モンスターハンターStormydragon soaring【完結】   作:皇我リキ

34 / 54
彼の為に彼女の為に

「アカリは見たらかんでー」

「……ぁぅ」

 倒れたフルフルを解体中。

 

 

 モンスターの素材を剥ぎ取るのは、数週間前に会った操虫棍使いの少女に礼儀だと教わった。

 しかし、ハンターがモンスターの全てを奪って良い訳では無い。必要分剥ぎ取ったら後は自然に返すのも礼儀だ。

 

 

 しかし、今回は必要分が必要分である。

 

 

「う……ぅぇ……」

「ナタリア、別に無理してお前がやらなくても良いんだぞ?」

 そう忠告するケイスケの隣で、ナタリアはフルフルの腸を探っていく。

 

 フルフルが食べてしまった氷結晶は入れておいた袋毎殆ど溶けてしまっていた、勿論カナタの作った弁当もだが———モンスターの胃液恐ろしや。

 

 

「おのれフルフルめ……カナタの愛妻弁当を」

 いや、そこはむしろ感謝した方が良い。

 

 

 しかし、大きな結晶はまだ残っているみたいで、ナタリアはそれが無くなる前に取り出して綺麗に洗って自分のポーチに一つずつしまっていった。

 

 

「……ぅ……ぐぅ…………」

「おいナタリア……」

 それはもう、生き物の腸なんて見てて気分の良い物では無い。

 それがモンスターであれ、生き物である以上そこに生き物である為の器官が詰まっているのだから。

 

 それでも彼女は、ナタリアは氷結晶をその中から集めきった。

 数にして二十個足らずだが、ダイダロスに戻るまでの分くらいはこれで充分足りるだろう。勿論、アニキやクーデリアさんの看病用も含めて。

 

 

 

「こ、これだけあれば……ぅぇ……」

「そこまでしなくても良かったんや無いか……?」

 真っ青な表情のナタリアにホットドリンクを手渡しながらそう言う。

 確かにナタリアにとってアニキは大切で特別な存在なのだろう。それでも、自分をそこまで蔑ろにしてまでアニキに尽くす事は無い。

 

 だって、自分達は仲間なんだ。ナタリアだけが、アニキの心配をしてる訳じゃないし。

 皆が、アニキだけを心配してる訳じゃない。

 

 

「私は……ラルフ君が大切だから」

 それでも、彼女はそう言った。

 

 分かっては貰えないようだ。ケイスケも同じ考えのようで、さっきと同じように二人で顔を見合わせてどうしたものかと首を傾げる。

 

 

 まぁ、しかし。何はともあれ無事にクエストは完了したのであった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「あぁ……おかえり……」

 船で一番初めに出迎えてくれたのはなんとクーデリアさんだった。カナタの毒飯の効果は大丈夫なのだろうか?

 なんたってフルフルにも効く効力だからな。

 

 

「大丈夫なのか? クー姉」

「え、えぇ……多分生きてるわ」

 生死の境を彷徨っていたらしい。

 

「って、ナタリアあなた大丈夫なの? 顔真っ青よ?!」

「……え? そ、そう? そんな事より……ラルフ君……は?」

「おいナタリア……」

 ケイスケの言葉も聞かずに、ナタリアはアニキの部屋にフラフラと歩いていく。

 

 

『無理してる?』

「せやな……」

 アカリの言う通り、あれはどう考えても無理してる。

 そもそもフルフルベビーが大の苦手だったハズだ。それでいてフルフルの腸から氷結晶を取り出す作業なんて精神的に来るものがあるのだろう。

 

 

「アニキの事以外でも、なんか思っとるんやないかな……ナタリアって」

『心配?』

 そりゃ、勿論。

 

「仲間なら、心配やろ。アカリも」

「……ん」

 小さく頷くアカリ。その傍らの部屋から鈍い、人が倒れたような音が聞こえたのは直ぐだった。

 

「……ったく。ラルフは俺が面倒を見るからお前らはナタリアを頼むぞ?」

 分かりきっていただろうケイスケがそう言って、三人はアニキの部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 案の定、アニキの寝る部屋でナタリアは倒れていて。

 彼女を二人で部屋に運んで持ってきたばかりの氷結晶を使った氷水も使って看病する。

 

「ん……ぁ…………れ……わ、私?」

「おぅ、起きたか」

『大丈夫?』

「ねーちゃん!」

 目を覚ましたナタリアにそう声を掛ける。

 彼女が倒れて一時間といった所だろうか? クーデリアさんによれば軽い疲労による物だとか。

 だとしても心配で、自分とアカリとヒールの三人でナタリアを看病していた。

 

