モンスターハンターStormydragon soaring【完結】   作:皇我リキ

44 / 54
少女の果て

 視界を覆う、赤とピンク。

 

 

 吹き出る鮮血は自分の腹では無く———彼女の左肩からだった。

 視界の半分を覆っていたピンクが、一瞬で赤色に塗り替えられる。

 

 

 サナのその身体が重く、自分に降り掛かった。

 

 

 

「サナぁ!! ちっくしょぉぉ!!」

「……そ……?! ……ぁ!!」

 

 

「さ、サナ……。あ……ぁああ?!」

「ギィィィィィッ!!」

 重く自分に伸し掛る彼女の背後で、モンスターは鎌をまた振り上げた。

 ヤバい、このまま殺られる?!

 

 

「うぉぉあああ!!」

 その背後から振り下ろされる、タクヤの斧。

 そしてアカリの火炎弾を足に受けても、モンスターはその獲物をしまう動作を見せなかった。

 

 

 ダメだ……身体も頭も動かない。

 

 

「ボケっとすんな……バカ」

「……ぇ」

 自分の身体だけが、地面を転がっていく。

 

 腹部に感じる強烈な痛みから、寝転んだままの彼女に蹴り飛ばされたのだろう。

 そんな事は、どうでも良い。

 

 

 今大切なのは、その鎌の下にまだ彼女が居るという事だ。

 

 

「サナぁぁぁぁあああああ!!!」

 自分の叫び声も、祈りも、頼みも、関係無い。

 

 降ろされる鎌は、彼女の小さな身体を切り裂いて何メートルも地面を転がした。

 簡単に地面を転がりながら血飛沫を上げる小さな身体は、木に当たってやっと動きを止める。

 

 その身体が起き上がって来る様子は、少なくとも全く無かった。

 

 

「ぁ…………ぁ…………ぁあ……」

 嘘……だろ?

 

 

 なぁ…………嘘だろ?

 

 

 

 ——隙を見つけたら二人を連れて逃げなさい——

 

 アレは、正しい事だった。

 正直、ふざけるなと思った。

 

 

 でも違う、こんなに強いモンスターの前に立てば自分達なんて荷物でしか無かったんだ。

 

 

 自分が何をしたのか…………それだけは考えるのに全く時間が掛からなかった。

 

 

 

「く、くっそ……うぉぉあああ!!」

 怒りからか、また正面からモンスターに向かって行くタクヤ。

 

 

「…………ぃて!!」

「うぇ?!」

「ギェェェ?!」

 だが、それを止めたのは自分でも無くモンスターでも無かった。

 

 タクヤの目の前に銃弾を撃ち込みながら、声を上げるアカリ。

 はっきりと声にならないその音が何の意味を成しているのか。

 

 

 

 この時ばかりは、はっきりと分かった気がする。

 

 

 

「……だ、……ぁ、は……っぃ、んぇ……か……ぃ!!」

 まだ、サナは死んでなんか無い。

 

 落ち着け。そう言いたいんだな。

 

 

 

 そうだ、焦ってどうする。

 

 落ち着いて考えなきゃ、良い答えが出る訳が無い。

 

 

 

 あのサナが、そう簡単に死ぬかよ。

 

 

 

「……集中」

 考えるな。考えろ。

 

 考え込む前に、最善策を掴め。

 考えるという時間を排除しろ。

 

 

 

 答えを探すな。答えに迎え……っ!!

 

 

 

「タクヤ! 右に回り込め!!」

「え、右?」

「お前から見て左!!」

 その方向は、アカリとサナが居る反対側だった。

 

 まずは、モンスターの視界から二人を離す。今一番に優先されるのはサナの安全の確保だ。

 即死していなくたって、これ以上彼女が攻撃を貰えば命は確実に無い。

 

 

 少しだけ待っててくれ、な?

 直ぐに終わらせるから。

 

 

「アカリはゲリョスの死体の影から撃て! 腸臭いかも知れないけど我慢してくれ!!」

「ん!」

 そんな自分の命令に従ってくれるアカリ。

 

 これで万が一アカリが狙われてもゲリョスを盾に出来るしサナが視界に入る事も無い。

 

 

 まずは最低限の戦闘状態を作った。

 

 

 次は、奴の弱点だ。

 

 見た感じは炎か?

