時は過ぎて数日後、涼宮のやつがまた何か企んだようだ。
「みんな! お待たせ!」
別に待っていねえよ。
文芸部の扉をドバンと開け放って、満面の笑みで奴が現れた。
この部屋を乗っ取ってからこっち、こいつはずっと上機嫌なままだ。
中学では三年間ずっと仏頂面だったって谷口から聞いたのだが、果たしてそれは真実なのかと問い質したくなるほどに。
だが残念ながら、中学生の三年間をクラスメイトとして過ごしたという自称の悪友は未だ退院していない。
「いやあ、参っちゃったわ。中々サイズがなくってさあ」
がっさがさと紙袋を二つほど机の上に置いて、流れるようなしぐさで俺の湯飲みを奪い取りごくごく飲み干す。
おいちょっと待て。
「わが団の萌え要員であるみくるちゃんの本領を発揮するときが来たわよ。こんな温いお茶を煎れるだけのメイドだか茶坊主だか小姓だかわからない役割から脱却するとき、それが今よ!」
そう息巻いているが、俺としてはなあ、
「二、三、いいか」
言いたいことがある。
「ん。言ってみなさい、キョン」
「まず、間違いなく朝比奈さんは茶坊主ではない。見るからに女性だしな」
「ん、そうね」
自分で言った割には認めるのはええな。
ちなみにその朝比奈さんというのは上級生だが、小柄でロリ巨乳なかわいい先輩である。
こう、守ってあげたくなるような?
「萌え要員というのも、まあお前が言い出したことであるし、云わんとすることは理解できなくもないから良しとしようか」
「ちょっとくどい言い回しね」
「まあ最後まで聞け」
彼女の役割は今のところ確かにお茶酌み要員だ。
涼宮の用意したメイド服を身に纏い、俺たちに目の保養と心の安らぎを提供してくれる。
エッチな意味じゃあ、ないぞ!
「温いお茶というのは煎れてから時間が経ったからだ、熱いお茶が呑みたければ少しだけ待てば煎れてくれるさ、優しいのだもの、先輩は」
「フレーズがあいだみ○をの様だわ」
「問題はそれ以前だ。――俺の茶を飲むな!」
「何で怒ってるのよ!?」
何でわからんのだ!?
「朝比奈さんが俺のために煎れてくれた茶だぞ! 奪い取って文句を言うなら少しは落ち着いて待てよ!」
「あたしは今飲みたかったの! 良いでしょ! 減る物じゃなしに!」
「減ったよ! 物理的に!」
マクスウェルの悪魔は存在しねえんだよ! 消え去った物を元に戻すことは俺だけの手じゃあ不可能だ。
「あとついでに、『わが団』なんて言われても此処は文芸部室だ。俺はSOS団なんつートンチキなものに入った覚えはねえよ」
「設立者のくせに生意気だ」
「設立してねえよ! ジャイアニズムも程々にしやがれ!」
ちなみに先ほど説明した朝比奈さん。
この涼宮ハルヒが書道部から拉致してきて勝手に入部させた被害者でもある。
それでも文句を言わずにメイド業に修辞しているのだから、涙が出そうなほどに健気だ。
あ、あと未来人らしい。
「それでー? 今日はいったいどんな厄介ごとを持ってきたんだい? ハル太クン」
「聞いてよキョンえもーんって、語呂悪いわね。やらせないでよ」
「乗っかったのはお前だ」
なんだかんだでノリが良いんだよな。
こいつはホンとに中学生時は(ry
「まあいいわ。これよ!」
そう言って紙袋から取り出したのは、あー……なんだ?
スク水……とは違う。色的にはそれに近いデザインのような、それとは異なるような。パーツを取り出して机の上に並べているので、個々の情報から推理。
網タイツに、耳付きカチューシャ、しかも耳はウサギの耳。
ああ、バニースーツか。
「……これを、どうするんだ?」
用意したのは恐らく二着。
「着せるのよ!」
「朝比奈さんに?」
「そのとおり! キョンにしては察しがいいわね!」
半ば冗談だったのだが。
「そうか……。うん。それじゃあ俺は外で待ってるよ。着替えが完了したら呼んでくれ」
「止めてくださいよお!?」
うん、それ、無理☆
絶叫した朝比奈さん(先輩)を意識的に無視して部屋から出ようとする。
だって涼宮だもんなあ。
「さあてお着替えの時間よお!」
「ふえっ! ちょっ! 待ってください涼宮さんまだキョン君いますからスカート引っ張らないでチャック開けないでブラをはずさないでパンツを(以下自主規制)ーーーーーーっ!!!」
一瞬にして全裸にされゆく朝比奈さんの尊厳を守るべく、なるべく見ないように意識しながら文芸部室から退出した。
予想通り過ぎてため息が漏れた。
「おお……!」
女神がいた。
ウサギの耳の。
「あ、あんまり見ないでください……」
恥ずかしそうにもじもじと身をくねらせる様は「誘ってんのかァ?」と言いたくなるほどに扇情的で。
全体的に赤いバニースーツのほうは網タイツがないのか生脚で、それも眩しいがそれ以上に胸部だ。
背の低さからは吊り合いの取れないたゆんと揺れる二つのふくらみが、こぼれそうなほどにかたちを主張する。
バニースーツ自体がスタイルを維持するためにそこそこ形を整えているようだ。
押し上げられているそれらは、さらにそれを隠そうと抑える朝比奈さんの両腕に、あり得ないほどの変形を見せている。
こう、ドリーム的な意味での。
「綺麗ですよ、朝比奈さん……」
「う、うそです、こんな、はず、かしい……」
「いいえ、さいこうです」
