「人間は作り物なんかじゃないっ!」
絶叫した。
激昂した。
無我夢中だった。
人よりずっと上だという存在だったとしても、その一線をそう割り切られるのだけはどうしても許せなかった。
岸本にも、レイカにも、鈴木のおっちゃんにも、俺にも。どんなものにでも、誰にだって、きっと意味はあると、そう信じていたからこそ俺だって生きてこれたんだと。否定させるわけにはいかなかったから、だから声を張り上げた。
たとえ俺がコピーだったとしても。
好きだったという気持ちには、嘘はあって欲しくなかったのだと、俺が望んでいた。
だから
「意味は、あるんだ……。だから、生きている俺たちを、否定しないでくれ……」
なんだこれ
くそ、泣きたくもないのに涙がでる。
『では証明しよう』
え――
● ● ● ● ●
――……は?
気がついて、呆然と部屋を見渡す。
ガンツのある部屋で、周りの人たちはどこかで見たような、おっさんばかりで。
誰もスーツを着てない? さっきまでの部屋にいた人たちじゃない、よな……?
……――って、西がいる。
アイツが呼び戻したのか?
「――なんで」
続きを口に出す前に、ガンツが加藤を転送してきた。なんでわかったのかって言うと、頭から現れたから。
「加藤、お前も――!」
「――え、あ。ケイ、ちゃん? なんだ、ここ? 俺たち確か、駅で――」
「――駅?」
ちょっとまて
こいつ、なんでスーツを着てない?
っつうか、俺も? 学生服って、久々なのに妙にしっくりくるっつうか……?
――あ
また、転送
してきた、やつを見て、絶句した
何も身に着けていない、素っ裸の少女。若くてハリのある肌は十代のもので、自分に向かって倒れこむ女性特有の柔らかさと腕の中で押し付けられて形を変えるでかい胸がその存在を主張している。
そしてその彼女は、自分がこの世界に陥ったときに最初に目を引かせた人物でもあった。
「――きし、もと……?」
「え、ケイちゃん、知り合い?」
「は? 何、言って――」
混乱する頭のままに、加藤を見上げて、そのよくわかってなさそうな表情を見て、俺は直感的に理解していた。
理解、できてしまっていた。
「――やり直させられた……?」
「ケイちゃん?」
● ● ● ● ●
現れた高校生くらいの二人。
片方は鈍そうだったが、もう片方は他の奴にはない何かを感じた。直感だが。
アイツは、この部屋で何か別のものに戸惑っているような匂いがした。
混乱しているようだったけれど、あいつらに続いて現れた巨乳の女に上着をかぶせるくらいには落ち着いていたようだったし。無駄に紳士な奴だ。
ヤクザっぽい親父が近寄ろうとしているのを視線だけで追い払ってやがる。つくづく高校生らしくねえ。
さて、そろそろか。今夜は何人生き残るかな。
アイツ、ぐらいは生き残って欲しいもんだ。
● ● ● ● ●
『あいつら』の『証明』という台詞に、最初に呼び出された時のようなシチュエーション。
こいつらがそろいもそろってドッキリでも引っ掛けていない限りは全部やり直しってことか? くそ、つくづくあいつらは人間の上を行きやがる。
思わず抱き上げた岸本に上着をかぶせて、ヤクザのオヤジが近づいてこないように睨み付ける。
こっちはテンパってるンだよ、厄介ごとはいらない。
「け、ケイちゃん、なんか平然としてるな……」
「――は? 何が?」
「何がって、その子だよ。裸の女の子なんて、普通に触れるものか?」
ああ、そういえば
あの死線を潜り抜けたからだろうか、なんか慣れてた。裸のやつなんて、いくらでもいたしな。
「とりあえず、そのままでいさせるわけにはいかねーだろ。床に放置とか、犯罪者みたいじゃねえか」
「そ、そういやそうか……って、ケイちゃん、目ぇ怖ぇ」
「……あー、悪ぃ、考え事してた」
「考え事……って、何を?」
「いろいろ……」
どう答えようかと思いながらも、普通に受け答えできていた間に、岸本が身じろぐ。起きたか。
「目、覚めたか?」
「う……、ここ、どこ……?」
「知らね」
「ケイちゃん、もっと言い方ってもんが」
加藤に注意させられそうになったとき、音楽が鳴った。
