モンスターハンターStormydragon soaring【完結】 作:皇我リキ
「……そこをどけ!!」
部屋に大声が木霊する。
「どかねぇ……」
「……仲間が、家族が死ぬかもしれない瀬戸際だぞ!!」
声を荒げながら、アニキの胸元を掴み壁に叩き付けるのはガイルだった。
彼はそのまま拳を振り上げ、アニキの頬に叩き付ける。
「きゃぁ———ちょ、や、辞めてよガイル君!」
床を転がったアニキの元に駆け寄って、ガイルを止めるナタリア。
ただ、その瞳はやはり濡れていた。
「……サーナリアを探しに行く!」
「こんな夜に森に入ってもタクヤ達と同じ目にあうだけだ!!」
怒鳴り上げる、アニキ。
その言葉で余計に火が回ったのか、ガイルは目の色を変えてアニキを睨み付けた。
「……あいつがもう殺られているかのような言い草だな」
「そうじゃねぇ……。だが待て! 落ち着け! 夜の森は『ネルスキュラ』にとって最高の場所だ。そこに何の用意も無しに行くのは自殺しに行くようなもんなんだよ!」
「ならサナは自殺させるって事?!」
その言葉に反応したのは、クーデリアさんだった。
当たり前だ、その危険な夜の森に今妹が居るのだから。
動かなくなったタクヤを連れて村に戻ってから、少しだけ時間が経った。
皆が戻ってくるのにはそんなに時間は掛からない。
そして、戻って来た皆はベッドに寝かされたタクヤを見て何を思ったのか。
こんな下らない喧嘩に、至ったんだ。
「ふざけるな!!」
「落ち着けガイル。今はサナを信じるしかない。夜の森でネルスキュラと対峙するのはそれだけ危険なんだ」
アニキに続いてガイルを説得するのはケイスケ。
ネルスキュラ。それが、自分達を襲ったモンスターの名前だった。
鋏角種という種族に属する現場唯一のモンスター。
ゲリョス等の大型モンスターを捕食する危険なモンスターで、本来はこの密林には生息しない。
本来の生息地はこの密林の奥である、樹海だ。
親父が調べに行った嵐の影響で、このネルスキュラが密林に逃げ込み。
天敵であるネルスキュラを恐れてゲリョスが村近くにまで出て来たというのが、件の異変の原因らしい。
そんな事は、どうでも良い。
「私は止めても行くわよ」
「……俺も行く」
クーデリアさんとガイルはアニキの制止も聞かずに部屋から出て行こうとする。
自分は……動けなかった。
動く権利すら、無い。
違うか。逃げてるだけだ。
「行くなと言っているだろう!!」
怒号が飛ぶ。その声の主は、ケイスケだった。
同時に飛ぶ彼の右手が、ガイルの頬を殴り飛ばす。
「……っが。……な、なにを……」
「ケイスケ君……」
二人はおろか、周りの奴も全員驚いていた。
ケイスケがこうも怒鳴る事は珍しい。それこそ、あのディアブロスの時以来か。
「……冷静になれ。今、感情に任せて死人を増やしてもサナを助ける事は出来無い。サナを助けられても二人が死んだら意味が無い」
「……それは」
「ガイル、お前は明日の捜索パーティに入ってもらう。……少しでも心と身体を休めてくれ、頼む」
殴った後にガイルに頭を下げるケイスケ。
「…………分かった」
ガイルはそれに返事をすると、静かに立ち上がった。
「クー姉は医療品の整理を頼む。解毒薬の用意も、朝までに」
「……私」
「今はサナを信じるしか無い。なぁ、アイツが簡単に死ぬと思うか? アイツは、我等が橘狩猟団のエースだぞ」
「ケイスケ君……。そ、そうね…………そうよね」
死ぬんだよ。
「ヒール、ナタリア、カナタの三人で今晩村の周りの警護をしてもらう。それでもしサナが帰って来た時は、直ぐに駆け寄ってやって欲しい。ただし、村が見えなくなるところまでは絶対に行くな」
「分かったっす」
「任せて……」
もう、アイツはボロボロだったんだ。
「ちょっと待ってよ。私はパーティに入れてくれないの?」
そうやってケイスケに詰め寄るのはカナタだった。
「盾役は俺がやる。パーティはガイル、ラルフ、俺……そしてシンカイだ」
……は?
