モンスターハンターStormydragon soaring【完結】 作:皇我リキ
特徴的なのは機動力と巧みな戦法だろうか。
影蜘蛛───ネルスキュラは、狡猾な戦法とその機動力で敵を翻弄するのに優れたモンスターだ。
糸や毒を使った搦め手や、鋏角による純粋な力技も持ち合わせていて厄介極まりない。
だが、今回はそれを分かっている。
初見で戦う相手で無ければ、対策も出来る訳だ。
「ケイスケが正面、アニキとガイルは奴の後ろに回ってくれ!」
言うが早いか、自分達の不意打ちに動きを止めていたネルスキュラの正面にケイスケが構える。
直ぐに二人もネルスキュラの後ろを挟み、その光景を自分はケイスケの後ろから確認した。
この狩りで一番負担を被るのはケイスケだ。しかもケイスケはネルスキュラとは初戦。
そんなケイスケをカバーする為に、出来るだけ背後に着くように立ってボウガンを構える。
「キシャァァァァッ!!」
大きく広げられる一本の鋏角。これは挟み込む攻撃か……っ!
「挟んでくる攻撃やケイスケ! 盾は正面じゃ無くて横!」
鋏角を一本失った奴の攻撃は片側からしか来ない。
奴が万全の状態ならいくらランスの盾でもガードは得策では無かったかもしれないが、今は違う。
次の瞬間、ケイスケのレッドテイルの盾が火花を散らした。
そして攻撃を確りと受け止めたケイスケは反撃の槍をネルスキュラの頭部に与える。
弾ける炎属性の火。雨のせいか威力が最大では無さそうだが、それでも火は確りとネルスキュラの身体を焼いた。
これなら火炎弾も使えるかもしれないな。そう思ってネルスキュラが怯んだ隙に、ボウガンに火炎弾を装填する。
「うぉぉおおお!!」
「おらぁああ!!」
さらに、背後からのハンマーとスラッシュアックスによる追撃。それに堪えられなかったのか、ネルスキュラは身体を大きく横に倒した。
「チャンスか?!」
「いや待て、ケイスケ以外は一旦離れろ!」
ラッシュを掛けようとする二人を抑制しながら、自分は火炎弾を奴が被ったゲリョスの皮に叩き付ける。
「キシャァァァァッ!!」
次の瞬間、ネルスキュラは身体を起こす前に正面の木に糸を伸ばした。
そのままその糸を使い、巨体が地面の砂を巻き込みながら空へ舞う。
もしあのままラッシュを掛けていたら後ろの二人は巻き込まれていたかもしれない。
盾を構えていても地面を滑ったケイスケが、その威力を物語っていた。
「あの野郎逃げたのか?」
いや、違う。前回はこれにやられたんだ。
逃げたと思わせての、背後からの奇襲。
対応が遅れて、自分達は徹底的に崩されてしまった。
「直ぐ来る! ケイスケを先頭に洞窟に背を向けるで!」
奴の厄介だった奇襲性は、立地が味方になってくれた。
洞窟を背中にすれば後ろから襲われる事は無い。
後は三方向に注意するだけだが、ケイスケを前に出しても横から来られたら陣形が崩れるのは目に見える。
なら、どうするか。
答えは簡単だ。
奇襲を失敗させれば良い。
「アニキ、正面でなく上を見ておいてくれへんか?」
「は? 上だと?」
「奴の糸が伸びて来る筈や。雨で視界が悪い中で悪いが正確な位置をワイに教えて欲しい」
奴の機動力はその糸にある。遠方に糸を括り、それを引っ張る事で瞬発力を得ているのだろう。
「なるほ───って、早速か。シンカイあっちだ!」
アニキの指の先にある木には、確かに白い糸が巻き付いていた。流石アニキ、頼れる頼れる。
「残念やったな糞蜘蛛野郎、その手はもう使わせへんでぇ!!」
その方角にヘビィボウガンの銃口を向ける。次の瞬間トリガーを引き、装填してある火炎弾が真っ直ぐに飛んだ。
迫り来る風切り音。糸を辿って高速で何かが迫ってくる。
だが、その途中で糸が半分消し飛んだ。
全て燃やし尽くす事は出来なかったが、それでも充分。
体重を支えきれなくなった糸が空中で半分に避ける。それを引っ張っていた巨体が同時に自分達の目の前の地面に叩き付けられた。
「ギェェァッ?! キシャィァッ?!」
自らのバランスが突然崩れた事に気が着く頃にはもう遅い。
ネルスキュラは奇襲の為に上げていた速度のまま、地面に叩き付けられる。
「合図までラッシュ!」
そして自分のそんな掛け声で、目の前でひっくり返ったネルスキュラを三人が囲む。
槌が頭を叩き、剣が足を切り、槍が腹を突く。
腹を守るように被さったゲリョスの皮。と、そこが一番の弱点なのではないだろうか?