 そして、比較的蜘蛛でいう腹部の甲殻は薄い。

 狙うなら背後からだがその為には正面に立って誰かが囮になる必要がある。

 

 

 その役目は、自分の仕事だ。

 

 

 タクヤの武器は剣モードでなければ重い武器だ。俊敏さで言えば双剣を持った自分の方が都合が良い。

 

 それに、今ならあいつの攻撃に当たる気はしない。

 

 

 

「こっちだ蜘蛛野郎!」

 わざと奴の正面に立って、剣を高く振り上げる。

 ほら、隙だらけだぞ。来いよ!!

 

「ギィィィィィッ!!」

「掛かったな……タクヤ! 後ろから行けぇ!!」

 言われた通りに、剣モードにして連撃重視の斬撃をモンスターの腹部に叩き付ける。

 それでこそ元片手剣使いだ。

 

 

「ギィィィィィッ!」

 挑発が気に障ったのか、タクヤの攻撃を意にも返さずあの鎌を振り上げるモンスター。

 またハサミのように閉じるそれを、しゃがんで交わしてから頭部にレックスライサーを叩き付ける。

 

「ギェェェ?!」

 流石に聞いたのか、身を引くモンスターを逃しはしない。

 すかさず頭部に、もう三撃。

 

 

「おらぁ!!」

「ギィィィィィッ!!」

 背後からの斬撃、銃撃も相まってモンスターは大きく姿勢を崩す。

 

 ここで止めを刺す……っ!!

 

 

「決めるぞタクヤぁ!」

「お、おう!!」

 倒れたモンスターに、最大限の力を入れた斬撃を叩き込———む前に。モンスターは視界から消えた。

 

「「ぇ……?」」

 な、なんだ?! 消えた?!

 

 

「後ろだ!」

 タクヤの声に振り向くと、自分の背後にある木々に糸を吐いたモンスターは一瞬でその場まで移動していたのだ。

 そして、もたつく脚で木々の間に姿を消す。

 

 

「逃げた……のか?」

「……逃げた?」

 本当に、逃げたのか?

 

 

 客観的に見れば願ったり適ったりな状況なのは間違いない。

 

 何かがおかしい。

 

 

 ただ、何がおかしいのか分からなかった。

 

 

 

 とりあえず、サナとアカリを———

 

 

「…………ぁぁっ?!」

 そう思って、振り向いた先に見えた光景は絶望的な光景だった。

 

 

 

 本当に逃げたのか?

 

 

 そんな訳があるか。

 

 

 さっきまで自分達を翻弄していたあのモンスターが、一度攻勢が逆転しただけで逃げる訳が無い。

 

 

 誘われた。

 

 

 

「…………た……けて」

 背後には、そのモンスターに背後を取られて涙を浮かべるアカリの姿。

 

 

 モンスターは、ゲリョスの上に立ってその鎌を振り上げていた。

 

 

 

「アカ———」

 そんな……アカリを狙った?!

 

 森に逃げるフリをして……っ?!

 釣られたって言うのか?!

 

 

「アカリぃぃ!!!」

 そして、思考が止まった自分より先に動いていたのは———タクヤだった。

 

 

 

 そのハサミが閉じる前に、彼女を突き飛ばす。

 

 

「———ぁ……ゃ、……ん?!」

「間にあ———」

 そのハサミが閉じる。

 

 

 何とかハサミを交わすタクヤだったが、モンスターは顎から彼に紫色の気体を掛けた。

 

 

 

 なんだ? あれは。

 

 まるで、ゲリョスの———

 

 

 

 ゲリョスの?!

 

 

 

「吸うなタクヤぁ!!」

 アレは、考えが正しければゲリョスの毒だ。

 

 こいつの事がここに来てやっと少しだけ理解出来た。

 

 

 ゲリョスを喰らい、その背に皮を被っているのは弱い腹部を守る為。

 あの皮はあのモンスターの体の一部では無く防具のような物で攻撃したってダメージを与えられない。

 

 ゲリョスは体内に毒を有している。ゲリョスの皮まで利用する狡猾な生き物が、ゲリョスの最大の武器を利用しない訳が無い。

 

 

「……っぅ」

 間違い無く毒を吸っただろうタクヤは一気に顔の色を青くした。

 ゲリョスの毒は強力だ。早く解毒しなければタクヤの命も危ない。

 

 

 

「クソが!!」

 焦るな。

 

 焦るな焦るな。

 

 

 冷静に考えろ。

 

 答えに迎え。

 

 

「うぉぉあああ!!」

 毒で弱らせたタクヤに止めを刺す為に鎌を振り上げるモンスター。

 その懐に飛び込んで、頭蓋にレックスライサーを叩き付ける。

 

 

「アカリ! タクを!!」

「ん!」

「……っ……ぅ」

 目の前で双剣を振り続ける。

 

 

 

 

 こいつを殺せ。

 

 

 

 こいつを殺せば、皆助かる。

 

 

 

 自分がこいつを殺せば、良いだけだ。

 

 

 

 それが答えだ!!

