「で、でも!」
ケイスケの言う事は正しい。この状況でフルフルと戦うのはあまりに危険だ。
今でこそ襲っても来ないし動いてすらいないフルフルだが。一旦外敵と見なされれば全力で敵を葬りに来るのがモンスターだ。
動きは鈍いが近づく者を消し炭にする放電攻撃や、電気ブレスは非常に強力で当たればただではすまない。
「船に戻ったらもう氷結晶は残ってないんだよ?! ラルフ君が……」
彼女はそれでも戦うと、そう言った。
クーデリアさんの事も思い出してあげてね!
「……確かに、またフルフルベビーとじゃれあうのも嫌だし倒すか。それに、俺も奴には腹が立っててな」
ケイスケがやれると思ったなら、やれるのだろう。なら、自分も付き合うだけだ。
しかし、ケイスケが腹を立てたとは?
「シンカイとアカリは良いか?」
「ワイはええで。せやけど……アカリは?」
まぁ、自分は良いんだけどな? ほら、アカリはフルフルが大好きみたいだし。どうなんだろう?
『良いよ!』
良いんだ。
「え、狩るんやで? あのフルフルを」
『可愛くてもモンスターだから!』
あ、それは分かってるんだ。
「なら話は早いな。フルフル一頭の討伐、まぁ状況が状況だから密猟にはならんだろう。クエストスタートだ!」
ケイスケがそう言うと同時に、息の合った動きでランスとヘビィボウガンを構える橘兄妹。
ヘビィボウガンをアカリに教え出して少ししか経ってないが、その動きは中々に様になっていた。
続けて、自分も双剣を構えるのだが———
「待てシンカイ」
「え、何や?」
結構意気込んで双剣を構えたのに。
「お前は今回見てるだけで良い……と、いうかアカリの面倒をみてやってくれ」
「フルフルに剣士一人で戦うんか……?」
「そうなるな」
なんとも軽い感じでそう言うケイスケ。そうも余裕そうな表情をされると大丈夫なのかと疑いようが無い。
「理由は……?」
「あの荷物にはな……」
荷物?
「あの荷物には、俺がカナタに初めて貰った弁当が入っていたんだ」
そう言うケイスケの目は殺意で溢れかえっていた。あ、察し。
後で聞いた話なのだが、カナタはカナタで自分は行かないという事に負い目を感じていたらしく。
罪滅ぼしという事で、いつもはケイスケの為には絶対に作らない(むしろ羨ましい)飯を特別に作って貰っていたらしい。———いや、嫌がらせかよ。
曰く、ケイスケ自身は一度もカナタの飯を食べた事が無いのだとか。
「あの糞気持ち悪いエイリアン面したゴミめ。カナタの飯の匂いを嗅いで俺からそれを奪うなんて良い度胸だ」
やだこのケイスケ君怖い。
「……ブチ殺す」
ケイスケさーん?
「ナタリア、アカリ、援護は頼んだぞ!」
そう言うとケイスケは槍を構え、姿勢を低くして突進していく。
なぜか(どう考えてもカナタの飯のせいで)動きが鈍いフルフルに対して雄火竜の尾を模して作られたランスが突き立てられる。
「ヴォァゥッ」
「ほら、中の物を吐きだせ!」
突いて、突いて、突く。見惚れる程の華麗な槍裁きで放たれる突きは、全てブヨブヨで柔らかいフルフルの皮を貫いた。
その皮膚を貫く度に発せられる火属性の攻撃も、フルフルの弱点でありさらにダメージを蓄積させる。
「ヴォゥッ!」
流石にケイスケの存在を無視できなくなったフルフルは(カナタの毒弁当による消耗で普段より鈍いながらも)片足を軸に回転し、纏わりつくケイスケを追い払おうとした。
しかし、ケイスケはそれを無駄の無いサイドステップで綺麗に交わしていく。交わすだけで無く、その度に突きを入れて着実にフルフルにダメージを与えていった。
「ヴゥゥ……ヴォゥッ!」
痺れを切らしたフルフルは、尻尾を地面に接地。
こうする事でフルフルは体内の電気を放出し身体の周りに放電攻撃を仕掛ける事が出来る。
ケイスケはその行動を見るとバックステップで距離を取ってから、自分達に射撃の合図を促した。
同時にずっと最大まで引いていた弓と、アカリのヘビィボウガンに装填された火炎弾がフルフル身体を襲う———と同時に放電。
月の光と見間違えるような光が洞窟を覆い尽くす。しかしフルフルの当ては外れて、その攻撃には誰も当たっていない。
「こっちだ!」
ケイスケはそう言うと同時に左手を上げて射撃を中断させる。
そして何故か、フルフルの背後に回り込んでその尻尾に槍を突き立てた。
「なんで態々……?」
そんな疑問が思わず口から漏れる。
このままラッシュを続けていれば倒せそうな物だが。
「多分、ブレスを誘うためじゃないかな?」
弓を引きながら、ナタリアはそう口を開いた。
見れば、フルフルの頭は今こっちを向いている。それはケイスケの攻撃もそうだが、弓とボウガンの攻撃かもこっちの方角から放たれていたのだから、敵はこっちにいる。当然の考えだ。
そして尻尾を振り回しても、放電攻撃も届かなかった。そんなフルフルが次に仕掛けてくる攻撃というと、容易に想像が付く。
「ヴゥゥォォ……ヴァァッ!!」
背後に回り込んだケイスケの方を向いて、先程と同じように尻尾を設置。
しかしフルフルは身体に電気を纏うことは無く、その代わりに地面に頭を近付ける。
次の瞬間、フルフルの正面から三本の光が放たれた。
超高圧電気を圧縮したフルフルのブレス攻撃だ。当たれば消し炭とは行かなくても感電してそのままあの世行きだろう。
しかしケイスケはそれをフルフルの懐に潜り込んで交わす。
もし、さっきそのまま攻撃を続けていればあのブレスは自分達三人の元へ放たれていただろう。
三方向に分かれるブレスは距離が遠い程交わすのが困難になる。それを見越しての事だった……のか。
「今だ仕掛けるぞ!」
そう言うケイスケの合図でヘビィボウガンと弓、そしてランスの総攻撃がフルフルを襲う。
カナタの毒飯の効果もあってか、そのラッシュでフルフルは倒れて動かなくなったのだった。
サクッと倒してしまいました。
ギャグ回だから、仕方ないね←
別に私はフルフルが可愛いとか思ってません、けど。……何故だか女の子の中には可愛いって言う子もいるんですよね。不思議。
そいでは、また来週お会い出来ると嬉しく思いますm(_ _)m