火炎弾をそこに叩き付け、破れる毒の結晶を見ながらそう確信した。
ならば、あのゲリョスの皮を剥ぐ事を優先するべきか。
「一旦離れるで!!」
だが、それに気が付いた所でネルスキュラは体勢を立ち直し始めた。
一気に攻めたいところだが、ここじゃ無い。急がば回れ。間違えるな。こいつを殺す事が目的では無い。
「ギジャィィァァアアアアッ!!」
立ち上がり、鋏角を大きく広げるネルスキュラ。無機質な頭からでも露わになった怒りは何に向けられた物なのか。
そういえば、こいつは何故自分達を襲うのだろうか?
ゲリョスを餌にするネルスキュラが人間なんぞを餌にしようとは思わないだろう。
捕食では無いなら縄張りを守る為か?
いや、確かこいつはこの密林には居ない筈のモンスターだ。そもそも縄張りを追い出されたという事は───
「───怒りか」
謎の嵐で縄張りから離れるしか無かったネルスキュラ。披露した体力を回復する為にゲリョスを複数襲い、溜まったストレスを吐き出すように自分達を襲っているのだろうか?
ったく、だとしたら迷惑なモンスターだ。
「こっちも苛だっとるんや。どっちが勝ってもおあいこやで!」
狙いを定めるネルスキュラに火炎弾を打ち込み、リロードする。
「キシャァァッ」
しかし怯みもしなかったネルスキュラ。狙いはガイルか、彼を正面に立ち姿勢を低くした。
「な───っ?!」
次の瞬間、誰も反応出来ない速度でガイルを白い糸が地面に縫い付ける。流石に早くて反応は出来ないが───
「させるかい!」
ネルスキュラが次の行動に出る前に、リロードしたての火炎弾をガイルを包み込む糸に叩き込んだ。
焼け切りはしない糸。雨が鬱陶しいが言い訳はしない。
「アニキ、糸を! ケイスケはカバー!」
「キシャァァッ!!」
言うが早いか振り上げられる鋏角。次の瞬間アニキが剣モードのスラッシュアックスで焼けた糸を叩き切るが、回避が間に合う距離では無かった。
刹那、レッドテイルの盾が火花を上げる。
それと同時にケイスケが入れたカウンターで、ネルスキュラが怯んだ内にガイルは脱出。ケイスケを戦闘に直ぐに体勢を立ち直した。
勿論、信じていたが。
信じてはいたが。
実際久し振りに、そして確り目の当たりにして確信する。
ケイスケ……強いわ。
一緒に狩りに出た事なんてほとんど無い。それこそ、記憶にあるのはフルフルの時位だ。
その時から既に分かっていた事だが。
流石我らが猟団のリーダーって所か。ったく、なんであんまり狩りに出ないんだこいつは。
いや……待てよ?
