モンスターハンターStormydragon soaring【完結】   作:皇我リキ

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彼の役割

 ただ、時間だけが過ぎて行く。

 

 

 驚く程ゆっくりと。

 背後に横たわる、大切な仲間との思い出を遡る時間を与えられたかのように。

 

 ただゆっくりと、時間だけが過ぎていた。

 

 

「……寝ないのか? アカリ」

「……ん」

 鬱ぎ込む自分を心配そうに見詰めるアカリに、そんな声を掛ける。

 彼女はスケッチブックを取り出して、いつものように文字を書き連ねた。

 

『シンカイ君は?』

「寝れないな……。落ち着かない」

 落ち着かないと言うと、嘘になるか。

 

 

 叫んで、吐き出して、正直疲れてしまった。

 その意味では落ち着いているんだ。

 

 

「心配掛けて悪いな……」

 そうとだけ言って、また鬱ぎ込む。ペンを走らせる音が聞こえたが、首を上げる気にはならなかった。

 

 

 

 このままで良いから寝れたりしないだろうか……。

 

 

 それで、起きたら夢だったとか。

 そんな事があったりしないだろうか。

 

 

「あれ? シンカイ寝てる?」

 ふと聞こえたのは、さっきまでこの部屋に居なかったはずの女性の声。

 

「…………カナタ?」

 首を上げればそこに居たのは赤い髪を後ろで一つに纏めていたカナタだった。

 

 

「あ、ごめん……起こしちゃった?」

「いや、寝てない。……何か用……?」

「もうこんな時間だし。寝るなら寝室用意したから案内しようと思って。眠くない?」

 それは素晴らしい提案だ事。

 

 

 だけど、素直には受け取れない。

 

 

「ごめん、自分は良いわ」

「ん、タクヤと居てくれるのは嬉しいけど。シンカイが体調崩したら意味無いよ。あ、ご飯持って来たんだけど食べる」

「それは誰が作った奴?」

「私」

「いらない」

「なんで?!」

 聞くなよ。

 

 

「あの時は食べてくれたのに……」

「あの時だぁ……?」

 カナタの飯なんか……あー、食ったわ。

 

 確か、あれはタクヤとアカリとカナタとドスゲネポスの討伐に出掛けた時の事だ。

 

 

 昼休憩にってカナタが作って来たサンドイッチ。

 カナタが物凄く悲しい顔をする物だから、食べないと今日の狩りに支障が出ると思って口にしたんだっけ。

 

 奇跡的にもその日はサナがずっと監視していてちゃんとした飯になっていたってオチだったっけか。サーナリア様、様々だよ。

 

 

「懐かしいねぇ……あの時」

 そうだな。懐かしい。

 

 本格的にタクヤとアカリが狩猟クエストに挑戦するようになったのがあの頃からだった。

 

 

「あの頃はタクも甘い所あって、油断ばっかりして大変だったよね。ちょうどドスゲネポスのクエストの時なんてティガレックスが現れて……情けないタクを庇ってやったなぁ」

 どこか遠い所を見ながらそう言うカナタ。

 

 それでカナタが動けなくなって、ティガレックスを幽霊と一緒に倒したってのがそのクエストのオチである。

 

 

「タクは成長したよね……」

「……」

 どう返したら良いか、分からなかった。

 

 いくら成長しても、死んでしまえばその先は無い。

 もっと成長する筈だった彼の未来を閉ざしたのは、他でも無い自分だ。

 

 

「あの時さ……タク、凄く悔しそうにしてたのを覚えてるよ」

「悔しそうに……?」

 なんの話だ……?

