玄野 計がこと此処に至って奔らせる思惑は様々にある。
まず浮かぶのはカタストロフィに起こる最大規模の侵略戦争。自分は生き延びて最後の部屋に到着したがそこまでの被害が圧倒的過ぎてやり遂げたという感情はまったく浮かばなかった。
あれは回避も改変も恐らくはできそうにない。全てが疾走するように巡り起こった悲劇惨劇恐怖の連続、またあれを潜り抜けろといわれても同じようにできるという保証もなければ自信もない。
やはりできることといえば同じように必死で生き延びることを目指すくらいしかないのだろう。だが、今度こそはレイカも死なせない。それだけでも目指す。
次に浮かぶのはセンジュ戦にての惨敗と、それに連なる自分の孤独なミッション。そしてその結果引き起こされた、クラスメイトを初めとする学校内での大量虐殺。そしてガンツによる和泉への殺人依頼。
どれもこれも人が死に過ぎているのに、カタストロフィに比べれば多くないと思う。その反面、数の問題じゃないだろ、と玄野は考えを改めた。
どれも止めなくちゃならない。
それはひょっとすれば未来の改変で、そうなると自分の辿ってきたものを否定することかも知れないけれど、このろくでもないゲームを規定通りにやる義理もない。回避できることなら変えてやる、と決心を新たに玄野は走っていた。
後ろには岸本が彼の上着を羽織ったままついてきている。その中に着ているのはガンツスーツだが、自分はそれを着ていない。この時点で彼が辿った「事実」とは異なった世界である。
玄野としては、もうここが何処であろうとやることは決定した。死なない、死なせない、生き延びる、生かす。
だからこそ、最初のこの一回で加藤が死ぬ可能性のあったことを忘れていたことに気づいて、自分のことを殴りつけたくなった。
さっきから響いていた絶叫が止んだ。
ネギ星人を狩るために走っていった男たちが死んだのか、ネギ星人が返り討ちにあったのか。どちらかであることは間違いない。
ここで重要なのは、「返り討ちにあう可能性がある上位勢力」なのは間違いなく星人であるという事実だ。いくら銃を持っていても、生き延びる可能性(=ガンツスーツ)に欠けた状態では勝てないのだ。
あの最初のミッションのときは、自分が見ていたのはデカい図体のネギ星人一体。
珍しく一体を刈り取ろうというミッションであったのだが、その膂力に圧倒的な差があったことは間違いない。
「………………岸本は隠れてろ、俺が見てくる」
「……えっ……なん、なにが……?」
ある程度の近所だという場所に辺りをつけて立ち止まり、息を切らせている岸本をその場に置く。人の家の庭先に勝手に蹲らせて、動かないように命じておく。
「嫌な予感がビンビンする。これが当たっているかどうか以前に、既に一人死んでるんだ。危険かも知れない、ってんなら近づかないほうがいい」
「ちょ、ちょっと、なにを言って……」
岸本はまだ現状を把握できていない。玄野に置いていかれることのほうが、今は怖く思っていた。
だが、それと玄野の事情とは違う。
玄野はスーツを着ていない。この状態で生き延びた経験が数回あるとはいえ、自分の身を守ることもできるかわからない状態では岸本はむしろ一人のほうが安全だ、と玄野は判断していた。
当然ながら、岸本の内心を読み取れるわけもない。
「俺が叫んだら、動くな。絶対、家までは送り届けてやるからさ」
「本来」なら自分は知らないはずの事実を語ったところで信じてもらえるはずもない。知らせたところでそれでこの先も上手く生き延びられるのかと言われたら絶対だという保証もない。
だが、玄野は決意する。
先の事情を話せなくても、やろうということに変わりはない。
それを目に込めて岸本に言い含めた。
「………………わ、わかった」
岸本は目を逸らさずに、逸らすこともできずに頷いた。その頬には、ほんのりと朱が乗っている。
これが改変のその一であったのかも知れない。
そんな天の声は露も知らず、玄野は再び走り出す。
● ● ● ● ●
現場は凄惨、血と肉と瓦礫と死体が、雑じり合った地獄の一端。
それをごみのように目にも留めず、その大男は道路の端にて肩を震わせていた。そこは丘のようになっていて、その向こう側目下には公園が広がっている。
その先に、誰かがいたのか。
「――か、とう……?」
道路の端、雑然とした死体の中には目当ての人物はいない。
――転がった死体の中から、血と脳漿に塗れたXガンを見つけ、拾う。
となれば、今回も以前と同じように、加藤はどうにかしてあの丘を飛び降りたということに繋がるが、
――大男が、腰を低く、跳ぶような仕草を見せていた。
「――! おい!」
――助かるという保証は、ない。
ぴたり、という音がしたかのように、大男が動作を止め、こちらをゆっくりと振り向いた。
その瞬間、
拾っていたXガンを大男に向けて、トリガーを引く。
――ギューン
間抜けな音が響き、互いに呆然とし、数秒。
ボン、と大男の片腕が破裂した。
「(――外したっ)――!」
『グアアアアアアアアアアアア!』
「あああああああああああああ!」
恐らく痛みで絶叫した大男を挑発する意味も込めて、玄野は「約束」した大声を上げた。それと同時に走り出し、大男をおびき寄せる。
案の定、大男は玄野を、憤怒の形相で追いかけてくるのが肩越しに見えていた。
● ● ● ● ●
『ああああああああああああ!』
「なっ、なに!?」
言われたとおりに隠れていた岸本は、聞こえてきた玄野の絶叫に驚いた。が、言われていたことは忘れていなかったので隠れ続けることを止めることはしない。
しばらく待たないうちに、玄野が走ってきて、駆けていった。
置いていかれた?
と、思う間もなく、それを追いかけてゆくのは玄野の倍はありそうな大男。しかも、片腕はなく、残ったもう片方の腕は鍵爪のように変形していてなんだか怪人のようにも見えた。
それでなくともあの形相。アレに捕まれば、玄野がどうなるかわかったものではない。
「! く、玄野くんが殺されちゃう!?」
あながち間違っていない予想を浮かべると、走っていった二人を追いかけるように、岸本もその場から駆け出した。
そして中途半端に終わってた