「ふえ……」
思わずひらがなで喋ってしまうほどに。
「ちょっと、キョン。あたしは?」
「ああ、いいんじゃないか?」
涼宮は黒のバニーだ。
網タイツつき。
「扱いに差がありすぎじゃないの!? あたしのほうももっとこう描写と言うか説明というか!」
「何をわけのわからないことを言ってるんだ?」
「真顔で!?」
なんか愕然としてるな。
しかし、涼宮は涼宮でスタイルいいな。
「そうだ、折角だから写真でも撮ろうか」
なんだか俯きぶつぶつと呟き始めた涼宮と、真っ赤になりながらイヤンイヤン身をくねらせる朝比奈さん(可愛い)を見ながら、パソコン部から強奪したパソコンの置かれている机からデジカメを取り出した。
これも強奪した物なのだろうか。
いつのまにかあったんだよなあ。
「ふーんだ、勝手にすればいいじゃないのよー。どうせ、あたしなんて……」
急にネガティブになりやがるなこいつは。
「何をいじけてるんだよ。お前も撮るぞ」
「……え?」
「団長なんだろう? 勇姿を撮って、サイトに上げようぜ」
「キョン……こんなあたしでも、撮るの……?」
「ああ、それで不思議をザックザクと収集し放題だ。それが狙いなんだろ? 今回のこれもさ?」
「グスッ……さ、さすがね、コンセプトをよく理解してるわ、あたしの言いたいことを、全部先に言っちゃうなんて……」
「ほら、泣いた顔は似合わねえぜ。お前は笑顔が一番だ」
「うん、あたし、精一杯笑う。それが一番よね!」
「ああ、具体的にはダブルピースで頼む」
「わかったわ!」
ちょろい♪
つーかなんだこの茶番。
同じ部の今はいないもう一人の男子のバイト的な意味合いで機嫌をとってやったつもりなのだが、こうまで口から出任せで上手く乗るとは。
涼宮のアホ写真を数枚撮影し、朝比奈さんにも向き直る。
「それじゃあ次は朝比奈さんですね」
「えっ!? わ、わたしもですかぁ!?」
「当然っす、朝比奈さんはマスコット的扱いなんで。なあ?」
同意を求めると一仕事終えて満足したのか、どこからかタオルを取り出しつつ涼宮も大きく頷いた。
「そうね! むしろみくるちゃんにはもっと力を入れなさい! 半端な写真を撮ったら許さないわよ?」
「任せろ。つーわけで朝比奈さん、女豹のポーズをお願いします」
以下、自粛すべき内容でしたのでさわりだけを記載致します。
『ほら、こっちに目線ください。ああ、いいですよ、すっげえエロイ』
『え、エロイって……』
『いい意味で』
『どういう意味でしょうか……?』
『いえ、いいわ、その表情……なんだかあたしまでイケナイ気分に……』
『涼宮さぁん!?』
『大丈夫よ、ふふ……みくるちゃんのこんな潜在能力をここで開花させるとはね……キョン、恐ろしい子……っ!』
『す、涼宮さんの顔が劇画タッチに……!?』
『それだけ俺たちは本気ってことですよ……後ろからもいただきます』
『あれ、それじゃあこのポーズの意味は……?』
『これはこれで美味しいです』
『は、はあ……?』
『……バカばっか』
撮影が終わっても熱は冷め止まなかった。
その熱気はこのまま換気することも憚られるような、そんな錯覚すら覚えていた。
って、暴走しすぎだったな、俺。
ちょっと反省しよ。
「ヴァー……まだあっついわ、これ……」
涼宮ならびに朝比奈さんも室内の熱に当てられているようだ。
共に並んで力なく椅子に座っている。
が、おしとやかに項垂れている朝比奈さんと違って涼宮のほうは仰向けだ。
サウナで湯当たりしたおっさんみたいだぞ。
「この熱気があれば、なにか、すごいことできそうなきがするわ……」
「なんでしょうかあ……?」
個人的にはそこから十八禁的エロゲ展開に発展しそうなヤバイ予感がぷんぷん匂うのだが。
……汚れてるのかな、俺。
「よっし、このままチラシを配るわよ!」
何故に
「そもそも宣伝のために用意した衣装だったことをすっかり忘れていたわ! 結果的には宣伝に使ったもんだからいいけど、現地で有効性が見出されなきゃ意味がないわよね!」
あ、紙袋の中にチラシがある。
ほんとに最初の目的はそれだったのか。
「じゃあ、いくわよみくるちゃん!」
「はぁい! おともしますぅ!」
あれ、朝比奈さんも熱で半壊してねえか?
止める間もなく二人はチラシを配りに行ってしまった……。
……。
しーらね。
「……」
「? どした、長門?」
「……私の写真は?」
「……じゃあ、撮るか」
無言で頷くヒューマノイドインターフェースに、思わず萌えた。
並べた机の上で寝そべった制服ながもんを撮影し終えると同時に、憤慨した涼宮と若干涙目の朝比奈さんが戻ってきた。
どうやら担任である岡部教諭に諭され止められた様子。
エロゲ展開には至らなかったらしい。
ホッとした反面、少しだけ残念。
その日はそれでお開きとなった。
帰り道、買い物帰りの朝倉と遭遇した。
先生に怒られるようなことやってないでしょうねー? と、幼馴染みみたいな台詞と共にジト目で見られたので、やってませんサー! と笑顔で返答しておいた。
あれ、なんだかいい感じじゃね!?
実際俺は直接怒られたわけじゃないしな。
まあ、クラス委員だしな。
翌日岡部に何かしらの報告を受けるであろう事は、言わないでおこう。
うん。