 

「私が倒れて動けなくて。シンカイは一人でティガレックスを倒しに行ってくれたよね。……タクは、待ってろって言われたのが本当に悔しそうだった。外面は、シンカイに言われた事をきちんとこなそうとしてたけど。……自分が何も出来ない事が物凄く悔しそうだったよ」

 あの時、タクヤには二人を守っていてくれって頼んでいた。

 

 

 本音は、あの頃のタクヤをティガレックスと戦わせる訳にはいかなかったって訳だが。

 

 そりゃ、何も出来ないのは悔しいよな。そうだよな。

 

 

「……だからさ。あの頃と比べるとタクも成長したよね。…………二人を守ったんだから」

 そんな言葉を落としながら、彼女は瞳から涙を落す。

 

 アカリはそれを心配して、彼女の表情を伺った。

 

 

「…………でも死んじゃったら……ダメじゃん。タクの…………バカ」

「……か、……た」

 そうだ。

 

 死んだら、ダメだろ。

 

 でも、タクヤを死なせたのは……自分だ。

 

 

「タク……あのクエストの後言ってたんだよ。……俺、シンカイみたいに皆を護れる奴になりたいって。…………シンカイみたいになりたいなら、ちゃんと生きて帰ってこなきゃダメだよね。本当。……シンカイはティガレックスの時も、ディアブロスの時もちゃんと帰ってきたのにさ」

「違う……タクヤが死んだのは———」

「結局、死んだらダメなんだよ」

 どこか遠いところに居る誰かを思うような。そんな表情をしていた。

 

 

 それは、誰の事だろうか。

 

 

 シーラか、マックスか……タクヤか。

 自分よりも別れを経験している彼女は、ただ静かに首を横に振った。

 

 

「結局、死んだら意味が無い。助けてくれたって、自身が死んだら意味が無い。シーラもマックスも、タクも……本当…………バカだ」

「……か、……た」

「ふふ、歳上なのに情けないなぁ……私。アカリも一緒に泣いてよ……あはは」

 手近にいたアカリを抱き締めては、カナタは涙を流す。

 

 

 そうだよ……な。

 

 死んだら、意味が無い。

 

 

 ずっと、思ってきた事なのにな。

 

 

「その点、シンカイは凄いよ。あのティガレックスから一人で私達を守って、戻って来た……」

「あれは……違う。だから、幽霊がだな」

「シーラ、ねぇ……」

 やっぱりあれは……幽霊だったのだろうか?

 

 いやいや、まさか。

 

 

「シンカイ、貴方は凄い」

 急に立ち上がって、カナタはそんな事を言った。

 

 凄い……? 自分が?

 

 

「なんにせよ、私の知ってるシンカイは一人でティガレックスを倒した男だよ。自分に自信を持て。貴方はタクが憧れて、守った男だ。タクはきっと、シンカイならアカリやサナを任せられると思って……助けたんじゃ無いかな?」

 タクヤが……。

 

 

 普段からバカみたいにはしゃぎ合っていた相手。

 

 

 そんな奴が、自分を尊敬していたなんて。

 

 夢にも思うまい。

 

 

 

「私は村の周りを見てくるね。寝室は用意してあるから、眠いなら寝るんだよ。それじゃ」

 そう言うと、カナタは部屋を出て行った。

 

 

 

 タクヤの憧れ。

 

 それは、サナでもアニキでも無い。

 

 

 自分だったと。

 

 

 バカかよ、お前。

 

 

 

「タクヤ……」

 

 

「あれ、シンカイ君まだ起きてたの……?」

 立ち上がってタクヤの顔を見ていると、後ろから声を掛けられる。

 今日は色々な人と喋る日だな……。今度はナタリアか。

 

 

「あ、あぁ……まぁ」

「そっか、ならガイル君からの伝言伝えておくね」

 振り向いた先には、天使のような笑顔を振りまく美少女が居る。

 そんな彼女が口にしたのは、ガイルからの伝言という言葉。

 

 そういや、さっき。ガイルを連れ去ったのはナタリアだったな。

 

 

 

「ごめん。だって」

「殴っておいて謝るんかい」

 いかん、ついツッコミが。

 

 

「ふふ、ガイル君って少し頭おかしいよね」

「笑顔で物凄く辛辣な事を言ったぞこの人。ガイルが聞いたら泣くで……?」

 いや、まぁ、周知の事実なんだが。

 

 

「ったく、脳まで筋肉で出来てるんだから仕方無いのかな?」

「これ以上は辞めたげて!!」

 え?! 何?! ナタリアはガイルの事嫌いなの?!

