モンスターハンターStormydragon soaring【完結】   作:皇我リキ

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橘狩猟団

「こっちを見やがれ糞がぁ!!」

「……ギギギギ、キシャィィアア!!」

 振り向く巨体。押し潰してきそうな威圧感。

 

 だけど、引くな。

 

 

 

 もう間違えるな。

 

 

 誰一人として死なせるものか。

 

 

 

「キシャィィアア!!」

「くそったれ……っ!!」

 仲間は限界だ。そうで無くても糸に捕まっていて、動けるようになるまで時間が掛かる。

 

 でも、動けるようになれば絶対に助けてくれる。

 

 

 仲間を信じろ。

 

 皆を信じろ。

 

 

 

 それまで耐えれば良い。

 

 

「ケイスケ二人を……っ!!」

 ヘビィボウガン地面に落としながら、腰に掛けておいた双剣を構える。

 振り下ろされる鋏角から身体を守るには小さ過ぎる双剣は、弾き飛ばされて地面を転がった。

 

 

「まだ……っ!」

 死ぬかよ。

 

 

「キシャィィアア!!」

 絶対に全員で帰るんだ。

 

 

「まだだぁぁああ!!」

 地面に落ちていた太刀を拾う。ガイルが持って来たサナの太刀だ。

 その腹でなんとか攻撃の直撃を防ぐが、身体は宙を舞って洞窟の入り口近くに叩きつけられた。

 

 小さな洞窟だ。それこそ人は入れてもモンスターは入れない位の。

 ここに逃げ込めば助かるか……? だけど───

 

 

「───カハッ」

 意識が遠くなる。

 

 

 ケイスケがガイルを助け出す姿が見えた。後はアニキを助けて貰えば、こっちにも増援が来る。

 

 糞……頭が重い。

 

 音が聞こえない。

 

 

 しかしハッキリと見える視界に死神が映る。

 

 糸を自分の頭上に括り付け、突進して来る死神が見える。

 

 

 太刀じゃガードは出来ない。交わす事も出来無い。

 

 

 

 サナ……。

 

 

 また、会いたい。

 

 

 あいつに会いたい。

 

 

 

「……死ねるかよ」

 そうだ。

 

 

 死んで───

 

「───死んでたまるかよぉおお!!」

「キシャィィアア!!」

 突進。それに合わせて太刀を前に突き出す。

 

 丁度ディアブロスにやった時と同じカウンター。

 

 

 決まれ。いや、決める。

 

 

 

 サナを探して帰るんだよ。

 

 

 皆で帰るんだよ……っ!!!

 

 

 

「「「シンカイ!!!」」」

 帰るんだよぉおお!!!

 

 

 

「───あんた、本当バカね」

 ぇ?

 

 

 誰の声だ?

 

 

 幻聴?

 

 

「太刀の使い方は───」

 手に触れる感覚は、暖かい。

 

 柔らかくて、優しい。

 

 

「───こうだって……っ!!」

 刹那、鮮血が視界を覆った。自分の物では無い。

 

 

 

 血飛沫を振り払う残光。

 

 

 インナー姿のピンクの髪の少女は、カウンターが決まり地面に倒れ伏したネルスキュラにトドメを刺す。

 

 

 

 血だらけの身体。

 

 

 それでも、しっかりと足を地面に付ける少女は振り向いて、こう口を開いた。

 

 

「王子様には到底見えない無様な姿ね」

 いつものような、憎たらしい言葉を。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

「……サナッ!!」

「ちょ───筋肉?! 寄るな変態!」

「グボァッ?!」

 サナの姿を確認して真っ先に向かってくるガイルを、あろうことか彼女は殴り飛ばしてお帰り頂いた。

 酷い。酷過ぎる。あれだけサナの事を心配していたガイルにその仕打ちは酷い。

 

 

 いや、しかし……本当に……?

 

 

「サナ……なのか? 本物?」

「こんな美少女がこの世にもう二人も居る訳無いでしょ?」

 あぁ、この言いようは本物だ。

 

 

「無事だったか」

「まぁ、そうだとは思ったけどな」

 遅れてやって来たケイスケとアニキがサナを囲む。ガイルぇ……。

 

 

「ま、正直ギリギリだったけどね」

「良くやった。良く二人を守ってくれたな」

 ケイスケの手が優しく彼女の頭を撫でる。

 自分も直ぐにでも駆け寄って、サナの頭を撫で回したい。良く生きててくれた、流石だって褒めてやりたい。

 でも、彼女が生きているのを確認出来て安心したからか───自分にはそんな権利がない事を思い出してしまったんだ。

 

 

 そもそも自分がしっかりしていれば、こんな事にはならなかったんだから。

 