「ちょ、待ってよ! シンカイは!」
「ネルスキュラと戦った事があるのはシンカイとアカリだけだ」
「別に初めてだって私な———」
「ネルスキュラを倒すのが目的じゃ無い。サナの救出が最優先だ……そんな時に襲って来るかもしれないモンスターの情報が無い事がどれだけ危険か考えてくれ」
待てよ、勝手に話を進めるなよ。
「……行かないぞ」
小声で、そう言った。
ただ、その無責任な言葉はこの場に居る全員に聞こえていたのだろう。……アカリを覗いて。
「シンカイ……。ほ、ほら、無理よ」
「…………シンカイ」
自分の前に立つケイスケ。
これは、殴られるか。
「……無理を言った、悪いな」
「ケイスケ……」
そうとだけ言って、彼は振り返る。
「ヒール、パーティに入ってくれ」
「え、ぉ、お、俺っすか?!」
「ネルスキュラを遠くから監視して動きを常に伝えて欲しい。ガンナーのお前が適任だ」
あぁ……別に自分じゃなくても良いのか。
ケイスケは凄いな。こんな時でも冷静なのか。
「ま、待って。なら私が!」
「タクを見て心配なのは分かるが、ケイスケが必要だって言うんだ。……ナタリアにはナタリアの役割があるだろ」
「ら、ラルフ君……で、でも…………だって……」
そりゃ、今のタクヤの姿を見ればネルスキュラがどれだけ危険なモンスターか分かるのだろう。
「お前の大切な弟も、ケイスケもガイルも……サナも。俺が守る。だから、安心して待ってろ」
アニキはそう言うと、ナタリアの頭を優しく撫でる。
「……アニキ…………殴ってくれ」
そんなアニキの背後に立って、ガイルはそんな事を言った。
「さっきケイスケに殴られたろ、お前は……」
「……頭を冷やしたい」
「そうか、歯を食い縛れ」
「……っ」
ガイルの眼前に拳が突き付けられる、寸止めで。
「馬鹿言ってる暇があったら休め。お前は明日俺達とサナを助ける。それ以外無駄の事考えてる暇はねーぞ」
「アニキ…………うすっ!」
「タクヤもサナの事も、全部俺の責任だ。……皆、すまなかった」
そんなケイスケの言葉が、自棄に大きく聞こえた。
ふざけるな。
なんでだ。
自分の責任だ。
「皆、今出来る事をしてくれ。……アカリ、シンカイ……二人はタクヤの側に居てくれないか?」
「……ん」
「……ぇ」
頷くアカリ。自分はそれに対して間抜けな声を出すしか無かった。
自分に出来る事なんて何も無い。
「各自、行動に移ってくれ。……後、俺の事は朝まで一人にしてくれ」
それを思い知らされるように続々と部屋から出て行く皆。
それぞれが、各々の決意を持って行動に移る。
このまとまりこそ、橘狩猟団なのだろう。
部屋に残ったのは自分とアカリ、そしてアニキとケイスケ。それと、もう動かないタクヤだった。
「……ラルフ」
「お前は明日やる事があるだろ。任せろ」
「…………すまない」
「気を張りすぎるなよ」
「…………出来るだけそうするさ」
そんな会話を二人はして、ケイスケが部屋を出て行きアニキだけが残った。
ただ、自分は座り込んでいる。
タクヤの亡骸の横で。
「マックスが死んだ時だ」
自分の隣まで来て、タクヤの顔に手を触れながら彼は口を開いた。
優しい口調で。それでも、重い口調で。
「憎たらしかった。許せなかった。ゲリョスが、じゃねぇ…………マックスを守れなかった自分が……だ」
「……アニキ……?」
「なぁ、アカリ……シンカイ。俺はさ、そんな怒りを皆や新入りに当てて……最後にはモンスターに当てて、何もかも見失ってた」
それも、この密林だったか。
「そこからすくい上げてくれたのは、お前だったな……シンカイ」
「……何もしてない」
「迷子のアカリを助けてくれたな」
「たまたまだ」
自分は何もしてない。
「ガイルの心を開いたのはお前だった、サナとディアブロスの戦った時お前が居なかったら全滅してた、カナタ達をティガレックスから一人で救ったのは誰だ? 俺やクー姉のために氷結晶を探してくれた事もあったな」
「……そんなの、別に何でも無い」
それがどうしたっていうんだ。
結局、タクヤを失った。
サナだって……。
「……また、サナを救ってくれねぇか?」
ふざけるな。
「やったんだよ!!」
「……っぁ?! ……ぃ、ん……?」
突然怒鳴る自分の声に、アカリはビックリして顔を上げる。
アニキは自分の眼を確りと見ていた。
「必死に考えたんだ、アカリもサナも……タクヤも救えるようにって!! 必死に考えた、動いたんだよ!! その結果がこれだ! タクヤを死なせて、サナを置き去りにして自分だけ無事に帰って来た!! こんな奴に何が出来るってんだよ!! 何も出来やしねぇんだよ!!」