 

「……私はあの時、湖での競争をガイル君に邪魔された事を一生忘れない」

 そんな言葉を黒い声で言うナタリアさんには本気の何かを感じた。

 あの時邪魔が入らなきゃ、サナを出し抜いて優勝したのはナタリアだったしな。

 

 

「……まぁ、それとこれとは別で。ガイル君には明日頑張って貰わないといけないし、寝て貰ったけどね」

 明日、か。

 

 

「ナタリアは……どうするんやっけ?」

「私は村の周りの偵察かな……。本当は、ヒールの代わりに私が行きたいんだけど……」

 それは、叶わない。彼女は心の中でそう叫んでいるかのように、拳を強く握り締めた。

 

 

「私は、そんなに狩りが上手い訳じゃないから。自分がするべき事を、自分の役割を果たそうって……思うよ」

「……自分の、役割?」

 自分の役割とは、何だろうか。

 

 

 ここで、こうしてアカリと俯いている事が自分の役割だろうか?

 

 

「私には私の。ヒールにはヒールの。アカリやシンカイ君にはそれぞれの役割がある。……そういえばそんな事を、シンカイ君は前言ってくれたよね? フルフルベビーの時にさ」

 あぁ……あの氷結晶を集めるクエストの時か……。

 

 

 ここ最近だったから、良く覚えている。

 

 

「……私は意地っ張りで。シンカイ君の言葉をちゃんと理解しようと出来なかったけど。でも、その通りだと思う。……人にはそれぞれ、都会不得意があって。それを補う役割を持ってるって」

 そう言いながら、ナタリアは天井を見つめた。

 

 そのままタクヤのそばまで歩いて、顔を覗き込む姿は妙に天使的。

 

 

「……お父さんは、皆のお父さん。皆を集めて、固めてくれる大切な人。……ケイスケ君は、頼れるリーダーさん。物事をちゃんと捉えて、皆を導いてくれる人。……カナタは皆のお姉ちゃん。優しいけど、ちゃんとする時は皆を引っ張ってくれる人。……クーデリアさんは、皆のお姉さん。しっかり者で、お茶目な所もある皆の世話役。……サナは、橘狩猟団のエース。狩りは勿論炊事洗濯掃除なんでもござれの、皆が慕うサーナリアさん。かっこ最年少。……ガイル君は、変な人。脳筋ゴリラで、良くわかんない」

「ちょっと待ってガイルだけ可哀想!」

 

「ふふ、冗談です。ガイル君は頼れる力持ちさんだよ。力仕事じゃ、彼の筋肉に叶う人は居ないんじゃないかな。……ヒールは自分の弟に言うのもなんだけど癒し系だと思う。あの見た目のくせに、可愛い所いっぱいあるんだよ? …………アカリは、皆のマスコット。頑張る姿が見たいて微笑ましいし応援したくなって、皆を元気にしてくれる。…………タクヤ君は、ムードメーカーだよね。シンカイ君やサナ、他のみんなとも仲が良くてタクヤ君と居るのは楽しかった。…………それで、シンカイ君はね」

 そこで言葉を止めた彼女と目が合った。

 

 

 自分に役割なんてあるのだろうか。

 

 皆を良く見ているナタリアに、自分はどう映っていたのだろうか。

 思わず、身体が前のめりになった。

 

 

「シンカイ君は、皆のバランサーなんだと思う」

「バランサー……?」

 なんだ、それ。

 

 

「皆の間に入って、調整出来る人。……シンカイ君ってさ、器用で色んな事が出来るよね。色んな武器を使えたり、色んな事を知ってたり」

「でも、全部中途半端や」

 武器の扱いも、知識も経験も。

 

 全て自分は中途半端だ。

 

 

 扱える武器は確かに多い。それでも、全て完璧に使いこなしてるとは全く言わない。

 

 知識も経験も、並かそれ以下だ。

 

 

 そんな奴に、何が出来る。

 

 

「中途半端で良いじゃん」

「……は?」

 

「だって、シンカイ君は人に出来ない事が沢山出来る。人が知らない事を沢山知ってる。中途半端だって、それが沢山集まれば大きな力になる。……だから、シンカイ君は皆の中心に立っていられるんだと思う」

「皆の…………中心?」

 どういう……事だ?

