俺が俺を自覚しているのは今生で三回目。奇妙に古い文化の異世界へと転生した『前回』はわけがわからないままに生きたが、現代日本でそれなりに勉強していた俺は神童などと持て囃されて調子に乗っていた。
そこがどういう世界かも良く知らないままにできないことは無いと自惚れて、噂になっていた『魔法使い』を一目見ようと険しい山を登ったところで出会ったのはとんでもないガキだった。
キャンディを爆発物へと存在変換する魔法(マテリアルパズル)、スパイシードロップ。それを一つ放るだけで巨石を粉々に粉砕する破壊王。それがアクア師匠だ。
そこに足を踏み入れたことを後悔する、奴隷のような毎日。飯を作り、掃除をし、洗濯をし、遊び相手をする。そして気に入らないことがあれば爆発(物理的に)される毎日。ほんと、よく生きてこれた。
腐っても神童と持て囃された俺。物事を真似るのは生前から大得意で、実際、俺の魔法は師匠のアレを劣化コピーした代物。再現して見せたところ、元から魔法を扱うというところの才能はそこそこあったのだと言われた。そのとき面白くなさそうに再び爆破された。解せぬ。
ともかく魔法を覚えた俺は、もうここには居たくないと喧嘩別れみたいな形で山を降りた。
ひどい奴だというか? 実際そうだと思う。でも降りる際、数日分の飯は作り置きしておいたし、洗濯物は畳んでおいたし、おやつも取って置きの木の実タルトを用意しておいた。まだ何かしろといったら命くらいしか残せん。無理。
魔法を上手く使えるのは戦場くらいだと思い、その足で戦争へと徴兵された。その戦争で金を稼いで、また暇になったらあの山へと顔を出そう、そんな甘い考えがまずかったのかも知れない。俺はそのまま戦死した。
そうして三回目と成った今回の人生。現代日本に戻ってこれたのは普通に嬉しかったが、覚えた魔法の使い道がねーとか、また小学生をやるのかーとか、懐かしいなー何とかなるだろー、と楽観的に物事を見ていたのだが、甘かった。
俺の本能には、子供に対する苦手意識がぎっしりと染み込まれていたのだ。
すべてはアクア師匠の所為。同年代から年下の子供らと対峙すると「早く離れたい」という意識が浮かぶ。それと同時に面倒見てやらなきゃなー、という妙な責任感までついて回るのだから性質が悪い。
まあそんなわけで、俺には同年齢の少女らに対する恋愛感情は到底持てそうに無いのである。お分かり?
「で、いつの間に高町さんと仲良くなったんだよ。てめー」
「聞けよ、人の話」
前世云々はともかく、最後の総纏めで締めくくってやったのに。クラスメイトであるそいつは嫉妬に塗れた視線で睨み付けてきやがった。
なんでかというと、今朝登校したら高町が挨拶したからである。しかも俺の下の名前を呼び(ココ重要)。
「かなめくん、だとよ。けっ、リア充ばくはつしろ」
「不当な評価だと思うんだ」
つうかアイツ、夕べ別れるときは不満げな目で人のことを睨んでいたはずなのに。なんであんなに笑顔で話しかけてきたんだ。一晩で評価が鰻登りになっていないか。何があったんだよ、一体。
『夕べユーノくんから詳しく教えてもらったの。つまりはジュエルシード集めを手伝うって言いたかったんだよね?』
高町から念話が来た。聞こえはするけど返し方が判らない。これ系の魔法は使えないってことを言うの忘れてたな。
『それで最初にユーノくんを悪く言ったのだって、一人地球に来たばかりで不安だったユーノくんの気持ちをほぐすための演技だったんじゃないかって』
待て。それは違う、誤解してるぞ高町。
『よく話さなかったからわからなかったけど、ほんとは優しい人なんだね、かなめくんって。ふふっ』
ぐぁぁぁぁ……! 念話で含み笑いを表現するという高等技術まで持ってして俺にそういう評価を下すって……!
高町、お前って俺の天敵か? っつうか返信の仕方が分からないから、あいつの中じゃ益々評価が不当に上がってる気がする。恥ずかしがって返事できない少年みたいじゃねえか!?