ガンツに文字が浮かび、ターゲットが表示される。
男たちが胡散臭そうにそれに近寄って覗き込み、俺はというとまだ岸本を抱えたままだ。
加藤も西もそれを遠巻きに見ているだけで、岸本はまだ頭がはっきりしていないらしい。
なんかぼーっと俺を見上げてるんだけど、こいつは加藤のことを好きになるはずだったし、そもそも俺はレイカを好きになったんだし……。
うん。気にしないようにしよう。
説明が終わり、ガンツの横からケースが飛び出す。それにはそれぞれ名前があったけど、それよりも男たちの興味は一緒に出てきた銃のほうに向いていた。
おもちゃを手にした子供のように男たちがはしゃいでいる中、西がまず転送される。
男たちも次々と転送されてゆく中で、俺はというととりあえず岸本を離して、ケースを探ってみた。
『きょにゅう』
というケースを、岸本に渡す。
「……え?」
「服、入ってるかも。裸のままじゃやばいだろ」
「あ、ありがと……って、なんで『きょにゅう』!?」
「女はアンタぐらいだったし、それっぽい名前、あだ名? が書いてあったからそれかな、と。とりあえず開けてみたら?」
「なんか、釈然としない……」
ケースを見て不服だったのか、岸本に叫んで突っ込まれてしまった。元気な奴だな。
「ケイちゃん、やっぱ慣れてない? 女の子相手にその態度って、マジぱねえ……」
ぶつぶつ言いながら奥部屋へ着替えに向かう岸本を眺めてたら、加藤に尊敬の眼差しで見られた。いや、その前にお前も転送始まってるけど。
● ● ● ● ●
ターゲットは初回と同じくネギ星人。本当にやり直しなのか、それとも俺の頭の中身だけの世界だったりするのだろうか。どちらにしろ、こいつの感触は本物なんだし、うかつに死に向かうのも嫌だし。
あいつらの技術の高さはこの際目を瞑ろう。それにこれが本当にやり直しなら、誰も死なせない選択ができるかも知れない。
っつうか、俺自分のスーツ持ってきてないんですけど。
「……凡ミス……、いや、死ななきゃ平気だよな。っつうか初回の人たちってどうにも印象無いんだけど、どういう風になってたっけ?」
「なにぶつぶつ言ってるの?」
スーツを着込んで岸本が転送られてくる。
相変わらずのぴっちりとした代物で、レイカに慣れていたとはいえやはりエロい。
「あ、あんまり見ないで欲しいんだけど」
「あ、悪ぃ。思わず」
「いいけどさ……」
うん? なんかよく聞こえなかった。
まあいいか。
それよりおっさんとかの視線がかなり岸本に集まってる。仕方ないかも知れないな、こんなコスプレみたいな格好していたら。
「とりあえず……、上着ありがと。服、無いからこのまま借りててもいいかな?」
「ああ、どーぞ。さすがにその格好じゃ帰れないだろうし、な」
「帰る……」
一瞬、不安げな表情になって呟いた。
そういえば岸本って誤転送されていたんだっけ。って、今はまだ俺も含めて誰も知らない事実だけど。
「いっせんまん!?」
と、スーツのおっさんの叫び声が聞こえた。
ああ、西の『あれ』か。ってことはアイツも戻ってきたってわけじゃなさそうだ。あまりにもやり方が『初回』過ぎているし。
「僕の叔父さんがテレビ関係の人で――」
台詞を聞き流して考える。
武器なし
スーツなし
けど実戦経験は無駄じゃなかったと思いたい
恐竜の時だってほとんど裸同然の状態で生き残れた
あのときの衝動を思い出せ
「よっしゃああ! 一千万は俺が貰ったああ!」
男たちが駆け出してゆく。
俺も加藤も岸本も、それを呆然と見送った。
「ケイちゃん、どうする?」
「んー、パス。企画がどうこうっていうのも信じきれないし、金があるからといってどうってわけでもないと思う。とりあえず、そこの娘を送るわ」
「って、帰るのか?」
「帰れないこともない、だろ。加藤は?」
嘘だ。本とは帰れないことも知っているけど、それをこの場じゃ言えない。まだ西がいるし、そもそも未来のことを教えても信じてもらえる保証もない。
「一千万か……、あれば、正直助かるんだけど……」
「なんだ? 借金でもあるの?」