そんなクソみたいな言い訳を、アニキは眼を見て聴いていた。
ただ何も言わずに、静かに自分の言葉に耳を傾ける。
「ケイスケみたいに冷静になんて居られるかよ!! 自分のせいで大切な……なか……ま……が……」
そんな事を口走る物だから、タクヤの死を再認識してしまった。
喉が詰まる。息がし辛いし、視界が揺らぐ。
「仲間を……家族を…………タクヤを…………失ったのに! どうして冷静で居られるんだよ。おかしいだろ。今ならあの時のアニキの気持ちが分かる。今すぐにでもあのクソ蜘蛛野郎をぶっ殺しにいきてぇよ。でも自分にはそんな力も無いんだ、アニキみたいに強く無いんだよそんな事も出来無いんだ。何も出来ない何も無い。何にも考えずに中身の無い理由で街を出てハンターになった奴の末路がこれなんだよ。自分には何も無いんだ! アニキみたいな強さもケイスケみたいな冷静さも何も無いんだよぉっ!!」
「俺は強くねーし、ケイスケは冷静じゃねーよ」
「何言ってんだアニ———」
「見てみるか?」
自分の手を掴んで、持ち上げるように立ち上げさせるアニキ。
その眼は俯いていて、辛そうだった。
……当たり前か。
目の前で、もう息をしていない身体は、あの騒がしいタクヤ。
あいつのバカも、元気な声も、もう感じられない。
「……何を?」
「俺は強く無い。ケイスケも冷静なんかじゃ無い。……あの時、タクヤを押しちまったのをずっと後悔してるし……もっと出来る事があったんじゃねーかってずっと悪い頭で考えちまう。ケイスケだって……同じだろうぜ」
そう言うと、アニキは部屋の出口に振り向いた。
「見せてやるから、来い。アカリ、ちょっとタクの事頼んだぞ」
そう言ってから自分の手を掴んで無理矢理にでも連れて行こうとするアニキ。
逆らう気にもならず、なすがままに足取りを彼に任せたその先に居たのは……村の出入り口に付近で木々の前に立つケイスケだった。
そんなケイスケを遠目に、気が付かれないような距離でアニキは止まる。
何を……見せる気なんだ?
「———あぁぁぁぁぁああああああ!!!」
耳に届いたのは、怒号だった。
アニキのではない。勿論、自分の物でも無い。
暗がりの中で、ケイスケが叫ぶ。
その拳をその辺りの木に埋めながら、声が枯れるまで叫ぶ。
揺れるほどの勢いで殴られる木は破片を飛ばしながら傷付いていった。
「ケイスケ……っ?!」
あの、冷静なケイスケが。
叫んで、怒りを、悲しみを、苦しみをぶつけていたんだ。
やり場の無い感情をぶつける。
あのケイスケが。
「止めな……いと。あれじゃ———」
「それは無しだ」
「何でだ?!」
「それは俺達の役目じゃ無いし、ここであいつの吐き口を無くしたらあいつは壊れちまう。……ケイスケはさ、皆の前では冷静に居ようとしてるけどな……人一倍責任感があるから一番抱え込んじまうんだよ。こういう時、一番冷静じゃないのは本当はあいつなんだ」
「ケイスケが……」
嘘だろ……。
「———あぁぁぁぁぁああああああ!!!」
「ちょ、ケイスケ! またこんな所で!」
そんなケイスケに駆け寄る一人の少女。カナタはケイスケを羽交い締めにして、その行動を止める。
普段ならありえないそんな光景。
一通り暴れたケイスケを、カナタは無理矢理振り向かせて抱き着く。ゆっくり頭を撫でると、彼は力が抜けた様にその場に座り込んだんだ。
「ま、ケイスケの事はカナタに任せてれば良いだろ。俺は寝る……明日に向けてな」
ケイスケ……。
「シンカイは言われた通り、タクヤのそばにアカリと居てやってくれ。そんで、俺達が連れ帰ってきたサナを出迎えてやれ……な?」
「自分は……」
ケイスケはあんなに悩んでいるのに、行動に移した。
でも、自分は……。
出来ない。
何も……出来ない。
「……シンカイ。お前の役目を果たせ。自分に出来る事をやれば良いんだよ。……無理な物は、無理なんだ。…………たださ、出来る事があるなら惜しむなよ。後悔するな」
そうとだけ言うとアニキはタクヤの所まで自分を送ってから、寝るために宿に向かった。
まだアカリはそこで待っていて。
起きて来る訳が無いタクヤと、一緒にいた。
「出来る事なんて……」
眼の前を見る。
ただ、座り込んだ。
救えたのはアカリだけ。
そのアカリだって、救ったのはタクヤとサナだ。
出来る事なんて……何も無い。
う、鬱展開続きですみません……。
この展開のままだと次の章で終わってもなんら問題無い気がしてきた()
なんてのは冗談ですが、今後の展開を決めかねている所です……。どうしましょうねぇ。