 

「ったく、思ったより元気そうじゃねーか。流石はうちのエースだぜ」

「あんたが言うと皮肉にしか聞こえないわね……」

「皮肉だよ」

「知ってる」

 あぁ……いつものやり取りだな。

 

 

 

「ケッ」

「ニッヒヒ」

 いつもの皆だ……。

 

 

 

「……シンカイ」

 一通り二人と話してから、自分の方に振り向くサナ。

 その表情は一瞬前とは比べ物にならないくらい、真剣な表情だ。

 

 

 

「……タクは?」

「……っ」

 一番聞かれなく無かった質問だよ。

 

 

「まぁ……分かってたけど」

「……すまん」

「なんで謝るのよ……。あんたも私も全力を尽くした……その結果が今この瞬間でしょ?」

 全力……。尽くしていただろうか?

 

 

 確かに必死だった。真剣だった。

 

 

「あんたには謝るよりする事がある……」

「する事……?」

 サナの言っている意味が分からなくて自分は首をかしげる。今サナに謝る事以外に何をしろと言うのだろうか?

 

 

「…………めてよ」

 スッと、彼女の身体が自分の方へ倒れ込んだ。

 

 力無く倒れ込むというよりは、自分から向かって来る感じで。

 

 

「……褒めてよ。死ぬんじゃ無いかって怖かった! もうあんたに会えないんじゃ無いかって怖かった。必死に戦って必死に逃げた。あんたも必死に戦って私の所まで来てくれた。褒めてあげるから褒めてよ! こんな辛い時くらい頭を撫でてくれたって良いのよ! ほら撫でなさい早く!!」

 雨かと思っていたが、良く見れば涙を流していた彼女は押し倒す勢いで自分に抱きついて来た。

 

 

 ……そうだよな。怖かったよな。必死だったよな。

 

 

 当たり前だよな。

 

 

 自分も……そうだったんだから。

 

 

 

「……ありがとうな、サナ。生きててくれて」

「……ありがと、迎えに来てくれて」

 ゆっくりと彼女の頭を撫でてやる。気持ち良さそうに目を瞑る彼女を愛おしく思いながら、こうしては居られないという思いを無視して彼女を撫で続けた。

 

 ただ、まぁ、ずっとこうしては居られない。

 

 

「……そろそろ帰ろう。まだここは狩場だ」

 そう言いながら自分に双剣を手渡してくるのはガイルだった。

 なぜそんなに不貞腐れた顔をしてるんだお前は。

 

 

「せ、せ、せやな。……まだネルスキュラが他にも居るかもしれへんし」

 実際ネルスキュラが二匹だけなんて事も無いかもしれない。

 

 三匹目が現れたっておかしく無い筈だ。

 

 

 

「ガイルの言う通り、ここは危険だろうな」

 そうとなれば移動は早いに越した事は無い。直ぐにでもサナの無事を皆に伝えたいしな。

 

「しっかし良くもまー、生きてたもんだぜ」

「本当にギリギリだったんだから……。ただ、こいつら何か変だったのよ」

 続くアニキの言葉にそう返すサナ。変だった?

 

 

 そういえば、自分も何か違和感を感じていた気がする。何だったか。

 

 

 

「こいつら……何かを怖がってたのよ。怯えてた。だから暴れまわってたのかもしれないわ。脱ぎ捨てた防具を投げ捨てたらその防具を襲う位には混乱してたのよ」

 そう言うサナはひっくり返って転がっている二匹を哀れむような表情で見比べる。

 なるほど、だから防具が転がってたのか。そして、サナはあの洞窟に隠れていた……と。

 

「まぁ、そのおかげで隙が出来て逃げれたんだけど。……なんか、雨が強くなると動きが鈍るのよこいつら」

 怖がっていた……? 雨で動きが鈍る?

 

 

 なぜだ……?

 

 

「考え事は後回しだ。嫌な気配がする……急ぐぞ」

「あ、ちょい待ち。ヘビィボウガンを忘れるところやった。アカリに怒られるわ」

 出発の準備を急ぐケイスケにそう言葉を落としてから、自分は遠くに転がっているヘビィボウガンを取りに行く。

 

 

 こいつをちゃんと返して、アカリ言うんだ。

 

 ただいまって。サナをちゃんと連れて帰って来───

 

 

 

「キシャィァァァアアアアッ!!!」

 ───は?