「うわぁっ、ひ、ヒール?!」

「心配したっすからね!」

 起き上がるナタリアに飛び付いてそう言うヒール。普段こそ喧嘩越しの二人だが、本当は仲が良いのだ。

 

 しかしヒール羨ましいぞ。双子の姉弟だからってそんな大胆に女の子に抱き上げる物かよ。

 

 

「う、ぅゎ……ん、ご、ごめんね」

「もう無視しないでっすよ!」

 

「あ、あはは……あ、ラルフ君は?」

 こんな時まで人の心配ですか。

 

「ケイスケが看取る。まー大丈夫やろ」

「そ、そか……」

 俯くナタリア。アニキの側にいてやれなかったのが悔しいのか? その手は強く空気を握りしめていた。

 

 

「私……やっぱり役立たずだね」

 おもむろに、彼女はそんな事を言う。

 

「ねーちゃん……」

「結局……大事な時に何も出来ないんだ」

「そんな事あらへんやろ?」

『そうだよ!』

 むしろ氷結晶の件でナタリアはとても頑張った。

 全く集めてないし途中でリタイアしたどっかの誰かとは大違い———うるせぇ。

 

 

「私……臆病だし狩りも下手だし、役立たずだよ」

 そうか?

 

「んー……あぁ…………ワイ、ナタリアとは今回が初めてやからなぁ。下手とかどうかは分からん。……けど、あの弓裁きは上手かったと思うで? それに、ナタリアはフルフルに一番に武器を向けたやないか」

 多分彼女は自分の事を凄く過小評価しているのだろう。クエストに出る前も、そんな事を言ってたからな。

 

 

「そ、そう……かな?」

「あぁ。ワイ、色々武器触ってた事がまだここに来る前にあったけど。どーも弓は一番使えなかったわ。だってボウガンと違って狙うのが凄い難しいやん? 今度教えてくれへんか?」

 実際、自分の弓の命中率はほぼゼロに近い。ボウガンの命中率には自信があるが、同じガンナーなのに弓は全く使えなかった。

 

「だから、自信持てや。な?」

「私は……」

 それでも、彼女は俯いたまま。もう一歩、何かが足りないのだろうが。自分にはもう出せる言葉が無かった。

 

 

「私は……ダメダメだよ」

 

「んな事ねーよ」

 しかし、部屋の外から発せられたそんな声。

 それは決して優しい声ではなく、人を叱り付けるような厳しい声だった。

 

 それでも、その声は暖かい。

 

 

「お、アニキ」

 振り向くと、そこにはナタリアを睨みつけるように見ていたラルフ・ビルフレッドの姿があった。

 

 

「よぅ、悪いな心配かけて」

 そう言うとアニキはズカズカと部屋に入ってきて四人いてただでさえ狭い部屋に入り込んでくる。あのー……アニキ?

 

 

「ナタリア、氷結晶取りに行ってくれたんだってな」

 寝込んでいるナタリアに、アニキはそう言う。

 

「え、あ、ぅ、うん!」

「お前はバカか」

 しかし、アニキから発せられた言葉は労いの言葉などでは無かった。え、ちょ、アニキ?!

 

 

「あ、アニキ?! それはいくらなんでも無いやろ!」

「そ、そうっすよ! ねーちゃんはアニキの為に———」

「お前らは黙ってろ」

 嫌だ怖い。

 

 

「ナタリア……」

「ぁ、ぇ、えと…………ごめんなさい」

 尚も厳しい表情を続けるラルフにナタリアはもう謝るしか無かった。何をそんなに怒っているんだ?

 

「お前はそうやって直ぐに自分を蔑ろにする。そういうのは辞めろ」

「で、でも……私……」

 

「あのなぁ、お前は役立たずなんかじゃねーよ。お前が居なかったら猟団の会計はどーなる?」

 そういや、ナタリアは我等が猟団の会計役を務めいたな。小遣いの割り当てだったり、物資の調達に使う金だったり、クエストの報酬関連だとか色々やってもらってるのだ。

 

 

「そ、そんなの私じゃなくても出来るし……」

「出来るわけねーだろ」

「……え?」

 

「まず、金の事を任せられるしっかりした奴なんてこの猟団にはケイスケかサナかナタリア、お前くらいしかいねぇ!」

 遠回しに他の奴皆バカにしてない?!