 

 

「うぉぉあああ!!」

 死ね。死ね!!

 

「うぉぉぉああああ!!!」

 死ね!!!

 

 

「ギィィィィィッ!!!!!」

 

 

 

 ———間違えた。

 

 

 そんな簡単に、モンスターが死ぬ訳無い。

 

 

 振り上げられた鎌は、まるで死神の鎌だ。

 

 

「馬鹿野郎」

 誰が言ったか。

 

 

 

 カツンと、鎌に何かが当たって弾ける。

 

 

 骨で出来たV時の物。

 

 それは、投げた本人の元に戻って行く。

 

 

 

 ブーメラン……?

 

 

 

 待て、お前毒で動けなかったハズだろ。

 

 

 待て、片手剣と違って重い盾を持ったままそんな物投げられる訳無いだろ。

 

 

 

 待てよ、何で盾を持ってないんだよ。

 

 

 

 待てよ、なんでそんな顔してるんだよ。

 

 

 

 待てよ、お前の相手は自分だ。

 

 

 

 待てよ、行くなよ。そっちはダメだ。こっちを見ろ。

 

 

 

 待て、待ってくれ、頼む。あいつは今盾が無いんだ。アカリも居るんだ。

 

 

 辞めてく———

 

 

 

 

「なぁ、アカリ……」

「……ぁ……、ゃ、……ん?」

「俺、お前の事———」

 次の瞬間、モンスターはタクヤとアカリに向かって行く。

 

 

 彼が手を出す。

 

 アカリを突き飛ばす。

 

 

 そして、タクヤの身体は……視界からモンスターと共に消えた。

 

 

 

 ———ぁ……?

 

 

 ぁ…………ぁ…………ぁあ……?!

 

 

 

「タク……ヤ……?」

 

 

「ギィィィィィッ!!」

 なん…………で……?

 

 

 なんで……こんな事に……?

 

 

 妙にゆっくりと、タクヤが地面を転がった。

 

 声にならない悲鳴をあげるアカリ。

 

 

 音を立てて、次はお前だと振り向くモンスター。

 

 

 地獄絵図っていうのは、こんな風景を言うのでは無いだろうか。

 

 

 

 頼みのエースも、大切な仲間も、何一つ守れず。

 次は自分の命が奪われ、最後にはアカリも———

 

「止まるな……っ!!!!」

 何もかも諦めかけた———いや、諦めたその時だった。

 

 

 消え入りそうな、それでもハッキリとした声が森に響く。

 

 

 

 滴る赤に脚を引きずりながらも、血だらけの身体で、動かない筈の身体で、小さな身体で、身の丈程の細い剣をモンスターに向ける一人の少女。

 

 一番強い彼女が、一番辛い筈の彼女が、一番ダメージを負った筈の彼女が。

 諦めずに、崩れ落ちずに、確りとそこに、モンスターの正面に立っていた。

 

「…………サナ……っ?!」

 サーナリア……お前…………っ?!

 

 

「ギィィィィィッ!」

「はぁぁぁぁぁああああああ!!!」

 邪魔だと言わんばかりにサナに突進するモンスター。

 そのモンスターに、サナは太刀を叩き付ける。

 

 さながらカウンター。

 相手の勢いをも利用し、今出来る最大の攻撃をサナはモンスターに叩き付けたんだ。

 

 

「ギェェェッ?!」

 ひっくり返るモンスター。

 

 今動かなければ、いつ動くんだ。

 

 今、畳み掛ければ。

 

 

 なのに。

 

 

 分かっているのに。

 

 

 頭も身体も動かない。

 

 

 

「シンカイ!!!!!」

 サナの声が頭にハッキリと入って来た。

 

 自分は何をやってるんだ……?

 

 

 ——隙を見つけたら二人を連れて逃げなさい——

 思い返すのは、そんな言葉。

 

 

「……ぁ、ぁぁぁ……あぁっ!」

 そうだ、逃げなければ。

 

 逃げなければ、死ぬ。皆、死ぬ。

 

 

 皆? 死ぬ?