 

 聞こえるはずの無い声。

 

 

 

 いや、聞きたくなかった声。

 

 

「ネルスキュラ?!」

 正面では無く、背後。振り向けばタテを構えるケイスケに鋏角を叩き付けるネルスキュラの姿が映ったんだ。

 

 まだ……まだ返してくれないのか。

 

 

 

「ケイスケ!!」

 ふざけやがって。

 

 

「ふざけやがってぇ!!」

 直ぐにヘビィボウガンを拾うために振り向く。ここからなら走って双剣で戦うよりもヘビィで援護した方が早い。

 

 こんなとこでしくじってたまるかよ。

 

 

 こんなとこで終わってたまるかよ!!

 

 

「待ってろよ今───な?!」

「……クカクカキキキ」

 目の前の木々の間から覗く巨体。無機質な眼に睨み付けられた自分の身体が止まる。

 

 

「四匹目……?!」

 嘘だろ……。

 

「キシャィァアアッ!!」

「っ?!」

 振り上げられる鋏角。とっさに突き出した双剣と共に自分の身体が宙に浮く。

 

 

「───がはっ」

 くそ……っ。こんな事をしてる場合じゃ無い。

 

 

 

「……ぐぅっ」

 ケイスケだって他の皆だって限界の筈だ。

 

 こんな所で止まってる場合じゃ無い。

 なのに───

 

 

「キシャィァァァアアアアッ!!!」

「……くっそ」

 ───こんな時に。

 

 

 

 

「「「キシャィァァァアアアアッ!!!」」」

「な……ぁ……?」

 さらに、振り向けばネルスキュラが三匹増えて皆を囲っていた。

 

 

 丁度一人一匹。四人でやっと倒したネルスキュラが合計で五匹。

 

 

「なんなんだよこいつらぁ!」

 

「……サナ! 俺の後ろに!」

「あんたこそ下りなさい筋肉。一人じゃこんな奴───っぁ?!」

「サ───ぐぁ?!」

 無理なのか……?

 

 

 あれだけ考えた。

 

 

 必死にやった。

 

 

 

 それなのに───

 

 

 

「───無理だったてのかよ畜生がぁぁあああ!!!」

 負けたく無い。

 

 

 無理だと分かっていても。

 

 

 

 もう神頼みでも何でも良いんだ。

 

 

 ただ帰りたいだけなんだ。皆で帰りたいだけなんだ。

 

 

 

「死んでたまるか……死なせてたまるか……」

 まだだ。

 

「まだ終わっちゃい───がはっ」

 目の前のネルスキュラを無視して走ろうとすると、背後からの一撃で肺の空気が全部抜ける。

 

 く……そ……。

 

 

 手を伸ばす。

 

 

 アニキが武器を弾かれる。

 

 

 ガイルが糸に捕まって動けなくなる。

 

 

 ケイスケが地面に膝を着く。

 

 

 サナに振り下ろされる鋏角。

 

 

 

 ……終わったのか?

 

 

 そんな……。

 

 

 嫌だ……。嫌だ……。

 

 

 

 助けてくれ…………皆……っ!!

 

 

 

 

「キシャィァァァアア───」

「ぬんぉぉぉおおおおお!!!」

 サナに振り下ろされようとしていた鋏角が、突然の怒号と共に宙に舞う。

 

 鋏角を斬り飛ばした『大剣』はそのまま弧を描き、ネルスキュラに叩きつけられた。

 

 

 

「───ぇ」

「……待たせたなぁ」

 ニッと笑う巨漢は他の人物を誰も気にとめること無く、振り向いてサナの頭をその大きな手で撫でた。

 二メートルはある竜人族の男。

 

 我等が橘狩猟団団長。

 

 

「……親爺?!」

 橘デルフ。

 

 

「……な、なんで糞爺が居───」

「サナ!!」

 サナが言い終わる前に、彼女の名前を叫ぶ女性の声が響く。

 ピンクの髪を後ろで纏めたその女性は、ネルスキュラを無視してサナの所まで走り彼女を無理矢理抱きしめた。

 

 

「お、お姉ちゃん……?!」

 クーでリアさんと親爺がなんでこんな所に……?

 

 

 

「……良く無事だったな」

「いや、糞爺前! 前!」

「あぁ……?」

 親爺の後ろで鋏角を切り飛ばされ、大剣を叩きつけられてもなお立ち上がるネルスキュラを指差してサナが焦った声を出す。

 そもそもサナの窮地を救ったからといって全員のピンチを乗り切った訳ではない。

 

 

 突然の親爺の怒号で動きを止めていたネルスキュラ達だが、我に返って直ぐさま目の前の獲物に意識を向ける。

 

 勿論、自分の目の絵にいるネルスキュラも例外では無かった。

 

 

 

「キシャィァァァアアアアッ!!!」

 

「ったくよぉ」

 だが、それでも親爺は焦った様子も無く大剣を振り上げる。

 