「キシャァァッ!!」
「……ぐぅっ」
再び振り下ろされる鋏角をもケイスケは耐えて見せる。しかし、その表情は微かに歪んでいる気がした。
「アニキ! 一旦ケイスケのカバー!」
あいつまさか……。
ふと、カナタとの会話を幾つか思い出した。
昔の事だ。彼女達がまだ初心者の頃、カナタを庇ってケイスケは怪我をしたと聞く。
今回ケイスケが行くと聞いて、真っ先に自分が変わりにと声を上げたカナタ。
普段全く狩りに出ないのは何故か。自ずと答えは見えて来る。
「キシャァァッ!!」
三度目が来る。
「アニキとガイル、ケイスケのカバー! ケイスケは一旦下がれ!」
「おっしゃ任せろ!」
「……おうっ!」
ハンマーに弾かれる鋏角。それと同時に脚に斧を叩き付けられバランスを崩すネルスキュラ。
そんなネルスキュラに盾を向けながら、一度ケイスケが下がって来る。
「……良く持たないと分かったな」
「なんとなくや。なんとなく。……無理するなよ?」
「……お前」
一瞬驚いた表情を見せるケイスケ。だが、彼は直ぐに含みのある笑みを見せた。
あー、この顔は良く見る奴だ。
人を好き勝手使ってくれる悪い顔だ。
「……お前が居れば、全力で暴れられそうだな」
「いや、無理するなと言ったばっかなんやけど」
「それをカバーするのが、お前の仕事だ」
「……ったく、いつもいつも。……はいはい分かりましたやればええんやろやれば!!」
「おう!」
ったく、いつもそうだ。
こいつはいつも人の事を都合良く使ってくれる。
良いリーダーだよ、全く。
「ケイスケ、腹にあるゲリョスの皮を狙ってくれ。あれを剥がせばそこに弱点がある筈や」
「分かった。後ろは任せるぞ!」
任せろ。
「キシャァァッ!」
体勢を立ち直したネルスキュラは鋏角を大きく横に広げ、前進。
突進のつもりなのか、そんな速度じゃ脅威にはならない。
が、前方は注意だな。
「横から回り込むで!」
自分の声でアニキが奴の正面から離れた次の瞬間、鋏角か瞬き一回分の時間で横に振られる。
片方が無いから挟まれる事は無いだろうが、それでも首の一つは持っていかれそうな威力だ。危ない事しやがる。
だが、そういう大技には隙が生まれる物だ。
「今やケイスケ! 二人はケイスケの援護!」
言うが早いか、ケイスケは姿勢を低くしランス特有の突進でネルスキュラの正面から突っ込んだ。
鋏を交わし、下顎をランスで削りながらネルスキュラの真下を通り抜ける。
そうして腹の下へと辿り着いたと同時に突きのフィニッシュ。
そこから足を軸に回転し、ゲリョスの皮を三度突く。
「キシャァァッ!」
真下で暴れるケイスケが鬱陶しいのか、その場で回転しながら鋏角を振り回すネルスキュラ。
しかしケイスケはそれを盾でいなしたかと思えば、その盾を捨てて再びネルスキュラの懐に入り込んだ。
「これで……どうだ!!」
カウンターで入れられる力強い一突き。レッドテイルから放たれる火花がゲリョスの皮で作った防具を焼き切る。
その攻撃の刹那、鈍い音と共にネルスキュラの腹を守っていた防具が崩れ落ちた。
剥き出しになった白い腹。おーおー、柔らかそうじゃ無いか。
「ギィャァァッ!」
大きく体勢を崩しながらも、直ぐ立ち上がり姿勢を下げるネルスキュラ。
無機質な眼が憎き敵を睨み付ける。狙う相手が分かっていれば、対処は容易かった。
自分がトリガーを引いた瞬間、スタミナを使い果たしたケイスケに向けて白い糸が吐き出される。
しかし、さっきガイルを地面に縫い付けたその白い糸がケイスケに当たる事は無かった。
放たれた火炎弾が発射直後の糸を焼き切る。
力なく地面に落ちる糸を、苛立ちを見せながら引き千切るネルスキュラの腹に向けてもう一発火炎弾を叩き込む。
「ギィャァァッ?!」
「今やガイル! 頭!」
