良ければ見てください。
早朝
日は昇り、人々は眠りから覚める。
活気づく街の市場では食材を売る人の威勢の良い声や買い物や職場に向かう人々の話声で大変にぎやかだ。
その中で、この街では珍しい黒髪に執事の様な恰好の青年が市場で買ってきたであろう食材を抱えながら歩いている。
街の外に向かいながら。
その青年が向かうのは人々が住む街から離れた山の中。
この街の者なら誰もが知っている危険区域。
森に囲まれ、毎朝深い霧が経ち込める場所に建てられた豪華な館。
館は不自然なほど紅く不気味な雰囲気を出している。
それもそのはず、ここは悪魔の館。神に祈る人々を嗤い、絶望を振りまく魑魅魍魎の箱庭。
昔は名など無く、ただ『悪魔の館』と呼ばれていたのだがある時を境にこう呼ばれるようになった。
人間の血の様に紅い不気味な館、『紅魔館』と。
食材を抱えた黒髪の青年は慣れた手つきでその館のドアノブを回し中に入る。
「ただいま戻りましたー、ってまだ誰も起きてないか」
館の大きなホールに小さく自身の声が虚しく響き少し肩をすくめる。
青年は厨房とみられる場所に足を向け歩き出した。
荷物を厨房に置いた後、青年は桶を持って外に向かい水汲みを始めた。それが終えると次は薪を割り。その次は館の掃除を・・・。
青年は忙しそうに館の中を行ったり来たりしている。
この大きな館の雑務を青年一人でしているためあっという間に日が傾き、夕日が覗いていた。
「さて、お次は・・・」
「ふぁー・・・。いい夜だな・・・、仕事御苦労・・・」
次の仕事を探すためホールで考えていると後ろから寝ぼけ眼で、青年より一回り大きい金髪の男が現れた。
「ああ、良い夜だな。そんなことより風呂場で顔でも洗ってきたらどうだ?」
「うむ。そうするとしよう・・・」
金髪の男はふらふらとした足取りで向かう・・・厨房に。
「って、おい!そっちは厨房だぞ!」
慌てて男を止めに行く。
「むう・・・。顔が洗えれば何処でも良いではないか、ラディ」
金髪の男は青年『ラディア・シャン』に文句を言う。
「はあ・・・、伯爵様?頼むからレミリア嬢とフラン嬢、それからパチュリーちゃんにはそんなこと言うなよ?お世話係の俺が奥様に説教喰らいかねないからな」
あっはっはと笑いながら風呂場に消えるこの館の主、『テロル・スカーレット』伯爵。
疲れたがこれもいつもの事だと気を取り直した。
「伯爵様が起きてきたってことは奥様と三人ももう少ししたら起きてくるな」
よしっ、と彼は自分の頬を叩き気合を入れなおす。
「さあ、全員起きて用意する!」
そう声をかけると何処から現れたのか数人のメイドと執事が現れ各自自身の仕事に取り掛かる。
ラディアは彼等にとっての朝食を用意して食卓へと運ぶ。
ナイフとフォーク(銀じゃない)を並べ、食事は冷めないようにする。
更に、食後のデザートを作る。
ある程度は出来るラディアだが紅茶だけはいれることが苦手なためそれはほかの者に任せる。
「あら、おはよう。ラディア、今日もあの子たちをよろしくね」
ホールに向かうと紅いこの館とは真逆で、透き通った青い髪の女性が話しかけてきた。
「はい、奥様。既に朝食は出来ていますよ」
奥様と呼ばれた女性は食卓に向かった。彼女は、テロルの奥様だ。名前は自分の夫と娘たちにしか知らない。何でも、吸血鬼の名家出身のお嬢様らしくその家の家訓で伴侶以外に自身の名を呼ばせない様にしているそうだ。
「ラディアー!!」
「フランおじょうさ・・・ごふゅ!??」
ラディアの胸より下の鳩尾に鮮やかな金の髪の少女の頭突きが入る。
その後ろからゆったりとした歩きで薄い紫色の魔法使いの少女が呆れながらこちらを見る。
「いてて・・・。フランお嬢様、おはようございます。レミリアお嬢様は?」
未だに、頭を鳩尾にぐりぐりと押し込んでくるフランお嬢にレミリアお嬢の事を聞く。
「んー?お姉さまならまだ寝てるよ?ねえ、今日は何するの?また、遊んでくれるんだよね!」
「お嬢様、今日はお勉強の時間です。それが終わった後でしたら幾らでも遊べますよ」
「む~。わかった!直ぐに終わらせるね!」
少しだけ不満そうだが直ぐに笑顔に戻った少女・『フランドール・スカーレット』はまたラディアに抱き着く。もちろん、鳩尾に入っている。
「パチュリー様、今日は大丈夫ですか?薬は持っていますか?また、この間の様に発作が起きるかもしれませんので気を付けてくださいね」
「・・・分かってるわ、おはようラディア」
「はい、おはようございます。それでは、二人ともこちらに」
魔法使いの少女・『パチュリー・ノーレッジ』ちゃんとフラン嬢を見送る。
「さて、あとはレミリア様か・・・」
そのまま、フラン嬢の姉『レミリア・スカーレット』嬢を起こしに向かう。
ノックを三度鳴らす。
「お嬢様、起きてください。お嬢様」
声をかけてみるが反応がない。
「・・・仕方ないか。はあ・・・、失礼します」
部屋に入った。
そこには、大きなベッドですやすやと眠るレミリアお嬢が・・・いたらどんなに良かったか。
「・・・・」
毛布を蹴り飛ばし、お腹は出しっぱなしで寝ている。
「お嬢様―。起きてくださーい」
何だかこの姿を見るとテロル伯爵を思い出しやる気が下がる。
「ん~、誰よ・・・全く気持ちよく寝ていた・・のに・・・さ」
寝ぼけ眼でこちらを見て固まるレミリア嬢。
「おはようございます。皆さま既に食卓に居ますのでお急ぎを」
挨拶をするが動かない。反応がないが無視して側に近づき、
「へ・・・」
「へ?」
「変態―!!」
「は?何をいって・がはっ!?」
綺麗にストレートパンチを貰った。・・・・鳩尾に。
こうして、ラディア・シャンの大変な一日が始まったのであった。
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