 

 

「アカリ……っ!!」

 半自動的な感覚を覚えながら、倒れて身体が赤色になっているタクヤの肩を揺らすアカリの所へ向かう。

 声にならない音をその喉から、瞳からは水分を漏らしながら、彼女は動かなくなったタクヤを必死に救おうとしていた。

 

 まだ(・・)生きてはいる。

 何処からか漏れる空気と、焦点の定まらない目、流れ続ける血液がそれを証明した。

 

 

「タクヤ…………」

 頭が動かなかった。

 

 今直ぐにでも、しなければ行けない事が幾つも有る。

 

 

 その……ハズなのに。

 

 

「……し……か、ぃ……ん、!」

「……っ」

 また止まっていた自分の意識をアカリに連れ戻される。

 半自動的にタクヤの肩を掴んで、その重い身体を持ち上げた。

 

 

「ギィィィィィッ!!」

「はぁぁぁぁっ!!」

 そんな所で、立ち上がったモンスターに太刀を叩き付けるサナ。

 血反吐を吐きながらも勇敢に立ち向かうその姿を、自分は見る事しか出来なかった。

 

 

 

「ギィィィィィッ?!」

「やぁぁぁぁああああっ!!」

 押している。

 

 気迫というか、根性というか。不可能を可能にしてしまえそうな、そんな勢いで彼女はモンスターを再び地面に叩き伏せた。

 

 

「今!!! タク連れて早く逃げる!!!」

 そんな事言ったって……もう、タクヤは…………。それに———

 

 

「……ん、ぁ、……ぁ?」

「お前はどうする気だよ……っ!!」

 ———サナは? そんなアカリの声を代弁する。

 

 

「後で、こいついなして行くから……」

 そんな表情で、そんな事言うなよ。

 

 なのに、なんでか身体は村の方へ動く。

 今はサナを信じるしか無い? 今は早くここから逃げるしか無い?

 

 

 まるで思考が麻痺したような感覚で。

 

 分かっているのに。

 

 

 間違っている答えに向かって行く。

 

 

 

「逃げるぞ……アカリ」

「……っ?!」

「逃げるんだよ!!」

 タクヤを背負って、アカリを肩で押すようにして村の方に歩かせる。

 

 武器は捨てさせて、タクヤの武器も自分の武器も置いて。

 

 

 ただ、逃げる。

 

 

「……っ、て、……ぁ、は?!」

「良いから逃げるんだよ!! ここに居たって何が出来るんだよ!! サナに任せて、逃げるんだよ!!」

 怒鳴るような声に、アカリは心底驚いたのか。

 タクヤに向けたあの涙とは違う涙を流して、自分とサナを見比べる。

 

 

 そして、サナをずっと見た。

 

 

 彼女はこっちを向きながら、口を開け閉めする。

 

 なんと言っているか、耳にも頭にも入って来ない。

 

 

 

「…………ぃ、ぉ」

 少しだけサナを見てから、意を決した表情で自分を見るアカリ。

 普段見ないような表情で彼女は、タクヤを背負った自分を守るように背後に回って森の中に歩き出した。

 

 

 

 これで良いんだよな?

 

 

 これが正解なんだよな?

 

 

 間違っているのか?

 

 

 何が間違っているんだ?

 

 

 

 分からない。

 

 分からない。

 

 分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない。

 

 

 何も、分からない。

 

 

 

 

「アカリ、あのバカ共の事頼んだわよ……」

「ギィィィィィッ!!」

 

「はぁ……参ったなぁ…………。せっかく王子様見付けたのに……さ。王子様は親友の王子様だし、どっちもウブ過ぎて進まないし。本当、世話が焼けるのよ。私が居ないとダメなんだから、本当さ」

 

「ギィィィィィッ!!!」

 

「私が…………居ないと……さ………………あは、あはは……ぃ、ぃゃ……いや…………嫌だ…………なぁ……私だって……あいつの事、好きなのに、さ。あのバカ…………幸せにならないと、承知しないぞ……畜生め。でも、良いかな…………好きな人にはさ、幸せになって貰いたいじゃん。だからさ、だから……だから…………私は……………………嫌だ…………嫌だ……嫌———」

「ギィィィィィィイイイイ!!!!」




鬱エンドへと向かっています……。

サナの運命や如何に……。


厳しくで良いので評価感想の程も暇があればよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。