曖昧で長い空間をゆったりとした足取りで進む。いつもなら一瞬で目的の場所まで着くのだが結界の密度と緻密さ、そして莫大な力のせいでだいぶ時間が掛かる。
それでも、時間をかければこのようにわたることが出来る程度だと考えながら、歪みの端、『出口』の前でラディアは止まった。
ラディアは、最後の楽園と呼ばれる場所はどんなものかと少し馬鹿にしながら歪みの外に出る。
目を奪われた。
澄んだ青に、原始の森。太陽は煌めき、空気には考えられないくらいの霊力とそれに負けないくらいの妖力。
「すごい・・・」
ラディアの口から素直な感想が出た。
そして、ラディアは納得する。確かに、『楽園』の名に恥じない素晴らしい世界だ、と。
「あらあら、こんな昼間に何をしているのかしら、吸血鬼のお兄さん?」
その景色に感動していると後ろから女性の声が聞こえた。
内心、ドキッとしたが悟られぬようにゆっくりと振り返る。
「・・・素晴らしい景色に心奪われていました。貴方が作ったこの楽園に」
「あら、それは嬉しいわ。それで、貴方はだれかしら?乱暴に結界を破ってきた不届き者さん」
女性は、八卦が描かれた紫色の服に日傘、そして、扇子で自身の顔を隠している。髪はフラン嬢と同じ金髪で綺麗だ。
「失礼しました。私は紅魔館の元・執事長のラディア・シャンと申します。このたびは結界を無理矢理破って申し訳ありませんでした」
ラディアは謝り、土下座をする。
「ちょ、ちょっと?何をしているのかしら?」
「?日本では謝る時はこうすると聞きましたが?」
少し慌てた様子の女性に、不思議そうに言葉を返す。
「はぁ・・・。まぁいいでしょう。私の名前『八雲 紫』。この幻想郷の管理者の一人で妖怪の賢者と呼ばれているわ。確認だけど、貴方はこの楽園を壊しに来たわけではないのね?」
その質問を肯定する。
それから、幾つかの質疑を繰り返しラディアは幻想郷に入ることを許された。
ついでに、この世界で初めて起こす『異変』の参加を要請された。
なんでも、お嬢たちが派手にやらかし、幻想郷の妖怪たちの弱さを認識し、その改善として行うそうだ。ただ、殺しあうのは花がない上に幻想郷に住む者がいなくなるので『スペルカード』と呼ばれる非殺傷の攻撃を当てる『弾幕ごっこ』をやるらしい。いくつかのルールもあり、奥が深そうな代物だとラディアは感じた。
異変を解決するのがこの世界の維持に協力している『博麗』と呼ばれる巫女らしい。
因みに、お嬢たちはこの提案に喜々として乗り、異変で巫女を倒したら幻想郷をいただくことを宣言したらしい。
「あの、大丈夫なんですか?」
「ええ、大丈夫よ。私の博麗が負けるはずないもの」
自信満々の紫を見てラディアは少し笑ってしまう。
「何よ?信じてないわね、その顔は」
「さて、どうでしょう?八雲様、いろいろと教えていただきありがとうございました」
ラディアは一礼して紅魔館へと向かうのであった。