「キョン君の嘘吐きー!」
登校と共にそんなことを言われても。
下駄箱で遇って突然に叫ばれてしまった。
というか待っていたっぽい?
「昨日何もしてないって言ってたじゃないの! 先生から早朝一番に聞いたわよ!?」
「それ、俺じゃ、ないです」
「同じ部でしょ!?」
「うぐぅ……っ」
まあ申し訳ないとは思ってる。
クラス委員だもんなあ、変なクラスだとか思われたら色んな所に影響出るだろうし。
「もうちょっとさあ、自粛させることとかさあ、できないかなあ?」
「いやあ、ほら、若さがほとばしってるんじゃないかな? 高校生的な?」
「なぁに? わたしは若くないって言いたいの?」
「そうじゃなくて、リビドー的な?」
「なおさら問題あるわよその表現」
「じゃあ性犯罪的な意味合いでの」
「更に酷く!」
というか朝っぱらからする会話じゃねえよな。
俺が自粛するべきか?
「まあ悪かったって。お詫びの品としてプレゼント的なものをご用意しております」
「なんか、ずいぶんと用意がよくない?」
「いや、偶々な。サンプルみたいな感じで出来上がったからモニターというか試供品というか」
「……本当に偶然の産物で手を打とうって言うの……?」
あ、なんか、怒らせた?
やっべ、ちゃんと説明しねえと!
「いや、違う違う! ほんとに朝倉にやるつもりで造ったんだって! 造るきっかけは偶々かも知れないけど涼子さんの事を一番に考えて造らせていただきましたー!」
「ちょ、ちょっと声おっきいって!」
ん?
ああ、気がつけば教室前だ。
「まあ、かさばる品だし。放課後でいいか?」
「う、うん。いいけど……」
よっし誤魔化せた!
しかし改変してから朝倉も普通の女の子っぽくなったなあ。
うん、可愛くなった。
「…………」
……席に着くと、いやーな視線が後ろから……。
「あー……よう、涼宮。なんだ?」
「…………べっつにー……」
嘘だっ!
不機嫌オーラがほとばしってやがるぜ!
つうかマジでどうした。
昨日のがそんなに堪えたのか。
岡部の説教ごときで?
自慢じゃないがアレの説教ほどゆるい物はないぞ!
「ああー……昨日は、散々だったな?」
「……べっつにー……」
「……ほら、それでも得たものはあったろ?」
「……べっつにー……」
「…………今朝妹がさー」
「……べっつにー……」
ええい!
お前は某女性シンガーか!?
日本語通じてねえのか!
会話のキャッチボールが全部暴投だよ!
ちゃんとミットに収めろ!
思わず周囲に助けを求めても、全員視線をそらしやがるしな!
あーさーくーらー
へるーぷ
『ねえ、朝倉さんってキョン君と付き合ってるの?』
『ええ!? ち、違うわよ!? 何でそんな話に!?』
『いや、だって、ねえ?』
『うん。なんか仲いいよね』
『あー、付き合ってないけど気になる的な?』
『また“的な”!? それ流行ってるの!?』
『驚くところ違くない?』
『そ、そうじゃなくて、いや、気にはなってるけど好きとかそういうのじゃなくて』
『いやもうそれ認めてるじゃん』
『み、認めてないよ!?』
『朝倉さんのツンデレおつー』
『『『おつー』』』
『なにそれこわい!?』
ダメだ!
会話の内容はわからんが向こうは向こうでテンパってるっぽい!
「なんかさー」
「お、おう。なんだ?」
涼宮から振ってきた。
別段身構える必要も無いはずなのに、やたらこええな、コイツは。
「いいんちょと、仲良いんだ」
「え、あ、なんだそれ、疑問系じゃねえの?」
「仲良いんだ?」
「いや、仲は良いが」
「どういう的な?」
「振ってきたな」
「どういう的な?」
「お前は壊れたレコーダーか」
あれ、なにこれ、なんて答えるのが正解?
つうかクラスメイト諸君。
聞き耳立てているなら助けろマジで!
朝倉まで一緒になって!
「どういう的な?」
的な? はもういいから!
「あれだ、四天王に道を塞がれているとここは俺に任せて先に行け! って言ってくれるライバル的なポジションだ! もしくはお前を倒すのはこの俺だ! とか叱咤激励を入れる的な」
溜め息を吐かれた。
全員かよ!?
あれーでも間違ってなくないか?
『……キョン君の中で、わたしってそんなポジションなんだ……?』
『いや、あれは照れ隠しだと見たね』
『そうかな……』
『そうそう』
『ほら、涼宮さんの前じゃああ言うしかないんだって』
『うう~……』
『『『『マジで可愛いなあこの娘は』』』』
『なんでみんな一言一句まったく同じ台詞をハモれるの……?』
「結局それってどういうポジよ」
あ? なんか機嫌よくなった?
ほんの少しだけど。
……理由わっかんねえ……。
「ま、いいや。お前にも一応プレゼント的な? 物あるし、今回はそれでご機嫌をお納め下せえ」
と、それだけ告げて。
そろそろ岡部も来るかなあと振り向いた瞬間、クラス中の視線がこちらに向けられた。
『『『『『『『『『『『『『『『『『『!?』』』』』』』』』』』』』』』』』』
って、感じで。
怖っ!?
「ちょ、ちょっとなにそれ!?」
「ぐぅお!? 襟を引っつかむな!? 首が絞まってやべぇ!」
「もーなによーそういうのあるんならはじめっからいいなさいよーおこってそんしちゃったじゃないのー」
「えらくにこにこしているようですがてをはなしてくれませんかねぇえ!?」
「えー、もう、こいつってばー、キョンのくせにサプライズとかかんがえてたってわけー? なまいきだぞっ☆」
「お前誰だ!?」
いやほんとに誰だよ!?