「いや、そういうんじゃなくって……。つうか、一応見に行く。狩る、とか、そういうのは嫌な感じもあるし……」
ああ、やっぱりこいつは加藤だ
漠然とした、攻撃的な興奮をわずかに漏らしていたおっさんたちの本能に対する忌避感、とでも言えば良いのだろうか。それが、その本能を否定する正義感がコイツにはある。
死線を潜り抜けてきた今ならわかる。俺はコイツに憧れていたんだと。
駆け出していった加藤を見ながら、岸本に視線を移す。
「さて、じゃあ送るけど、」
家はどこ? と続けようとしたのだけれど、
――なんか岸本が俺のことをじっと見てた。目が、合う。
「――え、何?」
「え……、あ、いやこれは違くって!」
そんな風に、何かを否定しながら目をそらされ、いや、まだちらちら見てる。え、ほんとうに何。
● ● ● ● ●
最初の印象はやさしくない人。
言葉遣いも適当だし、あたしに対して妙に遠慮がない。
顔つきは女の子みたいにかわいいけど、その内側では何か男らしい部分を抱えているような、あべこべなイメージを受けた気がした。
かと思えば服を(コスプレっぽいけど)探してくれたり、こっちのことも気遣ってくれたり、気づいたら家まで送ってくれるとか決定していたり、女の子に対する最低限度のこともしている。
少しはやさしいのかもしれない。
部屋のナカにいたとき、比較的仲の良さそうだった大きな男の子は他の大人の人たちを追いかけていったけれど、この人と二人っきりになっても不思議と嫌ではなかった。
まだ好きとかそんな感情が芽生えたわけじゃないと思う。ただ嫌ではない。その程度の感情。
クラスメイトでいれば、なんだかいいな、って思う程度で。いっしょに授業を受けていたりすればふとした瞬間に惹かれるかも知れない。そんな男の子。
そんな子に、今は夜の東京の街中を送ってもらっているところだ。
多分、東京だと思う。
自殺をして、失敗したのだろうか。気がついたら知らない部屋にいて、知らないうちに助けてもらっていたのだと、さっき気がついた。
『部屋』には暴力団関係の人たちもいたし、私のあの格好で転がされていたらレイプされていてもおかしくなかったと思う。
被せられていた上着は彼の制服。返すべきかも知れないけれど、見つけた服はコスプレだし、それを少しは隠したいからまだ貸してもらっている。
彼のほうは気にしていないようだけれど、私としては無言で連れ立って行くのはちょっと気まずい。ちょっとコミュニケーションぐらい取ったほうがいいかも。
「そ、そういえばなんていうの?」
「ん?」
ドモってしまった。振り向いた彼に、あまり緊張しているとは思われたくない。
って、恋人じゃないんだから。
「名前。私は岸本 恵、キミは?」
「――ああ。同じだ……」
「え?」
「俺も『ケイ』なんだよ。玄野 計」
「そ、うなんだ」
「ちなみにさっきのアイツは加藤な、加藤 勝」
「へぇ」
なんらかの、偶然だけど。
なんだか少しだけ安心している私がいた。不思議。
「ところで、なんか鳴ってねえ?」
「えっ」
突然振られた言葉に気がつく。
確かにケータイのアラームみたいなものが聞こえ
「! 待て、戻れ!」
くろの君にそう叫ばれたときには、すでに彼の腕の中にあたしは納まっていた。と同時に目を塞がれていたのだけれど、最後に目に映っていたのは、見間違いじゃなければ、酷く鮮烈な光景だった気がした。
「く、くろのくん、今、そこに」
「見なくていい。戻るぞ……っ」
そのまま、もと来た道を戻っている。そう感じたけど、あたしはそれ以上に気にするべき光景を見ていたはずだ。
倒れていた人、飛び散っていた赤い液体、頭が、無かった……?
アレは、何?
「……な、なにが起こってるの……? 事件? 事故?」
「……あの部屋にいた、おっさん、かもしれない。パジャマみたいな格好だったし、こんな夜中に似たような格好の奴が徘徊しているとか、そうそう被らない、だろ」
同じ、部屋に、いた人?
「……嫌な予感がする、他の奴を探そう」
くろの君の言葉に頷く以外に選択肢なんてなかった。
この時は、これが始まりだなんて思いもしていなかった。