 

 

「シンカイ君はね、人の事を分かってあげられるの。自分も似たような事を中途半端にでも知っているから、その人の事を分かってあげられる。……他人のバランスを取ることが出来る。そんな事は、そうそう出来る事じゃ無いんじゃないかな?」

「人の事を…………分かってあげられる……?」

 自分が……?

 

 

「シンカイ君はね、嵐の様な私達の中心で……皆のバランスを取る人。私は……そう思うな」

「皆のバランスを……」

「難しい意味じゃなくて、簡単な意味でね。シンカイ君はきっと、私より皆の事を見れてると思う。シンカイ君が中心に居れば、きっと全部上手くいく」

 そう言ってから、彼女は部屋を出て行こうとする。

 

 

 おいおい、言い逃げは良くないぞ。

 

 

「待てや、二人分役割を聞いてないで」

「ぇ、あ、うん。そうだけど……」

「アニキの分はそりゃ、言いにくいわなぁ」

「そ、そ、そ、そ、そぅらそあふぇぉえ?! そんな事ない!」

 動揺し過ぎだろ!!

 

 

「ら、ラルフ君は…………格好良くて頼れる、白馬の王子様です」

「自分の偏見ブチまけたな」

「シンカイ君の意地悪!」

「はっ、元々ワイらはそういう仲やないかい。んで、あと一人やけど。……ナタリアはしっかり者で、皆の事を良く見てる。皆の大切なお世話係さんやな」

「もぅ……。ふふ、どういたしまして。それじゃ、おやすみシンカイ君」

 この天使め。

 

 

「ナタリア」

「何?」

「……皆に、ありがとう言っておいてくれ。ナタリアも、ありがとう。……自分の役割、少し考えてみるわ」

「……そっか。頑張れ」

 そう言うと、今度こそナタリアは部屋を出ていって。

 

 

 

 タクヤと、アカリと、自分だけの。

 

 静かな空間が返ってきた。

 

 

 

「自分の役割……か」

 自分に出来る事は、何だろうか。

 

 タクヤが憧れた自分。

 

 サナが背中を預けてくれた自分。

 

 ガイルが信じてくれた自分。

 

 ヒールが寄り添ってくれた自分。

 

 

 

 こんな奴に、出来る事があるだろうか。

 

 

「……分からんわ」

 何が出来るかなんて、分からない。

 

「……か、ぃ、……ん」

 項垂れる自分の肩を、アカリがちょちょんと突く。

 

 

「……なんや、教えてくれるのか?」

 本当、皆に支えてもらってばかりのダメな奴だな……自分は。

 

 でも、教えてくれ。

 

 

「……ん」

 ずっと自分を見ていてくれた、アカリの口から。




やっと、前に進む事が出来ます。長かったよ……。


さて、そういえばダブルクロスにネルスキュラが復活ですね。
この作品的にはタイムリーなネタで少し嬉しいです。ネルスキュラは戦うの嫌いなんですけどね()


さて、実はこの作品このまま完結させちゃおうと思います。
本当は後三章くらい(カナタとケイスケの話、クーデリアの話、ケイスケの話)ネタがあるんですが……このまま終わらせた方が自然かな?と思いまして。

長らく書いてきましたが50話を超える長編になってしまいました。処女作として、ちゃんと完結させたいですね。
ただ、やっぱり至らない所ばかりだったなと思います。もし無事に完結させる事が出来たら……そうですね、いつかリメイクバージョンを書きたいです。

要らない近未来設定とか抜いて、ちゃんとモンハンの世界での彼等の冒険を一から書こうかと思います。

なので、とりあえずはこの作品の完結。


もし宜しければ、もう少しだけお付き合い下さると嬉しいです。
長々と申し訳ありません。今回は、この辺で。

感想評価などお待ちしておりますm(_ _)m
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