 ただ目の前の一匹に集中し、向かってくるネルスキュラにその大剣を───

 

 

「お前ら全員何もかも自分で何とかしようとし過ぎなんだよ……っ!!」

 ───叩き付けた。

 

「ギェァァアアアッ?!」

 その一撃で絶命するネルスキュラ。

 

 

 

 

 そして親爺はその言葉にこう付け足す。

 

「俺達は……家族だろう?」

 

 

 

「ギェァァアアアッ?!」

「っ?!」

「やらせないっすよぉ!!」

 糸に捕まったガイルを狙うネルスキュラをボウガンの弾が突然襲った。

 突然の奇襲。勿論自分がヘビィボウガンを拾った訳では無い。

 

 なら……誰が? さっきの声は?!

 

 声の主は自慢のモヒカンが雨で崩れないように片手で押さえながら、ガイルの目の前に立つ。

 

「待たせたっす、ガイル」

「……ヒール?!」

 

 

 

「キシャィァアア!!」

「くそ……っ!!」

「ラルフ君!」

 アニキにタックルを仕掛けるネルスキュラに弓が何本も刺さる。

 動きを止め、ラルフの前に立ったのは金髪の可憐な少女だった。

 

「ラルフ君は……私が守る!」

「ナタリア?!」

 

 

 

「ギェァァアアアッ!!」

「……ちぃっ」

「情け無いわね!」

 ケイスケへの攻撃を、大きな盾が防ぐ。

 だがそれはケイスケ本人のランスの盾では無く、赤い髪の少女がしっかりと構えた緑色のガンランスの盾だった。

 

 少女は攻撃を確りと受け止めてから、ケイスケを心配そうに眺めた。

 

 

「……良かった、無理し過ぎて無い」

「……カナタ。なぜ?」

 

 

 

 

 皆が……家族の皆が助けてくれたのか……?

 

 助かったのか……?

 

 

 いや、まだだ。

 

 

「キシャィァァァアアアアッ!!!」

 自分が生きのこらな───

 

「───マジか……」

「……シ……カ…………く、ん」

 目の前に立つ黒髪の少女は、初めの頃とは比べ物になら無い程手馴れた手つきでヘビィボウガンを構えた。

 

 

 確りと照準をネルスキュラに定め、弾丸を叩き込む。

 

 

「……あ、り、が、と」

 そりゃ、こっちの台詞だよ。

 

 

「や、く、、く、ま、もっ、く、、て」

 約束? あー、サナね。いや、危うく破る所だったけどな。

 いや、でもさ。本当。

 

 

「こっちこそ……ありがとな」

 ……助かったよ。

 

 

 

 

「俺達は家族だ。……辛い事も、難しい事も、大変な事も、嬉しい事も全部分け合う家族だ。なぁ? そうだろう? お前らぁ!!」

 親爺の声に、全員が無言で頷いた。

 

 

 

 そうだ。

 

 

 

 ここに居る皆は家族だ。

 

 

 これまでの旅で───楽しんで、分かり合って、手を取り合って、助け合って、励まし合って、騒ぎ合った───大切な仲間達だ、

 

 

 

「立てるっすか?」

「……ふ、余裕だ」

 この皆ならやれる。

 

 

「大丈夫? サナ」

「当たり前でしょ。おねーちゃんは下がってて、まだ一仕事あるんだから」

 この皆とならずっと一緒に居られる。

 

 

「なぁ、ナタリア……」

「な、何かにゃ?!」

「俺の後ろは任せたぜ?」

「……う、うん!」

 助け合える。

 

 

「……カナタ」

「何?」

「これが終わったら結婚してくれ」

「あんたこの状況でそれ言う?!」

 支え合える。

 

 

 

「……なぁ、アカリ」

「……?」

「この前の返事をここで言うわ」

「……っぇ?!」

 ずっとこの皆で。

 

 

 

「行くぞぉ! お前らぁああ!!!」

 これからもずっと───

 

 

「───ずっと、一緒に居ような」

「…………ん!」




やっぱり最後は皆集合でパーっとやりたかったのですよ。皆んながいてこそのこの作品だった訳です。
終わりとしては中途半端かもしれない。でも、彼等の物語は続いていく〜みたいな感じの方がこの作品としては合っている気がします。

完璧に終わらせるって事は……それはつまりつまるところ彼等の冒険を終わらせるって事になってしまうので……。うん、言い訳臭いね。


50話以上書き続けてきた私の処女作な訳ですが、思い出せば長かったような短かったような。
そんなのこの作品も次のエピローグで最後のお話となります。

多くも語る事はありません。次回で最終回です。


最後にもお会いし、お付き合い頂けると幸いに思います。ではでは。
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