ちらりと見る。微笑まれる。まっすぐな笑顔が眩しすぎて、穢れた俺じゃ目も当てられない。目をそらす。
そらして気づいた、これ悪循環だよ!
「見つめ合いやがってぇー!!!」
「違う!」
全部に対して叫んでみた。
視界の隅で、まだ高町が微笑っている姿が幻視された。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「俺が手伝うって言うのは自分の身が可愛いからであってだな、使命だとかユーノがどうこうとかそういう感情は一切無くてだな、聞いてるのか高町!?」
「はいはい、照れなくっていーのにねー」
「聞けよ!?」
学校を抜け出す不良少女を見つけたので、訂正のために追いかけ説得してみたところ、軽く聞き流されて宥められている俺がいた。
含み笑いを交えつつ人の台詞を受け流す少女には、若干の苛立ちが募るばかりである。
つうか、なんでこいついきなり学校サボってるの?
『二人とも、ジュエルシードはそう遠くない場所で発動したみたい。急いで!』
『わかってるよユーノくん! 今かなめくんと向かっているところなの!』
ああ、それを感知したのか。
俺には感知できない波動でも感じ取ったのだろうか。さすが魔法少女、インテル入ってる。
とりあえず言いたいことは言ってあるし、最早どうでも良くなってきたところだし。頭を切り替える。
「で、どっちだ?」
「あっち! 神社のほう!」
山の上かよ。
「――っ! よし、高町。GO」
鳥居の奥に連なってゆく石段を見上げて、一瞬でやる気が萎えた。
「かなめくんも来るんだよねっ!?」
「やーだー、登りたくないー」
これもう登山だよ。駆け上がるとかおいちゃんには無理だよ。空を飛べたらいいのになぁ。
「なんか一気に駄目人間になってるよっ!?」
「駄目でいいよ、駄目なりのやり方を通すから(CV・田村ゆ○り)」
「それやめて!? なんだか大事な台詞を汚された気がするのっ!」
俺もそう思った。なんだろ、電波かな。
☆ ★ ☆ ★ ☆
えっちらおっちら山を登り、たどり着いたところにいたのは巨大な犬と倒れた女性。
犬のほうは、なんだろ、狛犬?
敵意をむき出してこっちを威嚇してきたので、スパイシードロップ・マーブルで遠距離射撃。
『きゃいん』
ちなみに爆散させても良かったのだけれど、空気を読んで衝撃波だけで済ませた。
「『いやいやいやいやいやいやいやいや!!』」
いやがゲシュタルト崩壊しそうである。
動物相手に鼻先を攻撃するのは基本だと思ったのだけれど、ユーなのはお気に召さない様子。何?
「空気読もうよかなめくん! ここはわたしがかっこよく変身してピンチを覆す場面だと思うよっ!?」
「高町、英雄願望か? よく聞け、正義の味方なんていないんだ……っ!」
「なんだかシリアスに苦悶の声を上げてもやったことは許されないよっ! わたしの出番ーっ!!」
『なのはの言う電波なことはともかく、要はもうちょっと手加減したほうがいいと思うよ? あの爆風で女の人にまで被害が行ってたらどうするのさ?』
「ユーノ、大丈夫だ。マーブルは魔法そのものの爆発を推進力に大幅に変換する技術だからな、飛距離を稼ぐのに適した魔法だから当たったところで大したダメージもない」
『……あの犬のモンスター、ぴくりとも動かないんだけど……』
「急所に当たったんだろ」
ポケ○ンで言うならばライフゲージが一撃でゼロ。ゲームだと戦闘不能だな。現実ならば今のうちに捕まえられるけれど。
「よし高町、モンスターボールだっ」
「何の話!?」
間違えた。
「……封印だっ」
「流したっ!? で、でもわかったの!」
というわけで再び高町が変身。
マッパ → りりかるまじかるー → 嘲笑。
「また鼻で笑ったよね!?」
「気のせいだ」
☆ ★ ☆ ★ ☆
すっとぼけた主人公
見せ場を奪われた魔法少女
リリカル★スパイシー 続きます