やはり弱点なのか。大きく怯んだネルスキュラの懐にガイルが肉薄。
近付く間に溜めた力でカチ上げ、叩き付け、ホームラン。
「ギャィャァァアアア?!」
巨体をひっくり返らせるネルスキュラ。頭を叩かれて脳震盪でも起こしたのだろう。今はチャンス。
「行けるかケイスケ、アニキ!」
「勿論だ……っ!」
「任せやがれぇ!」
「うっしゃ離れろガイル!!」
ひっくり返ったネルスキュラに突進する二人。何の打ち合わせも無く綺麗に二手に別れた二人はお互いの全身全霊を賭けて大技を叩き込む。
身体を裂きながらの突進。
スラッシュアックスの大技、属性解放切り。
腹に槍が突き刺されると同時に、その腹を属性解放切りの爆煙が包み込む。
大きく横たわる身体。その身体から力が抜けて行くのは眼に見えて分かった。
「……やったか」
呆気無い物だ。
ピクピクと身体を痙攣させるネルスキュラの死を確認して、ヘビィボウガンを背負う。
まだ終わって無い。自分達の目的はサナを探す事だ。
こいつを殺して終わりなんて事は無い。
だけど、流石に皆体力を使い切ったのだろう。疲労が見えて、息を荒く吐いていた。
当たり前だ。タクヤだけじゃ無く、密林のゲリョスを一匹であんなにも殺した化物を相手にしたんだ。
誰も怪我も無かっただけで上等。
サナを探す時にまたモンスターに遭遇し無い訳では無いんだ。
「サナ……」
洞窟の脇に置いてあった防具を見ながら、今何をしているか分からない彼女に想いを乗せる。
絶対に助ける。誰一人欠ける事無く帰るんだ。
だから、今はモンスターに遭遇しても良いように体力を───
「しゃがめシンカイ!!!」
考えを巡らせていた矢先に聞こえるそんな声。
「キシャィィアア!!」
そして次の瞬間聞こえたのは、聞こえるはずが無い鳴き声だった。
振り向く。刹那に振り下ろされる二本の鋏角。
「───なっ?!」
目の前に居たのは、まぎれも無いネルスキュラ。
何故? 生きていた?
しかし、視界の端に同じ形の生き物が倒れているのが見える。
もう一匹居たのか……? いや、考えてみれば当たり前の事だ。
嵐から逃げて来たのが一匹の訳が無い。
たった一匹のネルスキュラがあの数のゲリョスを襲う訳が無い。
……また、やったのか?
「ぐぅぁ!」
何とか反射で振り下ろされる鋏角を避ける。だが体勢が崩れて次の攻撃を避ける事は出来無い。
「させるかぁ!!」
「この野郎!!」
「よせ、アニキ! ガイル!」
二人の援護に嫌な事を思い出す。自分を庇って死んだ彼の顔を思い出す。
「キシャィィアア!!」
吐き出される白い糸。二人を地面に縫い付ける白い糸。
「ラルフ! ガイル!」
「ギャィャァァアアア!!」
死に体の自分を無視して、今攻撃しなければならない生き物を分かっているかのように身体の向きを変えるネルスキュラ。
ケイスケの盾があろうと、動けない二人を庇うには限度がある。
また……やったのか。
また間違えたのか?
───いや、まだだ。
「ふざけるなぁ!!」
背負ったヘビィボウガンを構える。標準はアニキとガイルの間。
まず、一発。
焼き切れはしないが強度を下げる。
次にネルスキュラ。精密な射撃なんて要らない。入ってる弾を全部奴に叩き付けた。
「こっちを見やがれ糞がぁ!!」
「……ギギギギ、キシャィィアア!!」
お待たせしましたでしょうか?
待っていた方が居るのかは分かりませんが、とりあえず再開です。
ご察しの通り、モンスターハンターXXをやっていました。時間が無いですねぇ。
今後も週一とはいかないと思います。しかし二週に一周は更新する予定で行こうと思います。
物語はクライマックスです。最後までお楽しみ頂けると幸いですm(_ _)m
感想評価お待ちしておりますl壁lω・`)