「少しいいか」
「ああ、久しぶりだな」
條ノ之 箒、珍しい名だが忘れてはいない。幼なじみだ。
件の発表者の妹であるが、彼女もそれに色々と迷惑を被っているはずなので嫌ってはいない。いや、そもそも嫌う人物自体別にいないが。
詳しい部分を良く知る二人の姉は、迷惑に思うだけで嫌いではない。迷惑だが。大事なことなので二回言う。
「あ、ああ、覚えていたのか?」
「当たり前だ。幼なじみを忘れるほど薄情じゃない」
何だか戸惑っているような。
立ち上がるぐらいはすべきか?
「その、なんだ、あー……」
ん。言葉の続きが中々出てこない。
まあ久しぶりなのだし、こちらから話題を放ってみるか。
「剣道はまだ続けているのか」
「む! あ、ああ。というか、空手ってなんだ、聞いてないぞ、私は!」
「始めたのは中学だ、当然だ」
「う」
相変わらずいきなり怒鳴る。
神谷嬢が怯えているではないか。
「中学で知り合った友人と妙に馬が合ってな、付き合いで始めたら趣味になった」
「つっ、突き合い!? 女か!?」
「男だ。何に変換した貴様」
友人だと言うとろうに。
「そ、そうか、すまん……」
「まあ気にしないが」
というか、この場で話すのは色々支障が出そうな気もする。明らかに女子らは聞き耳を立てているし。
そうしているぐらいなら明石崎に声でもかけてやれ。なんか気障な格好で黒板に寄り添っているぞ。
「その、だな、聞きたいことがあるのだが……」
「早めにな、次の授業まで時間がない」
「ああ……、その、千冬さんと、何かあったのか?」
む。
いや、それはここで話すことじゃないのでは。
そうも思ったが、別にいいかとも思い直す。聞き耳を立てている女子らにも、隠すようなことでもない。
「別に。ただ離れて暮らしていたというだけだ」
「だが、二人だけの姉弟だろう?」
「いつまでもべたべたとしている姉弟こそ見苦しいだろう。離れるのが少し早かった。それだけだ」
酷く簡素で、一般的な理屈。
更に何か裏にあると、箒なら気づいているだろうな。
だが話すことでもない。
結局は自分の一方的なものの見方であるし、それでは姉はただの悪者か愚者でしかないからだ。
結局聞いてくれることもなく、その日はそうして授業は終わった。
客寄せパンダの気分を味わった一日だった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「一夏、部屋なのだが、明石崎と共同になる。我慢してくれるか?」
「織斑先生、明石崎に対して何やら辛辣では」
プレハブ小屋を用意されて、男子二人での共同生活だと言われた。明石崎は不満そうだったが自分としては気にすることでもない。
ただそれを告げにきた姉の発言は中々に辛辣。明石崎、お前何をした?
「いや、どうにも性格に難のありそうな奴だからな。いやらしい目でしか女性を見てない、今の世の中では逆に珍しいタイプだし」
「男としては普通なのでは……、まあわかりました。自分は特に気にしてませんし」
「ああ。それと、私のことは昔のように呼んでくれても構わないぞ?」
「学生として。馴れ馴れしい呼び方は他に示しがつかないでしょう。なのでお断りします」
悲しそうな顔をしないで欲しい。
当然のことを言った程度なのだから。