性格変わりすぎだぞ!?
ニ・三ページ前の憂鬱キャラはどこへ行った!?
と、襟を掴む手を離されて、ゲッホゲホと咽ていると、今度は手を差し出された。
「ごほ、ん? んん?」
「ほら、あるんなら早く寄越しなさいよ」
「は? いま?」
「悪いの?」
「かさばるから放課後のほうが良くねえか?」
「サプライズも意味ないんだから、早いほうがいいでしょ?」
「どういう理屈だよ……」
ほんとに今渡すようなものでもないんだがなあ……。
まあいいか、欲しいって言ってるんだし。
ちなみに俺のカバンはマテリアルパズルである程度の大きさの物も容れられるように出来ていたりする。
なんて無駄技術。
『ちょ、ちょっと! キョン君のプレゼントを先に受け取って自分が本命アピールするつもりだよ!?』
『なんて策士! 涼宮ハルヒ!』
『でも其処に痺れる憧れる!』
『朝倉さん呆然としてるときじゃないよ今は!』
『……あれ? 前が見えない……』
『『『『しっかりして涼子!』』』』
なんだか話の裏側で朝倉が友情を深めているような気配を感じつつ、取り出した物を涼宮へと手渡す。
「ほれ」
「うん。ありがと♪」
むちゃくちゃ機嫌いいじゃねえかよ。
礼まで言われたの初めてだぞ。
「確かにかさばるわねー、でも重くないし、開けてみていい?」
「後にしとけよ。恥ずかしいぞ」
「なーによー? いっちょまえに思春期男子みたいなこと言ってー」
「思春期ですが何か?」
高校生ですからね、間違ってない。
「さあて、なんなのかなあー?」
「ふっ、聞いて驚け見て叫べ」
わざわざ俺が手間暇掛けて包んだ包装紙を開けるのに併せて、俺はその商品名を『叫ぶ』準備に入った。
がさりと、あけると同時に、
「涼宮ハルヒおっぱいマウスパッド、バニーガールバージョンだ!」
「アホかあああああああああ!?」
うむ。
よい絶叫だ。
商品名を教えるのと同時に投げつけられたそれの感触も、悪い出来ではない。
想像上の産物でしかないが。
「だから言ったろう、恥ずかしいと」
「こっちが! か! 予想外すぎてわかるわけないでしょーが!?」
「ぶつけられても痛くない。いい仕事してるな、我ながら」
「つうかなにそれ!? どうやって造ったのよ!?」
「まあ色々と。元は昨日撮った写真を起こして」
「うわあほんとに昨日の写真じゃないの!」
「なかなかいい表情してると思わん?」
「あたしの表情にどういう評価を下せと!?」
「そこはほれ、アホっぽいなあ、とか」
「ケンカ売ってんのあんた!?」
「なーにをさわいでるんだー?」
あ、岡部教諭。
「……これを持ち込んだのは、誰だ?」
「このバカよ!」
っておいこら涼宮、人売るのはええよ。
「というか、わたしがつくりました」
「野菜生産農家のような表情で!? 謝りなさい! スーパーに卸しているおじさんおばさんたちに土下座して謝れ!」
今日の涼宮はツッコミが激しいなあ。
「……キョン」
「うす」
つうか、岡部教諭。
てめえもあだ名呼びたあどういう了見だ。
「……いくらだ?」
「岡部!?」
「2万からだ、写真つきなら3万」
「キョンも即座に売ろうとしない!」
「3万出そう」
「買うな!」
涼宮のツッコミを挟みつつも交渉が成立しそうになったそのとき、
『『『『『ちょっとまった!』』』』』
クラスのそこかしこからコールが飛び出した。
「はぁ!?」
驚いているのは多分涼宮一人だけだ。
『俺は3万5千出すぞ!』
『なんの! 俺なら4万出せる!』
『ハルヒたんのおっぱいちゅっちゅしたいお!』
『バカ野郎俺の物だ! 5万でどうだ!』
あっというまにオークション会場の出来上がりだ。
「うああああああ!?」
うん。
身体を抱えて心底嫌そうに怖気てる涼宮のその気持ちはわかる。
同年代の男子からそういう目で見られているというのは、さすがにあれだよなあ……。
「ええい! なら10万出す! 高校生には到底出せる金額じゃあるまい!」
……訂正、中年から見られてもあれだな。
つうか岡部、大人げがなさ過ぎる。
高校生と金銭面で、とかさあ。
ああほら、教室中からブーイングの嵐だよ。
「ええいうるさいぞ! 俺だって男なんだ! 女子高生とか好きで何が悪い!」
岡部ー、うしろー。
「……岡部先生?」
ぽん、と、手を置かれて、ぎ、ぎ、ぎ、と振り返ったそこにいたのは、
「きょ、教頭先生……?」
「ちょっと、おはなしが」
全部ひらがなって、怖くね?
当然、オークションは無し。
件の品は涼宮本人の手に無事渡ることになった。
「いらないわよ!?」
いやいや、俺の手元にあるのもアレだろう。
好きに処分してくれ。
「ここまで処分に困る代物は生まれて初めてよ……」
これもまた、不思議のひとつってことで。
「上手いこと言ったつもりか」
ちなみに岡部は更迭とか言う噂が。
女子高生大好き宣言してたしなぁ。
実現しちまうかもしれんね。
フォークロア的な?
「上手くない」
多分正ヒロインは朝倉だったんじゃないかと