 

「ケイスケはリーダーで他にやる事がクソあるし、サナはうちのエースだ。そして他の奴等は全員バカかそうでなくてもアホしかいねぇ」

 そのバカかアホの中に自分も入ってる訳なんだが。

 

 

「お前にしかやれねぇんだよ……」

「ラルフ君……」

「それにな」

 と、アニキはそれまでの建前を全部打ち切って本音を語り始めた。

 

 

「言ったろ? 俺はお前が大切なんだ。お前いつか聞いたな……ここに居て良いのかって。その時と同じ事をもう一度言うぞ?」

 それまで怒ったような表情をしていたアニキだが、そこでふと優しい表情になる。

 

 この人は厳しく、時にこう優しく、猟団の皆を大切にしてくれる。そりゃ、惚れても可笑しくない。

 

 

「ここに居てくれ。俺にはお前が必要なんだ、ナタリア。だから無理するな。お前が倒れちまったら困るんだよ」

「ラルフ君……は、はい! ご、ごめんね……」

 いやそれ告白なんだけど?!

 

 

「うし、とりあえず今日は疲れたろ。寝ろ」

「う、うん。ありがとう……」

 

 

「アニキってもしかして天然……? あれ素でやっとるんか?」

「多分天然っすよ……ねーちゃんもそりゃ惚れるっすよねぇ」

 犯罪だろうアレは。

 

「何言ってんだお前ら? ほら、ナタリア寝かすんだから俺達は出てくぞ」

 そう言うアニキに押し出され、部屋にナタリアを残して全員が出て行く。

 

 

 自分にはナタリアを元気付ける事なんて出来なかったのに。やっぱりアニキは凄いわ、本当に。

 

 

「流石やなぁ……アニキ」

「ありがとうっすよ、アニキ!」

『格好良かったよ!』

 そんな三人の声を漢の背中で聞きながら、アニキは何も言わずに自分の部屋を開ける。

 これが……真の漢か。

 

 

「……グゥッ」

 しかし、その場でアニキは倒れたのだった。

 

「え?!」

 あ、アニキ?!

 直様駆け寄ると、アニキは真っ青な顔で倒れていた。そういや、アニキは風邪だったじゃないか。

 

「人に無理するなとか言っといてこれは情けねぇな……。ナタリアには言うなよ?」

「そりゃ……まぁ。しかしアニキが体調崩すなんて珍しい事もあるもんやな」

「…………カナタがな」

 おっと嫌な名前が出たぞ。

 

 

「今朝お茶を持って来てくれたんだ……。いや、まさかお茶に何かしてるとは思わずに何も疑わずに俺はそれを飲んだ。…………飲んでる途中で「目が醒めるように苦虫とトウガラシを調合しておいたよ!」とか言われたぜ」

 もうとりあえず全部カナタが悪いじゃないだろうか!!

 

 

「……飯の時間だ」

 そんな会話の中、背後からそんな声を掛けて来たのはガイルだった。

 クエストの帰りを待っていて貰ったせいでかなり夜遅くの食事となってしまったな。申し訳ない。

 

 

「アニキ、飯どーする?」

「あぁ……流石に食う。まともな物胃に入れてぇからな」

 カナタよ……。

 

 

「そいやガイル……飯当番カナタに手伝わして無いだろうな?」

「……無論だ」

 良くやった。

 

 

「「ぎゃぁぁぁぁ!!!」」

 しかし、下から聞こえてくる明らか様な二人の悲鳴。この声はサナとタクヤか?!

 

「え、ちょ、ガイル?! 嘘ついたんすか?!」

「……そ、そんなハズは無い」

 いや、確かにカナタは飯には手を出してないかもしれない。

 

 

 だが———

 

 

「俺が飲まされたお茶だな……」

「「「……」」」

 その場にいる全員が同じ表情をした。

 

 そう、あの時クーデリアさんが倒れたのもそのお茶を飲んだからだったのだ。

 食べた料理でなく、その後手を付けたお茶に罠が仕掛けてあって。その騒ぎで誰もお茶に手を付けなかったから他に被害者は出なかったのである。

 

 もしあの時自分も飲んでいたらと思うと嫌な汗が出る。

 

 

 

 して、今回の一件でせっかくナタリアがフルフルから取り返した氷結晶は全て使う事になり。我等が猟団はダイダロスへ戻る事になったのだった。

 

 カナタがこの後全員にどやされたのは言うまでも無い。

 

 




もう全部カナタが持っていくから良いキャラしてると自画自賛。

ほい、これにて今章も終わりです。次回は、チャアク回!


これまで三十四話も書いてきましたが、遂に五人に評価を貰ってこの度評価バーに色を頂きました!
しかも、真っ赤です。本当にありがとうございます。もう少し、頑張れそうです。

【挿絵表示】


厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。